種村季弘のレビュー一覧

  • 美食倶楽部 ――谷崎潤一郎 大正作品集

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    谷崎の二十代後半から三十代にあたる大正期の短編集である。探偵小説の名手でもあり、プロットの確かさと語り口の巧妙さに唸らされる佳作揃いである。またそれに加えて、これは編者の好みもあるのだろうが、江戸川乱歩にも通じるような露悪的、嗜虐的な志向性も強い。表題作に至っては食の官能性を究極まで描き抜いたその迫力にただただ圧倒されてしまう。ふと筒井康隆の『薬膳飯店』を思い出した。

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    2025年01月06日
  • 種村季弘コレクション 驚異の函

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    大変恥ずかしながら、著者のことを全く存じ上げておりませんでしたが、強く感銘を受け、感服致しました。
    これほどの読書体験は中々味わったことがございません。博覧強記とはまさにこのことでないでしょうか。
    主流とは反対のもの、マニエリスムを鋭く追究してきた姿勢から放たれる氏の知識量を測れる人間はもうこの世には残っていないのではないか。
    今年2024年で没後20年だそうだが、時間をかけて氏の偉業を追っていこうと思う。

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    2024年09月19日
  • 江戸東京《奇想》徘徊記 新装版

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    まさに《奇想》なのであります。この文庫を読み始めたのが、たまたま碑文谷にひさびさに行く道すがら。目黒からバスで碑文谷に行き、用件を済まし帰りは学芸大学から。時間の都合があったので圓融寺には寄れませんでしたが、その偶然に不思議な気持ちが起こりました。そもそも「蓮華往生」という素材も相当に驚愕なので、第一章からテンション爆上がり。それだけには留まらず、なんと最終章を読み終わったのは汐留界隈で空き時間を潰すために入ったカフェで。シンクロに気づいた時は、それだけでこの文庫、自分にとって特別な一冊になってしまいました。たまたまでしかないのですが、こちらもなにかしら東京を徘徊しているのだな、と。しかしこの

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    2024年07月21日
  • 江戸東京《奇想》徘徊記 新装版

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    種村季弘の晩年のエッセイ集。
    東京の街を種村季弘が自分の過去の思い出を回想しつつ蘊蓄を語るという、もともとは雑誌「サライ」の連載をまとめたもの。雑誌掲載時は1回、原稿用紙3枚の分量だったとのことだが、そりゃネタ的に収まりきる訳ないだろうということで書籍化にあたり大幅に増量されてる。
    読んでると「この人、ドイツ文学者でなく国文学者だったっけ?」と勘違いしそうになるような蘊蓄が山盛りで楽しいが、やはり地方在住者にとって東京(それも戦前から戦後にかけて)の土地勘がまったくないのが悲しい。例えば「柴又帝釈天と新宿」という章。なんで柴又と新宿(しんじゅく)?そんなに近かった?となるが、読んでいくと「新宿

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    2024年03月24日
  • 江戸東京《奇想》徘徊記 新装版

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    十年ほど前に、旧版の文庫をガイド代わりに、本書のなかで著者が歩いているコースを歩き回った。全部で三十箇所だから、一年以上かかったと思う。東京とひとくちにいっても、とてもとても広い。普段の生活圏からすぐそこの慣れ親しんだつもりの場所も、はじめて訪れたところも、著者の目を通して歩いてみると、新鮮だったり驚きがあったり、しみじみ楽しかった。それ以来公休日はあちこちを散歩するのが楽しみのひとつになっていたが、新型コロナウイルスの登場以降はその楽しみを放棄することになり、今にいたる。このたび出た新装版は、森まゆみが三十箇所の現在の姿について書いた文章が併録されている。カバーがボロボロになった旧版は本棚に

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    2024年03月10日
  • 種村季弘コレクション 驚異の函

