Posted by ブクログ
2020年08月20日
八年前に別れた恋人・黒崎の影を引きずる十和子。新しく出会った男・水島にも黒崎の影を重ねる。水島との待ち合わせでいつも頭上に飛ぶカラス。作中に「なぜカラスばかりなのだろう、他の鳥はどこへ行ったのだろう?」といった一文が出てくるが、これがタイトル「彼女がその名を知らない鳥たち」につながっていると思う。十...続きを読む和子が目に見えて意識している黒崎との記憶は黒い影のカラス、反して十和子自身も気付いていない無意識下に封じ込めた記憶はどこかへ消えた他の鳥。それを守っていたのは陣治だった。目に見えるものが真実じゃない、そう考えると終盤で十和子の目が開きにくくなる展開もタイトルに関係してくるのかな、と思ったり。
映画を先に観てからの原作。どうしても阿部サダヲと蒼井優、松坂桃李と竹野内豊の顔が浮かべてしまい、結末も知っているので、すんなりと文章とストーリー、描写などが入って読みやすかったです。でも映画を観なかったら理解しにくい箇所も多かったかもしれません。十和子というメンヘラ気味の視点で描かれているため、いつまでも過去を引きずり終着点の見えない語り口、また関西弁になじみがなければ余計に読むのがしんどいかも(私は大阪人なので読みやすかったですが)。それらもすべては計算された上だとラストまで読めばわかるのですが。小説だけだとわかりにくかったかもという点で☆4つ。
最後まで恋人であり続けた陣治の生き様は、おせっかいともいえる世話焼き精神がにじみ出る関西弁がよく似合っていました。陣治のセリフがすべて東京の言葉なら、彼の惨めさや愛の深さはここまで際立っていないかもしれない。