菊池光のレビュー一覧
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個人的には文句無し!
今の日本のミステリーは、8割型が女性の登場人物に「美しい」と描写して、何の変哲もない男性主人公とくっつき、肝心の謎もイマイチだったりして「何か薄っぺらい設定だな〜」って事が多いと感じてるのですが・・・この人の本は、人物の所作や言葉遣い、考えている事などから「素敵な女性なんだろうな」「カッコいい男の人なんだろうな」と想像できるのもすごいなと思った。菊池さんの翻訳の手柄(?)
もちろんミステリーとしても面白い。因みに、これはトリックが奇想天外で度肝を抜かれる系のマユツバ小説ではないよ。ハードボイルド的な行動を起こして謎を解いて行くものなので、ハラハラドキドキを堪能して下さい。 -
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フランシスの小説はすべて好きだけど、その中でも、この時期の作品とがもっともすばらしいと思う(初期の作品も傑作が多いが)。多少スランプ気味だったフランシスが「利腕」で再起を果たし、新たなテーマを明確にして書いている頃だ。
新たなテーマとは、「内なる敵」である。「利腕」や「証拠」において、それは「恐怖」だった。本当の敵は他人ではなく、与えられた恐怖に負けそうになる自分自身なのだ。犯人を見つける、という狭い意味での推理小説の枠組みを超えて、むしろ冒険小説的な展開を見せているのは確かだが、小説としての味わいは、主人公が自らの「内なる敵」を打ち負かすところにあると思う。
本作は、前作「侵入」の続編に -
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フランシスの数ある傑作の中でも、個人的にはもっとも好きな作品のひとつ。もしかしたらベスト1かもしれない。
もちろんミステリなのだけど、それ以上に強く感じるのは、若者が戦い、挫折し、困難を乗り越え、そして栄光をつかむ物語としての魅力である。最初から最後まで、僕は主人公を応援しながら読んでいた。口の悪い人なら、ちょっとひねったサクセスストーリィに過ぎないと言うかもしれないけど、それでいいのだ。
恋愛の話や、主人公の置かれた境遇の話も、僕にはすとんと胸に落ちて興味深かった。そしてそれが単なる彩りの話ではなく、犯人と主人公の皮肉な共通点につながっていくあたりのプロットも心憎い。
思いの外早めに犯 -
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名作ばかりを続けて読むのは案外疲れるものだ。疲れるほどに、引き込まれてしまう傑作のひとつである。
フランシスの作品の特徴のひとつは、主人公の持つ極めて硬い意志にある。この作品の主人公が時に率直に語る「曲げられないもの」は、なんというか、まぶしすぎる感じがする。
それでありながら、敵を打ち負かす為にその自尊心が傷つけられることを耐え忍ぶ。そうして得たものを、誰かを守る為に投げ捨てる。精神的にも肉体的にも堪え難いことに耐えてきたくせに、「私は記憶力が弱くて」なんてしゃあしゃあと言う。命がけで依頼を果たして報酬を返し、「では、なぜ引き受けたんだ」と訊かれて「スリルのためですよ」と答える。嫌味すれ -
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何度目かの読み直しを経て、そして作者の全長編を読み終えた目で見て思うのだが、この作品は非常にレベルの高い、この作者らしい傑作なのではないだろうか。
それは、犯人という名の敵と戦うと同時に(いや、それ以上に)、自分との戦いがテーマとなっているからだ。フランシスといえば「内なる敵との戦い」というイメージは、おそらく「利腕」以降のものだと思うけれど、この作品はそれの先駆けと言っていい。まさに主人公は、あるべき自分の姿を求めて歯を食いしばるのである。
貴族であるという主人公の設定は、ある意味わかりにくい。日本人であれば、たとえば天皇家の一員が、自分と同じ職場で肉体労働のようなことをやっている -
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数あるディック・フランシスの作品の中で、5本の指に入る傑作だと思うのは、主人公の若さによるものが大きいのではないかと思う。20代前半の主人公は、若く、無鉄砲で、ロマンチックである。
