沼野恭子のレビュー一覧
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孤独なひとりの売れない小説家と一羽の憂鬱症のペンギンが巻き込まれていく、日常に混じりゆく不穏な気配とその真実を繊細かつユーモラスに描いた物語。ミステリ要素も含み、ペンギンはとてもかわいく、楽しく読めました。
豊かに風景を描き上げる繊細な文体でつづられるのは、危うい社会情勢。地雷が埋められて爆発した死体がそばにあろうと、マフィアのもめ事に巻き込まれて人が次々といなくなっても、日常はバランスを危うく揺るがせながらもつづいていく。別荘を持つ夢を見て、ペンギンと寄り添う暖かさに心を和ませる。ずいぶん前に描かれた物語ですが、小説全体に漂っている漠然とした仄暗さは2023年現在の社会情勢を考えると安定した平和などないままだったのだろうか、などと暗鬱な思いを引き出されます。
ペンギンの描かれ方はファンタジーに近く、空想の生き物、いってみればマスコット=象徴的な存在として描かれているんでしょう。そんなペンギンを明るく無邪気とした存在としてでなく、憂鬱症という個性を持たせたことで、小説家とより深く寄り添えるようないとしさを持つ存在として成り立たせているように思えました。
……この終わり方ではミーシャはどうなったのかとやきもきしたのですが(結末の付け方としてはとても巧いとはいえ)、邦訳はない続編のあらすじを聞いて少し安心しました。 -
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ジナイーダが自分のタイプじゃなくて、主人公に全然共感出来なかった。
ただ好きな女の子を父親に寝盗られるって展開は、源氏物語みたいで面白かった。マイダーノフとかに取られるよりはマシなのかな?主人公もそんなに悔しくなかったって言ってたし。
全体的に綺麗で、特に最後の青春に関する一節は好きだった。
青春に魅力があるとしたら、その魅力の秘訣は、なんにでも出来ると言うとこやろではなく、なんでも出来ると思えるというところにあるのかもしれません。
自分はまだ大学生だけど、こんな感じの初恋してみたかったなあ。
あと主人公の厨二病全開妄想シーンも好き。
相手の男と戦闘をし、血まみれになる主人公。心配してるジナイーダに向かって、格好つけながら「何にも」と答える。
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好きな曲の原典で気になった事がきっかけです。
主人公にとってのこの初恋は、あまりにも鮮烈である意味で大恋愛なものでした。
私は誰かを好きになった事がないので、自分を変えられてしまうような恋愛が羨ましいですが、当人からしてみればそんな生優しいものではないのでしょう。
寝ても覚めても頭から離れない、自分でも理解できない行動をとってしまったり、感情の制御ができなかったり……強制的に自分を変えられてしまう主人公の戸惑いや恐怖を、何度も目にしました。
初恋というタイトルではありますが、ロマンスというよりジナイーダが誰を恋い焦がれているかを見つけるミステリーのようで、先が気になりました。
お話自体が短い事もありさらっと読めた印象です。
この小説はトゥルゲーネフさんの半自伝だそうで、当たり前といえば当たり前なのですが、恋で頭がいっぱいになる気持ちはロシアでも同じなんだな、と思いました。
決してこのお話をなぞりたくはありませんが、自分を変えてしまうほどの恋を、自分もしてみたくなりました。
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ネジ読書会の課題本でした。16の初恋の甘く切なすぎるときめき。40になった主人公の人に読ませるための日記の形で綴られる。ネタバレしないで読んだ方がいいと、言われていたにもかかわらず、あらすじをつい読んでしまった。
初恋は、他のどの作品よりも作者自身に愛された幸福な小説であるという。彼の人生そのものであり身をもって体験したものだそう。
語り手ウラジーミル・ペトローヴィチの父と初恋相手21歳の、公爵令嬢ジナイーダがとりたてて美化されている。
人生は短くどうしようもなく人間は悲しく惨めで、美しいと思えた。
どういう立場であれ一瞬のときめきがあるから人は生きていけるのかも。
後ろのほうで、青春の魅力について語り手が語ってるのがほんとにそうだなぁと共感した。
以外引用。
青春に魅力があるとしたら、その魅力の秘密はなんでもできるというところにあるのかもしれません。持てる力を他に使いようのないまま無駄つかいしてしまう。そこにこそ青春の魅力が潜んでいるのかもしれません。だれもが自分のことを浪費家だと本気で思いこみ、『あぁ、時間を無駄につぶさなかったら、どれほどすごいことができただろう!』と本気でかんがえる、そこにこそ潜んでいるのかもしれません。 -
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ネタバレジナイーダが父に恋をしているとわかった時、嫉妬のあまり殺そうとしていたほどの激情に流されることなく引き返したのは、ウラジーミルも「父に相手にしてほしい」という一種の父への恋慕があったから?と思ってしまった。
ウラジーミルは、恋の甘さと苦しさをすごいはやさで経験して、成長してしまったのだなと。でもこういう変化って本当に一瞬で、唐突に起こる。自分の初恋を思い返してみても、その前と後でずいぶん変わったなと思う。そしてそういう境はいつも唐突。
とりまきを弄んでいるジナイーダに最初同じ女としてまったく好感が持てなかったが、ウラジーミル父に鞭で打たれた痕にキスをするシーンを読んで、「ジナイーダ、貴女も恋する女の子だよ…。」と同情してしまった。
ウラジーミルの主観的な描写でしか父のことは語られていないので何とも言えないけれど、女性はウラジーミル父みたいな人好きでしょ。こんな読み方をしていいのかわからないけれど、正直惹かれた。あとルーシンも…。 -
