飯嶋和一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
寡作の人、飯嶋和一。こんなに数年に一冊しか出さなくて食べていけるのかしらとこちらが余計な心配をしてしまう。
この本、2004年に単行本で読んでたのだけど、息子がずっと前に買ってきた文庫本が本棚に積まれてあったので、もう一回読んでみる。
寛永年間、多くの国籍の人が雑居し隠れキリシタンが多数散在する貿易都市・長崎を舞台に、その長崎を内外の脅威から守った末次平左衛門とその親友・平尾才介の物語。
キリスト教禁止令強化と一体となった貿易政策転換の狭間の時代に、利権に群がる貿易商と幕閣たち、そこに住まいする庶民の困窮と平和への希求。鎖国政策が開始される直前の時代を、いつもながらに重厚且つ精緻な構成で描ききる。加えていつもの強くて優しくて高潔で泰然とした主人公。
私は長崎に生まれたものの、小さい頃に離れたのでここに描かれる町の名前も記憶に残っていないのだけど、本書に積み重ねられたディテールの数々には、今でも残る町並みのこの時代はかくやと想起させる匂いが濃厚にある。 -
Posted by ブクログ
第25回文藝賞受賞作。
飯嶋和一の作品を読んだのは『始祖鳥記』に続き実はこれが2作目。
そんでミクシィの飯嶋コミュに入ってるってどうなんかな、と思うけど。
まいっか。(口癖)
恵まれた体躯と才能を持ちながらも、アルコールに溺れリングを去ったボクサー。生まれ故郷の南の島への帰郷、ジムの会長の死、そして彼を影になり日向になり支え続けてきた人々との交流を経てボクサーとして人間として見事に再生する。
まぁありがちなというか"ベタ"ではあるストーリーなのだけど、町の風景、島の風景が主人公のフィルターを通して丁寧に表現されてて、その時々の心情が痛いほど伝わってきてどっぷり引き込まれてしまう。
『始祖鳥記』のレビューでも書いたのだが、主人公を支える人たちの純粋さとか聡明さとか素朴さが実に気持ちいいのだけど、その人物たちの背景までは見えてこないというのが残念な点。あえてそこまでは深く書かずに主人公だけにスポットライトを当てているのかもしれないけど。
でも読後に素晴らしい爽快感を得られる良い作品。 -
Posted by ブクログ
国宝を読んでいて、御座敷遊びのとらとらが鄭成功の虎退治をモチーフにしていると知り、日本にルーツを持つ鄭成功に興味を持ったことでこの本を手に取った。
寡作ながら全て傑作とのことだったが、私にはちょっと合わなかった。歴史的な事実や戦況の羅列が続き、慣れぬ漢人名にも苦労し、自身の無知も重なってなかなか読み進められなかった。
鄭成功は明の再興に向け信による国づくりを目指すが、対外的な敵である清だけでなく、内部の欲深さが常に立ちはだかる。もう悲惨なくらいに有能な武将も身内も裏切りが相次ぐ。信や義は残念ながら先天的に身についてあるものではないのかもしれない。だからこそ孔子は儒教をつくり、法家は法治を目指したのだろう。最後の鄭一族の没落は目もあてられない。
愚王を担ぎ権力を欲しいままにしてしまう、権力者が諫言を無視し無謀な振る舞いを続てしまうことは古今東西、枚挙にいとまがない。鄭成功もマラリアに罹患していたことで怒りやすく冷静な判断ができなくなったと記述されているが、身内を律し信による内政で基盤をつくることを優先してもよかったのではないかと思う。これは豊臣秀吉にも織田信長にも通ずる。後世の後知恵でしかないが…。
清貧を貫き民を想い長期的な見通しをもった陳永華の生き様のほうが私は好きだ。 -
Posted by ブクログ
江戸初期の長崎にて、鎖国に至るまでの経緯を代官の家に生まれた平左衛門の視点を中心に描かれた物語
以下、公式のあらすじ
----------------------
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。
----------------------
普段は時代物を読み慣れないというのもあって、読み終わる時間がかかった……
歴史の知識として、後に鎖国と呼ばれるような閉鎖的な貿易形態になった事は知っていても
その経緯や過渡期については知識がないので、その辺は興味深く読めた
遠藤周作の「沈黙」を読んではいたので、キリシタンへの迫害や、それに対する動きも何となくは知っていたわけで
まったく知らないわけでもないのもある
でもまぁ、これらだけでは不十分でしょうねぇ
キリスト教の特にカトリックの布教の弊害は描かれていても
それに伴う人攫いの横行に言及している作品は少ないなぁと感じる
それにしても、才介ぇ…… -
Posted by ブクログ
江戸時代に鳥のように空を飛ぶことに人生を賭けた男の話。
凧揚げが盛んな地で育ち、表具屋としての技を磨くうちに凧で空を飛ぶことを思いつく。しかし実験を重ねるうちに大騒動になり町から追放となってしまう。そんな時に幼馴染の船乗りが彼を拾い、共に廻船業を営むが海育ちの者との差を感じ陸暮らしを始めるが、あることがきっかけで再び空を飛ぶことへの挑戦を始める。
実在の人物と思われるが、ほとんど記録が残っていないため大半が創作らしい。
他の作品と比べるとドラマチックさは控えめ。主人公の行動を通して、当時の世の中のシステムへの批判的な面も窺える。
空を飛ぶことへの執着は主人公の性質という感じではあるが、もう少し何らかの外因があると納得感が増し、迫力が出たのではないかとも思った。 -
Posted by ブクログ
初めて作者の作品を読んだが、躍動感を感じられなかったことと、討伐軍・蜂起軍双方に感情移入できなかったことから、メインの島原の乱の攻防シーンが遅々として読み進まなかった。
序盤の村での蜂起の場面までは同情し怒りを共感し没入できたが、寿安や鬼塚監物が暴徒化を自覚した段階で同時に熱が冷めてしまった。作者は蜂起側寄り(というより客観的な歴史分析として幕府の非を糾弾する意図だと思うが。)だったが私個人は松倉家以外の大名・家来にも同情を禁じ得ず、勿論根底には劣悪な環境改善の訴えがあるとはいえ、信仰を盾にして人を殺していく蜂起勢への身勝手さに怒りを覚えるほどだった。鬼塚監物はまだ理性的な人物として描かれているが本当の理性を持った人ならば頃合いを見て主犯の首と引き換えに女・子供の助命を条件とした講和をすべきではないか。 -
Posted by ブクログ
てっきりギリシア神話のイカロスをめぐるお話のような完全なフィクションを想像していたのですが。半分違ってました。実在の人物を題材にしており、作中で発生した事件も史実に基づいているみたいです。
この種の作品はどうしても歴史上の出来事に縛られてしまうため、往々にして展開が窮屈になってしまいがちですが、本作もその例に漏れていない印象です。
また、本作のキモは間違いなく第二部の塩をめぐる幕府や問屋との対決で、この部分はかなり面白く読めたのですが、相対的に幸吉が空を飛ぶお話が付け足し程度にしか思えないという弊害が・・・。第一部が終わった時はこの後何をやらかしてくれるんだろうと期待したんだけどなあ。結局、『始祖鳥記』というタイトルにしても文庫裏の説明文にしてもミスリード感があり、スタート地点から著者の意図と読み手である私の捉え方にズレが生じたのかな、という気がしています。