簡単にまとめておこう。軍事組織であろうと、企業組織であろうと、組織と呼ばれるものの特徴は、基本的に分業と調整の二つである、と本書では考えている。
(1)分業役割が分けられ、それぞれの役割を分けることで、たとえば専門性を発揮させるなど、何らかのメリットを追求している
(2)調分業の一部ずつ担っている人の活動が、時的・空間的に調整され、多数の人々の活動が、あたかも一つの全体であるかのように連動して動くようになっている(あるいは、そうなろうと努力しいる)
どのような組織であろうと、合理的に運営しようと意図されているのであれば、基本的にはれら二つの要素を備えようと努力しているはずである。ただし、...続きを読む 本書は、このような二つの顔をもつ組織うち、企業組織に対象を限定して議論を展開していく。本書が主たる読者層「して想定しているのは、現在すでに企業人であるか、もしくはすぐにでも企業人になろうとしている人かのいずれかである。
しかし、これらの多面的な議論は本書を通じて徐々に明らかにしていくことにして、ここでは必要最低限の組織形態に関する知識を紹介することを優先することにしよう。それ故、〈製品・市場への適応〉と〈機能統合によるメリット)の二つを秤にかけて、どちらが重要かに応じて事業部制が採用されたり、機能別組織が採用されたりする、という最も単純なだけ頭に入れておいて欲しい。さて、この点まで理解された後で次に問題になるのは、〈製品・市場への適応〉と〈機能統合によるメリット)のどちらを優先するべきかという問いに対して簡単には答えが出ない場合にはどうすればよいのか、ということであろう。〈製・市場への適応〉も〈機能統合によるリット)もどちらも高度に重要であり、意思決定のたびに、どちらを優先するべきかじっく考えながら仕事を進める必要がある、という場合である。
このような場合には、〈製品・市場への適応〉と〈機能統合によるメリット〉という二つの軸を両方盛り込んだ組織形態を作るという手ではその軸を両方盛り込んだ組織形態を作るという手がある。実際には様々な中間形態があるのだが、ここではその究極の典型例であるマトリクス組織(matrixorganizationform)を例に取り上げておこう。
マトリクス組織は、組織を分割する際の〈軸〉そのものを複数にした組織である。図1-3の例でいえば、最高意思決定者のすぐ下に各事業部長を置くと同時に、各機能部門長をも置くのである。図中の○印の人々は、一方では個々の製品・市場への迅速かつ柔軟な対応を目指す事業部長の管轄下に置かれると共に、他方では開発・生産・販売といった各機能別の資源共有や専門知識蓄積を重視する機能部門長の管轄下にも置かれる。
大きな意思決定のたびに、製品・市場の要求と機能部門の要求が対立するかもしれない。この対立を実際に組織内で表出させ、そのたびごとにトップがどちらの軸を優先するか意思決定を行い、ダイナミックに二つの要求をバランスさせていくという意図をもってマトリクス組織は採用される。なお、図中の○印の人から見て図中の○印の人から見ると上司(ボス)が二人いるから、これをツーボス・システムと呼ぶこともある。
一般に、分業すると、その仕事の切れ目を境にして異なる組織文化が発達するといわれる。異なる仕事を任されると、異なる環境に日々直面するようになり、何を大と思うかがその環境ごとに異なってくる。この日々の仕事環境に合わせて、人々の言葉いや時間感覚、仕事観などが異質なものになっていくのである。それ故、たとえもし本来は協働しあわなければならないとしても、分割したこと自体が逆に協働を阻害する側面をもつ。いったん分割したものを、機能的に統合しなければならないのだが、この統合を自然に達成することは難しそうだ。そこに調整の努力が必要になる理由がある。
たびたび指摘しているように、一度分解した、今度は組み立て直さなければならない。一度分けたものを組み立て直す作業がどの程度低コストで実行可能かという点が、分業のメリットをプラスにするかマイナスにするかの最も重要なポイントである。
