あらすじ
※本作品は、2023年発売の単行本版「審議官―隠蔽捜査9.5―」を文庫化した作品となります。重複購入にご注意ください。
板橋捜査一課長のキャリア観を変えたのは、共に誘拐捜査にあたった大森署時代の竜崎だった。そんな竜崎も警察庁の長瀬審議官の前では一介の中間管理職にすぎない。竜崎の家族である、冴子、美紀、邦彦。署長転出直後の部下たち。神奈川県警のトップ、佐藤本部長。さまざまな人々の目から見た竜崎伸也の素顔、そしてその凄みとは。『隠蔽捜査』シリーズへの愛が深まる、絶品スピン・オフ短篇集。(解説・若林踏)
同じキャリア警察官の主人公「竜崎」と、幼馴染「伊丹」の物語。
とにかく「竜崎」のキャラ設定が秀逸!万事の『原理原則』に忠実で、しがらみの多い警察機構の中、ただひたすら『正論』『理屈』を武器に超合理的に全てを進めていく姿が痛快になってくると、あなたは立派な「竜崎」ファンです。堅物過ぎてヤな奴なのは否めませんが、対照キャラの「伊丹」が、それだけじゃないことを読者に説明してくれます。
的確な判断と部下への指示。こんな上司なら一生ついていきたいっす(かなり堅苦しいけど)。
ドラマ出演者が形容したのは「警察版 半沢直樹」。主人公のキャラは全く違えど、組織内の権力争いとスッキリする読後感は確かに似ているかも。1巻ごとの完結ですが、続巻も読みたくなること必至!そして続巻も期待以上です。(書店員・ラーダニーバ)
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Posted by ブクログ
今野敏「隠蔽捜査」シリーズ第12作目(2023年1月単行本、2025年9月文庫本)、スピンオフ短編集作品としては3作目、長編作品は9作。
今回は竜崎が警視庁大森署署長時代と神奈川県警本部刑事部長になってからの時代の脇役達のエピソードが並行して描かれた短編9編(①空席②内助③荷物④選択⑤専門官⑥参事官⑦審議官⑧非違⑨信号)のスピンオフ作品だ。
①空席⑧非違は竜崎が大森署を去った後の大森署の面々のエピソードを描いた短編。
②内助③荷物④選択は竜崎が大森署時代の家族のエピソードを描いた短編。
⑤専門官⑥参事官⑦審議官⑨信号は竜崎が神奈川県警刑事部長に就任してからの竜崎と県警の面々との日常のエピソードを描いた短編。
いずれも竜崎伸也(神奈川県警刑事部長、警視長、キャリア、47〜48歳位のはず)の周りの脇役達の物語であるが、全ての案件は竜崎の存在感に結びつく。
隠蔽捜査シリーズのスピンオフ短編集は、脇役の人物像の意外性や期待像を見せてくれる満足出来る短編集だ。
①空席
竜崎を大森署から神奈川県警に送り出した直後で新署長がまだ着任していない状況の大森署の面々のエピソードだ。
第二方面本部からの品川署管内で起こったひったくり事件に対する緊急配備の指示を受けた大森署が同時に起こった大森署管内のタクシー強盗事件の捜査に緊配を切り替えたことに対する方面本部の野間崎管理官の嫌がらせへの対応の物語。
主な登場人物は大森署署長の竜崎伸也に、懐かしい面々の大森署の貝沼副署長、斎藤警務課長、久米地域課長、笹岡生活安全課長、関本刑事課長、戸高刑事課強行犯係巡査部長、根岸生活安全課少年係巡査、第二方面本部の弓削本部長、野間崎管理官、そして大森署の新署長が藍本小百合、北海道警の総務課長からの転任の美貌の40歳女性警視正だ。
ひったくり事件とタクシー強盗事件の間に詐欺事件への対応で戸高巡査部長が刑事の勘で活躍、ひったくり事件とタクシー強盗事件への犯人へと結びつき、一挙に三つの事件が解決する。これも対応に悩んだ貝沼副署長と斎藤警務課長が竜崎にアドバイスを求めた結果だった。
②内助
竜崎の妻の竜崎冴子が主人公の物語だ。竜崎がまだ大森署の署長の時代で大森署の管轄で起きた殺人事件に冴子が何か既視感を感じ、その既視感の理由を考え、調べていく内に犯人の人物像を突きとめてしまうという話。
娘の美紀も登場してネット検索で冴子を手伝う。竜崎の素人で家族の意見も聞いて参考にするという姿勢も感じいい。
主な登場人物は竜崎伸也の他、竜崎の妻の竜崎冴子、娘の竜崎美紀、息子の竜崎邦彦、警視庁の伊丹刑事部長。
③荷物