だからこそ、自分の命を賭け物にしたようなことができるのだし、それをしたくなるような情熱のほとばしりが素直に納得できる。同じようなことをする中期以降のスペンサーがバカに見えるのとは対照的だ。
恋愛物としての共感度も個人的には素直に高い。特に、ミステリとして一応の解決を見てから後の展開は、かろうじてミステリ的な興味を残してはいるものの、恋と友情の物語であり、蛇足といえば蛇足なのだけど、独語のさわやかな後味には -
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競馬シリーズっていう名前に腰が引けてしまう人もいるかもしれないけれど、競馬にまったく興味のない人も楽しめる。食わず嫌いは損だっていう代表みたいな本だ。
ミステリに分類されるから、事件があって探偵がいて、犯人を突き止めるって話なわけだけど、この本の魅力はそんなことにはない(もちろん推理小説としても水準以上の出来だけど)。作者が描き出す人物が、ただひたすらかっこいいのだ。ただかっこいいと言っても、スーパーマン的なものではない。自分の弱さに悩み、傷つきながらそれを克服していく姿が、圧倒的に感動なのだ。
事故で片腕を失った主人公が、ねばり強く犯人を追いつめていく物語だけど、特にラストシーン、 -
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ディック・フランシスの小説にはかつては同じ主人公が出てこないことになっていたが、シッド・ハレーだけが例外だった。初期の作品『大穴』に出てきたあと、この『利腕』に登場した。
その後、キット・フィールディング君が二作続けて登場したが、そのあと『好敵手』でシッド君が三度目の登場となり、やはりフランシス作品のなかの存在感ナンバー1の座を印象付けた。で、このあと、最愛の妻を亡くして一度は引退したフランシスが息子の応援を得て書いた『再起』も、やはり一番人気のシッド君に登場してもらったので、シッド君は都合四回出てきたことになる。
さて、4回の登場中、もっとも好きなのがやっぱり『利腕』。
初回に登場したと -
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シッド・ハレー物第2作。
フランシスの作品は競馬シリーズといっても基本的には単発で、すべて一作ごとに完結しています。主人公の中で、3作描かれているのは彼だけ。
それだけ登場した時の印象が強く、意志の強さや勘の良さは典型的でもあります。性格は冷静なようでも内面は激しく、孤独がちなほうで、それだけにヒーローっぽいんですね。
元は競馬のトップ騎手で、落馬事故で手を痛め、深い心の傷を負っていました。前回の事件で精神的には立ち直ったものの、手の方はついに切断していますが、最先端の義手を試している時期ですね。
離婚した妻との葛藤とうらはらに、義父とは離婚後も親しく、最初は娘にふさわしくない相手と全く存在価 -
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フランシスの作品の中でもお気に入りの一冊。
フランシスには珍しく、大家族の中の殺人という古典的ミステリを思わせる設定になっていて、円熟した味わい。
父のマルカムは大金持ちで5回も結婚したいう、エネルギッシュで人を惹きつけるオーラのある男性。
主人公のイアンはアマチュア騎手で、気楽な独身生活を楽しむ物静かな32歳。
5回目の結婚に反対したために、父と疎遠に。
3年後、5番目の妻が何者かに殺され、父も命を狙われて、唯一信頼出来ると感じたイアンに護衛を依頼してきます。
父親と大人になった息子が改めて向き合うという物語にもなっています。
財産を狙う容疑者は、別れた3人の妻、9人もの子供とその配偶者… -
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主人公はパイロットのマット・ショア。
かってはエリートだったのが、妻のために忙しい国際線を辞めたところからケチがつきだし、現在は落ちぶれかけたデリイダウン社でチャーター仕事を始めたばかりで、離婚手当にも苦労する毎日。
イギリスで大人気の騎手コリン・ロスを含めた数人を競馬場へ運ぶ仕事を引き受けたところ、飛行機に不審なきしみを感じて乗客の抗議を押して臨時に着陸。降り立った途端、その機が爆発炎上…
競馬界を知らなかったマットがコリンとの友情とその妹との出会いによって、事件に巻き込まれると同時に、新たな人生を見つけていきます。
もとチャンピオン騎手で、パイロットとして従軍したフランシスの経歴が生かされ