あるプランに従って分割したのだから、そのプラン通りに組み立て直せばよい、と思われるかもしれないが、人間の作る組織はそれほど単純ではない。いったん組織的に分けることで、分かれた者たちの言葉遣い・行動様式・意識・考え方が変わってしまう可能性があるからである。組織内で分業を進め、既存の部署を分けて新しい複数の部署を作るということは、同時に、組織内に新しい「種族」を生み出すという覚悟をもって臨まなければならない。
こう考えてみれば、市場というのは、製品のアーキテクチャー部分を標準化して、所有権の異なる人々の間で並行分業を行っているものだということができるであろう。だから、産業政策を立案するとか、国家経済を成長させようと意図する政策立案者は、アーキテクチャーを考えて世の中の分業のあり方に影響を及ぼす組織のデザイナーだと考えることが可能である。
さらに根本までさかのぼって考えてみると、尺貫法をメートル法に置き換えたり、日本語の標準語を設定して全国一律の日本語教育を施したり、といった標準化も、こういったユニット間のやりとりの部分を標準化する作業の一種と捉えることもできるであろう。標準語を作るとか、計測尺度を標準化するとか、法律を制定するといった作業は、一つの巨大な国民経済という分業体系を構築し、統合する手段なのである。
小バッチ化は単に在庫量を減らすというメリットばかりではなく、市場への適応と組織の学習という意味でも非常に意味が大い。多品種少量生産が求められ、日々刻々と市場や技術が変化する時代に、失敗から学び、日々改良を積み上げていく組織を形成するうえで、小バッチ化は決定的に重要なのである。これを究極まで突き詰めていけば、パッチ・サイズを一つずつにするということになる。いわゆる「1個流し」の生産システムは、ダイナミックに学習する現場組織の究極の姿なのかもしれない。
小バッチによるメリットを突き詰めていくと、自社内の工程についてバッチ・サイズを小さくしていくだけでは限界に直面する。なぜなら部品納入業者からの部品供給が自社のバッチの大きさと一致していなければ、部品納入業者か自社のちらかに部品在庫が大量に積まれる可能性があるからである。在庫費用を部品メーカーが担っていたとしても、その費用を削減できれば部品コストを下げることが可能かもしれない。また、迅速な組織学習によって製品システム全体の性能向上を進めていくうえで、問題の発見とそのフィードバックは自社内で完結するものではない。部品メーカーまで含めた全体が迅速な学習を行うネットワークになっている必要がある。もし部品納入業者の倉庫に部品在庫の山があり、その山の中に不良品が入っていれば、それだけでネットワク全体の学習速度は遅くなってしまう。自社内で問題が解決せず、部品納入業者や流通業者などサプライ・チェーン全体のマネジメントが重要なのである。
また、「作業の流れ」に含まれるのは、モノづくりのプロセスばかりではない。製品開発や注文処理、販売活動など、設計図(アイデア)やサービスを生産する活動まで含めて、何かを生産する活動はすべて「作業の流れ」として考える必要がある。新製品開発は、多様なアイデアを原材料として、一つの製品の設計図を生産する活動である。管理者たちの意思決定は、現場で生じている問題・課題に関する情報を原材料として、その問題を解決するための決断を生産する活動である。
これらは、一見すると生産活動でないかのように見えるかもしれない、実はすべて「業の流れ」から構成される産活動だと捉えることが可能なのである。これら広い視野で捉えられた「作業の流れ」が速いサイクルで回るようになると、多様なメリットが達成可になる。
すでに紹介したものも含めて、最後に簡単に整理しておくことにしよう。
まず第一に市場需要に短い時間で対応する迅速さが発揮できる。短い時間で市場に対応できるのであれば、市場の変化予測する期間を短くできる。変化に五年かかる会社は五年先の市場環境を予測しなければならないが、三日で反応を変えることのできる組織は三日先の市場環境を予測すればよい。予測が容易であれば、それに対する準備も容易になり、経営資源のムダ遣いを大幅に低く抑えることができる。すなわち市場への適応力が高まるのである。
