大島真寿美のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
【本の内容】
「どうせ父親も知らない私ですから」十七歳の彩美は、うまくいかないことをすべて父親のせいだと思っていた。
夢がないのも自信がないのも。
退屈な夏休み。
突然、彩美は母親からパスポートとエアチケットを渡される。
どうやら父親はいま香港にいるらしい。
会いたいと望んだことなんて一度もなかったのに。
ガッツよ、ガッツ。
初めて知る出生の秘密に、へこたれそうになる自分を鼓舞し、彩美は空港へ降り立った―。
熱気に溢れる香港の町。
力強い響きの広東語。
活気に満ちた人々と出会い、少女がたおやかに成長を遂げる青春の物語。
[ 目次 ]
[ POP ]
17歳の彩美は、人付き合いがへたなのも、自分に自信がないのも、夢がないのも、みんな父親がいないせいだと考え、学校もさぼりがちになっていた。
夏休みに、母は彩美を香港へ連れていく。
そこで少女は父に会い、他人と話すことの楽しみを知り、成長していく。
ローストダック、お団子入り麺、豆腐花など、香港の食の描写も読みどころだ。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ] -
Posted by ブクログ
”完璧な小説だ。”とは北上次郎さんの文庫解説の冒頭の文。
これは単行本の時の感想で、装丁・挿画・造本等はこの原稿を書いている文庫版がどうなるかは判らない。と書いている訳だが、この文庫は「北上さんの解説まで含めて完璧」だ。
漫画原作者の主人公佐紀と同年齢の編集者玖未子との関係を描いた小説だが、実は冒頭から仕掛けが施されている。
六話の連作短編の中で時間は過ぎ行き、あっというまの20年前後を描いている。
話の終らせ方が実に巧みで、短編にありがちな「それからどうなった?」と思わせないところがいい。それでいて、解説によれば「それから」が描かれた小説もあるらしいからニクイな。 -
Posted by ブクログ
海外で生活することで今まで見えなかったものが見えるようになる、考えたこともなかったようなことを考える、単純に言ってしまえば成長するということだが、海外で生活したことのある人には共感して頂けるのではないだろうか。
本書の主人公「彩美」もその一人で、高校2年の夏に母親から連れられて香港へ行くことになる。目的は今までいないと教えられてきたはずの実の父親に会うためであった。それまで、人付き合いが下手なのも、自分に自信がないのも、頭が悪いのも、溌剌としていないのも、夢がないのも、希望がないのも、全部父親がいないことのせいにしてきた彩美。学校をサボってることが母にバレて、そのことでグチグチ言われた時つい「どうせ父親も知らない私ですから」と言ってしまう。本文に直接は書いていないが、この時の母の心情を察するに、かなり傷ついたろうし、しかし同時に覚悟を決めることにもなったのだと思う。その証拠に普段休みなんて滅多に取らない母が急にエアチケットを握らせてきて香港に行くと言うのだから。
香港行きが決定した時も、飛行機に乗ってるときも父親に会える喜び、ワクワク感でいっぱいだった訳ではない。むしろ、まだ見ぬ父親に会う不安、香港という町に対する不安、そして香港に行ったら自分はどうなるんだろうという不安が感じられる。「ガッツよ、ガッツ。」
当初は4日間の旅程だったのだが、彩美は日本には帰らない、もっと香港にいたいと母に告げる。母の友人であるマリイの家に泊まることになり、マリイ、マリイの姪であるエミリー、エミリーの友人のテツヤ、そして彩美の奇妙な共同生活(といっても4人が顔を合わせるのは滅多にない)が始まる。最初こそ、香港という町の性質、そこに住む人々のことを理解するのが難しく感じる彩美であったが、徐々に順応していく様子が見て取れる。どこで会ったかわからない人から「おはよう」と言われても、「おはよう」と返すとか、「オレンジジュース!」と怒ってるように(実際に怒ってるわけではなく、広東語がそのように聞こえるだけらしい)ジューススタンドのおじさんに注文したりだとか、すっかり「香港人」になってるのだ。
