内藤正典のレビュー一覧

  • イスラームから世界を見る

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    神に委ねる考え方というのが面白かった。
    ある意味楽観的というか、思い詰めない生き方がイスラームにはありそうで、もっと知りたくなった。

    イスラエル建国が圧倒的早とちりだったという意見があるのも、新鮮で面白かった。
    逆に、イスラエルが建国しているということは、今すでに世界は終わりを迎えている可能性があるのでは!!

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    2026年05月07日
  • トルコ 建国一〇〇年の自画像

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    イスラーム色を前面に出す現在のエルドアン政権から、トルコは宗教色の強い国家という印象を抱いていた。しかし建国100年の自画像を見ると、一面的な理解では捉えきれない国の複雑さが浮かび上がる。そもそもエルドアン政権は EU 加盟に積極的で、貧困対策やゲジェコンドゥの住宅改善、交通網整備など生活基盤の向上に力を注ぎ、広範な市民から支持を得ていた時期がある。現在とは異なる実利的で改革志向の「初期エルドアン」の姿を踏まえると、トルコのアイデンティティは宗教、世俗、欧州志向、発展という多層的な要素の中で揺れ動きながら形成されてきたことが感じられた。また、一概に世俗主義政党=善とも言えないものだと思った。

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    2025年12月09日
  • プロパガンダ戦争 分断される世界とメディア

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    新書で刊行されていますが、新書にしておくのはもったいないです。より寿命の長い書籍として再刊行すべきではないかと思います。

    イスラム圏のことは日本ではあまり話題にならないためか、よく判らないな、と感じていました。そもそも、メディアはひとつの事柄を継続的に伝えることがほとんどないため、受け取り手は推移を理解することが困難です。
    本書は、当時世界で何が起きていたのか、と、その事象がどのような形で報道されてきたのか、を合わせて説いてくれています。世界中の事件と報道を追うのは大変だったでしょう。
    何度も読み返したい本です。

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    2025年09月19日
  • 分断を乗り越えるためのイスラム入門

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    イスラム教と言う馴染みのない宗教を信じている人たちの考え方や様式を理解する事は、西洋的な考えにどっぷりと浸かっている我々にはなかなか難しいです。

    イスラムとの分断を引き起こしているのは、西欧社会の自分たちは進んでいると言う思い上がりだけでなく、異なる宗教との考え方の違いや歴史的なものなど、一概に言えない根深い感情のようです。

    アイデンティティの重要性が言われる現在では、自分が正しいと思った事が絶対と信じ過ぎるが故に、相手にとってはそれが正しいと感じる事とは限らないと言う、基本的なことを多くの人が忘れている気がします。
    自分とは違うパラダイムで生きている人がいると言う事は大変な学びになりました。

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    2024年11月01日
  • 外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?

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    移民や難民、外国人労働者について、ほとんど知識がなかったので、今回この本を読んでとても良かったです。
    高校生でも読めるような理解しやすい文章で説明してくれているので、これまで教養本をあまり読んでこなかった自分でもすごくわかりやすかった。

    この本を読むまでは、「日本に移民や難民が増えるのはなんとなく怖いな」くらいに思っていたけれど、読み終わった後には視野がちょっと広がり、その考え方も変わった。
    移民と難民を受け入れる負担で逼迫している欧州のことや、"労働力"として外国人労働者を多く受け入れたドイツが辿ったこれまでの数十年の歴史。そして今の日本が外国人労働者に対して取っている対応について知ることは、今後自分がこの国の政治について考える時の判断材料になると感じた。
    外国人労働者や移民・難民について、排他的だったり無関心になったりせず、「そういう立場に追いやられてしまう人を減らすにはどうしたら良いのだろう」「共生するならどうしたら良いのだろう」という問題に向き合うことを忘れずにいたい。

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    2024年09月15日
  • 自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード

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    他書を読んだあとの違和感が解決された。三牧さんの明確な視点は、欧米、とりわけバイデン政権についての理解の助けとなる。

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    2024年05月22日
  • トルコ 建国一〇〇年の自画像

