菊池光のレビュー一覧
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とうとうディック・フランシスに手をつけてしまいました。絶対おもしろいはずだと判っていながら手を出し損ねていたシリーズ。初期作品でこの完成度。素晴しい。
あまり大きな声では言いにくいが、読み終えての第一の感想は、これって、天下御免のSM小説……?いや、シッドハーレーは確かにヒーローなんだけど、周囲は敵にしろ味方にしろ、全員「S」なんだもの。一番あなどれないのは一番味方のはずの義理の父上。たいがいハードボイルドのヒーローは酷い目にあうものだけど、味方にここまで虐げられるのも珍しいと思う。
あまたのミステリガイドで「滅法おもしろい競馬小説」と紹介しているオジサマ方に、そこんところを解説していただきた -
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4―2 シッド・ハレー初登場。
元チャンピオンジョッキー。左手を失っている。
義理の父親との交流がいい。
別居中の妻との会話がいい。
知り合った顔にやけどの跡のある女事務員との交流がいい。
「「おわかりになったの」
うなづいた。「家具の置きぐあいでね…きてくれますか…」
「これでもまだお誘いになるの?」
「もちろん。何時にしまうんですか?」
「今夜は、六時頃」
「戻ってきます。下の入り口で待っています」
「いいわ」彼女が言った。「本当にそうおっしゃるのなら、ありがたくお供しますわ。今夜は何も用がありませんから」
そのなんでもない言葉に、長年の希望のない淋しさがむきだしに感じられ -
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11−12
大好きです。
主人公は、精神発達障害の子どもを持つ、冒険映画主役の、映画俳優です。だから競馬メインじゃないんだって…。
監督と反発した主人公は、主人公が苦悩するシーンで、最高の演技を見せてやろうとします。
友人のコンラッドが言います。
「仕上がったフィルムは、君の気に入らないはずだ」
間をおいたが、彼が説明しないので、私が聞いた。「なぜ?」
「あの中に、演技とはべつの、演技を超えたものがある」
彼がまた間をおいて、言葉を選んでいた。「わしのようなひねくれた見方をする人間ですら、あの苦悩の質には、胸が裂けるような感銘を受けたよ」
私は黙っていた。彼が私 -
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18
シッド・ハレー再登場
アメリカ探偵作家クラブ賞
英国推理作家協会賞受賞作
傑作です。
詐欺に巻き込まれた元妻を救うために頑張るシッドに、ジョッキイ倶楽部の保安部長からも依頼が入る。
襲われ、傷つけられたシッドとその傷に気がついた元妻の会話が白眉です。
「…あなたの自分本位な考え方、頑固さ。勝つための決意勝つためなら、あなたはどんなことでもするわ。あなたはつねに勝たなければ気がすまないのよ。すごく厳しいわ。自分に対して厳しい。自分に対して冷酷だわ。わたしはそれが我慢できなかったのよ。誰だって我慢できないわ。女は慰めを求めて自分のところのくる男が必要なのよ。お前が必要だ、助けてくれ、慰め -
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19
シリーズ中最愛の作品。
母親に捨てられ、父親は不明で、あちこちの家を転々として育ち、成り行きで騎手になった主人公の独白。
「長い年月、自分にとって生存とは、与えられたものを甘んじて受け、なにかの役に立つこと、物静かで好感を与え、問題を起こさないこと、抑圧的、内向的で自制すること、であった……差し出されないものは望まないよう長い間しつけてきたので、今では欲しいものはほとんどない……自分がこのような人間である理由は承知している。自分が流れのままに漂っている理由もわかっている。自分があくまで受動的で、状況を変え、肩を怒らせて歩き回り、自分の運命の支配者になる、といった要求を全く感じな -
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2―5
音楽一家に生まれながら、音楽の才能をもたなかったロバート・フィンが選んだのは、別の道で自分の才能を示すことだった。
そしてもう一人、フィンと同じ立場ながら、失ったものを認められない男がいた。
そして事件はおきる。
ラストのフィンの独白が印象的でした。
「ある意味では、自分は彼を理解することができる、と思った。私自身が不肖の子であるからだ。しかし、父は愛情をもって私を別の世界に住ませてくれた。だから私は音楽家が苦しむのを見る必要を感じない。
…寛容か、と思った。それはまた別のことである。
許すのには長い時間がかかる。」
最高傑作のひとつ。 -
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ネタバレ競馬シリーズ34作目。
シッド。
この競馬シリーズで三度同じ主人公に会うとは思っていなかった。
エリスはシッドの騎手時代の好敵手であり、
現在は、影の中をひっそりとしのび歩き調査を行っているシッドと違って、
テレビ番組の司会者として自分の魅力をふりまいていた。
シッドは白血病の女の子のポニーの足を切り落とした犯人捜しを依頼され、
同様の事件を調べていくうちにエリスを逮捕するに至る。
だが、人気者を陥れたと競馬関係者やマスコミから激しく非難される羽目になり、
エリスの父親には命を狙われる…。
相変わらず、義手であることに容赦のない暴力をふるわれる描写があり、
ひりひりする。
エリスがシッド -
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ネタバレ競馬シリーズ32作目。
絶対的なハッピーエンド好きとしては、
登場人物たちの恋愛や結婚生活がうまく行ってほしいと常に願いながら、
読み進んでいる。
だが、この著者の場合、事件は解決したとしても、
ハッピーエンドになるとは限らない。
それどころか、尻切れトンボな「エンド」になってしまうことすらある。
それがエンターテイメントではなく芸術なのだと言われればその通りなのだが。
そんな消化不良を起こしながらも、
このシリーズを読んでしまうのは作品が面白いからなのだと思う。
という訳で今回の主人公の恋愛は上手く行かないものの、
結婚生活はかろうじて平和的結末になったのが判って良かった。
その主人 -
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ネタバレ競馬シリーズ29作目。
この競馬シリーズの面白さのひとつは、
何かのできごとによって(殺人とは限らない)、
人生が変わっていく瞬間を目撃できることだろう。
今回の主人公ジョンは旅行社に勤めていて、
サバイバルの技術が必要になるよう名旅行を手配していたが、
衝動的に仕事を辞めて作家を目指していた。
当然お金はなく、友人のおばの屋根裏部屋に格安で住まわせてもらっていたが、
セントラル・ヒーティングがきかなくなって家を閉めることになり、
いたしかたなく、ある調教師の伝記を書くことを引き受けることにする。
賄いつきで屋敷に泊めてもらえるので。
といっても賄いは冷凍ピザのことだったらしく、
ジョンが -
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ネタバレ競馬シリーズ28作目。
障害競馬の騎手であるデリックは、
年が離れていて一緒に生活したことのない兄と偶然街で再開し、
その後はほどほどにつきあっていたが、
突然の事故でその兄を失う。
そして、もっと生前に親しくすればよかったと後悔するところは良かったが、
経営していた宝石会社や持ち馬とともに、恋人も相続するとは。
宝石会社の仕事をだんだんと覚え、
従業員の信頼を得て行き、
それぞれに新しい仕事と昇進をあたえて軌道に乗せるところが印象的。
取り扱っていなかったはずだが、
購入したはずのダイヤモンドを探してはいたが、
多分彼の家に侵入したり襲ったりしたのは馬関係なのだろうなとは思っていた。