種村季弘のレビュー一覧
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ネタバレ「チリの地震」
首都サンチャゴで、何千という人間が落命した1647年のあの大地震のまさにその瞬間、さる犯罪のために告訴された、その名もジェローニモ・ルグェーラという一人の若いスペイン人が、監禁されていた牢獄の柱の下に立っていましも自ら首をくびろうとしていた。(p11)
どよめきの中に投げ込まれたあの衝撃からこの方、人々は皆許し合っている、とでもいうかのようなのだ。人々の記憶はもうあの衝撃の瞬間までしか立ち戻れなかった。 (P22)
最初の大揺れの直後、市内は男たちの目の前で分娩する女どもであふれ返ったということであり、修道僧たちがそのなかを手に十字架を持って走り回って、世界の終りがきた、と -
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【チリの地震】
処刑という絶望の中、起こった大地震。そして、地震は離れ離れになっていた男と女と二人の子どもを再会させる。一瞬、希望が彼らを包む。まるで、それはユートピア。
しかし、たくさんの人々の「犠牲」の上に成り立つ再会と幸せなど長続きすることはない。
一組の男女を生かすのも、許すのも、裁くのも、殺すのも、それらは決して神が行うのではない。すべては、人間が行うことなのだ。
この作品が、3.11後に再び出版された意味とは一体何なのだろうか。わたしたちは、400年以上前のチリで起こった地震をテーマにした作品から何を感じ取るべきなのだろうか。 -
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ネタバレ谷崎潤一郎のイメージというと、耽美、エログロナンセンスあたりが思い浮かびます。
私も若いころ「痴人の愛」「卍」「細雪」らを読んで、驚嘆した覚えがあります。いわゆるフェティシズムのはしりといえるかもしれませんが、明治生まれの人があそこまで極端な性癖を文章として露出できることに感激したものです。といっても内容は概ね忘れてしまいましたが。
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さて、本作「美食倶楽部」は、表題作を含め7作品を収録しています。
個人的に面白いと感じたのは「白昼鬼語」「美食倶楽部」「友田と松永の話」あたりです。
「白昼鬼語」は語り手の私が、神経症的な友人園村の「これから、殺人が起こる。一緒に見に行こう」という -
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過ぎし時代の迷信あれこれ……と共に、
クスッと笑える、ちょっとおかしなこぼれ話を蒐集した、
雑誌連載エッセイを纏めた本。
迷信とは「原因と結果が科学的因果関係で一筋につながっていない」(p.226)
ものの由、とか。
■杉浦日向子『百物語』其ノ五「狸の僧の話」の元ネタも登場。
松浦静山『甲子夜話』だった。
■トイレが鬼門に当たっていては困ると頑なに信ずる人に一言、
昔の和式はいざ知らず、今時は洋式なんだから、
座ったら鬼門に背を向ける格好になるんだし――には笑った。
■エイプリル・フールの本来の趣旨について。
嘘によって他者に「無駄足を踏ませる」のが胆(きも)だった、
とは知らなん -
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起承転結のしっかりした、王道の短編集といった印象。
「チリの地震」
天災が人間の心の中に、ある種逆説的に平穏さをもたらす場面の描写が凄く上手。★★★
「聖ドミンゴ島の婚約」
分かりやすい悲劇。起承転結がハッキリしていて短編のお手本といった観あり。ベタだけど普通に面白い。★★★★
「ロカルノの女乞食」
いや、流石にそこまではいかないんじゃないか。と思ってしまう幽霊の影響力の強さ。★★★
「拾い子」
シンプルな構成ながらも、怒り心頭のピアキの迫力はなかなかのもの。★★★
「聖ツェツィーリアあるいは音楽の魔力」
これは奇蹟と言えばいいのか何なのか。神の配剤は少なくとも俺の理解を超えている。