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「がん」は現代人特有の病ではなく、生物システムに最初から組みこまれたバグである。がん細胞が体内で文字通り「進化」するという、驚きの事実を解明。未来の治療の可能性に迫る!英『タイムズ紙』 年間ベストブック選出。
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Posted by ブクログ
日本人の3人に1人がガンで亡くなっている。ガン以外で死に難くなっているという事でもある。仕方ないもの、漠然とは不安なもの。もっと知っておきたいと思った。本著はそれに対して最適な本だった。理論と実用性のバランスが良い。また、周辺の話も面白い。 ウイルスや発ガン性物質、慢性炎症や伝染病のように感性する...続きを読むガンもあるらしい。馴染みがあるのは、ストレスによりガンになるという話だろうか。しかし、近親者の死別や離婚といったつよいストレスのかかる出来事ががんの発生率を高めるという関連性は確認されていない。社会的弱者が肥満、喫煙、飲酒、食生活によってガンになると思われがちだが、これで全てを語ることもできない。血中濃度の測定により、慢性炎症と関連し、ストレスにより増大する物質が関係していることがわかっているが、これらは30歳から急上昇し中年でピークに達する。老化による炎症の影響は避けられない。慢性炎症には経済的不安定さ、不安定な睡眠や睡眠時間の短さなどが関係する。 煙突掃除の未成年たちが陰嚢ガンに。毛を剃り落としたマウスに煤を原料とした絵の具を塗ると腫瘍ができたという話。ウマノスズクサ科の雑草が生えている畑の小麦にもアリストロキア酸が含まれる場合がある。ワタオウサギの角の原因となったショープパピローマウイルス。ガンを含む組織の異常増殖にウイルスが影響している事の手掛かりに。ウイルスはガンの原因の10分の1らしい。 大半のガンが最初にできる場所は管の内壁。乳腺や前立腺、肺の気管支、腸管などがそれにあたる。反対に細胞が隙間なく詰め込まれている脳や膵臓でのガン発生率は低い。心臓には幹細胞がごくわずかしかなく、増殖能が限定的。そのため心臓がのリスクはほぼゼロだが、心臓発作を起こしたときに修復をすることができない。 糖質制限でガンを飢えさせようとする方法は、有害。食料を求めて移住し全身に広がりやすくなる。ガンと戦うのに必要なエネルギーを奪うことにもつながる。他方、カロリー制限をすると体内環境を良好に保てるというのは正しい。マイクロバイオームと呼ばれる体の内外に住む無数の微生物が果たす役割も無視できない。体内時計とがんの関係についても研究が進められている。それぞれの細胞に1日のうちどの時間帯に増殖や修復をするのがベストか指示している。体内時計の乱れがガンのリスクに関係しないはずがない。 今すぐ出来そうな事というと、慢性炎症を避ける事。生活リズムと適度な睡眠だろうな。ストレスで生活を乱さぬ事、か。
勝間和代さんの推薦本です。 友人のお母様が一昨年の年末にがんがみつかり、年明けにすぐ手術されましたが、既に手遅れで全身に転移されていたそうで、昨年の9月にはご逝去されてしまい、あまりのはやさにショックを受けていました。 それで、勝間さんの推薦本の中でこの本が気になり読みました。 はじめにで著者...続きを読むは『がんは、だれの身にもふりかかる病気だ。がんの診断を告げられたとき、「わかりました。がんとのつき合い方なら知っています」とだれもが答えられるようなそんな日が来ることを私は願っている』ー とありますが、この本を全部読んでもがんから逃れたり、がんになってもよくなる方法が書いてある訳ではありませんでした。 タイトルが『ヒトはなぜ「がん」になるのか』だったので、ではならないにはどうするのかその方法はと続くのかと思って読んでいたら、そういう展開にはなりませんでした。 ただ、がんの歴史、がんとはどういうものかについて科学的に書かれている本でした。 私は治療法などを期待して読んだので選書ミスだったと思いました。 がんという病気の進化論が書かれている本です。
