辻田真佐憲のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
戦前の検閲社会について。ハードパワーの検閲が、ソフトパワーの忖度をもたらし、ある種の記事や本は初めから出版しなくなるという流れは意識されにくいが重要だろう。下手な質問を批判して肝心の質問数が減るようなものである。
しかも出版の場合、出版費用が検閲により無駄になるリスクや出版社が目をつけられるリスクがとても大きい。検閲官が人数不足でも、内部検閲で忖度させればOK。
検閲社会では直接検閲されると言うことが優遇にもつながると言うのは非常に面白い。主要新聞社は戦時中、図書課との間に直通電話を引かれた。これによって、検閲官は編集段階で記事に介入でき、各社の担当者は検閲官と相談しながら記事を組み立てられるようになった。これで発禁を喰らう可能性がほぼなくなる。統制であり優遇。
朝日新聞が戦時中の首相は優れた人間でなければならないって書いて東條英機を遠回しにディスったやつ。東條英機について何も書いていないから、検閲は通ったが、本人が記事を読んで激怒、軍部からの命令で差し押さえ指示がでた。しかし、検閲官も面目潰れてムカついたので差し押さえを長官が配り終わる夕方にしたらしい。検閲が逆に検閲から守る。縦割り。 -
Posted by ブクログ
意外と分かりやすい。
文部省って「理想の日本人像」を追求していたのかぁ。最近の施策からはまったく感じられないけど。
近代国民国家を支える「国民に求められる資質とは何か」ってことなんだろうけど、国家ありきで国民を規定しようとしていたわけだ。それが正しいかどうかは別として、明治の初期は開明的だったのに、日清、日露を経て、求める日本人像がリベラルから国家主義的に変わっていったのが寂しい。その過程で、そも「国体」なんてなかったこと。政府の都合に合わせて国体を定義したことが示される。
それにしても、文部省って最初から三流官庁って言われてたんだなぁ。 -
Posted by ブクログ
軍歌というと軍部から押しつけられたものというイメージがあったが、実際は大衆が求めたエンタメでもあった。
北原白秋、島崎藤村、山田耕筰など有名な作家、作曲家も自ら競って軍歌を作った。
毎日新聞が「露営の歌(♪勝ってくるぞと勇ましく)」朝日新聞が「父よあなたは強かった」を公募して作るなど、メディアが部数拡大のために軍歌を利用した側面もあった。
有名な「同期の桜」は先に「二輪の桜」という元歌があり、その替え歌だった。「二輪の桜」は(♪君と僕とは二輪の桜…昼は並んで夜は抱き合うて、同じ夢見る弾丸のなか)という、今でいうボーイズラブものの歌詞だった。売れるためにはBLも萌えありという、今の出版状況とそれほど変わりは無い。
軍歌といえども、広まるためには大衆に支持されなければならない。そのために為政者はあれやこれやと策を巡らす。現代に軍歌がよみがえるなら、AKBが歌うだろうという著者の指摘はするどい。
膨大に知識を背景に著者が独自の論を展開するこの本は面白いが、文体は硬く、やや読みづらかった。