【感想・ネタバレ】鬼平犯科帳[決定版](十一)のレビュー

あらすじ

江戸の盗賊たちに「鬼の平蔵」と恐れられている、「鬼平」こと火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官・長谷川平蔵の活躍を描く時代小説の金字塔。

火付盗賊改方とは江戸の特別警察とでもいうべき組織。その長官を務める旗本の平蔵は、いまでこそ人あたりもよく笑顔を絶やさないが、若い頃は「本所の銕(てつ)」と呼ばれ、無頼の者からも恐れられた乱暴者だった。「悪を知らぬものが悪を取りしまれるか」と、人情の機微に通じた鬼平が悪を退治する。

中村吉右衛門が鬼平を演じたテレビ版をはじめ、映画、舞台、マンガと様々な形で愛されてきた作品で、2017年に放映されたアニメ「鬼平 ONIHEI」も大きな話題に。
2017年は「鬼平」が誕生して50周年。これを記念して全24巻を、ふりがなを増やして読みやすくなった決定版で順次、刊行。

うまそうな食べ物が脇役となっている作品が印象的な第11巻。収録されているのは以下の七編。

ひょうきんな性格が誰からも愛される与力・木村忠吾が誘拐された。『男色一本饂飩』
江戸の場末にある、驚くほど安くて、うまい飯屋に、なぜか平蔵は通いつめる。『土蜘蛛の金五郎』
商家の金蔵から消えた三百両が、そっくり返ってきた。情熱を描いた『穴』
火付盗賊改目方の会計をつとめる同心を襲った悲劇。『泣き味噌屋』
「こんや、九ツはん、・・・・・・」。平蔵の役宅へ届いた手紙に隠された情。『密告』
浅草寺の境内でスリを捕らえた平蔵。掏り盗った包みから思いがけぬものが。『毒』
久方ぶりに再会した父と子。だが息子は盗みの水をたっぷりとのんでいた。『雨隠れの鶴吉』

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Posted by ブクログ

『男色一本饂飩(なんしょくいっぽんうどん)』
なんか強烈な題名で始まった(笑)「鬼平犯科帳11」
今回ちょっと危ない目に合うのは、火付盗賊改方同心の木村忠吾、うさぎ饅頭に似ているのであだなは兎忠(うさちゅう)。
体力も胆力も足りなくお調子者でしょっちゅう女に引っかかりおっちょこちょいちょいだが、いざとなったら夢中で働き裏表なくて愛嬌もあるので、与力同心たちからも鬼平からも可愛がられている。
そのうさ忠が好物の「一本饂飩」を楽しんでいるところに強引に同席してきた巨漢で毛深い男。野太い声をみょ〜に柔らかな口調でうさ忠の耳元に囁きかけてくる。
店を出たところで、うさ忠は数人の男たちに拉致されて…。
***拉致されたのが女性ならまず無事では済まない(実際に無事ですまなかった話もあるし)状況になったのですが、でもうさ忠だよ?まさかそんなにひどい目には合わないよね?という思いながら読みました。
まあ結局うさ忠を拉致ったのが強盗団だったため、鬼平としてはうさ忠救出と強盗団壊滅できたのですが、行方不明時は心配されたうさ忠が、助けられたら同心たちから「あいつなんかめずらしい体験したらしいなあ」と貞操を疑われてしまうのはちょいとお気の毒。

『土蜘蛛の金五郎』
三ノ輪の外れにできた「どんぶり屋」という飯屋。滅法安いし乞食にはただで食べさせる。
興味を持った鬼平は、荒んで汚れきった浪人の変装をして「どんぶり屋」へ通う。
そしてある時店に押しかけてきた暴漢たちを鬼平はあっさりと叩きのめす。
その腕前を見た店主の金五郎は、鬼平へ驚くような依頼をしてくれる。
「謝礼はたっぷり払う。火付盗賊改方の長谷川平蔵を殺してくれないか」
自分の暗殺を依頼された鬼平が立てた作戦は、緊迫の鬼平vs鬼平の決闘だった。
***すべてが終わって、汚い浪人から火付盗賊改方に戻った鬼平がつぶやきます。「おれは実に楽しかった。できることなら面倒なお役目は捨ててしまって、乞食浪人になってみたいもんだ」
若い頃グレていた鬼平なら乞食浪人も似合いそうですが、いまのあなたには家族も与力や同心も密偵たちもいるので、お役目は捨てないでね。

