憂鬱症のペンギンと売れない小説家。もう、これだけで面白い。
不可思議でどこか、現実と空想のあわいに惹き込まれるような物語。
どことなく村上春樹を想わせる文章ですが、訳者のあとがきを読んで納得。
続編が出ているらしいけれど、どうやら15年以上経った現在でも日本語翻訳は出されていないそうで、残念。
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さて、本作はソ連解体後のキエフを背景にした物語。
「人生の本質が変わったからといっていちいち考えこんだりしてはいられない。」
と作中にあるように、当時の人たちの、激しく変わる社会に、いちいち反応してたらやってられない、みたいな感情が窺えます。
これは、たぶん私たちも同じで、自分の人生に起こっていることの意味や、日々労働していることのその先なんて、いちいち考えながら生きていくことなんてできないし、問題や困難を避けて生きていくほうが良いとも思える。
そんな暗い背景がベースにありながらも、ペンギンとソーニャ(預かることになった子供)ニーナ(ベビーシッター)が間に入ることでどこかコミカル、そしてこの関係を通してヴィクトルの感情の変遷も伝わってきます。