Posted by ブクログ
2020年11月13日
本作も例によって一冊に4篇を収めた体裁である。
“スカウト”という仕事に携わる若者が巻き込まれたトラブルをどうにかしようとする物語…往年の大人気シンガーが関わってしまった一件を巡る物語…大人気の玩具の製造工程の裏に在る問題を告発しようとする物語…ネットの掲示板で人を募って集団自殺をすることを仕掛けて...続きを読むいる謎の人物の正体を暴いて阻止しようとする若者達の物語…そういう4篇である。
本作は、発表された時代の新しい風俗、新奇に見える事象を採り入れるようにしている。そういう意味で、年月を経てから作品に触れると、発表当時に新奇であったモノが古い感じに視える場合がないでもない。が、発表年次と無関係に、このシリーズの新旧作品をドンドン読んでいるが、そういう辺りは然程気にならない。劇中人物達が使うモノに言及が在った際に、「XX年頃だな…」と気付くというだけのことだ。
本作は、発表された時代毎の新奇に見える事象等を巧みに採り入れてはいるのだが、「時代を超える魅力」を有していると思う。市井の、特別な地位や立場という程でもない若者が、何やらのトラブルをどうにかすべく奔走してみるという様子を介して、「どうしてこういう時代になった?」、「本当にこういう感じで人々は幸せか?」、「こういう様子が“正しい”のか?“正しくない”でも構わないかもしれないが、納得し悪い?」というような、「人生を見詰める材料」というのか「“材料”になり得るかもしれない何か」を供してくれるような気もするという辺り、「面倒な時代かもしれない。それでも生きる俺達…」という「人生の価値」を問うような感じが魅力のように思う。
この第5作の中、秀逸だったのは4つ目の篇である、表題作ともなっている『反自殺クラブ』だった。
少し前、何時であったか読んだ週刊誌に在った、何方かのエッセイ、またはインタビューの口述筆記に在ったのだが「感染症で命を落とす人よりも、自殺者の方が余程多いのでは?」という事実が間違いなく在ると思う。それはこの小説が発表された頃の前も後も、そして極最近も残念ながら余り変わっていないのかもしれない。だから、この作品が少し考えさせられたのだ。
主人公のマコトを訪ねて若者達が現れた。マコトは彼らの活動への協力を依頼された。
その活動というのは…ネットの掲示板で人を募って集団自殺をすることを仕掛けている謎の人物の正体を暴いて阻止しようということであった。そして若者達は、親が自殺してしまった経過が在る“自殺遺児”という共通項を持っていた。
若者達は、自分達のグループのことを“反自殺クラブ”と称していて、それが物語の題名にもなっている。この若者達とマコトの行動、事態がどういう具合になるのかに関しては、是非とも本作を紐解いて頂きたい。意外な展開にも少し驚く。
それにしても…命は命を有する者自身のモノであるが、同時に周辺の多くの人達が、殊に身近な家族のモノでもある。そんな「命?その価値?」というようなことを深く強く考えさせられた。
何れにしても広く御勧めしたいシリーズだ!