沼野恭子のレビュー一覧
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決してなにかこう小説的に優れているかと言われれば、そうでもないと思う。なにやら高尚らしい終わりかたも取ってつけたようだと思うし。
表現をうんぬんとかってより、筆がひとりでに滑ってるみたいな勢い、熱を感じられる。思えば冒頭の2人の紳士のためにノートに書きつづってるんだものなあ、律儀としか言いようがない。
隣に引っ越してきた侯爵夫人。その娘のジナイーダは医者だの詩人だの騎兵だのといった男の一大コレクションといったものを従えて、彼らと蓮っ葉な遊びに興じる。男たちは皆彼女に熱っぽい気持ちを抱いているが、この恋愛ゲームにおいて彼女は常に女王様なのだ。
16歳のウラジーミルも当然のように彼女に熱を上げ -
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ネタバレ主人公の別荘の隣に越してきた貧しい公爵夫人一家の娘のジナイーダに一目惚れし、失恋する物語。
ジナイーダの周りには常に男がおり、常連として軍人、伯爵、医者、詩人を侍らせ、夜毎にくだらないどんちゃん騒ぎをしていた。主人公もその常連に加わるのだが、次第にジナイーダが恋をしている人物がいることに気付く。その相手が自分の父であることをひょんなことから知り、理解できないながらも本当の恋や愛に触れたように思う。でも、それが元で父は身を滅ぼし、ジナイーダにもすれ違いから再会せずに相手の死を知る。知らぬ老婆を看取りながら物語は幕を閉じる。
個々の描写が素晴らしく、心情に沿った自然描写や瑞々しい初恋の機微を -
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1996年に発表。20ヶ国語に翻訳され、日本語訳版は2004年。ソ連崩壊後の新生ウクライナの首都キエフで、ペンギンと暮らす売れない小説家のヴィクトルは、新聞の死亡記事を書く仕事を持ちかけられる。それは存命の人物の追悼記事を目録にするという不穏な仕事だったが、生活のために二つ返事で引き受けてしまう。初めはうまくいっているように思えたが、思いもよらぬ事態が次々と巻き起こり思わぬ結末を迎える。
寺田順三さんの可愛い装画と、ウクライナ出身の小説家とのことで気になり購入。内省的で淡々とした独特の文体は、可愛い表紙とのギャップに戸惑ったがすぐに慣れた。ページをめくるごとに物語の魅力に引き込まれ、不条理 -
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ネタバレ売れない短編小説家のヴィクトルは、動物園が餌代を払えないためにお払い箱となった皇帝ペンギンのミーシャを引き取ってキエフで暮らしている。新聞の追悼記事「十字架」の執筆記者となり、まだ生きている人物たちのもしもの時に備えて詩的な追悼記事を書き溜めていくが、彼が追悼記事を書いた人物たちは計画的に「処理」されていくようだ。彼自身もよく分からないままに命を狙われ、無自覚のうちに危機をやり過ごし、しかしある日別の男がヴィクトルの「十字架」を執筆していることを知る。そこに記されていたのは、政治的陰謀に加担し、多くの人物の死に関与しながら、最終的に自殺したヴィクトルの一生だった。
心臓病があり憂鬱症のペンギン -
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ロシア語で書かれた小説にしては読みやすかった。名前の呼び方が変わらなかったからだと思う。そこはロシアとウクライナの違いだな。
不思議ミステリーという感じだったが、印象に残っていることは、物語全体を覆っている寂しさや孤独感です。ストーリーが進むにつれて色んな人と交流して楽しんでいる主人公は、ふとした瞬間に孤独感?一人の感覚?を感じている。これは私も分かる気がするもので、人といる時は楽しかったりするんだけど、家に帰るとその楽しさが、家に帰った瞬間と連続していない感じがした。それは家の中に誰がいようと1人でいようと同じ。
また主人公にとってはペンギンだけが癒しの存在で、気にかける存在であり、そのおか -
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ネタバレ閉館した動物園から引き取ってきたペンギンのミーシャと二人で暮らすモノ書きのヴィクトル。著名人が亡くなった際に新聞に掲載する通称「十字架」を書く仕事を引き受けるが、出先の宿では銃声で目を覚ましたり、引き受けた子供の親からピストルを受け取ったり、常に陰鬱な緊張感が続くロシア文学らしいウクライナ文学。
ソ連崩壊後のウクライナの世相をよく表していると解説にもあったが、まさにそのとおりだと思う。ミーシャは動物園という囲いの中から出ても、自分の属していない土地に居るより他なかった。ウクライナもまた、ソ連崩壊後、世界の中で自分たちの居場所を見失っていた。
ヨーロッパ(特に冬の寒さが厳しい地域)の文学では孤独 -
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孤独なひとりの売れない小説家と一羽の憂鬱症のペンギンが巻き込まれていく、日常に混じりゆく不穏な気配とその真実を繊細かつユーモラスに描いた物語。ミステリ要素も含み、ペンギンはとてもかわいく、楽しく読めました。
豊かに風景を描き上げる繊細な文体でつづられるのは、危うい社会情勢。地雷が埋められて爆発した死体がそばにあろうと、マフィアのもめ事に巻き込まれて人が次々といなくなっても、日常はバランスを危うく揺るがせながらもつづいていく。別荘を持つ夢を見て、ペンギンと寄り添う暖かさに心を和ませる。ずいぶん前に描かれた物語ですが、小説全体に漂っている漠然とした仄暗さは2023年現在の社会情勢を考えると安定し -
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ジナイーダが自分のタイプじゃなくて、主人公に全然共感出来なかった。
ただ好きな女の子を父親に寝盗られるって展開は、源氏物語みたいで面白かった。マイダーノフとかに取られるよりはマシなのかな?主人公もそんなに悔しくなかったって言ってたし。
全体的に綺麗で、特に最後の青春に関する一節は好きだった。
青春に魅力があるとしたら、その魅力の秘訣は、なんにでも出来ると言うとこやろではなく、なんでも出来ると思えるというところにあるのかもしれません。
自分はまだ大学生だけど、こんな感じの初恋してみたかったなあ。
あと主人公の厨二病全開妄想シーンも好き。
相手の男と戦闘をし、血まみれになる主人公。心配してる -
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[残す本]
春先に書店でカバーに惹かれて買った本。
会社を辞めてしまう同僚に最後に会った時におすすめの本として紹介したら、ウクライナの作家さんだよね、と言われて、書店に並んでいた理由を知った。
これから亡くなりそうな著名人、通称「十字架」を見つけては、追悼記事を書くという仕事を任された売れない小説家ヴィクトルと、一緒に暮らす憂鬱症のペンギン。
全編、寒い国で薄青い空気の中、静かに大きな物事が淡々と進行していく。皮肉の効いたラストは、救いにも、絶望にもとれる。
渋谷の地下のマックで読んだ時、あんなにも人がいる街なのにそこだけは全然人がいなくて、緑っぽいネオンの中1人だけになった感覚が