第二に、「作業の流れ」が速いサイクルで回るのであれば、市場需要の反応も、工程の異常や技術変化も、比較的早いタイミングで発見でき、それを同様に早くフィードバックすれば学習スピードの速い組織が出来上がる。組織学習が促進されるのである。ミスが放置されず、ムダを削減するスピードが速く、他業よりも早いサイクルで製品を改良していくことができる企業は、コスト面と品質面の両面で同時に他社よりも優位に立てる可能性がある。
しかも第三に、「作業の流れ」の高速サイクル化は、特定の顧客や市場セグメントに対応するサプライ・チェーン全体が連動することを意味している。機能別分業によって特定の工程や専門にのみ目を向けていた作業者たちが、特定客向けの「作業の流れ」の中で連結され、非常に速いフィードバックをもらいながら作業を行っていくため、自然に顧客の反応にも目を向けていくようになる可能性が大きい。機能部門の利益よりも事業全体の利益に対して敏感になるのである。この点が市場への適応力をさらに高め、組織学習をなお一層進展させる重要な加速要因となる。
狭い意味での生産現場ばかりでなく、事務作業や製品開発、意思決定等々、さまざまな組織内のタスクに関して、「作業の流れ(処理プロセス)」を速いサイクルで回転させることには大いに意味がある。処理プロセスの標準化を進めていくにも、また次章以後で解説するヒエラルキーや水平関係を構築していく際にも、この高速サイクルで動くことによるメリットを常に視野に入れておかなければならない。
結局のとこ、事前の調整手段である標準化は、予想可能な世界の中で有効であり、世の中で発生する事態が予想不可能になっていくにつれて事前の調整手段は機能しにくくなり、事後的な調整手段が必要になっていく。予想できる世界というのは確実性の世界であり、予想できないことが起きる世界は不確実性の世界である。したがって、不確実性が高ければ高いほど、標準化の有効性が低下し、事後的な調整手段の必要性が増すのである。その事後的な調整手段の中で、最も古典的で、現在でも最も一般的に使われるものがヒエラルキー(階層制)である。
(1)判断能力のある下位階層の構築———————自律的作業集団・職場集団
上程される例外の数が多すぎる理由の一つは環境の不確実性が大きいことであり、もう一つは組織メンバーの熟練が不足していることである。それ故、組織メンバーの側の熟練が十分に蓄積されていれば上程される例外の数を減らすことが可能である。つまり適切な判断力を現場の集団にもたせれば、上司が判断しなければならない問題の数が減るのである。
自ら適切な判断を下す集団を構築するためには、人材の確保:人材の採用に力を注ぎ、有能な人材を確保する、(6)人材の育成:Off-JT(新入社員研修等、仕事を離れて行われる教育訓練)やOJT(仕事の場で、職務遂行に即して行われる教育訓練)に注力して人材を育成する、構造的工夫:意図的にローテーションのやり方やキャリア・パスを工夫して、全業務に通じた幅広い熟練をもった多能工的人材を育成し、配置するように心がける、といった方法が考えられる。
判断力の高い人材の確保とその育成によって上程される例外数が削減できることは、即座に理解できるはずである。だが、の構造的工夫については若干の解説が必要であろう。いま、三つの職務AとB、Cがあるとしよう。この三つの職務のそれぞれに一人ずつの社員をあてれば、各人は能力開発を通じて自分の職務に関わる例外的問題を解決できるかもしれないが、すべての職務にまたがる例外的問題を解決することは難しい。ところが、これら三つの職務を各人が一定期間ずつ経験した後にローテーションすることに決めれば、時と共に三人は三つの職務にまたがる例外的問題を考えることができるようになるであろう。
