あらすじ
「抑圧からの解放に向ける関心が私の研究を駆動してきた」.歴史学は,この日常,そして不条理なこの世界と地続きだ.だから,世界を変えたいと願うとき,歴史学には役割がある.抑圧の構造を読み解き,人びとの解放への夢を想起すること.そして,それらを開かれた言葉にすること.ラディカルな態度に貫かれた思索の軌跡.
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Posted by ブクログ
著者が近年発表してきた歴史学概論あるいは史学史的な論考を集成した本。いずれの論考も、著者いわく、「歴史学の営為と、「(不条理な抑圧が存在する社会という)立方体の外」を夢見ることとの関係をめぐって書かれている」。
いずれの論考も、含蓄に富んでおり、学生時代に歴史学を学んでいた者として、考えを深めさせられるものだった。
特に、表題ともなっている「歴史学は世界を変えることができるか」が印象的だった。社会における「不条理な抑圧」を減少させることに寄与するという著者が提示する歴史学像は、著者も断っているように歴史学全体に通底するものとはいえないと思うが、歴史学の一つの可能性を示したものとしては十分に理解できるものである。社会における抑圧を発見し、その抑圧の構造を解明するということ、言い換えれば、社会における抑圧の来歴について説明する言葉を付与することは、まさに歴史学の本領発揮といえることだと考える。そして、もう一つ指摘されている「解放幻想を理解する作業」について、敷衍して、実現しなかった過去における社会の可能性、「夢」を掘り起こし、明らかにすることだと考えると、それも歴史学だからこそできることであり、そして、それは現代の社会にも大いに示唆を与える可能性のある営為だと思われる。
Posted by ブクログ
著者がさまざまな機会に発表した論考などをまとめた本です。
学会発表に対する著者のコメントや、他者の著作の解説にあたる文章などが多く、歴史学を専門としない読者にとってはコンテクストが理解しづらいと感じるところもあります。とはいえ、日本近代史とともに史学史にも関心を向けつづけてきた著者らしく、過去の歴史学の方法を踏まえつつ、現在の研究の最前線において歴史学研究の方法にどのような変化が生じているのかということをていねいに論じているところもあり、興味を引かれるところもありました。
巻末に収められているのは、本書のタイトルにもなっている「歴史学は世界を変えることができるか」という論考で、抑圧からの解放を指し示すような役割を歴史学がどのようなしかたで果たしうるのかという問題をめぐる著者の考えかたが提出されています。著者は、歯医者の記憶を救済するというベンヤミンの歴史哲学の立場を、「学としての歴史学がなし得ることをこえていると思う」と批判しつつ、歴史学者としての「持ち場」において、抑圧からの解放のためにできることを考察しています。ベンヤミンの立場は、ブロッホのユートピア主義とは一線を画しており、著者のように単純なメシアニズムと解釈することは妥当なのかという点で多少の疑問は感じたものの、安丸良夫の通俗道徳批判や自由民権運動における解放幻想といった、具体的な歴史的事実のうちに問題を解決する道筋を見いだそうとする著者の議論は啓発的だと感じました。