『穴』
大店の鍵のかかった蔵にしまわれた三百両が盗まれた。誰も気が付かない間に行われた見事な盗め(つとめ)仕事。
しかもその数日後、その鍵のかかった蔵に盗まれた三百両がそっくり戻されていた。やはり誰も気が付かないうちに行われた見事な仕事っぷり。
犯人は、隣に住む扇谷のご隠居平野屋源助とその番頭の茂兵衛だった。昔気質の盗賊だった源助と側近の茂兵衛は盗賊稼業から綺麗に足を洗い、死に支度に入ろうとしていた。
だが71となった今でも元気矍鑠たる源助は、ふとしたときに昔の盗みの血が騒ぎ、自分がまだ現役でやれるという証を見せたくてしょうがなくなっていたのだった。
***鬼平犯科帳では、筋の通った矍鑠たる老盗や御隠居が出てきますが、敵味方に関わらず鬼平と互いを認め合う話になります。
今回も、源助に対して鬼平は相手の腕を認めつつこれ以上やりすぎるなよと牽制してみせ、感服した源助はそれに応えることになりました。

『泣き味噌屋』
火付盗賊改方会計担当同心の川村弥助は、まるで相撲取りのような体格にもかかわらず、怖がりで押しが弱くて「泣き味噌屋(※泣き虫の意味)」と呼ばれている。
だがある日、新婚の愛妻さとが攫われてしまい…
***最初の話でうさ忠の操は無事だったが、やっぱり女性だと…

『密告』
「こんや、九ツはん、ふか川、せんだいぼり、かまくらやへおしこむぬすっと十五にん」
たどたどしい文字で書かれた強盗密告の手紙は、それが実行される直前に届けられた。
捉えられた盗人の一人の顔、それはかつて鬼平が知っていた男によく似ていた。
鬼平は知る。若くてグレていた頃の鬼平が片手間に気遣った女は、その後の苦労の人生でその親切をずっと支えにしていた。そしてとても苦しい決断を鬼平に託したのだということを。

『毒』
市中見廻りにでた鬼平は、若い男が陰陽師から財布を掏る場面を目撃する。
その掏摸を捕まえた鬼平だが、取り上げた財布には、毒薬が隠されていた。
***今回は、幕府に使える鬼平が、幕府制度の隠匿姿勢と、人民との距離に疑問を持ち、背後に巨悪があるかもしれないけど、火付盗賊改方とはいえ自分たちにはこれ以上道しようもないんだよね…という矛盾を吐露する話になっています。

『雨隠れの鶴吉』
強盗の引き込みをする雨隠れの鶴吉とお民の夫婦は十二年ぶりで江戸に戻ってきた。
鶴吉は大店の旦那と女中の間の子供だったが、正妻に追い出されていたのだ。
江戸についた鶴吉は、昔なじみから旦那様はいまでも鶴吉の行方を探していると聞かされる。
そして十二年ぶりの親子対面となったが、その店には別の強盗団の引き込み役が入り込んでいた…
***偶然に偶然が重なり、喜んで迎えてくれる場所と、でも別の人生に戻らなければいけないという板挟みのなかで、それぞれが仁義を通したというお話。
<物事には、いちいち理屈をつけるものではない。人間という生き物は理屈とは全く無縁のものなのに、どうも得てして理詰めにいきたがるのがおかしい。P308>

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2020年10月06日

Posted by ブクログ

三度目の鬼平もこれで、第11巻。全七話収録されているが、圧巻は同心・兎忠木村忠吾が誘拐される「男色一本饂飩」その他は引退した老盗がお盗めへの情熱から再び盗めを行う「穴」、家を捨て、盗人になった男が実家の危機を救う「雨隠れの鶴吉」など。

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2019年01月23日

Posted by ブクログ

池波正太郎の連作時代小説『決定版 鬼平犯科帳〈11〉』を読みました。
池波正太郎の作品は先日読んだ『新装版 鬼平犯科帳〈10〉』以来ですね。

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色白でぽってりとした同心・木村忠吾の好物は、豊島屋の一本饂飩。
親指ほどの太さの一本うどんがとぐろを巻いて盛られていて、柚子や摺胡麻、葱などの濃目の汁で食べるのである。
そんな忠吾が、豊島屋で男色の侍に目をつけられ誘拐される「男色一本饂飩」ほか、ちょっとうまそうな食べ物が脇役となっている作品が印象的な第11巻。

