菊池光のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
読んだことはなかったが、二文字の競馬ミステリの背文字は本屋さんでもお馴染みだった。本好き仲間が言うことには「へぇぇ、あれを一度も読んでないの? 一冊も?」
作者は2010年に亡くなってしまったけど息子さんが書き継ぐそうで。
もうそんなになるのか訃報は新聞で読んだが。
まぁ元気を出して!!ミステリは競馬だけでないし、最近は自転車も、宇宙船も、あれもこれも何処もかしこも殺人や詐欺や、誘拐で大騒ぎなのに。と言いながらも、元気づけのために読んでみた。
う~~ん、これはやはり初期作品のハードボイルド。でも読んでいって、いつの間にかフランシスさんの手の内に取り込まれた。
歴史と階級の英国、競馬界も礼儀正しい。でも裏には裏があって、賭け屋が群がるギャンブルの世界も見える。
面白かった。主人公シッド・ハレーに初めてお目にかかった。この元騎手は競馬シリーズに珍しく2作品に登場する愛すべき人物らしい。
彼はチャンピオンジョッキーで名の知れた障碍競馬の騎手だったが、落馬して左手が不自由になった。妻とはうまく行かないが義父とはお互いに心を許す仲、どうも義父が裏で糸を引いたらしく、探偵社に入る。やる気もなかったが、漏れ聞くと気に入った競馬場がどうもおかしい。人気が衰えたところに不動産屋が目をつけたようだ。
馬には走りやすい絶好のターフを持つ競馬場だ。彼はやる気が出た。
闇からピストル、裏にはきな臭い陰謀。怒りと競馬愛は彼を生き返らせた。
読後そんな煽り文句が出るくらい、当時の読者は沸いたのだろう。作者フランシスの略歴では華やかな騎手生活を送り、内情に最も詳しい、背景もいい。
競馬も馬も遠くからしか見たことのない世界だったが、騎手や厩舎の調教師、上流社会に住む馬主たちの息遣いが伝わってきた。
時代の波は少しずつこの偉大な、当時で言う「競馬スリラー」にも寄せてきているようにも思える。それでもただ一人主人公として二作目に登場するのシッド・ハラーに敬意を評して、「利腕」も読んでみよう。 -
Posted by ブクログ
もう何十年前になるのでしょうかその位前からお気に入りの一作です。
舞台は第二次世界大戦のドイツとイギリスです。戦局が思わしくない事から英国首相チャーチル氏の誘拐もしくは殺害を企てます。しかし、それはヒトラーからの指示ではなく親衛隊長官による秘密の作戦となります。
国防軍情報部に務める隻腕・隻眼のベテラン士官ラードル中佐は親衛隊ヒムラー長官によってこの突拍子もない作戦を実施するよう強要されます。
計画を遂行する為には優秀な指揮官が必要ということで白羽の矢が立てられたのはクルトシュタイナ中佐です。彼も開戦から戦って来たベテランです。本国へ帰国する際に立ち寄ったポーランドにてユダヤ人少女を助けた事から軍法会議に掛けられてしまって懲罰部隊に配属させられます。
国防軍の士官であるシュタイナを親衛隊が好き勝手に出来るのは実は物語的な演出です。実際には軍は親衛隊の告発から身内を守って引き渡さない事が多々ありました。主人公となるシュタイナの悲劇性の演出というべき箇所となります。
懲罰部隊にいるシュタイナをチャーチル誘拐作戦の指揮官とすべくラードル中佐が勧誘に動き生き残りと共に捕獲した輸送機を使ってイギリスへ潜入します。
何もしらないイギリスの田舎町。首相が週末をゆっくりと過したいという事からごく少数の関係者だけが首相の来訪をしっています。
果たして作戦は成功するのでしょうか? -
Posted by ブクログ
文句なしに面白い!とはこの小説のことだろう。
第二次世界大戦中のドイツ軍落下傘部隊による英国本土でのチャーチル誘拐、という暴挙とも言える作戦に、
作戦を指揮するドイツ軍将校も落下傘部隊の歴戦の勇士も諦観の域で死に場所を求めるかのように、士気高く遂行していく。
抗いきれない立場であろうとも、自分の意思に信念を持って行動することこそが人間の最も優れた価値であることを極上に面白い娯楽小説の形で明朗に伝える。
なんといっても魅力あふれる登場人物の面々。男も女も皆とにかくヒロイックで、自分の思っていることを闊達にシニカルに語る。そして例え獄中であっても決して信念を曲げない。
また航空機、船艇、小火器などの武装から服装や酒、タバコの銘柄までディテールにこだわることでリアリティを演出することに一役買っているが、描写がくどくどしくないのでスピード感に影響させない(もはや馴染みのない機種名や銘柄が登場しても、Google画像検索が楽しみを後押ししてくれる)。
なかでもカバーアートにも描かれているダグラスDC-3がなんといっても印象的。