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豊富な語彙を用いた表現ではないが、テンポよく、主人公が自らの心の内を偽りなく純粋に、私たちに語りかけてくれている感じがした。主人公の内面や行動の描写が適切かつ雄弁で、ありありと伝わってくる。
初恋の、どうしても陥ってしまう無限ループ的な感じ、高揚感、全能感、幸福感、絶望感、それらに振り回されに振り回される主人公。共感しつつも、子供だなぁって思って楽しく気楽に読めた。あの幸せは子供だからこそ存分に味わえるものであると思うし、特別で大切なものだと思う。その感情を抱かなくなったり、抱きそうになっても振り回されないようにと思ってブレーキをかけてしまうようになった自分を、大人になったのかなと思いつつも、心が老いたなぁと少し切なくなった。
主人公が恋している相手や主人公の父親をみて、魅力とは何か考え直そうと思った。人格者と、人間的に魅力的な人は違う。また、人間的に魅力的な人と、女性や男性として魅力的な人は違う。(登場人物と直接的な関係はないが)個人的にはそう思った。
印象に残った文
青春に魅力があるとしたら、その魅力の秘密は、なんでもできるというところにではなく、なんでもできると思えるというところにあるのかもしれない。 -
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とんでもない話です。
10代半ばかな?今で言うと中学生かな?みたいな男の子が、20代前半くらいの女性に惚れちゃうわけです。
それでまあ、別段エッチなことがあるわけではなくて、精神的に振り回されたりもてあそばれたりするんですが。
実はその娘さんは、男の子のお父さんと不倫の関係でした。どっとはらい。
という話なんです。
それが、男の子目線から、実に繊細と言えば繊細に。
理屈抜きで、とにかくキレイなお姉さんにのぼせちゃってる。
もう、身もだえするほどに恥ずかしくて、自殺したいくらいみっともない。
そんな10代のアホな恋ごころが、恥ずかしくて恥ずかしくてもう、たまりません。
1860年に発表された小説です。
つまりこれ、江戸時代(笑)。すごいですねえ。
日本では、坂本竜馬とか新選組がうんぬんしてた時代ですよ。
そんな頃に書かれた小説が、今読んでも面白い。
19世紀の西欧の世の中が、貴族や王様という時代から、資本主義で経済でという時代へと変わっていく。
商品としての小説が生まれる。
この頃に書かれた小説は、21世紀の今も、読めるものだなあ、と。改めて。
語り口がやや時代めいていたり、全体が中年になった主人公の回想ということになっていたり、
そういう枠組みに関しては、無論の事19世紀ぽいなあとは思います。
それに、当然ながら物語の中の固有名詞とか習慣とかモラルとかで、「?」というところも、たまにあります。
光文社の古典新訳シリーズは、そういうつまづきの小石をなるたけ排除してくれている気がして、読み易い(と、僕は思います)。
こういう「思春期初恋、苦く終わりぬ」的な小説は山ほどあると思いますが、その原点みたいな小説。
オリジンに特有の、堂々たるその恥ずかしさ。素材剥き出し、ゴロンって、転がした感じの手ざわり。
止まらず読めちゃう面白さでした。 -
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少年ウラジーミルは隣に引越してきた年上の美しい女性ジナイーダに恋心を抱く。しかし彼女は自身に好意を寄せる何人もの男たちを家に集めては、いいようにあしらい楽しんでいた。そんな彼女の型破りな言動に驚きつつもウラジーミルの想いは募る一方。しかし、ある日を境に彼女の様子が一変する。ツルゲーネフの半自伝的恋愛小説。
恋は盲目というように、好きという気持ちが湧いてしまうと許されない恋だとしても止まらない。辛くても苦しくても、会えるその一瞬に幸せを感じる。そんな切ない恋を経験する者と、目の当たりにする者。好きになった相手だからこそ、微妙な変化には良くも悪くも敏感に気付いてしまう苦さがよく描かれている。 -
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ネタバレ近代文学の分類になるんだろうけど、子どもと大人の間を揺れ動く主人公の瑞々しい初恋の心理描写は今の時代でも十分読めるものだった。あと情景描写もかなり良い。
タイトルの通りテーマは「初恋」。冒頭で三人の男達が各々の初恋について語るという話になり、主人公が回想(ノートに回想を書く)形式で、初恋の人ジナイーダとの思い出を語ることになる、というもの。
ロマンスものはあんまり好きじゃないけど、主人公がまだ半分子どもで、その恋愛も初々しくて甘酸っぱくてでも苦しくて抗いがたくて…で良かった。それにしても主人公と、主人公の父と、初恋の人の三角関係というのはすごい……というか字面だけみると完全にインモラルになりそうなのにこれだけ爽やかに書き上げたツェルゲーネフがすごい。時代的に当時はこれぐらい普通だったんだろうか。
解説で「初恋」が書かれた1860年代に触れられているけれど、私でも知っている作品名が並んでいて驚いた。一気にロシア文学の黄金期、というイメージになってしまった。
●あらすじ
ジナイーダ。それが彼女の名前。
そして少年は人生の苦しみを知った
ロシアの帝政が、崩壊の予兆にふるえる時代に誕生した、トゥルゲーネフの自伝的中編。主人公の告白をやわらかな語り口調に変えた、みずみずしい感性があふれる新訳。
16歳の少年ウラジーミルは、年上の公爵令嬢ジナイーダに、一目で魅せられる。初めての恋にとまどいながらも、思いは燃え上がる。しかしある日、彼女が恋に落ちたことを知る。だが 、いったい誰に? 初恋の甘く切ないときめきが、主人公の回想で綴られる。作者自身がもっとも愛した傑作。
(光文社HPより引用)