英国がん研究機関「キャンサー・リサーチ・UK」に勤務経験のあるサイエンス・ライターが、進化論の見地からがんの本質を再検討し、がん治療従事者、製薬会社、そして患者らに対しがん治療に対する観点の抜本的見直しを迫る。奥深い内容ながら、文章にはディストラクティングなところがなく、何より訳が自然で読みやすい...続きを読む。翻訳物のポピュラー・サイエンスとしては最上の部類に属すると思う。 著者によれば、がんはわれわれ哺乳類などの多細胞生物と同様、体内環境による選択圧を受けながら漸進的に進化し、日々その生態を変化させている。この「動態的ながん」という視座なくては、正しい対処は覚束ないどころか却ってその勢いを増幅することにもなりかねない、とする。 本書はまず、「がん=野放図な無法者」というステロタイプを放逐する試みから始まる。がんは単に無秩序な増殖能と浸潤能を獲得した変異細胞などではない。それは、分化と協調を旨とする多細胞生物の一部が、体内の環境変化に適応して周囲の細胞よりも強い増殖能を獲得して利己的な単細胞生物に「先祖返り」したものだという。つまり、がんは特定の異常な細胞などによって引き起こされるのではなく、ごくありきたりに我々の身体を構成する正常細胞が、染色体コピーを繰り返す中でなんらかの「ドライバー遺伝子変異」を拾い、さらに老化や慢性炎症などの環境変化に適応して周囲の細胞よりも強い増殖能を獲得した時、がんのスイッチがオンになるのだ。がんは「適者生存」の原理に従っているのである。 このような考えかたには決定論的なニュアンスが伴うのは確かだ。がんが進化論的に「合理的」なものだとするロジックは、「がんになるのは必然、または運次第」というニヒリスティックな結論を導きかねない。確かにがんの最も重要な外的リスクファクターは加齢でありこれは避けようもない。そのようなリスク環境下では単細胞生物はスピードを重視するあまり精度の低い遺伝子修復機能を用いるという賭けに出るため、無秩序な増殖が加速する。変異はますます加速を得て多様化し、特定の改変可能な遺伝子変異をターゲットとする「標的療法」は無力化する。開発容易なキナーゼ阻害剤に偏重する現在の治療薬開発はいずれ行き詰まってしまう。 しかし本書の真骨頂はここから。著者は読者に視座の転換を要請する。それはがん周囲のミクロ環境を整えることで、がんの増殖を望ましいかたちにコントロールしようというものだ。 がん細胞が他の生物同様に淘汰圧を受けるなら、人間がウイルスや細菌に対して行ってきたのと同様の対処が可能ではないか?確かにがんも治療薬に対する耐性を示す。しかし耐性を持つということは通常の生命維持に加え薬に対処するためのツールを別に備えねばならない負担を抱えるということであり、他の非耐性がんに対し相対的に競争劣位となることを意味する。そうであるならば、逆手を取って進化を味方につけ、耐性がんが生じない程度にまで抗がん剤の用量を低め、薬剤が有効な非耐性がんに耐性がんを抑制させる。非耐性がんが優位になりすぎたら抗がん剤を追加し、耐性がんが頭をもたげたらまた用量を落とす。このように、がんを周囲のミクロ環境も含めた一体として把握し、その環境全体をコントロールするという「適応療法」が、アメリカのがん研究会で提唱されているというのだ。 がんは適者生存の原理に従う。この根本原理に立ち向かうことはできないが、「宿主を殺して次は一からやり直し」というがんのアドホックな戦略に対しては、人間は長期的な研究成果を統合することで適切に対応することができる、と著者はいう。目下のところがんの根治は難しくとも、がんの性質を正しく理解すればコントロールは可能なのだ。 なお、主に原始生物やマウスに対する基礎実験をもとに「人間の寿命はいくらでも延長可能」と主張するベストセラー「LIFESPANー老いなき世界(デビッド・A・シンクレア著)」を想起したが、本書の方が臨床データに基づく記述が多く現実的な立脚点を持っており、少なくとも短期的には信頼できる点が相対的に多いとの印象を持った(がんのような原理上加齢とともに発生する病理に対し、多産のため若年で寿命を迎えるマウスを治験に用いることの無意味さは本書内でも指摘されるところだ)。
がんは生命システムそのものに備わったバグであり、避けようと思って避けられるものではない。 ガンは本当に難しい。 単に医学だけの範囲に留まらずに、進化生物学、遺伝学、分子生物学、免疫学など、物凄く広範な分野の学際的な研究が必要だ。
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