内藤正典のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
トルコの歴史・文化・政治についてオムニバス形式で色んな人が書いている。
地理・気候
アナトリア高原と南東ヨーロッパのトラキアからなる。アナトリア高原は短い夏は暑いが、冬は零下20度にもなるところがある。小麦が取れる。沿岸部は地中海性気候。
歴史
古代ではヒッタイトが有名。製鉄を最初に始めたとも言われる。その後、アレクサンドロス大王が通過していったり、ヘレニズム諸王朝やローマ帝国の支配下でギリシア化が進んだ。ローマ帝国とビザンツ帝国の時代にキリスト教化される。11世紀にトルコ系遊牧民のセルジューク朝が入ってきて急速にイスラム化が進んだが、土着の信仰の影響も残った(神秘的傾向のあるスーフィー)。その後、オスマン帝国を経て現代へ。
オスマン帝国
1453年にメフメト2世がコンスタンティノープルを陥落させる。スレイマン1世の16世紀に全盛期を迎える。西はバルカン半島でハプスブルクと対峙し(フランスとは敵の敵的同盟関係であることが多かった)、東はイランのサファヴィー朝がライバル。しかし文化的には詩歌などイランへの憧れがあった。キリスト教の礼拝堂であったアヤ・ソフィアをそのままモスクとするなど、ビザンツの文化も一部取り込んだ。コーヒーハウスはイスタンブールから欧州へ広まった。
アタテュルク
軍人としてWW?で活躍。トルコをギリシアなどの外国軍から守ってスルタンを廃し共和国を建国、国父となった。この独立時の経緯により、トルコ憲法には厳格な政教分離である世俗主義と、領土の不可分が、改正発議すらできない条文とされている。
食
ケバブが有名だが魚も食べる。ヨーグルトはソースとして多用し、甘くして食べるなんてオエッとなる。酒もワイン、ラクなど普通に飲まれる。ケバブ屋では普通酒は供されないが、高級居酒屋的業態がある。ピザの原型と言われるピデも。
文化
オルハン・パムクはノーベル賞で有名。かつては寸劇、影絵芝居などが盛んだったがテレビにおされて姿を消しつつある。音楽は、微小音程を使う民謡がある。西洋音楽ではピアニストのファズル・サイが有名。
政治
クルド、アルメニアなど少数民族を国内に抱える。世俗主義により公的な場での女性のスカーフは禁じられてきたが、スカーフをかぶる女性が近年増えてきた。ただ宗教的な意味合いの有無などいくつかの種類がある。
2002年以来、親イスラムの公正・発展党が与党。野党は共和人民党(アタテュルクの流れを汲む世俗主義)、民族主義者行動党(極右)、クルド系政党。90年代まで政権を担った中道右派は消えてしまった。
EU加盟はいまは様子見状態。キプロス問題も微妙にネックに。
経済
80年代に経済自由化し、90年代は高インフレにも苦しんだが、21世紀にはいって比較的順調に成長している。新興国らしく消費が盛ん。自動車、白物家電については、OEMだが、EU向けの輸出が盛ん。 -
Posted by ブクログ
読後の感想は少し変わったのだが、全体的な感想を述べれば正直、ガッカリだった。前著の「イスラムの怒り」を興味深く読ませていただいただけに、その期待を大きく裏切られた気分が残った。
問題点はいくつも指摘できるが、根本的な部分ではやはり「タイトルや章が不適切である」点と「論拠、準拠が明示されていない」点だろう。特に後者は致命的であり、その点についてここでは説明しておく。
この本の中では繰り返し「我々はイスラムに対して無知・無関心でありすぎた」と指摘されている。我々とあるが、まあ実際は「日本人は」と入れ替えて構わないだろう。専門家による世間批判である。
にもかかわらず、ここで論じられた内容についてさらに深く追求しようと読者が望んだとしても、詳しい専門書はおろか、類書でさえ知ることができない。新書はあくまで入り口であり、より深い知性を求めるためのきっかけだろう。にもかかわらず、この本は、どこにもつながっていないどこでもドアのように、抜けた先に何もない。