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    親日国として知られるトルコ。イスタンブールやカッパドキアなど、馴染みのある場所も少なくない。しかし、どれだけ等身大のトルコを知っているだろうか。

    トルコ人の友人がいるが、今のエルドアン大統領は、彼にはどう映っているのだろうか?もし自由が制限されている国なら、本音を聞くのは難しいだろうし。クルド人を抹殺しようとしている国では?新聞で時事トピックスの表面ヅラを読むだけで何も分かっちゃいない。しかし興味がそそる国の一つだ。

    この本を読んで、いかに欧米系のリソースに偏った見方をしてきたのかが分かった。(イスラムに対する、ある意味ネガティブなイメージを持つ西側のニュースを読んでいれば、このような色眼鏡で見てしまうのは当然なのかも知れないが)

    あとがきにもあるが、
    2023年5月の大統領選挙では、日本でも報道はエルドアン政権への批判で溢れたが、そのほとんどは、欧米での反エルドアンの論調の焼き直しだった。日本のメディアには、ウクライナ戦争に関連して「NATO加盟国として責任を果たせ」と、アメリカになり代わってトルコに説教する論調も目立った。投票率が85%に達したトルコに説教するよりも、まず日本人の選挙への無関心をなんとかすることの方が、よほど重要ではないだろうか。

    本書を貫くモチーフは、西欧世界から向けられる蔑視や嫌悪とトルコが自ら行ってきた改革との関係であった。
    エルドアン政権の最初の10年は、教条的な世俗主義を採る司法と軍部による政治介人との闘いだった。外から見て、イスラム主義を支持する、支持しないを言うのは自由だが、国の政治を決めるのは国民の意思である。今のトルコにはその意思を表明する自由がある。とあった。

    開かれた国であること、どこかの国のような自己主張のない国でもないことが理解出来た。
    またオスマントルコの敗北においては欧米列強に翻弄された国ではあったが、逞しく国造りをしているとポジティブな印象を持った一方、欧米追随の見方は改めるべきだと、再認識した。

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    2024年05月14日
  • トルコから世界を見る ──ちがう国の人と生きるには?

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    『教えて!タリバンのこと』(内藤正典)がキッカケでトルコがどんな国なのかをもっと知りたいと思って手に取った『トルコから世界を見る』(内藤正典)。

    最近、この類の本を「海外の事、日本史世界史とか勉強した事は頭からスッカリ抜け落ちてて、ほんんどわかってないから」と思って読むんだけど……

    今回も案の定、「カッパドキアとトルコアイス以外、ホンットわかってなかった」という事を痛感させられました。

    【民族】、【各宗教の考え方】、【移民】、【外国人労働者】、【各国とトルコの関係、その歴史】……。

    改めて知って、内容の深さに触れて、以下4点を思いました。

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    ❶歴史を読むと暗い気持ちになるけど、国の文化面を読むとなんかホッコリする。

    ただ、暗いと言っても向き合わなきゃいけないって事はわかってます。

    ❷外国のよくわからない事は、自国である日本を比較に出すとわかりやすくなる気がする。

    ❸ずっと母国ではなく違う国に住んでいるのに、そこで「日本語のうまい外国人」としてしか見られない彼らの悩みを私はわかっているんだろうか?いや、わかってない。

    「上手ですね」という余計な一言を言ってしまってそう。

    ❹海外で生まれる移民の子どもたちが生き方に悩むのは、何となくわかる。

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    などなど。

    勉強になったんだけど、ちょっと複雑な気持ちで読み終えました。

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    2024年03月22日
  • イスラームからヨーロッパをみる 社会の深層で何が起きているのか

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    イスラーム圏に少しでも身を置いたことがあるものとして、友人にも多くのムスリムがいる一人の日本人として、もっと早く読んでおくべきだった本。

    一部の国では「宗教を批判することも、神を冒瀆することも、表現の自由のうちに含まれる」は想定外で「自由」のレベルが我々の想像を絶していることを理解した。

    いくら文字で「自由」と記載しても理解が違うんだな…そりゃぁ、お互いを分かり合うことは難しいし、共存も難しい。ただ、お互いを「尊重」することはできると思うのは日本人だからなのだろうか。いや、そうであって欲しくはない。