全員がすべての職務を経験しないまでも、入社時の職務を出発点として、徐々に、より複雑な職務に進んでいくキャリアが用されていれば、同様の効果が得られる可能性が高い。このようなキャリア・パスが用意さていれば、先輩は自分よりも年次が下の後輩たちの職務に通じていることになる。したがって、後輩たち全員の携わっている職務にまたがる問を先輩は解決できるはずである。全員が全部の職務を知っている場合でも、先輩が自分より年次の下の後輩たちの職務を知っている場合でも、上程される例外の数を減らすことができるはずである。
(2)管理者の例外処理能力の開発
管理者の例外処理能力が高まれば、多くの問題が解決可能である。しかし、例外的な問題を分析し、その背後にある問題の本質を把握し、実行可能な対応策を考えて、決断し、部下に実行させるという仕事をうまく遂行する能力を簡単に身につけることは難しい。もともとの才能も重要であるかもしれない。育成可能だとしても、一年や二年程度では成長するものではなく、もっと長い年月をかけて育成されていくものであろう。したがって、基本的には、管理者階層の人員あるいはその予備軍に対して概念的な能力を開発できるような仕事や研修機会を与えてじっくり育てていくというのが基本であろう。
そのような努力を行っていることを前提としたうえで、次に気をつけるべきポイントは昇進評価であろう。管理者としての潜在的な能力を長期的な観察を通じて一所懸命に把握する努力を続けなければ、管理階層の中に多数の欠陥管理者が発生し、組織内における作業の流れはスムーズに動かなくなってしまう。これらの努力を行ったうえでさらに工夫できるポイントは、管理者に「アジェンダ」をもつことの重要性を自覚させることであろう。アジェンダというのは、今後自分たちがどのような時間幅で何を目指しているのか、現時点で重要な課題は何であるのか、といったことを示唆する見取り図とか計画表のことである。いつの時点で何が重要なのかということが分かっていれば、貴重な時間の配分方法を効率的に行うことができるようになる。この時間配分の工夫に気づくだけでも、例外処理能力の向上を望める管理者が実は多いのではないだろうか。
(3)管理者の例外処理能力を補強する構造の構築-スタッフ部門の創設
管理者の例外処理能力そのものを短期的に増大させることができない場合、管理者の職務を分割して、最も難しい部分だけ管理者に与え、それ以外の部分を他の人に任せるという方法が考えられる。これはⅡ章で述べたバベッジの原理に基づく分業のメリットを追求するということである。もう少し体的に説明しよう。
例外処理の仕事が図5-4に見られるように次の作業から成り立っていると考えよう。まず部下が上程してきた例外が前例や規則を用いて解決可能なものであるのか、それとも新たに分析するべき問題であるのかを判断し、そのうえで考えなければならない問題が何であるのかを定義する。この問題の定義に基づいて情報を収集し、その情報を分析する。この分析結果を基礎に置いて、とりうる選択肢を明らかにし、その中から選択を行う。この選択の結果、すなわち、この例外的な問題に関して何をどうすることで対処することに決めたのかという結論を部下に伝達する。本来はこの他にも、その決定を組織内で了承してもらう作業や、伝達した命令が実際に実行されてうまく機能しているか否かを確認する作業などが入るが、ここでは問題を簡単にするために、これらを含めないで話を進めよう。
これら一連の作業の中で、問題の認識・定義と選択そのものはまさに有能な経営管理者がなすべき作業であることは明らかであろう。最も根元的な選択そのものまでも部下に放り投げて、自分は何も決めないという経営管理者の行動は、実務家の間では「丸投げ」と言って批判されることが多い。これらが経営管理者の果たさなければならない責務であり、また有能な経営管理者の時間を集中するべき作業である。しかし、これ以外の部分、たとえば、情報の収集と分析は他の人に任せてもよいであろう。場合によっては、選択肢を生成するところまでも他者に任せてもよい場合もあるだろう。また伝達のための文書作成等の作業も他の人に任せることができるはずである。