本書の内容いかん以前に問題がある、というのは、大きなマイナスである。内容がほとんど断定調であり、「アメリカはこう考えている」「アメリカの軍需産業はこう考えている」「イスラムの人間はこう考えている」と論じているのに、その論拠が示されていない点で本書の信頼性は著しく落ちる。
知識は豊富であり、それだけに三章の内容(イスラム世界の現状)をベースにするのか、二章の内容(日本人のイスラムに対する無知)をベースにするのか、どちらかに絞って書くべきだっただろうと思う。
この本は一冊としてみた場合、知識の点で半端であり、論説としても浅い。また、知識はあれど、知見がないのも気になるところだ。
三章以降の内容は悪くなかった(むしろ良かった)だけに、とても残念な一冊だった。星三つと評価したい。 -
Posted by ブクログ
イスラムとの多文化共生を真摯に考えてきた内藤氏が今般の危機について熱く語る。
イスラムは寛容の宗教。商人の教えとして始まった穏健なもの。そういう趣旨の著者の本はいくつか読んできて,なるほどなと感じてもいた。しかし本書は話題が話題だけに反欧米が明瞭に表れすぎていて,記述にもだいぶ無理がある。そんな印象を受けた。
著者の主張は要するに,イスラム国のような過激な組織を作り出したのは,20世紀の帝国主義列強の横暴と,イスラエルによるパレスチナでの殺戮,冷戦後の欧米諸国によるイスラム敵視,911後のアメリカを中心としたアフガニスタンやイラクでの殺戮,信仰を徹底しない欧米追従アラブ諸国による国民弾圧であって,責めは全面的に西洋社会に帰するというもの。もはや力による解決は不可能。それに荷担してこなかった日本,九条をもつ日本が果たすべき役割は別のところにあるはずだ。欧米の流す偏った情報に乗せられて,イスラム過激派を敵に回すことは愚の骨頂である。そういうことを縷々述べている。
確かにここ百数十年の歴史が,イスラム社会を虐げ,苦しめて来たことは間違いないし,それへの反発がISILのような過激派を生み出してきたこともその通りだろう。欧米発のニュースにバイアスがかかっていることも,情報戦の結果として当然のことだろう。しかし著者はその点に注目するあまり,過激なイスラム主義の問題点に目を瞑りすぎている。
幾つか引用したい。
「カリフ制によるイスラム国の建設は、どうしようもなく堕落したムスリム世界の再生をめざす一つの実験…その面を重視すべきではないかと思います」p.93
「世俗的イデオロギーには闘争心を煽るようなところがありますが、イスラム主義の最終的な目標は、個人も社会も自由や安寧を求めるところにあるのです」p.119
「イスラムでは奴隷を認めるのか、言語道断だと言うことはできます。しかし、イスラムの本質は神の命に全面的にしたがうということですから、神の言葉を集成した『クルアーン』の、良いところは利用して悪いところは使わないといったことは原理的にできないのです。残念ながら、西欧的価値観に基づいて善悪の判断を下そうとし続ける限りは共存の入り口にすらたどり着きません」pp.156-157
「イスラム国などイスラムではない、ただのテロ組織だと宣言するのならば、アメリカやイスラエルやエジプトの政府が市民を殺すときも、あんな国は国家じゃない、ただのテロ組織だ、という主張に説得力が出てくることを覚悟しなくてはなりません」p.240
イデオロギーと宗教の異質性を強調するあまり,信仰を利用することの問題点を過小評価してしまっている。過去のテキストに忠実に従い,理想に向けて邁進することの弊害を,人類は学んできた筈ではなかったか。
もちろん著者もISILの動機はともかく行動を支持しているわけではなく,テロや人質殺害には明確に反対している。そして問題の解決策についても触れている。軍事力の行使は紛争解決に貢献しない。この非対称な戦争を終わらせる方法は,平和憲法を奉じる日本の仲介による和平合意ではないか。そう示唆して本書は閉じられている。
日本人人質事件が報道されたのは,本書執筆の後のようではあるが,当時としてもあまり現実的な解決策とは感じられなかった。彼らとの歩み寄りは可能なのだろうか。