「男色一本饂飩」「土蜘蛛の金五郎」「穴」「泣き味噌屋」「密告」「毒」「雨隠れの鶴吉」の7篇を収録。
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文藝春秋が発行する月刊娯楽小説誌『オール讀物』に1973年(昭和48年)11月号から1974年(昭和49年)5月号に連載された作品7篇を収録して1982年(昭和57年)に刊行された作品……実在の人物である火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を主人公とする捕物帳、鬼平犯科帳シリーズの第11作です。

 ■男色一本饂飩
 ■土蜘蛛の金五郎
 ■穴
 ■泣き味噌屋
 ■密告
 ■毒
 ■雨隠れの鶴吉

鬼の平蔵のもとで働くのは勇猛な者ばかりではない……勘定掛としてはまことに有能な川村弥助は、小心で地震が大の苦手、、、

しかし愛する妻をさらわれた時、この臆病者は変貌した……鬼平の部下への思いやりが光る「泣き味噌屋」。

木村忠吾が男色の侍にさらわれ危機一髪!の「男色一本饂飩」……長谷川平蔵が長谷川平蔵に闇討ちされる? 奇想天外な「土蜘蛛の金五郎」、、、

盗んだ金を元に返した老盗人の名人芸「穴」……他に「密告」「毒」「雨隠れの鶴吉」と7篇を収録。

テレビドラマでもお馴染みの鬼平犯科帳シリーズ……原作となる小説も面白いです! 本作品の収録作では、

木村忠吾が行方不明に!? 木村忠吾が男色の算者指南の盗賊に誘拐・監禁されるも操を守り抜くユーモアたっぷりの異色作『男色一本饂飩』、

平蔵vs.平蔵!? 平蔵殺しを頼まれた喰い詰めた浪人に変装した平蔵と平蔵に成り代わった左馬之助が白刃を交えるシーンが強烈……「悪い事をしながら、良い事もする」人間の判らない一面が巧く描かれている『土蜘蛛の金五郎』、

盗賊改方の勘定方を務め実務能力は優秀だが、臆病で優しく泣き虫なことから泣き味噌屋と呼ばれ日頃から仲間に馬鹿にされている同心・川村弥助が、凌辱されたうえに惨殺され妻の敵討ちをとるために見事にその本懐を果たすが……その本心は平蔵に看破されていた『泣き味噌屋』、

平蔵が子どもの頃に遊んでた幼馴染の鶴吉……父親に複雑な気持ちを抱いたまま、大坂から戻ってきた鶴吉は、実家に盗賊の引き込みが入り込んでいることを知り夫婦の粋な計画を企てる『雨隠れの鶴吉』、

が印象的だったかな……連作短篇のカタチを取っており、1篇ずつでも愉しめるのですが、それぞれの短篇が繋がって大長篇としても読める構成なので、順番に読み進めると大河ドラマ的な愉しみがありますね。

平蔵を取巻く登場人物の存在感も幅広く、関係性も濃くなり、それぞれの人間味に深みがでてきて、巻が進むに連れてどんどん面白くなっていきますね……第12作以降も順次、読んでいこうと思います。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

「男色一本饂飩」「土蜘蛛の金五郎」「土」「亡き味噌屋」「密告」「毒」「雨隠れの鶴吉」を収録。怖がりの盗賊改方の経理担当者が妻の敵を討つ「亡き味噌屋」、木村忠吾が男色の盗賊に誘拐される「男色一本饂飩」が印象的だった。

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2017年09月03日

Posted by ブクログ

内容(「BOOK」データベースより)
食い気盛んな同心・木村忠吾の大好物は、深川の一本饂飩。柚子や摺胡麻、葱などをあしらった濃目の汁で食べる。ある日、「同席、かまわぬかしら?」と巨体の侍が忠吾に近づいてきた(「男色一本饂飩」)。老盗人の名人芸とは(「穴」)。全七篇を収録。

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2021年12月24日

Posted by ブクログ

江戸時代の陰陽師って、登録制(?)で土御門家に登録料(?)を払う形式だったんだね。

鬼平さんは江戸の市民を守っているけれど、その上の幕閣にいる御家人さんとか大名さんとか、役職付のエライ人とか、大奥とかもっとドロドロしてるっぽいことが少し描かれていました。

そんな世界で地道に生きている市民を守る鬼平さんは、酸いも甘いも清濁併せ呑める力量なのがスゴイな~♪

……ま、ちょっと剣術が強すぎるけどね(笑)

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2018年09月02日

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