内藤正典のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ヨーロッパにおけるムスリム移民やトルコ等を研究対象にしている
著者による、第1次世界大戦以降から現在までのムスリムと欧米
による中東政策を解説した作品である。
「はじめに」で「日本は決してこの戦争に参加してはならない」とされ
ているのだが、残念ながら著者の思いは実らなかった。日本政府は
言い逃れをしているけれど、ISが拘束している邦人2人の殺害に
至ったのは、やはり安倍信三の演説が引き金だもの。
状況を公平に見ようと思っても、どうしてもバイアスがかかるんだよな。
特に日本の報道は欧米メディアの視点でしか中東関係を報道しない。
以前は衛星放送でアルジャジーラの放送が見られたけど、今じゃ
報道番組でもアルジャジーラの報道内容を引用するところがない
ものな。
それが無理解だったり、差別に繋がるのではないかと思った。例えば
フランスの「ブルカ着用禁止法」。政教分離を厳格にしているフランス
だから仕方ないのかもしれなけどね。確か公共の場に十字架を掲げる
のも禁止だったはずだから。
それでもヨーロッパに渡ったムスリムたちが差別を受けていることに
変わりはない。差別に耐えて耐えて、それが爆発したらどうなるか?
ヨーロッパからシリアに入りISへ入ろうとする若者が多いと報道され
たように、自分たちの信仰を基礎にした国を作ろうとすることにな
るんだろうな。
かといって、私もISを支持する訳じゃない。本書でも触れられているが
以前、日本の私学がアフガニスタンがカルザイ政権の時、大臣や
元タリバンの指導者を招いたことがある。敵対していたはずの人々が
日本の居酒屋で鍋を囲んでいるっていいじゃないか。
多分、出来ることがある。武器で制圧するのではく、対話の糸口を
見つけることだろう。本書ではトルコを例に取って解説されているが、
実際、ISに対して窓口を持っている唯一の国だろう。ロシアから「IS
から石油買ってるだろう」と言われているけれど。
著者のように日本はトルコを手本にしてアメリカの要求を突っぱねろ
とは思わない。トルコにもそれなりの思惑はありそうだから。ただ、
アメリカの尻馬に乗るのではなく、軍事力を使わずに仲介役になる
ことも考えないといけないんじゃないだろうか。
ムスリム視点で現在の中東の混乱を理解するにはいいのだけれど、
前半部分でしつこいほどに集団的自衛権絡みに話になっているのが
残念。
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心緒中に平和
のとりでを築かなければならない。
相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人
民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信の
ために、諸人民の不一致があまりにもしばしな戦争となった。」
ユネスコ憲章の前文なんだが、結局は理想論なんだよな。相手を
知ろうとしないから今でも妙なことが起こっている。「コーラン」を
読まなきゃならないかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ一般向けに書かれたイスラム文化書では、内藤先生の解説がとてもわかりやすいと思う。
一番わかりやすい本は『となりのイスラム』だが、本書も難しい内容ではない。
なるほどとうなった部分を挙げる。
<人頭税について>
テロ組織が異教徒を人質にして身代金を要求することは、人頭税の一種ということ。
欧米はテロ資金の源になると批判するが、イスラムにはイスラムの考え方があり、相手の文化を知らなければ、相互理解(=平和)には結びつかない。
地獄の沙汰も金次第という言葉が頭をよぎった。
<人材不足>
中東のエキスパートが不足しているということ。
そもそも中東に興味を持つ人が今後増えるのかどうか怪しい。
ニュースでよく見るイスラムとは何か、と一歩踏み出して(少し大げさだが)、本を読む人間が増えれば良いと思う。私もその中のひとりである。
<ドイツでの事件>
とても痛ましく涙が出てしまった。日本でこれほどの差別を見たことがないので、想像するのが難しいが、本当にこれほどの差別がヨーロッパでは起こっているのだと信じられない思いだ。 -
Posted by ブクログ
中東崩壊の危機のなかで唯一、民主化と経済発展に成功した国。しかもそれを「再イスラム化」によって実現した国として、トルコの重要性を説く。