父である「ロイ」と会うことで、そしてルームメイトであるマリイ、エミリー、テツヤと生活することで、彩美が何を感じたか、僕ら読者は短いながらもしかし濃密な一夏で人が成長していく様を追いかけることができる。そして、自分の人生なのに、自分がどこにいるのかさえわからない、そう思ってる人たちに自分を受け入れてくれる場所は必ずある、自分が自分らしく輝ける場所が必ずある、そんな希望を与えてくれる内容だ。
『虹色天気雨』、『ビターシュガー』では女性の友情を描いているが、本書『香港の甘い豆腐』では上述したように女性の成長を描いている。ただ、共通していることは周囲の人間を巻き込んでいて、「その輪の中に入りたい!」と読者を思わせてくれるような魅力的なキャラクターが溢れているということだ。本書では最後の方で、ちょこっと書いてあるだけだが、エミリーが日本留学を果たしたり、エミリーが帰省するときに祖母(この人がまた素敵!)が香港へ一緒に行ったり、そこで意気投合したマリイやテツヤが日本へ遊びに来たり、エミリーのパパやママや従兄弟や友達も来たっていうのだから、なんかこう賑やかさが伝わってきます。本書に書いてないけど、このノリでいくと、彩美もいつかはロイの両親がいるカナダに行くんだろうなと勝手に物語の続きを想像しています。
ちょっと余談ですけど、僕が大島さんの作品を好む理由の一つは「距離感」です。女性同士の友情を描くにしても、ベタベタしすぎないし、本書のような人と関わって成長していく物語でも、マリイたちが彩美になんでもかんでも手を差し伸べてはいない、その距離感。近すぎず、遠すぎずというような感じ。読んでいてとても気持ちがいい。 -
Posted by ブクログ
『虹色天気雨』から3年後の話。奈津の娘である美月を例に挙げれば、彼女が小学5年生から中学2年生になったということだ。3年も経てば何かしら変化が起こってるはずで、高校からの同級生まりがそれまで付き合っていた旭(あきら)と別れた、とか、三宅ちゃんの事務所で働いている小糸ちゃんが結婚する、とか、お騒がせ娘の辻房恵が別の男性の子どもを身ごもったまま元夫と再婚する、とかまあいろいろあるのだ。ただ、一番大きな変化はまりの元彼である旭が市子の部屋に居候していることだろうか。「同棲」と言うと男女間に恋愛感情が発生していることが暗に含まれてると思うのだが、この場合はあくまで居候である。
事の発端は三宅ちゃんだ。アパート暮らしをしていた旭だったが、ストーカー女子につきまとわれ、身の危険を案じた三宅ちゃんがとりあえず自分のマンションに荷物を運びこませたのだという。しかし、ある日、酒に酔っていた三宅ちゃんが旭を襲ってしまったのだとか(三宅ちゃんはゲイなんです)。それこそ身の危険を感じた旭は三宅ちゃんのマンションを出て行こうとする。このままだと旭の行方がわからなくなるし、罪悪感もあるしで、おもわず市子のところを推してしまったというわけ。結局人のいい市子はそのお願いを受け入れることになるのだが、相手はまりの元彼である。ただならぬ事態である。まあ、世間では友達の元彼と付き合うことになったなんてよくある話だと思うけど(確信はない)、まりが旭のことをすごく好きだったことはもちろん知ってるし、なによりも旭が自分の部屋にいるってことが奈津やまりにバレたらどうしよう。三宅ちゃんは「これはあたしたちだけの秘密よ」なんて言うけど、最初にこの事実を発見してしまうのが、やはりというか、そうゆう役が似あうというか、美月なのだ。彼女たちの友情は崩れていってしまうのか......。 -
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父親が失踪した美月のことを奈津の幼馴染である市子をはじめ、奈津の友人や知人がサポートしていく。運動会のシーン、美月が某テーマパークのポスターガール(言葉があってるか定かでない(汗)に採用されたため、リニューアルオープンイベントに皆で行くシーンが印象的だ。父親がいなくなったことによる暗いイメージを受けることはない。むしろ、逆で、本書に出てくる女性たち(ゲイを含む)は皆精神的に強い。男なんていなくたって生きていけるんじゃないか、そう思わせてくれる。
大島真寿美さんの作品を読んだのはこれが初めてだったのだが、読みやすいテンポだし、女性たちのリアルな会話の描き方が上手だなと思った。僕は喫茶店でバイトしてたことがあるが、接客をしているときに聞こえるあの会話のリズム。男性同士が会話してても生まれないであろう、女性特有の(そうだと僕は信じてる)あの空気感を思い出した。コーヒー一杯で何時間も喋り続けてるなんて、男の僕からしたらちょっとした驚きであった。