このように考えると、経営管理者が遂行する例外処理の仕事は経営管理者が自分自身で遂行しなければならない部分と、それ以外の部分に分けられることが分かる。通常、図5-4の左下部分、すなわち情報収集や分析、選択肢生成をサポートする役割をスタッフという。これに対して、実際に選択・実行・実行管理の仕事を担う役割をラインいう。右下の部分、すなわち部下への伝達文書作成の部分を担うのは、通常、秘書と呼ばれる職種の人々である。ちなみに、ラインとスタッフから構成される組織をライン・アンド・スタッフ・オーガニゼーションという。軍事組織でいえば、ラインが戦闘を行う部隊であり、スタッフは参謀である。
さて、経営管理者が「問題の認識・定義」と「選択」に集中で、それ以外の作業をスタッフや秘書に任せることができるのであれば、経営管理者とスタッフ、秘書のチームが処理できる例外の数は、もともと一人で処理できた例外の数よりも多くなるはずである。しかもこの分業自体は並行分業ではなく機能別分業であるから、増やした人数以上に飛躍的に処理能力を高めることができるはずである。
「はずである」と書いているのは、スタッフが適切な情報収集・分析・選択肢生成を行うか否か、十分に気をつけておかないとならないからである。当初、ラインの経営管理者たちが「主」で、サポートを行うスタッフたちが「従」であったのに、徐々にスタッフが「主」でライン管理者たちが「従」であるようなパワー関係の変化が起こることがある。本社スタッフは現場ではなく本社に、事業部スタッフは工場ではなく本部に置かれ、本社や本部には社長や事業部長という権力の中枢に位置する人物のオフィスが存在するのが一般的である。権力の中枢に位置する人物と頻繁に接することのできる部署のパワーは、大きくなる可能性が高い。しかも、情報の収集と分析に携るスタッフは、専門性の高い知識を駆使するようになり、独特のジャーゴン(難解な専門用語)を用いるようになる。このジャーゴンを駆使する人々の集団が独自の地位を組織内で確保していく、という現象が起こる可能性もある。これらのパワー・ベースを手に入れたスタッフたちは、社内における自分たちの利益を追求して、自分たちに有利になるような選択肢ばかりを経営管理者に提示するかもしれな。選択肢の作り方次第では、比較的簡単に相手の選択をコントロールすることができる。たとえば、選択肢を同時に並べて示す場合には、スタッフが推している選択肢を、それよりも魅力のない選択肢と組み合わせて提示するという方法がある。あるいは、選択肢を時と共に少しずつ提示する場合は、初めに魅力的でない選択肢を多数提案し続け、経営管理者が「却下」を何度も繰り返した後で、初めて「まとも」な選択肢を提示するといったやり方もある。
図5-4で選択肢生成の部分だけは経営管理者とスタッフの中間に置かれているのは、択肢生成が「選択そのもの」をコントロールする力があることに注意を促すためである。経営管理者が「ありうる選択肢」について考える作業を一切放棄してしまえば、この種のスタッフによるライン管理者のコントロールが蔓延する恐れがある。
また、権力を強めたスタッフ部門の中には、問題の認識・定義自体を自ら主体的に行うものも出てくる。その問題の認識・定義がたしかに全社的に見て有効なものである場合もあるが、同時に、現場の問題と結びついていないスタッフの言葉遊びによって、実在しない問題が創作され、全社プロジェクトが形成されることもある。
組織デザインに用いられるメカニズムは、どのようなものでも完全にプラスばかりのものはない。常にプラスの面とマイナスの面と両方がある。マイナスの面が強く出ないように気をつけながら、プラスの面をうまく活用するというのが組織設計の基本である。スタッフもその一例に過ぎない。
ヒエラルキーはまず第一優先順位の相互依存関係をグルーピングし、そのうえで第二優先順位の相互依存関係が次に緊密に相互調整しやすいようにグルービングする、という順序で複数の階層をもって形成されていくのである。これまでの議論を要約しておこう。
①潜在的相互依存関係分業によって成立した個々の職務は、潜在的に複数の相互依存関係をもっている
