目次
・病蓐の幻想
・ハッサン・カンの妖術
・小さな王国
・白昼鬼語
・美食倶楽部
・或る調書の一節―対話
・友田と松永の話
・青塚氏の話
それほど谷崎潤一郎作品を読んできたわけではないけれど、明らかにこれは今まで読んできた谷崎とは全然違う。
耽美というよりあからさまに変態寄りだったり、悪夢のよう
...続きを読むな話だったり、なんだろうちょっと大衆的。
読みやすい文章も相まって、「これ、菊池寛じゃないよな」と表紙を確認すること数度。(切り口はまったく菊池寛ではありません)
おどろおどろしい作品もあるのだけれど、からりと乾いた文体がどうも日本っぽくない。
どちらかというとポーとかスティーヴンソン。
もしかしたらマーク・トウェインもお好きだったでしょうか。
”どうも日本人はくだらないセンチメンタリズムに囚われるんで、芝居でも活動でも湿っぽいものが多いんだけれど”(青塚氏の話)
意識的にドライに書いたのでしょうね。
もう少しウェットになって闇が増えると江戸川乱歩になる。
『美食倶楽部』を読みたくてこの本を借りたはずなんだけど、一番無理だったのが『美食倶楽部』でした。
全然おいしそうじゃないし、何なら気持ち悪い。
海原雄山に「こんなものが美食といえるか!この馬鹿者が!」と怒鳴りつけてほしい。
思わず笑っちゃったのが『或る調書の一節』。
人を殺してもろくに反省もしない男、奥さんが「心を入れ替えて真っ当になってくれ」と泣くたびに自分は救われるような気がする、という。
他に愛人がいるのだけど、奥さんに泣かれると、自分もつい泣いてしまう。
だけど、取調官に「では奥さんを愛しているのか」と聞かれると「愛していない」と、「泣いてくれるなんてかわいいひとではないか」と言われると「顔がかわいくないので、「かわいくありません」と、実に正直にお答えなさる。
これが真面目に行われている会話だと思うと、妙な可笑しみを感ぜざるを得ない。
『友田と松永の話』は、絶対スティーヴンソンだわ。