トルコ人の大部分はスンニー派のムスリムである。しかし、トルコ共和国建国の父であるムスタファ・ケマルの意志・遺志により、トルコはイスラムを徹底して公の場面から切り離そうとしてきた。本書は第一章・第二章で、トルコの建国から近代化と脱イスラムの歴史を説き起こし、つづいて「再イスラム化」の過程を描いていく。ここらへんの流れはたいへんわかりやすい。
第三章はヒズメト運動、第四章はトルコと欧米諸国との関係、第五章はトルコと周辺(の中東)諸国との関係を解説。アメリカのまずい戦略、日本政府のまずい交渉などもやり玉に挙がる。
ヨーロッパとイスラム世界の接点に位置する大国として、ムスリムと非ムスリムの掛橋として、筆者のトルコへの期待が伝わってくる。
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Posted by ブクログ
イスラム地域研究の専門家が、イスラム国の台頭に至る中東地域の混迷について、歴史、宗教、政治権力、世界のパワーバランス等様々な角度から分析、解説し、今後の日本の取るべきスタンスを提言している。
本書で著者は、
◆1979年のイラン・イスラム革命以降の米国の中東政策は失敗の連続であり、その原因は、イスラムに関する無知、先入観、偏見に根差した「イスラム・フォビア(イスラム嫌悪)」にある。
◆ムスリムには、同じ唯一絶対神から啓示を受けた「啓典の民」であるキリスト教徒やユダヤ教徒に対する憎しみはなく、彼らの敵意は、歴史的に自分たちを力で支配してきた英仏などの欧州列強諸国、シオニズムに基づく領域民族国家イスラエル、対テロ戦争と称して多くの市民を犠牲にした米国という国家に向いたものである。
◆イスラム国が目指す国とは、イスラム主義に基づき、主権が国民ではなく神にあり、カリフにバイア(臣従の誓い)を立てれば世界中のどこにいても国民となれる国である。即ち、西欧発祥の主権が国民にある民族国家とは全く異質であり、共約不可能な存在である。
◆一方、中東のイスラム国家の多くは世俗主義的ムスリム政権であり、こうしたムスリム政権やサウジアラビアの王族は、西洋諸国と持ちつ持たれつで国家・政権を維持してきた経緯があり、イスラム主義を掲げるイスラム国のような存在は、彼らにとって最大の脅威と言える。
◆日本は無批判に米国に追随し、世界中のムスリムを敵に回すのではなく、中東で米国の最大の同盟国トルコが、長年の米国からの参戦要請を拒否している姿勢に学ぶべきである。
と述べている。
イスラム国は「国の体裁を整えた初めてのテロ組織」などと言われるが、イスラム国台頭の最大の意味は、本書でも語られているように、主権が国民になく、領土すらも必要としない、新たな国家形態が提示されたことはなのではないかと思う。産業革命時の英国に始まり、21世紀初頭において国家形態の普遍的なスタンダードとなりつつあるnation state(=民族国家)と共約不可能な国家形態の登場は、もしかすると、数百年というスパンでの歴史の転換の契機になるのかも知れない。
短期的に日本が中東地域の混乱に対してどのようなスタンスを取るべきかという問題はもとより、更に深いテーマを提示する一冊である。
(2015年1月了) -
Posted by ブクログ
イスラム教から見た世界とイスラム教に縛られた人々の思考が初心者でも分かり易い本。
著者の本はどれも読み進めやすいのでお奨めです。
しかしながらクルアーンに則ったムスリムの行動を、信教の自由の名の下に一定以上認めるのか、その国の法規を厳密に適用するかで彼らが反社会的か否か、決まってきます。
イスラーム国家ではない法治国家へ自らの意思で移住してきたムスリムの方々の中には、信教の自由による行為が常にその自由が保障されるというものではないことを理解せず世界各地で軋轢を起こす人々がいます。
調和できない理由の一端は本書を読むと理解でき、これはまた本書が優れていることを表していると思います。 -
Posted by ブクログ
一般的な日本人であれば、どうしても西欧からの視点で、世界の物事を見てしまうが、この本は、イスラームからの視点で現状の国際状況をみるとどうなるか、非常に分かりやすく、かつ説得力のある内容で解説してくれる本。ナインイレブンのこともあり、どうしてもイスラム教徒を偏見視してしまいがちですが、彼らも我々と同じノーマルな人だということが、よくわかりました。
著者自身、トルコ語を話すということもあり、アフガニスタンのカルザイ大統領含め、イスラム圏の有力者たちの直接インタビューの経験が豊富で、彼らから見たアラブの春、シリア内戦、アフガン問題やトルコ人によるアルメニア人大量虐殺事件、ムスリムのヨーロッパ移民たちの見方なども非常に興味深い内容。
また、近代国家の概念、民族という概念の経緯等、知識人としての基本的素養を身につけていることもあり、イスラームからの主観に陥ることなく、冷静に世界情勢をとらえている所も好感が持てます。