菊池光のレビュー一覧
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第二次世界大戦中、ナチスドイツのチャーチル誘拐作戦を描いた冒険小説の名作。
過去に映画を観てストーリーを知っていたが、魅力的な登場人物満載のストーリーであったと発見があり、読んで良かったと思う。
実直的なドイツの職業軍人と官僚的なナチスとの違い、閉塞感のあるイギリスの田舎町などを描いており、中途半端なフィクション戦記物とは一線を画している。
また、主人公のヒーロー的なラストもいいが、補完された切ないエピローグも素晴らしい。
愛弟子とも言える佐々木譲の作品よりは、実際の作戦開始までは、テンポが悪い気がしましたが、読む価値は、衰えいないです。 -
Posted by ブクログ
作品毎に設定は変えつつも、ディック・フランシスの描くヒーロー像は共通している。己の信条に忠実で、誇り高く、不屈である。それは「偉大なるマンネリズム」ともいえる程で、何らかの形で競馬に関わるプロットに趣向を凝らしてはいるのだが、逆境に立たされた只中で主人公がとる思考と行動は、ほぼパターン化されているといっていい。それこそが、安定した人気を保持し続けた大きな要因であり、読者が求めたものなのだろう。
本作は、主人公をサディスティックなまでに追い詰め、逆境を如何にして乗り越えていくのかに主眼を置いた「競馬シリーズ」の中でも、最も過酷な状況へと追い込まれていく男、元騎手で調査員のシッド・ハレー登場の第三作。狡猾で惨忍な敵に立ち向かうという点では、他の作品とたいした差はないが、ハレーの隻腕というハンディキャップがエピソードに生かされ、物語にスリルと深みを与えている。常にもう一つの腕を失うかもしれないという恐怖心に打ち勝つまでの闘い。つまりは、己自身の弱さの克服こそがハレーシリーズのメインテーマともいえる。
馬の脚が切断されるという連続事件、白血病の少女とのふれあいなど、裏返せばハレー自身の障害に繋がっており、その共鳴が理不尽な悪への怒りとなって増幅されていく。障害は「弱さ」であると自覚する「強さ」こそが原動力となり、血となり肉になっていく。 -
Posted by ブクログ
勝って当たり前。圧倒して当然。
こういうのは難しいですね。
ディック・フランシス。邦題は漢字二文字。競馬業界がらみの、大人の男性向け極上ミステリー。
更にその中の、引退した騎手が探偵として難事件に挑む、シッド・ハーレー主人公モノ。
更に、その中の「大穴」(1965年)。
定番中の定番の、名作中の名作。
読んだことなかったんです。
こういうのは難しいですね。却って。自分の中でも妙にハードルが上がってしまって。
と、読み始めてしばらくは思ったのですが…。
いやあ、さすが。面白かったです。
無論こと、まあ、犯罪ミステリーという以上のものではないような小説ですけど、でも面白かった。馬鹿にしたもんじゃありません。
犯罪ミステリーとか、ハヤカワミステリーとか、刑事もの、探偵ものっていうのは全部そうですが、
意外に名品となると、なまじブンガクだとか難しい小説よりも、よっぽど深い。コクがあります。
というか、ブンガクだとか言われるものでも、面白いものは、要は犯罪ミステリの要素がたっぷりあったりします。「罪と罰」だって「こころ」だってそうです。
うまいなあ、いいなあ、と思ったのは。
主人公はシッド・ハーレー。元騎手。チャンピオンまで行った人なんですね。
(まずどうやら根本に、イギリスでは「競馬」という文化が日本より強く広く浸透していて、さらには、「紳士/上流階級の社交にもなるスポーツ」だ、ということのようです)
さて、ハーレーさん。多分まだ30代。レースで大事故。左手を醜く損傷してしまって、不自由になり引退。
その後は探偵社に勤務。競馬にまつわるトラブル専門の部署がある探偵社なんですね。そこでまあ、お飾りみたいに働いていました。
要は、生きがいを急に失った。奥さんとも離婚。
どうにも人生抜け殻っていう時期なんですね。ハーレーさん。
このハーレーさんが、覚醒していく。
とある競馬場を不当な手段で株式買い占めして暴利を得ようとする悪者に立ち向かう。
きっかけは、あくまで偶然。そして、途中からは探偵社の正式な仕事として。
元騎手ならではの知識や経験をベースにして、立派な名探偵ぶりを発揮します。
そして、そんなこんなの途中で、
「醜い左手を人に見られるのが恥ずかしい」
という気持ちを、どう乗り越えていくか、という気持ちの問題が描かれます。
情報を得るために近づいた、株屋の秘書の女性が顔に傷を負っています。この女性がサブキャラなんですけど、とっても素敵な感じ。
この女性との交流。
そして、ハーレーが「元チャンピオン騎手」という過去から「競馬ビジネス専門の現役探偵」へと、果敢に人生をやり直していく。
それがとっても素敵なハードボイルド。
事件の段取り、解決への苦労もなかなかの説得力。
確かにディック・フランシス。「大穴」。うーん、素晴らしい。
とりあえずは、ハーレー三部作(なのかな?)は、安全牌の娯楽ミステリーとしてストック完了、という気分。
こういうのは、読書の快楽ですねえ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ冒険小説の金字塔と呼ばれる本書。
第二次大戦末期、敗戦色濃厚なドイツ軍にイギリスのチャーチル首相誘拐のチャンスが訪れる。その任務に従事する落下傘特殊部隊の話。
主人公は珍しく第二次大戦下のドイツ軍将校。
通常、こういった小説でのナチスドイツ軍人は頭のいかれた鬼畜として描かれるが、本書に出てくるドイツ軍人は必ずしもナチスドイツに賛同はしないが、国のために戦う高潔な軍人達として描かれている。
そのため、正義の云々の話ではなくて、純粋に高潔な男の生きざまが描かれている。
前半は中弛みしたが、佳境に入ってからは面白かった。
ちなみにこの話は史実にある程度基づいているらしい -
Posted by ブクログ
馬を運送する会社の社長が主人公。といっても大きな会社ではなく、10人くらいの従業員を抱え、必要があれば自分でも運転をする男だ。彼は、元騎手で引退してこの会社を興した。業務は順調であるが、主人公自身の胸にはまた騎手である若い自分への「未練」が残っていて、そこがちょっと泣かせるところである。本当はもうひとつ泣かせる設定があって、とっくにそれが読後に大きな余韻を残すのだけど、それについてはここで書かない方がいいだろう。
そういった要素もあり、使用人を雇っている立場であるということもあり、いつになく大人の雰囲気を漂わせている主人公である。それがなかなかの魅力で、恋愛シーンひとつにしても抑制が利いていて味わいが深い。それでいて、犯人を追いかける部分や自分の生き方に対するこだわりなどは、いつものフランシスの主人公らしく、秘めた情熱のようなものが感じられて、いつも以上に魅力的な主人公像だと思う。
物語はまさにタイトルどおりで、誰が、何を、どうやって密輸しているかが次第に明らかになっていく。それにつけても、フランシスという作家の勉強熱心なことには頭が下がる。時代を丁寧にふまえながら、新しい要素を丁寧に勉強し、これしかないという形で物語に生かしている。元騎手という作者のプロフィールをみれば、競馬の世界に造詣が深いのは当然だが、それと同じようにまったく別のジャンルの知識を組み込んでいて、驚くしかない。
それほど派手な作品ではないけれど、じっくりと読ませる傑作である。