松沢裕作のレビュー一覧
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歴史学とは、資料を正しく読み解き、論文等に知見をまとめていくだけかと思っていたが、自分が想像していた以上に緻密で繊細なプロセスを経ていることに驚いた。
本書はいわゆる歴史家の方が実践しているスキルの紹介に留まらない、知的解釈の困難さが読み取れるが、さすが専門家とも言うべきほどに内容はやや難解である。歴史に触れる機会が少ない自分のような読者にあっては、少々内容に入るまでに骨が折れることも多かったように感じる。しかし、難しいだけではなく、興味深いトピックを選び抜く筆者の審美眼と文章力は確かなものであり、最後まで読ませる楽しさをあわせ持つ点は素晴らしいの一言である。
再度、歴史や周辺知識を身に -
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生きづらい明治社会が現代にも通ずるところがたくさんあるというのが驚きでした。著者が一貫して主張していたことは明治の人たちが陥っていた「通俗道徳のわな」というものです。それは「貧困とは怠けてるお前が悪い/努力が足りない/自業自得だ」です。成功した人はもちろん努力をした人なのでしょうが、貧困層は努力をしなかったかというとそうではない。色んな要因があってそこから抜け出せないほどの環境下にいることもあるんだよということ。今のSNSやネットでも同じような光景が垣間見えます。(例えば就職氷河期世代に対する考えとか)
人間なんて数十年しか生きないのだから150年前と同じような考えを持つ人が多くてもなんら不 -
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内容的には、近代史を分析するのにあたって、歴史家はどう考えてどう資料を使うのか、政治史、経済史、社会史という観点から論文を分析して解説したもの。勉強にはなった。
【目次】
はじめに――歴史家は何をしているのか
第一章 歴史家にとって「史料」とは何か
1 根拠としての史料
2 記録を残す
3 記録を使う
4 歴史学と文書館
第二章 史料はどのように読めているか
1 史料の引用と敷衍――史料批判の前に
2 逓信次官照会を読む――「史料があること」が「何かがおこなわれたこと」を示す場合
3 新聞記事を読む――史料に書いてあることをどの程度疑うか
4 御成敗式目を読む――史料の書き手と歴史家の距 -
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・タイトル通り、働く大人が社会の問題点を考えるときの土台を教えてくれる本でした。
多分学生時代に社会で習ったことも多くあると思いますが、ピンときていないから覚えていないんですよね。
同じことを学んでも社会に出て経験を重ねることによって「あれは、こういうことだったんだな」と理解出来ることが多くあると思います。
そういうことが学べる本です。
・「労働の義務」ではなく憲法27条「勤労の義務」(まじめに労働にいそしむ)
を定めているのは日本だけ。
勤労の義務は25条「すべての国民は文化的で最低限度の生活を営む権利を有する(生存権)」と結びついている。
勤労の義務を果たしていなければ、生存権は保障され -
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Twitterで見かけたこの本、読みやすい良書だった。
不景気、大きな社会構造の変化期ゆえに肥大化する大衆の不安、家に搾取される女性たち、貧困者への冷たさ、競争社会、若い男性たちの暴動など。
切り口もわかりやすく、小学校高学年からでもわかるだろう。
作者の視線は、明治以降の、成功者=特別努力した者、という思想に嵌まる罠について集中して警句を発してくれる。
昨今の考えにもおおいに通じるこの感覚は、確かに怖いものだ。
この罠の背景にある物を見れば、日本社会が、自分は苦労しているのに、のうのうとして怠けている(ように見える)のに生活をみんなのお金から補填してもらうヤツへの冷たさがなにによって起こるの -
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本書は大学における講義内容をもとに執筆されたものだが、とても興味深い内容で広くお薦めするに値する本だと思う。
副題に「社会集団と市場から読み解く」とある通り、「社会集団」と「市場(マーケット)」の2つを軸として、歴史的事象が整序され叙述されていく。
はじめに示されるのだが、明治期日本社会の構造を示した基本的な見取り図(13頁)が参考になる。
まず、日本近代社会を理解する前提として、江戸時代の社会(日本近世社会)の構造についての説明がある。
・領主制
・農村における基本的単位の「村」と、連帯して領主に年貢を納める責任を負う村請制
・「町(ちょう)」と、労働提供義務である”役”
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Posted by ブクログ
「貧しいのは努力が足りないから」「辛いのはお前だけじゃない」「日本にそんな余裕はない」と生活に行き詰まった人を批判するのは現代だけではなかった。明治時代もまた、そうであった。
明治政府はクーデターを起こした士族の政府で、実際カネはなかったのであるが、投票も一定以上の税金を納めた男子のみ、議員も金持ちばかりだから、当然自分の所属している階層が得するような社会を作る。そうするとますます貧しい人は救われない。
現在は、18歳以上なら投票できるし、被選挙権も収入とは関係なくある。しかし、国会を見たら二世三世議員ばっかり。小学校から私立で、お金の苦労なんかしたこともない人が政治のトップにいて、自分の所属 -
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岩波ジュニア新書なので中高生向けに平易に書かれており、1〜2時間もあれば読める。しかし、内容は重要。
この本のキーワードの1つは「通俗道徳」。明治時代には江戸時代の身分制社会の枠がなくなり、自由になった。しかし、人々は自由な競争社会の中で安心して暮らせるようになったのか。著者の答えは明快であり、頑張れば成功できるという「通俗道徳」によって競争を煽られる社会は決して安心をもたらしはしなかったということである。
近代の資本主義社会はこうした「通俗道徳」を形を変えながらも発信し続けており、今もなおそうである。もちろん、20世紀に入る頃には(つまり明治が終わり大正期に入ってくると)社会政策的な施策