本書では市子、奈津、まりの3人の女性の恋愛(または結婚)に対する価値観も読みどころかなと思う。この3人は中学の時からの友達で、いわば互いのことは手に取るようにわかる間柄だ。それと、直接本人から聞いたわけじゃないのに、どこか別のネットワークから情報収集して、その本人を驚かせるなんてシーンもあるのだが、これは女性の情報収集能力の高さ(?)を裏付ける(?)ことになるのではないかしら。ほら、おばさんたちが近所のことなら何でも知っているようなあれよあれ。
登場人物の中で良い味出してるなーと思ったのが三宅ちゃんだ。市子が失恋というか、元夫に関するある事実を知った時に彼(?)彼女(?)が言った言葉を引用する。
「とにかく、市子、まちがえちゃいけないのは、価値観はそれぞれ、ってことだけ。(中略)市子の価値は、市子の価値。あんたの価値が、辻房恵より劣るわけじゃない」
辻房恵って誰よ?って思われた方は本書を読んでいただくとして、この三宅ちゃんの言葉は女性を勇気づけますよね。僕は女性ではないので本当のところどうかわかりませんが、別れた彼氏が別の女性と付き合っているという事実を知るとします。そうすると、振られた自分はまるで「敗者」のようなレッテルを貼られ、なにもかも劣ってるんだ、うわあああああああ、てな感じで自暴自棄に陥る女性いると思うんですが(いるんですかね?いてください)、それは違うよってことですよね。その彼氏の好みがどうのこうのってだけであって、そこに人間の価値というのは含まれていないのよバカタレがっ!ってことだと思います。だから、失恋しても塞ぎ込まないでください。何でも立ちあがれ。どっかのボクサーみたいに。
別に市子は自暴自棄に陥りはしません。むしろ逆で、強い女性なので、引用した以下のことを思っています。
――こちらもまだ初心者で、いちいち狼狽えたり、おろおろと戸惑うばかりだった頃は、失恋の傷が、ただ無意味な傷のようにしか見えなかったけれど、今では、そこにあるのが傷だけでなく、たくさんの勝ち取ったもの、手の中に思いがけず残ったものなどもまた、傷ついた皮を剥がせば、ちゃんとそこにあると知っている――
若いときにこうは考えれらないですよね(いや、できるしって方がいたらごめんなさい)。
ベタベタしない女の友情。読んでいて気持ちが良いです。読後感も最高です。女性にはもちろんのこと、男性も読んでみてはいかが?ただし、泣くなよ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ短編集。
表題作は、離婚調停中の両親に親権を争われうんざりしているリサと、
父の愛人との妙な交流を描いたお話。
タイトルの『ふじこさん』が愛人の名前。
リサの自分自身への無関心さと人生への倦怠感が溢れている。
リサは小学生。
でも小学生は小学生なりに人生を悲観し、鬱屈としたものを抱えているのだよね、と自分の子供時代を重ねて思う。
自分を支配しようとして、当然の権利のように自分を引き取ろうとする母&祖父母への反感と対になり父親への好意(いや同情か)が強くなるものの、
物語を通して「男は身勝手で無神経」という側面を出すことで主人公は本当に自分自身の価値基準を自分の中に持てる子になったのかなと思う。
ふじこさんの人生も素敵。
『夕暮れカメラ』は高校をさぼってカメラを片手に街をさまよう主人公が、
自分の遺影を求める老女の写真を撮る話。
途中、老女が中学時代の同級生の祖母だと判明し、その奇妙にすべすべした家族関係に疑問を感じたりする。
デビュー作の『春の手品師』はちょっとファンタジックなお話。
家庭のごたごたに起因して心のバランスを崩したと思われる主人公と、手品師との一晩の交流。
ちょっと変わっていて、でもものすごくドラマチックな展開があるわけではない、
どちらかといえば地味なお話だけれども、子供時代に抱えた暗い思いをつついて、切なくさせる。
前向きになるけれど、どんと背中を押すのではなく、
一人で歩けるようになるまで手を取って一緒に歩いている感じが好き。
こういう、人生をひっくり返す出会いというテーマは好き。