竜崎の息子の竜崎邦彦が主人公の物語。やはり竜崎がまだ大森署の署長の時代で邦彦がポーランドからの女子留学生ヴェロニカと知り合い、そのヴェロニカから頼まれた荷物の受け取りで麻薬犯罪に巻き込まれたかも知れないと悩む話。
隠蔽捜査シリーズ1作目で竜崎が警察庁総務課長から大森署の署長に左遷させられる原因となったのが邦彦のヘロイン所持(自首)だった為、また父親に迷惑かけることへの恐怖から一人悩むのだが、最後は竜崎にことの状況を全て話し相談したことで全て解決する。
実際は麻薬でも何でもない物だったのだが…。
主な登場人物は竜崎伸也の他、息子の竜崎邦彦、ポーランド人のヴェロニカとアントニ、そして戸高刑事。
④選択
竜崎の娘の竜崎美紀が主人公の物語。これも竜崎がまだ大森署署長の時代の出来事で美紀が出勤途中で痴漢らしき男を取り押さえたことから始まる。
理不尽な扱いを会社からも警察からもその容疑者からも受けて絶望するのだが、竜崎の助言で一気に自信を取り戻すスカッとする話だ。
会社を辞めるか続けるか、警察の呼び出しに応じるか拒否するか、課長の誘いを受けるか断るか、正義を信じるか目を背けるか、選択は全て自分次第だと悟り、美紀は自分の人生に自信を取り戻すのだった。
主な登場人物は竜崎美紀、美紀が勤める会社のプロジェクトリーダーの相田勝(美紀の味方)、課長の富岡芳秀(嫌な上司)、痴漢被害者実は痴漢詐欺の橋本久美、愛宕署刑事課巡査部長の増原(美紀を犯人の仲間だとして聴取する)、大森署刑事課の戸高、そして竜崎伸也に冴子。
⑤専門官
今回は竜崎が神奈川県警に刑事部長として就任して間もない時の出来事だ。
神奈川県警では警部待遇の警部補を専門官と呼んでいる。今回の主人公はその専門官と呼ばれている刑事課の矢板敬蔵警部補というベテラン刑事だ。年齢は捜査1課長の板橋武(警視)と同じだが、矢板警部補は部下一人の小隊長(班長)で、課長と小隊長では組織での立場は雲泥の差だ。
神奈川県警の捜査1課長の下には20の中隊があり、20の中隊の下に50の小隊があるという。20人の中隊長の一人が中江達弘中隊長(警部)で、下には二つの小隊がありその一つが矢板小隊だ。矢板はやり手のベテラン刑事だが問題児で組織を無視した行動を取ることが多い。特にキャリアを毛嫌いしており、竜崎の前任の本郷刑事部長のことを公然と批判していた。刑事部長と班長(小隊長)では話も直接出来ない立場であるにも関わらずだ。
神奈川県警の刑事総務課長や捜査1課長は竜崎相手に矢板が問題を起こさないように説得と監視をするが、県内で起こった連続強盗事件で竜崎が捜査本部を立てようとしていると勘違いした矢板が竜崎に直接捜査本部の設置を止めるようにと訴えようとするのだが…。
しかし竜崎は矢板の事件解決の考えを聞いて即時に矢板に任せることを告げる。竜崎の捜査本部設置に関する考え方も矢板と同じ考えであり、今までのキャリアとは全く違う竜崎に戸惑い、以前の板橋と同じように竜崎の軍門に下るのも時間の問題のようだ。
主な登場人物は竜崎伸也(神奈川県警刑事部長、警視長)、板橋武(刑事部捜査1課長、警視)、池辺渉(刑事総務課長、警視)、矢板敬蔵(刑事部捜査1課小隊長、警部補)、中江達弘(刑事部捜査1課中隊長、警部)。
⑥参事官
今回も竜崎が神奈川県警刑事部長に就任して間もない時の出来事。仲が悪い二人の参事官(阿久津、平田)を何とか収めろという特命を本部長(佐藤)から受けた竜崎が逆に気が合い仲は良いという報告を本部長にする物語。
主な登場人物は竜崎の他、佐藤実(神奈川県警本部長、警視監)、阿久津(41歳、神奈川県警刑事部参事官、警視正、キャリア)、平田清彦(51歳位、同 参事官兼組織犯罪対策本部長、警視正、ノンキャリア)、吉村(同 組織犯罪対策本部薬物銃器対策課長)、永田優子(34歳、同 刑事部捜査2課長、キャリア)、池辺渉(50歳、同 刑事総務課長、警視)。
⑦ 審議
今回は竜崎が神奈川県警刑事部長に就任してからしばらく経っていくつかの事件を解決してからの出来事だ。前作「探花(隠蔽捜査9)」の続編のような展開の物語。
警察庁長官官房の長瀬審議官から佐藤本部長に呼び出しが掛かり、要件の当事者であった竜崎が同行する。要件というのはNICSのリチャード・キジマ特別捜査官を東京での日本の事件捜査に参加させていたことに関する聴取であった。前作「探花(隠蔽捜査9)」の「横須賀殺人及び死体遺棄事件」をすぐに思い出した。