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    諏訪哲史さんによる、種村季弘入門として編まれたコレクション。ほぼどれも読んだことのある文章ではあったけれど、諏訪さんが並べた順番で読んでいくと、生前の種村さんがどのように生きて、どのように学問と芸術を吸収して自身の世界を構築していったか、追体験する感じを味わえた。種村流読書論であり人生論である『落魄の読書人生』も面白いけれど、はやくに失うことになる母から幼少期寝しなに語られた昔話を回想しつつ、やがて母を操る父の影に気づき母に裏切りを感じることによって書物の扉を開いていく『文字以前の世界』にはハッとさせられた。本を手に取ることは、親への反逆でもある。

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    2024年02月20日
  • チリの地震 クライスト短篇集

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    「チリの地震」息が止まる衝撃。
    今まで読んだ短編の中で、一番の傑作。
    救われた喜び、再会の喜び、困難な中での一体感、待ち受けていたかのような人間の醜悪さ、夫婦に託された微かな希望。

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    2011年09月12日
  • 美食倶楽部 ――谷崎潤一郎 大正作品集

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    耽美だ…
    基本的に谷崎ってあんまり共感できる情動や美的感覚ではないけど、「或る調書の一節」はなんか良かった。語り手の男はクズだけど、誰かが自分のために泣いてくれることで自分が救われる気がすることってのはあるかもしれない。でもその為に相手を殴るっていうクズっぷりがすごい。凡庸じゃない、ひとかどのクズで良い。
    「白昼鬼語」の終わり方も良かったし、「青塚氏の話」も狂乱爺がホラーすぎて良かった。
    後書きの解説にもあったけど、美女に限らず登場人物は大体2面性を持ってるから、それが剥がれたり変化したりするのは面白い。


    ◯あらすじ
    「善に対して真剣になれず、美しき悪業に対してのみ真剣になれるような、奇態

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    2024年06月06日
  • 美食倶楽部 ――谷崎潤一郎 大正作品集

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    ネタバレ

    目次
    ・病蓐の幻想
    ・ハッサン・カンの妖術
    ・小さな王国
    ・白昼鬼語
    ・美食倶楽部
    ・或る調書の一節―対話
    ・友田と松永の話
    ・青塚氏の話

    それほど谷崎潤一郎作品を読んできたわけではないけれど、明らかにこれは今まで読んできた谷崎とは全然違う。
    耽美というよりあからさまに変態寄りだったり、悪夢のような話だったり、なんだろうちょっと大衆的。
    読みやすい文章も相まって、「これ、菊池寛じゃないよな」と表紙を確認すること数度。(切り口はまったく菊池寛ではありません)

    おどろおどろしい作品もあるのだけれど、からりと乾いた文体がどうも日本っぽくない。
    どちらかというとポーとかスティーヴンソン。
    もしかし

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    2024年02月26日
  • 書国探検記

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    本にまつわるエッセイの集成。
    書きたいように書いている。
    読者の好奇心や知性を信じている感じがする。読んでいて難しいけれど心地よい。

    澁澤龍彦や三島由紀夫の本のエッセイを読んだ時にも言及されていた『家畜人ヤプー』、気になるんだけれどおいそれと手を出しづらい感がまだあるのよね。

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    2023年06月15日
  • 魔術的リアリズム ──メランコリーの芸術

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    魔術的リアリズムは別の本で名前だけは知っていたけど、それを掘り下げるにはマイナーな分野である。第二次産業革命後の技術革新と戦争不安でわちゃわちゃしてる時代の文化ってめちゃ魅力的。日本の文豪の時代とか、今の感覚でなかなか生まれない面白さがあった。背伸びしすぎて前提知識足りんかったけど、ちょっとだけ魔法使えるようになりました。部分的に再読したい。

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    2022年11月05日
  • 魔術的リアリズム ──メランコリーの芸術

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    魔術的リアリズム、新即物主義。日本ではそれ自体がマイナーな派閥ではある。しかしそんなマイナーな派閥の中でも筆頭格として名を挙げたベックマン、カーノルト、ディクス、グロス、ショルツらではなく、本国でもマイナーな気味(らしい?)な画家たちにスポットライトを当てている。
    シュリンプフやグロスベルク、ヴァッカーをはじめとした日本では中々お目にかかれない彼らの貴重な日本語資料。有難い。
    しかし少し触れられたディクスの箇所に誤りがありました。彼は左派ではありません。作品についての解釈が寛容であり、左派の友人たちも多かっただけで、本人は政治的な立場を明確にすることは避けていました。こちらは1988年に神奈川