夢中で読んで「あ!面白かった!」と声に出るほど感嘆した。 -
Posted by ブクログ
冒険小説を読みたくなって、とりあえず傑作といわれる本書を読んでみた。第二次世界大戦中にドイツ軍が英国のチャーチル首相を誘拐(または殺害)を企てて実行するまでの物語。登場人物が実在の人なのでとてもリアリティーに満ちた展開となっている。一方で、史実ではチャーチル首相が誘拐されたり殺害されたりしたことはないので、作戦が失敗することも分かっている状態で読み進めることになる。普通は結末が分かっていたら楽しく読めないものだが、本書は登場人物の内面を含めて丁寧に描写することで、その結末に至った過程をドキドキさせながら読ませてくれる。ドイツ軍と英国の人びとをどちらが敵かという観点で描いていないのがいい。純粋に冒険小説としてフェアに書かれている。戦争なんて悪も正義もないと訴えているようにも感じた。本作品に登場するドイツ軍は当時の論理的な正義で作品を実行したにすぎないのだから。とにかく読みやすくて面白い。傑作といわれる理由は分かる気がする。
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Posted by ブクログ
ネタバレ第二次世界大戦の最中、ドイツ軍は落下傘部隊を英国本土に降下させ、時の首相チャーチルを誘拐する作戦を立案します。
この荒唐無稽で無謀な作戦に参加することになったのが、シュタイナ中佐率いる部隊。
歴戦で活躍した英雄ながら、ある事件でユダヤ人少女を庇った格好になり、部隊ごと危険任務につかされ冷遇されていたシュタイナは、「自分は冒険家だ」の言葉とともに、この空前絶後の任務に挑みます。
作戦決行のその日まで、厳しい訓練を繰り返し結束を固めるシュタイナと部下、作戦に関わる他のメンバーの姿に、手に汗握り胸を熱くしながら「がんばれ、がんばれ」とエールを送っている自分がいました。
「鷲は舞い降りた」
部隊が予定どおり、本土への上陸を成功させたという暗号が打電された場面では、思わずガッツポーズを取ったほどです。
ただ、フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」で描かれた、フランスのドゴール大統領の暗殺計画同様、チャーチルがドイツ軍に誘拐も暗殺もされなかったのは歴史的事実です。
つまるところ、身も蓋もない言い方をするなら、ここからは「いかに計画が失敗していくのか」という物語なのです。
それでも、彼らの作戦を最後まで読み終えて、どこか清々しい気分で拍手を送りたい気持ちになること請け合いです。
スリルあり、ロマンスあり、人間ドラマありの彼らの冒険を、ぜひとも、多くの方々共有してほしいと思います。 -
Posted by ブクログ
ディック・フランシス競馬シリーズ34作目(全44作)の主人公は、唯一3度目登場のシッド・ハレー。
馬の脚が切断される残忍な事件が相次ぎ、容疑者として浮かび上がったのは、なんと騎手時代の好敵手で親友でもあるエリス・クイントだった…。
冒頭というかカバー背表紙で既に読者には犯人が判明しているのだが、それでも事件発生から真相に迫るまでの過程が面白く、全然飽きない。
今作でもやはりハレーはどん底に突き落とされるのだが、これまでの作品とはまた異なる地獄である。
犯人に気付いたハレーは苦悩と葛藤の末エリスを告発するのだが、エリスは今や国民的タレントであるので、逆に世間から執拗になじられるのだった。親しかった知人までもがエリスの擁護に回り、気付けば味方は義父チャールズのみ。
最低週一回は新聞で誹謗中傷されるのだが、この連日のハレーいじめが本当にひどい。
貧しかった両親のこと、スラム生まれであること、義手である左手のこと、ジェニイとの離婚、その他諸々悪意のままにあることないこと書き立てられ、挙句には、かつて自分がいた国民的スターの地位を得たエリスに嫉妬し破滅させようとしている小男だと罵られるのである。
ある意味、肉体的な攻撃より耐え難いかもしれない。
シッド・ハレーシリーズを読んでいて印象的なのは、「恐れ知らずで強情不屈のタングステン」だと思われている寡黙な男の弱さを作中人物たちは知らないが、読者だけは著者フランシスの筆を通してはっきりと知っている点である。
それゆえ、読者はハレーと秘密を共有しているような錯覚を覚え、ますます彼に惹かれてゆくのだろうと思う。
そうして、かつてレースでの真剣勝負を通して骨の髄まで理解し合った二人の哀しい対決の行方は、意外な結末へ向かう。
ネタバレになるので内容は控えるが、終盤二人が相対する場面では心が震えた。