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    2024年02月25日
  • トルコ 建国一〇〇年の自画像

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    2023年現在のエルドアン政権がどのように今の内政/外交方針を固め、動いているのかを、時にトルコ建国まで立ち戻りつつ構造的に解説してくれた。

    特にトルコ国政を脅かす要因としての「ギュレン教団」や「PKK」についてはーーそれらの存在があるからといってトルコ政府がクルド人を差別し続けることを正当化しないけれどもーートルコにおけるエスニシティの平等を追求する際の困難をもたらしていることは理解した。

    アメリカのクルド人武装組織支援や、イラク戦争&シリア内戦の爪痕、EUのキプロス統一政策の失敗、EUやNATOにおけるトルコへのイスラーム的偏見、さらにはロシアのウクライナ侵略戦争が始まってしまったことなど、トルコ単独で最善を目指すのにもさすがに限界があるだろうとため息をつくような情勢がそこにあり、トルコという国で政治をよくすることの難しさにうんざりしてしまった。エルドアン政権(公正発展党)は、こんな中で一応はEU基準をクリアしようと改革を進め、クルド人等の人権を保護する政策パッケージを打ち出しており、独裁からは程遠い。しかし今後、議院内閣制を捨てたことの弊害が出てこないとも限らないため、引き続き成り行きを中止してゆきたい。

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    2024年01月29日
  • イスラームからヨーロッパをみる 社会の深層で何が起きているのか

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    先日「イスラエル」という本を読み、ユダヤ教とヨーロッパの関係について理解を深めたので、次はこちらでイスラームとの関係について知ろうと思った。

    まずイスラーム、イスラム教の教えについて、私もご多分に漏れず過激なイメージがあったので、そこが訂正された。弱者を救済する、心に平穏をもたらす。宗教はみなそうゆうものだと思っていたけど、作者曰く、その他の宗教よりもその作用が大きいように書かれていると理解した。
    ジハードで銃を持ちテロを起こす人たちはイスラーム世界の中でもごく一部。

    また、ヨーロッパ社会各国の異文化、異民族への考え方も新たな知識となった。フランスのライシテ、ドイツの血統主義など、ヨーロッパと一口に言っても、それぞれの主義主張は違うし、イスラームへの対応も異なる。日本人は排外主義=極右と捉えがちだけど、リベラル層も排外主義に傾いている。
    しかしながら、いずれの国も排外的な政策に傾倒していることは間違いない。
    そしてそうしたヨーロッパやアメリカ、その他社会の排外的な政策や、イスラームは危険という決め付け、欧米的ポリコレなどの思想などなどが世俗的だったムスリムさえもイスラームに再覚醒させたのではという筆者の指摘は納得だった。

    このところ、イスラエル、ロシアプーチン大統領に関する本を読んでいて、共通するところは、欧米諸国が自分たちの考え方を正として、相手のことを理解しようともせず、押し付けていることが火種となっている、ということだと思う。

    流行りの言葉でメタ認知の重要性をより感じる本(たち)だった。

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    2023年12月24日
  • プロパガンダ戦争 分断される世界とメディア

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    ネタバレ

    結構レベルは高め。
    だけれどもいかに情報というものが
    そういったものの前には歪になるかは
    よくわかることでしょう。

    全てを鵜呑みにするわけにはいきませんが
    思惑というものがあるのです。
    それぞれの国にも。
    それに踊らされたケースというのもある訳で。
    (まあ関係者はすでに、ね)

    そういう意味である種のメディアを知るために
    言語習得は大事なのかもしれません。

    しかし私が見なくなった理由
    だいたいにおいて…

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    2023年12月08日
  • イスラム――癒しの知恵

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    日本人が疎いイスラムについて、精神面の観点から解説した本。

