あらすじ
紀元2世紀初頭、ダキアとメソポタミアを併合して帝国の版図を最大にした初の属州出身皇帝トライアヌス。帝国各地をくまなく視察巡行し、統治システムの再構築に励んだハドリアヌス。穏やかな人柄ながら見事に帝国を治めたアントニヌス・ピウス。世にいう五賢帝の中でも、傑出した3人の業績を浮彫りにし、なぜ彼らの時代が「まれなる幸福な時代」たりえたのか検証する。 ※当電子版は単行本第IX巻(新潮文庫第24、25、26巻)と同じ内容です。
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ローマ帝国の完成
一部ご紹介します。
・皇帝に課された責務は、安全保障と、属州の統治、帝国全域のインフラ整備である。ハドリアヌス帝が、ローマ帝国全域の旅行をした理由は、現地を知らなければ施政者の責務は果たせないと考えたからである。自らの寿命を縮めてまで視察、整理整頓を目的とした大旅行を行ったことで、帝国の防衛システムの再構築と、法体系の整備が実現できた。
・小プリニウス「後世の人々は、われわれを記憶してくれるだろうか。記憶される価値は、われわれにだって少しはあると思うのだが。われわれの天分によるとは言わない。そう言ってしまっては傲慢にすぎる。だから、われわれの勤勉、われわれの熱意、われわれが抱いている名誉を重んずる心によると言おう。それらを胸に抱いて精勤を続けていくのが人生だが、少数の人は、その中でも光輝く名声を獲得できるだろう。だが、それ以外の多くの人々でも、少なくとも無名や忘却から救いだされるぐらいの価値はあると思うがどうだろうか。」
・もしもあなたが、自由の中には選択の自由もあると考えるとしたら、それはあなたが、ギリシャ、ローマ的な自由の概念を持っているということである。一神教の教徒にとっての自由には、選択の自由は入っていない。まず何よりも、「神」の教えに沿った国家を建設することが、この人々にとっての自由なのである。一神教の帰結は、「神」を愛するあまりに、人間を憎むことになる性癖である。
・ハドリアヌス「途方にくれる、愛おしきわが魂よ。長く私の肉体の客であり、伴侶であった、わが魂よ。今や薄暗く、寒く、何もなく、かつてのお前が何よりも好んだ冗談を言い合う愉しみもない世界に降りていかねばならない時が来たようだ。」
・アントニウス・ピウス「ローマは、誰にでも通ずる法律を与えることで、人種や民族を別にし、文化を共有しなくても、法を中心にしての共存共栄は可能であることを示した。そして、この生き方が、いかに人々にとって利益になるかを示すために、数多くの権利の享受までも保証してきたのである。このローマ世界は、一つの大きな家である。そこに住む人々に、ローマ帝国という大家族の一員であることを日々思わせてくれる大きな一つの家なのである。」
Posted by ブクログ
五賢帝の2人目からトライヤヌス、ハドリヤヌス、アントニヌス・ピウスの3名を取り上げます。偉大な皇帝たちで、ゴシップも少なかったというだけに、記録が少ないという皮肉な時代だそうです。(老醜をさらし、晩節を汚したハドリヤヌスを除いて。やはり引き際の重要さを痛感します)にも関わらず詳細な調査で、3名の人生がこんなにも見事に蘇るのは流石です。面白いのはトライヤヌスのブリニウスへの返信書簡で急成長するキリスト教への対策について指示をしている件です。この時代からすでに極めて正しくキリスト教について認識されていたことが分かります。そして、ドナウ川にかけたトライヤヌス橋の建設、ダキヤ(ルーマニア)の征服、ハドリヤヌスでは公衆浴場の男女混浴禁止令などローマ法の整備、アントニヌスの善政など。