一つ面白かったのが、ハレー自身は登場作「大穴」から数年しか経ていない設定だが、1965年発表の「大穴」ではタイプライターや電話交換手が出てくるのに対して1995年発表の本作では携帯電話・インターネットやDNA鑑定を用いて捜査を進めている点である。時代はドアの錠破りからハッキングへ。
当時75歳だったフランシスの最新技術探究心と若々しい筆致には、ただ驚嘆するばかりだ。
また、作中で世界有数の競馬場やレースと並んで"府中" "ジャパンカップ"の名が出てきて嬉しくなった。
日本の競馬がまだまだ弱かった「大穴」の頃では考えられなかったことだろう。
個人的には、陽気な相棒チコが出てこなかったのが寂しいが、元妻ジェニイとの確執がやっとなくなり、ほろ苦さは残るもののお互い素直になれて良かった。この辺りの微妙な感情を、フランシスは直接的にではなく間接的に描写するのが本当に巧いと思う。
ということで、本作も素晴らしい読書体験であった。 -
Posted by ブクログ
今作の主人公は、ディック・フランシス競馬シリーズの中では珍しく2回目登場のシッド・ハレー。
前作で生ける屍だった彼は絶望の中から自分を取り戻し、今作ではフリーの敏腕調査員となっている。とはいえ、やはり輝かしい騎手時代への未練は捨てきれないようだ。
次々とレース生命を絶たれていく競走馬&競走馬のシンジケートに関する不正を追う中で、凶暴な悪党から壮絶な脅迫を受けるハレー。本作はそんなハレーの恐怖を軸にストーリーが展開していく。
なぜタイトルが「利腕」なのかを理解できた時、ページを読み進める手が進まなくなるほど恐ろしかった。
なんと、本作では不屈のヒーロー・ハレーが恐怖におののき悪党から一度は尻尾を巻いて逃亡してしまうのだ。
屈辱、自己憐憫、罪悪感、精神的基盤の崩壊…。前作よりも深い奈落の底からいかにしてハレーが這い上がってくるのかが、本作の見どころである。
「自分が永遠に対応できない、耐えられないこと…ようやく、鮮明、確実に理解できた…それは自己蔑視である。」
この決意とともにハレーが完全復活する瞬間は、まさに鳥肌もの。
他の登場人物も細やかに描写されており、陽気で頼りになる相棒チコがいい味を出しているのは勿論、これまでハレーに辛く当たってきた元妻ジェニイの知られざる本音や、ジェニイの父チャールズとの変わらない友情など実に味わい深い。
ちなみに、結末はあのジェフリー・ディーヴァーも真っ青のどんでん返し!!
この発想はなかった。改めてフランシスの技量に脱帽。ラスト1ページまで気を抜けず、手に汗握る素晴らしい作品であった。 -
Posted by ブクログ
私が初めてディック・フランシスの作品に触れた記念すべき一冊。
冒頭、腹を撃たれている主人公が目を覚ます場面からぐいぐい話に引き込まれ、寝る間も惜しんで最後まで貪り読んだ。
とにかく、主人公シッド・ハレーの内面の描写が秀逸なのである。
ストイックな不屈のヒーローではあるのだが、後ろ向きな感情の生々しい描写によって生身の人間以上の人間臭さを与えられている。
例えば、
競馬レース中の事故で失った左手の機能とチャンピオン騎手人生に対する執着や、人生への絶望・無気力。五体満足でない自分自身に対する恥辱の念。執拗に自分へ危害を加えようとする黒幕への恐怖…など。
周囲の人々との関わりの中で少しずつ魂の苦しみから解放され、深淵から這い上がり敵に立ち向かっていくハレーの姿に胸が熱くなった。
著者ディック・フランシス自身がハレーと同じく元障害競馬のチャンピオン騎手だったのだが、元々ミステリー作家が本業だったのではと思うほどの巧みな筆致とプロットに驚かされる。
後に米英の2大ミステリー賞を獲得することになる才能の片鱗をこの作品でも存分に味わえるので、競馬シリーズと聞いて敬遠している人にもぜひおすすめしたい。 -
Posted by ブクログ
私は冒険小説は嫌いだと信じ込んでいた。
そんな思い込みを覆してくれたのが、同じくドイツ在住で私のミステリファン仲間のY子ちゃんなのであります。
今回、手術後、家で療養すると聞いたY子ちゃん。「いいから何も言わず読みなさい!」と送ってくれたのであります。(感謝してるよん、Y子ちゃん)
それにナチが出てくるし、著者はイギリス人でしょ~っていうことはどうせドイツ人が悪者で・・・と思いながら読み始めると~メチャ面白いのよ!
ナチかぶれの非人道的なドイツ人ばかりじゃないということを書いてくれて、私はとってもうれしかったのであります。
極秘で遂行されたチャーチル誘拐作戦。
念には念を入れて計画されたことだったんだけど、ホンの些細なことから計画に狂いが生じてきます。
登場するドイツ兵たちがいい人ばっかりで・・・泣けますよん。
言うまでもありませんが、ヒギンズ作品は初挑戦であります。
続編「鷲は飛び立った」を読まなきゃ~!