    日本のような自己責任が問われ、常に努力や競争を強いられる社会とは真逆で、「ま、そういうこともある」「なるようになる」というケセラセラ的な価値観を共有しているイスラム社会。捉え方次第では若干無責任にも感じられるかもしれないが、著者が言うように、これがある種のセーフティネットになっていると思う。

    責任を追求し改善していく努力は、社会を劇的に発展させるというメリットももちろんあるし、日本が繁栄したのもそのお陰だと思う。しかし、自分を追い詰めるやり方で、精神的に疲弊している人が多いのも、自殺率が高いこともまた事実である。日本人が常に何かに癒しを求めているという指摘も納得。

    精神的な余裕がない我々にとって、心にゆとりと平安を持つイスラム的な考えから学ぶことは多いと感じた。

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    2023年08月29日
  • イスラームからヨーロッパをみる 社会の深層で何が起きているのか

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    990

    内藤 正典(ないとう まさのり、1956年9月29日 - )
    日本の社会学者・地理学者。専門は国際移動論、現代イスラーム地域研究。同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科教授、一橋大学名誉教授。博士(社会学)(一橋大学)。日本中東学会会員。専門はトルコの国際関係、特に西ヨーロッパにおけるムスリム移民の研究、9・11以降はイスラムと西欧世界との関係、現代トルコの政治と社会。80年代まではシリアを中心としたアラブ地域での研究を行ってきたが、政治的な事情でヨーロッパ在住ムスリム移民研究を始める。9・11以降は西欧とイスラームの衝突を抑止するための研究を、近年はイスラーム法学者の中田考とともに日本を含めた非イスラーム社会のゼノフォビア、イスラーモフォビアに関する著作も発表している。東京都生まれ。1975年 東京教育大附属駒場高校卒業、東京大学教養学部理科Ⅱ類入学1979年 東京大学教養学部科学史・科学哲学分科卒業。東京大学大学院理学系研究科地理学専門課程進学1981年 同修士課程修了、理学修士。同博士課程進学、ダマスカス大学留学1982年 東京大学大学院理学系研究科地理学専門課程(博士)中退1997年 博士(社会学)(一橋大学、学位請求論文『アッラーのヨーロッパ、移民とイスラム復興』)研究歴1982年 東京大学教養学部助手(文部教官採用)1986年 一橋大学社会学部講師(文部教官、配置換)1989年 同助教授昇格1990-92年、トルコ共和国アンカラ大学政治学部客員研究員。1997年 一橋大学大学院社会学研究科地球社会研究専攻教授昇格2010年 一橋大学退職、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。2020年 一橋大学名誉教授。

    コソボでは、ムスリムの比率が九二%、アルバニアは八二%、ボスニア・ヘルツェ ゴビナ四二%、マケドニア三四%(マケドニアについてはトルコのNGO、1日日人道支 援財団、二〇一四年による)、モンテネグロ一九%、というように、ムスリムの比率が 高い国が並んでいる(図序―2参照)。これらバルカン半島の国々にムスリムが多いのは、オスマン帝国領であった時代に、ムスリムに改宗してそのまま住み続けた市民が多いからである。

    二〇一三年にボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボを訪れたときの旧市街の印象は、トルコの歴史ある地方都市そのものだった。コーヒー店には縁台があって、そこでトルココーヒーを啜り、談笑する。銅の打ち出しで鍋やコーヒーポットをつくる職人たちのいる小道は、トルコのサフランボルあたりの旧市街を散策している気分にさせてくれた。

    ボスニアは一五世紀にオスマン帝国の一つの州となり、サラエボはその主要な都市となった。一九〇八年にオーストリア・ハンガリー帝国に編入されるまで五〇〇年もオスマン帝国の一部であったのだから、トルコの街にみえるのも当然である。しかし独立後の三〇年で、新たなムスリム社会が形成されつつある。オスマン帝国が支配た時代から住んでいるムスリムだけではない。今のボスニアには、シリア難民だけでなく、イラク、イラン、パキスタン、アフガニスタン、さらには北アフリカ出身者ま で、多くの人たちが、EU加盟国のクロアチアに近いビハチや首都のサラエボに集 まっている。二〇一八年だけで、新たに約五万人がボスニアに来たと言われている 。

