菊池光のレビュー一覧
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とうとうディック・フランシスに手をつけてしまいました。絶対おもしろいはずだと判っていながら手を出し損ねていたシリーズ。初期作品でこの完成度。素晴しい。
あまり大きな声では言いにくいが、読み終えての第一の感想は、これって、天下御免のSM小説……?いや、シッドハーレーは確かにヒーローなんだけど、周囲は敵にしろ味方にしろ、全員「S」なんだもの。一番あなどれないのは一番味方のはずの義理の父上。たいがいハードボイルドのヒーローは酷い目にあうものだけど、味方にここまで虐げられるのも珍しいと思う。
あまたのミステリガイドで「滅法おもしろい競馬小説」と紹介しているオジサマ方に、そこんところを解説していただきた -
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4―2 シッド・ハレー初登場。
元チャンピオンジョッキー。左手を失っている。
義理の父親との交流がいい。
別居中の妻との会話がいい。
知り合った顔にやけどの跡のある女事務員との交流がいい。
「「おわかりになったの」
うなづいた。「家具の置きぐあいでね…きてくれますか…」
「これでもまだお誘いになるの?」
「もちろん。何時にしまうんですか?」
「今夜は、六時頃」
「戻ってきます。下の入り口で待っています」
「いいわ」彼女が言った。「本当にそうおっしゃるのなら、ありがたくお供しますわ。今夜は何も用がありませんから」
そのなんでもない言葉に、長年の希望のない淋しさがむきだしに感じられ -
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18
シッド・ハレー再登場
アメリカ探偵作家クラブ賞
英国推理作家協会賞受賞作
傑作です。
詐欺に巻き込まれた元妻を救うために頑張るシッドに、ジョッキイ倶楽部の保安部長からも依頼が入る。
襲われ、傷つけられたシッドとその傷に気がついた元妻の会話が白眉です。
「…あなたの自分本位な考え方、頑固さ。勝つための決意勝つためなら、あなたはどんなことでもするわ。あなたはつねに勝たなければ気がすまないのよ。すごく厳しいわ。自分に対して厳しい。自分に対して冷酷だわ。わたしはそれが我慢できなかったのよ。誰だって我慢できないわ。女は慰めを求めて自分のところのくる男が必要なのよ。お前が必要だ、助けてくれ、慰め -
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11−12
大好きです。
主人公は、精神発達障害の子どもを持つ、冒険映画主役の、映画俳優です。だから競馬メインじゃないんだって…。
監督と反発した主人公は、主人公が苦悩するシーンで、最高の演技を見せてやろうとします。
友人のコンラッドが言います。
「仕上がったフィルムは、君の気に入らないはずだ」
間をおいたが、彼が説明しないので、私が聞いた。「なぜ?」
「あの中に、演技とはべつの、演技を超えたものがある」
彼がまた間をおいて、言葉を選んでいた。「わしのようなひねくれた見方をする人間ですら、あの苦悩の質には、胸が裂けるような感銘を受けたよ」
私は黙っていた。彼が私 -
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19
シリーズ中最愛の作品。
母親に捨てられ、父親は不明で、あちこちの家を転々として育ち、成り行きで騎手になった主人公の独白。
「長い年月、自分にとって生存とは、与えられたものを甘んじて受け、なにかの役に立つこと、物静かで好感を与え、問題を起こさないこと、抑圧的、内向的で自制すること、であった……差し出されないものは望まないよう長い間しつけてきたので、今では欲しいものはほとんどない……自分がこのような人間である理由は承知している。自分が流れのままに漂っている理由もわかっている。自分があくまで受動的で、状況を変え、肩を怒らせて歩き回り、自分の運命の支配者になる、といった要求を全く感じな -
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2―5
音楽一家に生まれながら、音楽の才能をもたなかったロバート・フィンが選んだのは、別の道で自分の才能を示すことだった。
そしてもう一人、フィンと同じ立場ながら、失ったものを認められない男がいた。
そして事件はおきる。
ラストのフィンの独白が印象的でした。
「ある意味では、自分は彼を理解することができる、と思った。私自身が不肖の子であるからだ。しかし、父は愛情をもって私を別の世界に住ませてくれた。だから私は音楽家が苦しむのを見る必要を感じない。
…寛容か、と思った。それはまた別のことである。
許すのには長い時間がかかる。」
最高傑作のひとつ。 -
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読むのは何度目くらいになるだろうか。もう自分でも良く思い出せない。初めて読んだのはいつ頃か。大学生の頃か、社会人になった頃か。マクリーンから始まって、冒険小説を読みあさっていた頃に手にした。「深夜+1」を先に読んでいたのだと思う。
改めて読んでみて、こんなにサービス精神満載の作品だったんだなあとびっくりした。読み始めの展開、つまりノンフィクションとフィクションの境界を曖昧にしながらルポ的に始まるあたりから、作戦の進行をある意味淡々と書いていくあたりは、後のフォーサイスを読んでいるようである。中盤から後半にかけて、サスペンスにあふれる犯罪小説的であったり、アクション満載の戦争小説であったり -
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貴族の血を受け継いでいながら、ひとりスコットランドの山中で孤独な暮らしを続ける青年画家、アリグザンダー・キンロック。ある日、彼は自分の山小屋で待ちかまえていた四人の暴漢に襲われ、あやうく命を落としかける。闇雲に「あれはどこにある?」と脅されたあげく、わけのわからぬままに崖の上から突き落とされたのだ。事件が起きたのは、アリグザンダーが母の屋敷へ行こうとしていた矢先だった。ビールの醸造会社を経営している義理の父が、心臓発作に倒れたとの知らせを受けたのだ。全身の怪我をおして屋敷に赴いた彼は、義理の父の会社が倒産寸前であることを知る。経理部長が莫大な資産を横領して姿を消したらしい。しかも、会社が主催す