猫が好きな人や猫と暮らしている人ならばきっと、様々なことを思ってしまうだろう内容の小説だった。
残酷な描写や悲しい描写も出てくる。だけどそれは紛れもない現実で、その現実から目を背けずに書ききっているところにむしろ愛情のようなものを感じる。
ようやく授かった子どもを流産し、悲しみとともに暮らす中年夫
...続きを読む婦のもとに1匹の子猫が現れた。
“モン”と名付けられた猫は、飼い主の夫婦や心に闇を抱えた少年に対して、不思議な存在感で寄り添う。まるですべてを見透かしているかのように。
そして20年の歳月が過ぎ、モンは最期の日々を迎えていた。
悲しみを抱えた夫婦のもとにやってきた1匹の猫。妻はその存在を気にしながらも、はじめは飼うことをためらう。それはその猫を見ていると、否応なしに流れてしまった子どもの存在を思ってしまうから。
悲しみに溢れたプロローグ。何度も庭先にやってくる猫を1度遠くに連れていく描写はとても残酷で、それなのに猫の持つ生命力を強く感じた。
ざっくり3章に分かれている物語は、子猫のモンが現れ夫婦の家に居付くまでが1章、そして最後の章はモンが年老いたあとのお話で、その間にある2章目は夫婦とはまったく縁がない1人の少年が主人公。
不登校になり鬱々とした日々を過ごす少年の前に、時折現れるモン。
ある日少年の身に起きた、動物の命と向き合った数日の出来事は、果たして少年を変えるのか否か。
猫に限らず、動物とともに暮らしその命を全うする彼らの姿を見るのはとても辛く悲しい作業だと思う。
その分大きな幸せをくれるものの、最期の時はやはり悲しい。
簡単に命を手に入れて、無責任に手放す人間が多く存在する今の世の中に向けたアンチテーゼのような内容にも思えた。
そんな今日、我が家で飼っていた小鞠の6回忌だったりする。時が過ぎてもやはり忘れないし、愛おしさもすぐに思い出せる。動物と暮らし愛するということは、そういうことなのだと思う。
ちなみにタイトルの“猫鳴り”とは、猫が甘えている時にゴロゴロと喉を鳴らす音を登場人物が密かにそう呼んでいることから。
以来私も猫がゴロゴロするたびに、猫鳴りだ、と思ってしまう。