    最近では、東ヨーロッパのポーランド、チェコ、ハンガリー、そしてスロバキアと いう四つの国(ヴィシェグラード四カ国)が、ヨーロッパ全体のなかでも極端なイスラーム嫌悪を掲げる政治家の舞台となりつつある。これら四つの国にムスリムは少なく、彼らが現実のムスリムと接したうえでの嫌悪感ではなく、想像上のムスリム像からひどく嫌悪しているのである。先に挙げたピュー・リサーチセンターの国別ムスリム人口の推計によると、東ヨーロッパ諸国のムスリム人口の比率は、ポーランドで〇・一%、チェコで〇・二%、ハンガリーで〇・四%、スロバキア で〇・一%となっている。ムスリムが非常に少ない地域で、ヨーロッパで最も激しいイスラモフォビアが起きていることは注目すべき現象である。

    最初に、フランスの公的な場でのムスリム女性の被り物が問題となったのは一九八九年だった。ムスリムの女子生徒がスカーフを着用して公立中学に登校しようとして、校長がこれを禁じたため論争となったのである。

    非イスラーム社会なら、そこで階級闘争の考え方が生まれ、社会主義が力をもっていくことになるのだが、イスラーム社会は、なかなかそうならなかった。ロシア革命以来、社会主義には宗教を敵視する傾向が強く、無神論者が多い。しかしイスラーム圏では、ムスリムの行動が世俗的になる、つまり信仰実践に不熱心になることはあっても、積極的に神を否定する無神論者は増えなかった。

    イスラーム社会では、西欧や日本とは違って、貧困層に位置づけられることになった人びとは、男性も女性も、イスラームの教えにさらに忠実に生きたいという方向に傾斜していった。傾斜したといっても、それは経済的に上昇することが困難であっだがための諦念からそうなったとみることもできる。西欧化したエリートは物質的な豊かさを得た。貧困層は物質的豊かさには無縁であったが、

    イスラームは人の心に効をもたらす。イスラームというと被り物論争も含めて、規範性ばかりが西欧では注目されるが、心理的、社会的にみれば、人にやすらぎを与えることが教えの根本にあ る。

    そのときに、攻撃のターゲットとされたのが、最も目につくムスリム女性の被り物 だった。その結果、ムスリムの女性は二重の問題に直面することになった。最初の問 題は、ただでさえ家父長的性格の強いムスリム社会のなかで、外に出る、つまり教育 を受けたり、職に就いたりすることはむずかしかったことである。そして、イスラー ムに則った服を着ることで親や夫を何とか納得させて外に出ると、今度は、外界から の敵意にさらされたことである。

    そして、2014年から2018年にかけて、イスラーム過激派によると思われるテロ事件が多発したため、被り物が公共空間での秩序に反するものであり、治安上の脅威とする見方が、急速に強まった。個人を特定できないために、もし、男性が被っていたらどうするのか?被り物のために監視カメラをすり抜けてしまったらどうするのか?というのである。現実に、そのような事件が多発したわけではないが、可能性としてはやはり否定できない以上、フルフェイス型の被り物はセキュリティを理由に規制されていくことになった。

    だが、今にして思えば拙速だった。ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー の四カ国は、温度差こそあるものの、巨ひに制約を課されることを嫌い始めている。

    だがムスリムの家系に育った若者は、どこかでイスラーム的なもの、ムスリム的な 生き方に触れている。どんなに世俗化した家族であっても、親戚のなかには礼拝を欠 かさない者もいるし、親がラマダン月の断食をしなくても、誰か断食を守る人もいる のがふつうである。何もしなくても、ムスリムにとって大切な断食明けの祭りや犠牲祭に親戚を訪ね、着飾って晴れがましい思いをした人ならいくらでもいる。