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    2020年10月10日
  • 雨の日はソファで散歩

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    名前は前から知っていて、なんとなく知った気になってた種村季弘さん。
    衒学的な感じかと思ってたけど全然気取りがないのに、めちゃくちゃ知識多いおじいさんという感じでとても面白く読めた。
    酒の話が多いのもなんか良い。
    岡本綺堂の話も出てきてタイムリーでうれしい。

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    2020年06月02日
  • ビンゲンのヒルデガルトの世界

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    さすが種村先生。自然誌、博物誌的な関心から中世神学、女性性、声と音楽までという諸テーマによって、ヒルデガルトの多面性が活き活きと描き出されています。他のヒルデガルト本読む前にこれ読んでおくといいのではないかなあと思いました。

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    2019年05月06日
  • ビンゲンのヒルデガルトの世界

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    タイトルに違わず、ビンゲンヒルデガルトが生きた現実の世界と、その精神世界の両方について詳細に解説されています。装飾写本好きとしては「スキヴィアス」のカラー写真が多数掲載されているのが嬉しいです。

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    2018年09月27日
  • 迷信博覧会

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    現代まで言い伝えられている迷信を、古今東西の戯曲や故事を参照しながら由来と意味を調べるだけでなく突っ込んでいく、博物エッセイ。

    超常現象や魔法に関わる博物エッセイというと、やはり澁澤龍彦の右に出るものはいないと思うのだが、あちらがたおやかでスルリスルリと進むのに対し、こちらはかなりパワフルに話が進む。なお、パワフルな文章だが、シブタツには負けない丁寧で読みやすい文章であるため、負けず劣らず面白く読めるはずだ。

    前半部分は故事、古い戯曲からスタートするという手前、迷信としてはぼんやりしたものが多いものの、媚薬を境に具体的な話が多くなって、ことさら面白い。

    「一富士二鷹三茄子」が徳川家康由来

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    2016年11月12日
  • 美食倶楽部 ――谷崎潤一郎 大正作品集

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    不気味で滑稽でもあるが艶めかしい。

    「或る調書の一部」の掛け合いなんかは笑ってしまう。
    しかし、善いことができるはずがないから、
    気持ちの好い悪い事をするという一節にどうも心を惹かれる。

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    2015年08月17日
  • チリの地震 クライスト短篇集

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    今まであまり読んだことのなかった系統ですが、新しいものを読んでみたくて手に取りました。
    素直に素晴らしいと思える作品ばかりです。
    しかし、ところどころ翻訳が怪しいところがあるようで……それも話の筋に関わるレベルみたいです。
    全集なんかと読み比べもしてみたいところです。

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    2015年07月17日
  • チリの地震 クライスト短篇集

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    大学のころ、独文の講義をとった。いくつかの短編小説(時代はバラバラ)を読んでいき、そのうち一つについてレポートを提出するという形式だったのだが、それら短編のうちの一つが、この本所収の聖ツァツィーリエだった。その講義は結局出席しなくなり(たぶん面倒だったんだろう)単位を落とした。もったいないことをしたものだ。

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    2014年01月01日
  • ビンゲンのヒルデガルトの世界

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     以前に読んだ種村の『不思議な石のはなし』とかパワーストーンの本にも出てきたので、時間をかけつつちまちまと読んでみました。
     雑誌『イマーゴ』に連載されたエッセイをまとめた聖ヒルデガルトの評伝。長年の研究の成果ではないとご謙遜されているけど 、日本語での類書はあまり見当たらないし、依然、本書の存在価値は疑うべくもない。著者ご本人も神学よりは自然学と宇宙論に興味があり、とおっしゃっているように、ヒルデガルトの自然学的著作に触れた第11〜16章が面白い。メランコリー論と性愛論について書かれたくだりをとりわけ興味深く読みました。石に触れた第3章「ルチフェルと宝石」は勿論だがはずせない。
     ヒルデガル

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    2022年07月28日