イスラム法学者の「ハサン中田考先生」を著者は随分評価しているようで,彼の言葉をところどころに引用しているのもなんだか違和感があった。 -
Posted by ブクログ
チュニジアから端を発した「アラブの春」についてや、現在のシリア情勢・パレスチナ情勢について書かれた新書を探してこの本に辿り着いたのだが、9.11から今に至るまでのアラブについて、ある程度網羅的に知ることができたのは収穫。
ただ、ちょっと俺には難しすぎたかなと。イスラム教の歴史がきめ細かく書かれてる章とか、俺には重すぎた。読者の想定を「ある程度イスラム教について知っている人」を前提に書かれている気がした。入門書という位置付けではないように思う。あと、自分自身が本を出版した直後だったので、編集の視点で「ここ2回同じ事言ってるけど」とか、「この章、結論が曖昧すぎる」とかいう感想をもっちゃうのは職業病でしょうかw -
Posted by ブクログ
トルコ人は人なつこく、自尊心が高く、日本人に友好的。イスラム的な家族観があり、家族の絆が強く個人主義的な部分は弱い。弱者は放っておかない社会的な雰囲気がある。
ギリシャを退けオスマン帝国に変わって建国されたトルコはヨーロッパ的な世俗国家を目指していたが、奔放な恋愛・性交渉、厳格な個人主義などの文化にはなじめず、近年ではイスラム主義が隆盛し支持を集めている。しかし世俗国家としての原則は微妙なバランスの上に守られている。
まるごと一冊で概ねトルコの初歩的なことを理解できると思う。Wikipediaなどでは難しい、情報の横の繋がりが理解の助けになっている。 -
Posted by ブクログ
イスラム地域研究者が,イスラムの教えをポジティブに解説。イスラム圏では自殺が少ないらしい。どの宗教も自殺は基本的に禁忌だが,イスラムは特にすべてを神に委ねる考え方なので,自殺は神の否定につながる。
ではなぜ自爆テロ?という話だが,それは著者の『イスラムの怒り』に詳しい。信仰の敵とのジハードで命を落とす殉教は,イスラムでは価値ある行為とされているから。ただ911なんかを殉教で正当化するのはかなり無理で,現実にイスラム共同体の存続が脅かされている場合に限られるらしい。
悲しいことにパレスチナ,特にガザの状況は絶望的。自爆テロを殉教とみなしてしまうくらいに悲惨。だからこそハマスが支持を得た。しかし,本来イスラムの教えはかなりポジティブで,多用される「インシャアッラー」もその表れ。日本人は重い病気などすると「因果」とか「霊」とか後ろめたさを感じるが,その点,神の御業と達観しているムスリムは,くよくよすることも少ない。結果,予後もよいのではと著者は推測。少なくともQOLは上がるだろう。
それと,アッラーは人間の弱さを知悉していて,欲望に負けてラマダンなど戒律を破ってしまっても,後で喜捨などをして善行を積むことで,回復可能。ちなみにラマダン月の日中は,断食だけではなくて,性欲とかあらゆる欲望を絶つんだという(サウム)。日中だけ絶てばいいなんて食欲より簡単だ…!
とまれ,イスラムの教えはムスリムの生活に深く入り込んでいて,敬虔の程度には差はあれど,基本的に望ましいものとして認識されている。
思いがけず叶った著者たちとトルコ外相の会見が詳しく紹介されている。EU加盟が後退したために実現した会見だが,外相の言うことは理にかなってる。「ヨーロッパの価値というのは、宗教、民族、言語にあるのではありません。…民主主義、人権、自由な市場経済システムにあるはずです。」p.103
ただ,著者がかなりイスラム贔屓で,西洋文明に批判的なのが少し気にかかった。宗教のおかげでよりよく生きているムスリムも多いだろうけど,余計な世話を焼かれる共同体重視の環境を煙たく思っている人もいるようだし,その程度がひどくて傷ついている人々もいるかもしれない。
それでも,西洋側からのイスラム理解が偏見に満ちていて,それが両者の関係をギクシャクさせていることは事実なのだろう。もっと相互理解が進むといいけれど,移民労働の問題もあり,経済面でもっと余裕が必要かも。宗教にこだわりのない日本人ができることも少なくない,のかもしれない。