    そのころ、オランダでは寛容の終焉を象徴する一連の事件が起きた。二〇〇四年 に、映画監督のテオ・ファン・ゴッホがモロッコ系移民の青年に暗殺された。原因は イスラームを侮辱したとされる"Submission"(服従)いう映画だった。裸体の上に薄 布をまとったムスリムの女性が男性からの暴力を訴えるこの作品は、西欧世界では高 い評価を受けたが、ムスリム社会からは激しい反発を受けた。ストーリーは、ありう るものだったが、裸身を見せながら礼拝するシーンなどの表現はムスリムにはありえ ないものだった。

    二〇一七年の総選挙でリベラル政党のルッテ首相が異性との握手を拒むムスリムに はオランダに居場所がないと主張したことも、イスラームを反リベラルと決めつけて ムスリムの排斥を助長するものであった。もちろん、より激しく反移民を主張するポ ピュリストのウィルダースのPVVから票を取り戻すための発言だったが、結果とし て、リベラル政党であるいDが、排外主義のポピュリズムに接近し、手を貸すこと になった。

    統合プログラムをスタートさせて五年経った二〇一〇年に、メルケル首相がドイツ の多文化的状況は失敗だったと発言したのである。だがドイツには、異なる文化集団 を並存させるという発想はなく、「異文化をもったままドイツに居てもいいが、居場 所はないと思うよ」と言い続けていたのである。この点は多くの移民が指摘している が、何十年もドイツに暮らしていても「ところでいつ母国に帰るの?」と聞かれると いう。メルケル首相は、一方で、イスラームはドイツ社会の一部だと認めつつ、他方 ではムスリム移民がいつまで経ってもドイツに「統合」されなかったことを失敗と呼 んだのだが、当然のことながら、それはドイツ社会と移民社会の相互作用の結果で あった。


    だがその先には、男性と女性は何をするにも平等であるべきだから、学校では男女 いっしょに水泳の授業も受け、女性だけがスカーフのような被り物を着けるのは女性 差別であり、一〇代の後半になったら子どもは親から自立すべきだというような規範 そごきた を受け入れることが求められた。ここでイスラームの規範と齟齬を来したのである。 イスラームでは、第二次性徴を経た「大人」の男女は互いの秘すべきところを他人の 前にさらしてはならない。親子の関係はヨーロッパ社会よりもはるかに密接である し、家族から離れることによって人間が自立するものだという観念もない。こういう 宗教的な価値に踏み込むような「郷に入っては郷に従え」を文化的な同化政策と受け 取ったのである。

    だがその先には、男性と女性は何をするにも平等であるべきだから、学校では男女 いっしょに水泳の授業も受け、女性だけがスカーフのような被り物を着けるのは女性 差別であり、一〇代の後半になったら子どもは親から自立すべきだというような規範 を受け入れることが求められた。ここでイスラームの規範と齟齬を来したのである。 イスラームでは、第二次性徴を経た「大人」の男女は互いの秘すべきところを他人の 前にさらしてはならない。親子の関係はヨーロッパ社会よりもはるかに密接である し、家族から離れることによって人間が自立するものだという観念もない。こういう 宗教的な価値に踏み込むような「郷に入っては郷に従え」を文化的な同化政策と受け 取ったのである。 しかし、ここに深刻な断絶があることにムスリム移民も気づいていなかった。ドイ ツ側が言っていたのは、ここに滞在するならルールに従えということであって、ルー ルに従ったらドイツ人として、ドイツ社会を構成する対等なメンバーとして承認する という意味ではなかったのである。強固な血統主義にもとづく国民観念をもつドイツ に、そもそも、民族も文化も異なるトルコ人やアラブ人を同胞として受け入れる素地 はなかった。つまりドイツには、相手を同化させる意図は最初からなかったのであ る。しかし、規範だけを相手に押しつけても、移民の側は、いつまで経っても自分た ちを「仲間」として受け入れないではないかと反発してしまう。結局、この断絶が、 ドイツ社会に排外主義・反イスラームを生み、ムスリムの側にみずからをドイツ社会 から隔離する傾向を生むことになった。

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    2023年08月30日
  • トルコから世界を見る ──ちがう国の人と生きるには?

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    トルコから見た世界を実感できました。ウクライナと地震、いろいろと厳しいトルコの現状にも思いをきたしました。

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    2023年02月08日
  • 外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?