当時指揮をとっていたのは竜崎刑事部長で、竜崎は長瀬審議官に説明するが長瀬はすこぶる機嫌が悪い。竜崎はどんな懲戒でも受ける気でいたが、必要以上に長瀬の機嫌が悪い意味が判らなかった。阿久津参事官に長瀬とNICSの関係の情報から長瀬の面子の問題だとわかり、竜崎の今までとは違った顔での対応をとり、面子を立てる事に成功してお咎め無しでうまく収めることに成功する。
主な登場人物は竜崎の他、長瀬友昭(警察庁長官官房 審議官 刑事局担当、佐藤本部長より3期上、警視監)、佐藤実(神奈川県警本部長、警視監)、伊丹俊太郎(警察庁刑事部長、竜崎と同期で幼馴染、警視長)、阿久津(41歳、神奈川県警刑事部参事官、警視正、キャリア)、池辺渉(50歳、同 刑事総務課長、警視)、リチャード・キジマ(NICS/アメリカ海軍犯罪捜査局 特別捜査官)。
⑧非違
今回も竜崎が神奈川県警刑事部長に就任してからしばらく経ってからの大森署の出来事だ。大森署に新署長が来てその新署長と第二方面本部の野間崎管理官とのやり取りと戸高刑事の勤務中のボートレース通いの非違行為の問題が取り出されたことへの新署長の見事な対処話の物語。
主な登場人物は藍本小百合(大森署新署長、40歳、警視正、キャリア、超美人)、野間崎政嗣(第二方面本部 管理官)、貝沼悦郎(大森署副署長、警視)、斎藤治(大森署警務課長)、戸高善信(刑事課強行犯係、巡査部長)。
⑨信号
竜崎が神奈川県警刑事部長に就任してからしばらく経ってからの県警内部の揉め事を竜崎が切れ味よく収める話だ。
県警のキャリアだけの飲み会で、「車も通らない時刻で誰も見ていない信号を守るかどうかという話題」から県警本部長が放った言葉が記者に漏れて、ノンキャリアの交通部長が本部長を追求するのだが、助けを求められた竜崎がスパッと収める気持ちのいい話。
主な登場人物は竜崎の他、佐藤実(県警本部長、警視監、キャリア)、八島(県警警務部長、警視長、キャリア、竜崎と同期)、東山(県警警備部長、キャリア、竜崎の一期下)、三島(県警交通部長、警視正、ノンキャリア、58歳)、永田優子(県警刑事部捜査2課長、キャリア、34歳)、阿久津(県警刑事部参事官、警視正、キャリア、41歳)。
Posted by ブクログ
『初陣 隠蔽捜査3.5』以来久々となる、隠蔽捜査シリーズのスピンオフ短編集第3弾である。今回も、竜崎の家族、古巣の警視庁大森署、異動先の神奈川県警など様々な人物が登場するが、中心にいるのはやはり竜崎なのであった。
「空席」。竜崎を神奈川県警に送り出し、一時的に署長不在となった大森署に、難題が降りかかる。結局、まだ移動中の竜崎に頼り…。「内助」。竜崎の妻・冴子の意外な才能とは? 長年、竜崎家を支えてきたのは伊達ではない。
「荷物」。竜崎の長男・邦彦が受け取ってしまったブツとは。どうしても過去の記憶が過ぎるが…なんだそのオチは。「選択」。竜崎家の長女・美紀が、正義感から巻き込まれたトラブルとは。極めて昭和な上司にも呆れるが、強くあれ。
「専門官」。かつて竜崎に対抗心を燃やした神奈川県警の板橋捜査一課長も、扱いに困る部下がいた。もちろん竜崎の勝ち(?)。「参事官」。同じ参事官でも、一方はキャリアで、一方は叩き上げ。興味がないと言い切る竜崎よ…。
「審議官」は、『探花 隠蔽捜査9』の後日談に当たる。竜崎が米軍関係者のリチャード・キジマを捜査に参加させたことに、警察庁からいちゃもんが入り…。面子に拘る、面倒なキャリアの世界。竜崎は、必要とあらばこんな腹芸もこなすのか。
「非違」。やたらと大森署にやって来る、第二方面本部の野間崎管理官。目当ては美貌の藍本署長で、戸高の件は口実に過ぎない。いい加減に独り立ちしなさいよと言いたくなるが、これは『署長サスピション』の前日譚か。
最後に「信号」。竜崎が珍しく、神奈川県警のキャリアの飲み会に参加すると、佐藤本部長の発言がちょっとした問題に。みんなで渡れば、なんて言葉もあったが…。八島警務部長の提案は、それなりに意味はありそうに思うが?
解説の冒頭にある、今野敏さんがインタビューで語った言葉は興味深い。警察小説である以前に、面白くなければならない。本シリーズも、警察組織やキャリアをデフォルメしている面はあるだろう。すべては面白さのためなのだ。