②戦略的に重要な相互依存関係その相互依存関係の中で何が最も主要な調整を必要とるものになるのか、という問題は、職務そのものに備わった特徴というよりも、市場競争において何が成功要因であるのかとか、企業が競争上の武器として何を重視しているのか、という環境や戦略によって決まってくる。
③グルーピングによる情報処理効率化市場からの要請あるいは企業の主体的な戦略によって決まる決定的な相互依存関係をもつ職務を、できるだけ同じ組織ユニットにグルーピングすることで、最も頻繁に相互調整を必要とするユニットが近くに置かれることになる。近くに置かれた組織ユニットは、共通の上司までの距離が短いので、ヒエラルキー内でやりとりされるコミュニケーションの数が少なくて済む。だから、競争上最も重要な相互依存関係を決め、それを最もコンパクトな組織ユニットにまとめる努力を行うことで、相互調整のための情報処理効率が高くなる。
④第二位・第三位等の重要度をもつ相互依存関係同様に、優先順位第一位の相互依存関係をグルーピングした後で、次に相互調整を必要とするユニットをグルーピングする、といった手順を繰り返すことで情報処理率の高いヒエラルキーを構築することが可能である。
このようにして、組織全体のパフォーマンスを犠牲にして自分自身の組織内における価値を高め、達成感を獲得していく、ということが生じる可能性がある。本来、調整の必要があった部門間を、さらに互いに遠ざけてしまうという問題が調整担当職を置くことで発生する可能性がある。この問題を解決する方法は、基本的には二つある。まず第一に、直接折衝しないで媒介者を置くが故に発生する問題なのだから、できる限り直接対面状況で意見交換する機会を設けることである。直接折衝を毎日行わないまでも、週に一回とか、月に一回といった頼度で小人数の会合を開き、互いに直接意見を言い、それを聞く機会を設けることで、互いに遠く離れすぎないようにすることが可能になる。
二つ目の解決策は、調整担当職に応分の権限と責任を与えることである。プロダクト・マネジャーや事業部長など、B製品の市場における経営成果に責任を負わなければならない立場に置かれれば、自分自身の組織内の存在価値を高めることと組織の業績向上を追求することとが矛盾する可能性は低くなる。事業の成果そのものが、自分自身の存在価値そのものになるはずである。それ故、応分の権限と責任を付与された管理職として調整を行うようにすることで、媒介者の権力がX事業部の業績を低下させる危険性を回避することができるはずである。
企業組織が追求するものはオペレーションの効率性ばかりでなく、戦略の創発や人材の育成など多様である。それら多様な目標を念頭に置き、その時々の環境や目標に応じて、組織デザインに適宜若干の補正を施し、オペレーションの効率性追求を若干犠牲にしながら、他の効果を手に入れられるように舵取りをしていく。組織デザイナーの仕事とは、このように多元的な効果をダイナミックにバランスさせていくために、その都度状況に合わせて多様な手段を折衷主義的に組み合わせいくものなのである。
言い換えれば、組織デザイナーは、純粋な原理主義者のように振る舞うのではなく、一見無節操な現実主義者のように振る舞うのである。だが、実際には、現実に合わせて折衷主義的にならざるを得ないが故に、かえって業や調整の原理原則を深く理解することが不可欠である。本書がそのような原理原則の理解に若干でも貢献できれば幸いである。
キツネの権力の予防法
ここまで考えてくれば、キツネの権力が発生しやすくなる仕組みがどのようなものかの見当もついてくるであろう。論を先取りすれば、複数の部門の調整を担当するポスト(リエゾンと言う)を作らないこと、できる限り直接当事者が話し合うようにすることである。当たり前なのだが、多くの企業人が逆の選択をする機会も多いので、簡単に解説を加えておこう。
まず、キツネの権力が発生してくる典型的なプロセスは、高度な分業から始まる。分業を高度に進めていくと、異なる部門で異なる志向性が発達する。そうなると複数の部門をまたがる調整が難しくなっていく。利害も対立するし、言葉づかいすら異なる場合も出てくる。この志向性の相違にどう対処するかがキツネの権力を生みだすか否かの分かれ道である。