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    日本が外国人労働者を受け入れるにあたって何が起きるか、どうあるべきか、をドイツなど欧米諸国の事例を交えて紹介。
    私たち一般市民としては、相手を知ること、違う価値観を知ることが大事。

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    2021年05月19日
  • プロパガンダ戦争 分断される世界とメディア

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    メディアの情報がいかに政府のプロパカンダや見解を垂れ流してきたかを痛感。


    現場の声を聞き、その地域の歴史を学んで記事を書いても、本社の都合で角が取りれたニュースになってしまう。

    メディアリテラシーの持ち方に加えて、中東情勢とそれに絡む欧米露の外交政策も勉強になった。


    欧米、イスラーム世界など、文化圏が異なれば情報の捉え方も違う。
    その点で、カタールの国際メディア、アルジャジーラのニュースは定期的にチェックしたい。

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    2021年02月23日
  • プロパガンダ戦争 分断される世界とメディア

    Posted by ブクログ

    日本ではなかなか得られない世界情報を、それぞれの相手国がどのように操作して、有利に組み立てているかを実例をもとに説明していた。
     最後はコロナの話であるが、何かの卒論のアイディアにはなるであろう。

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    2021年02月03日
  • プロパガンダ戦争 分断される世界とメディア

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    著者は中東でイスラム研究をしながら取材もしている大学教授。この本のメインテーマはプロパガンダなのだが、アラブ市民の民主活動の仕方など現地でじっくり観察している著者ならではの分析が興味深い。
    「民族によい民族、悪い民族などない」「メディアは白黒つけたがる」
    ニュージーランド政府は普段から移民に対しても平等に処遇することを表明してきたので、移民を狙ったテロ事件でアーダーン首相が「テロリストの名前を二度と口にしない。男がテロによって手に入れようとしていたものの一つが悪名。だからこそ私は口にしない。テロリストは無名のまま終わる。みなさんには犠牲者の名前を忘れないでほしい」
    国営放送と公共放送は違う。国営放送は国が資金を出すので政府のプロパガンダが柱になるが、公共放送は全ての市民から視聴料を徴収するので政府のプロパガンダはしない。
    ヨーロッパの難民問題、トルコでは「恥を知れ、世界」と報じられた。トルコはギリシャやイタリア、ハンガリーが難民排斥する中、360万人ものシリア人を難民として受け入れている。
    バグダディー暗殺に際し、トランプとエルドアンと筆者の推測ではロシア、イラクが水面下で交渉したのが驚き。
    2019年にサウジアラビアで開催されたアニメエキスポを日本メディアは無邪気に報じたが、2015年から2018年までイエメンでは7500人の子供がサウジアラビアとUAEの空爆によって命を落としている。ジャーナリスト殺害などの野蛮性の裏で女性ドライバーの解禁するなどと同様、アニメエキスポもサウジアラビアのプロパガンダであることを見破るべきだった。

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    2021年01月30日
  • トルコを知るための53章

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    トルコにおける世俗主義とイスラームの関係が本当に興味深かったです。かつては欧州に近づこうとしましたが、度重なる拒否にトルコ側もいよいよしびれを切らしてイスラームを元に欧州との対等の関係を求めつつも独自路線を歩んでいくことを決めた現在のエルドアン大統領、前任のギュル大統領の英断だったと思います(日本ではいまだに欧米の後追いという現実・・・)。欧州の域内では自由や民主主義を掲げる一方で域外ではそれを平気で踏みにじるダブルスタンダードという欺瞞を世界で一番理解しているのはトルコではないかと思いますから。
    その他古代トルコやオスマン帝国の歴史の概要や現在のトルコの文化・風習が理解できる内容盛りだくさんの一冊です。ぜひ日本語と同じ語族で覚えやすいとされるトルコ語にも挑戦したいと思います笑
    トルコはどうしても欧州目線になりがちな日本のメディアに「ちょっと待った」と一石を投じ、ますます今日のグローバリズムを担う重要なプレイヤーとなっていきますね。

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    2020年11月22日