飯嶋和一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ江戸時代に実在した力士・雷電と、商人助五郎を描いた物語。
ときは天明、度重なる飢饉や一揆で苦しむ貧しい庶民を、雷電は相撲を取ることで希望を与えていく。
決しておごらず天性の体格を生かして自己鍛錬を重ねていく雷電だけでなく、彼の良き理解者として支える助五郎の気骨や人情もまた、すがすがしく心洗われる。
一番印象に残ったのは、大火事や天災の後に、雷電が赤子たちを抱き上げ厄災祓いをするシーン。
この場面は何度も繰り返し描かれるが、搾取し利権をむさぼる侍達とは対照的に、民衆を励ます存在として己のすべきことをこなす雷電の、民草への優しい視線に心打たれる。
また、この時代の庶民の生活が丹念に描写されており、リアリティ溢れる重厚な奥行きを物語に与えている。
ただ、時間軸が前後しながら描かれていくので、頭の中を整理しながら読み進める必要があり、読みにくいと感じる人が多いかも。 -
Posted by ブクログ
ネタバレうおー!すごい!「全日本人必読!」と書くだけはある!
ものすごい急展開もない。すさまじいオチもない。派手な名ゼリフがあるわけではないし、現実離れした濃いキャラクターが出てくるわけでもない。それなのに、とても胸が熱くなるのだ。第一部では天才表具師でありながら、空を飛ばずはにいられない幸吉の心中に共感し、第二部では「××が来た!」と伊兵衛と一緒になって叫んでしまった(笑)そして第三部では……と、それは読んでのお楽しみ。
それじゃあ、この小説はどんな小説だったんだ、と振り返ってみる。ものすごくざっくりした言い方だが、ただ出会うべき人物が出会い、為すべきことを為し、淡々と、しかし着実に、物語が展開していき、辿り着くべき結果へ辿り着く。
そこで、ああそうか、とはたと気づく。それが歴史というものなのだ。それは人間の営為の積み重ねなのだ。同作者の「出星前夜」に井上ひさし氏が寄せた賛辞と重なってしまうが、そこにはたしかに歴史があった。 -
Posted by ブクログ
一万円選書9冊目、最後の1冊でした。
冒頭を読んで読みにくく感じ、一度投げ出してしまいました。
二度目に読み始めると意外とスラスラと読めましたが、その割に時間がかかりました。
時代物だから少し語り口に癖があります。
好きな場面は幸吉が槖駝丸からおり、みんなを山の上から見送るところです。
幸吉と源太郎、そしてみんなの関係性がよく出ていて、思わず笑いました。
幸吉にとっては生きづらい時代だっただろうなと思います。
今よりもっと、普通の幸せを押し付けられて、それを外れることを異常とされてしまう。
幸吉が空から見た景色はどんなものだったんでしょうか。
It’s too long for me to live ordinarily.
Until when, until when. -
Posted by ブクログ
江戸中期の宝暦4〜8年(1754〜58)に郡上藩(現・岐阜県郡上市)で起きた百姓一揆の顛末を描いた歴史小説。事実を元に描いているので、当然ですがハッピーエンドと呼ぶにはほど遠い結末が待っています。
物語は藩主・金森氏の苛政と二枚舌に反発した百姓代表の江戸出訴から始まる。それがやがて一大名家と幕府中枢との不当な結びつきまで暴かれ、老中・若年寄らの失脚に広がっていくのだが…。
郡上一揆は、始まりから終結まで4年もの長期を費やした点や、幕府中枢からも処分者が出たという点から特筆すべき大事件だったと思います。そして、幕府中枢部の疑惑解明と処断のため、将軍家重が直々に送り込んだ田沼意次が次代の幕府政治を担うことになるのですが、本書ではその事には余り触れていません。あくまで『郡上の百姓衆が如何に抵抗し散って行ったか』に主眼が置かれています。
本当に力作の時代小説だと思います。
でも、読後感はほとんど『カムイ伝』そのもの。絶望感で打ちひしがれること請け合いです(誰得?)
でも、これこそ事実の持つ重み。忘れない事、こうした事実の上に私達がいる事を忘れないでいよう、そんな気持ちにさせられる小説です。
【余談】
“郡上踊り”や郡上八幡城、湧水で有名な郡上市。益々行ってみたくなりました。ちょっと北の『石徹白(いとしろ)神社』(現・白山中居神社)も行ってみたいです! -
Posted by ブクログ
.
新聞の書評欄を読んでいて、飯嶋和一という小説家のことを知りました。
「多くはない作品の、いずれもが秀作」という主旨の評価が書かれていたので興味を持ち、文庫版が出ているこの作品を、読むことにしました。
物語は江戸末期の1846年、隠岐島のシーンから始まります。
隠岐島は、遠島の刑に処せられた罪人が、流されてくる地。
その島にある日、数え15歳という若者が、連れられてきます。
彼の名は、西村常太郎。
9年前に起こった大塩平八郎の乱で首謀者の一人とされた、西村履三郎の惣領息子です。
序盤は、大塩平八郎の乱がどのような理由で起こされたのか、大塩や西村がどのような最期を遂げたのかが、描かれています。
そこで炙り出されているのが、200年以上を経て機能しなくなってしまった、江戸幕府や諸藩の役人たちの、腐敗した姿。
農民に重税を押し付けて、自らは放蕩三昧の生活をする。
騒動が起こった時に、民を守るどころか錆びた鉄砲を持って右往左往してしまう。
そんな役人たちの所業は、流刑の地である隠岐島でも同じ。
首謀者の息子というだけで遠島になった、常太郎の事情を知っている島の人々は、彼に優しく接し、日常を支援します。
そんな、隠岐島での常太郎の日々が描かれていきますが、そこに大きな影響を与えるのが、幕末期の動乱。
ペリー来航と開国の強制に、大地震の発生。
さらには開国により外国からもたらされた、伝染病の流行。
廻船業が発達した江戸末期には、たとえ遠島の地とはいえ、人や情報の行き来は頻繁にあったのですね。
文庫版は700ページを超える、長い物語。
後半は常太郎の日常から離れ、隠岐島で起こった騒動が描かれていきます。
この島の歴史を知らなかったのでまず、「幕末の隠岐島で、このようなことが起こっていたのか」と、驚いてしまいました。
農業、漁業を営んでいた人々の視点で、幕末の混乱期が書かれているので、「一般の人には、このように見えていたのかもしれない」と、擬似体験をしたような気分になりました。
あわせて、以下のようなことも、教えて/考えさせてもらいました。
・大塩平八郎の乱から幕末まで、人の一生分の長さしかない
・ある仕組みを長年、使っていると、その仕組みで得をする人間が生まれ、その人は特権を離そうとしなくなる
・特権を持った人間の多くは、それが当たり前のように感じてしまい、他人を見下してしまう
まだまだ自分には、学ぶべき歴史上の事件が多くあることを、教えてもらいました。
読み応えのある小説を書く作家さんだということがわかったので、文庫化されている作品を探して、読んでいこうと思います。
.