小山田浩子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「この工場何かがおかしい」という帯の煽り文に誘われて書店で購入。
表題作「工場」はどこか異様な巨大すぎる「工場」と、そこで働くやはりどこか変な人々を描き、現代に対する皮肉・批判的な視点がある。
とにかく文にあふれる皮肉や過剰さ、違和感が面白く、ストーリーの引きやキャラ萌えが無くとも、文字を読むこと自体が楽しい場合があると気づかせてくれた小説であった。
この本を買って以来、同じような出会いを求めて書店を彷徨うようになったが、いまだに小説ではこれ以上のものには出会えていない。
表題作以外では、「ディスカス忌」はユーモア控えめでさみしげ、「いこぼれのむし」は文章ににじむ悪意に胃もたれ気味だった。
全体通して読んだあとに振り返ると、「工場」も、主人公の兄の恋人が嫌な感じだとかは余計のような気もしてくるが、そういうリアルな嫌さと、非現実的なスケールのどこかファンタジーらしい工場の描写がミスマッチに地続きであるところにポイントがあるのかもしれない? -
Posted by ブクログ
もし目の前に「穴」があいていたら何が居るのか覗いてみたくなりませんか?
本書はまさに「最近退屈だー、刺激がほしい」という人には劇薬のような作品かもしれない。
物語は夫の転勤で田舎に引っ越した主人公が散歩中に見慣れない黒い獣を追い掛けタイトルにある通り「穴」に落ちるというちょっと間の抜けた話。…のはずが読み進めていくと不穏な空気が漂い始め「あれ、何かこれちょっとヤバイ系?」と背筋がうすら寒く感じ、得体の知れぬ怖さがひしひしと伝わってくる。
正体不明の黒い獣、毎日延々と庭に水を撒く義祖父、存在しているのかどうか分からない義兄、なぜか線香の臭いを放つ世良さんと謎のともちゃん、この世かあの世か分からぬ川、現状から抜け出そうとしない主人公の不気味さ、全てのパズルのピースがどこにも嵌まらない。
今まであったものが形を変えてしまい現実なのかあの世なのか?
気付いた時には境界線が分からない不条理な世界観。
著者の描く穴とは一体全体なんだろう?穴にもいろいろあるが、人生の落とし穴や危険な虎穴、死の墓穴、急所や弱味を意味する穴、心の穴、心の空洞などなどたくさん。
『穴』というたった一つの短い言葉に内包された多彩な意味が、本書の多くを語らない文章が
読み手の思考をオーバーヒートさせる。
その不気味さはタイプ的には今村夏子の『あひる』に良く似ていて『あひる』が穴に落ちて住みついてしまったかのような読後感だった。
心のなかではもう少し分かるように語ってくれよと思いつつ、描かれていない余白を咀嚼し「結局あの「穴」は何?実はあーなんじゃないか?本当はこうなんじゃないか?」と無限に涌き出てくる答えを想像すること。
明確な結末はなく、残るのは違和感とモヤモヤだけ。
でもその正体不明の何かを考える作業は私にとって楽しい読書体験であり、気付けば読書の『穴』に陥ってしまったようで本書の面白味はきっとここにあるのではないかと感じました。
本書を読み終えてひとつだけ確信したこと、それはどんなに恥ずかしいことや嫌なことがあってもこんな穴だったら「穴があったら入りたい」とは決して思えない、そんなインパクトのある一冊だった。 -
Posted by ブクログ
祖父母の戦争体験を聞き綴った2人の小学生の作文。教師から称賛されるも、子どもならではの脚色等があり、その後の現代パートへ波及します。
記憶とは? 継承とは? 物語のもつ意味や力、体験の聞き取りの再構築は真実か、複雑な世の中への向き合い方等々、本書を読みながらそんなことをつくづく考えてしまいました。
小山田浩子さん初読でしたが、思いの外軽やかな筆致で、重い問題提起をされながら最後に上手く爽やかにかわされた感じです。でも、この120ページ程度の中編小説は一読の価値ありと思いました。全ては読み手の受け止め方次第なんでしょうね。
むかしむかーし、若者の「無気力・無関心・無責任」気質を指して、「三無主義」と呼んだ時代がありました。特に政治や社会問題に対して冷めた態度をとり、「しらけ世代」と嘆かれることも…。
翻って現代は? 戦争は身近にあるものの、私たちは日々の生活に疲れ、「我関せず」「他所ごと」で、少なくとも戦争に関する「三無主義」は大人にも多く、二極化が顕著な印象です。
首相の「非核三原則」見直し検討報道だとか、その他諸々に「えーっ!」と思っても、諸外国のように行動を起こすエネルギーがないのが日本人? あ、SNSでの陰湿さ過激さは得意?
戦後80年の今年、私たちが戦争と平和へ関心をもつきっかけをくれる作品と思えました。 -
Posted by ブクログ
ハンドレッドミニッツノヴェラ
約100分夢中で読める中編小説。
よく行く書店の新刊コーナーで、
金原ひとみさんの「マザーアウトロウ」と言う作品の横に棚差しで陳列されていた本書。
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戦後80年
広島生まれの芥川賞作家が
いま“戦争”について描く
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書店を見回すと各コーナーには
戦争にまつわる本が複数展開されていて。
夏休みだもんな〜、そーゆー時期だよな〜、
でも重たいのは読めないなあ、
と見送っていたんですが、
本書ならばと思い、手に取りました。
子どもの頃の夏休みの宿題、
戦争体験者から話を聞いて作文を書く。
小学生、教師、家族、クラスメイト。
戦争について考える。
広島の原爆の話も出てきます。
少し遠い過去の戦争だけれど、経験者が近くにいて。
作文の内容は戦争のことを書いているけれど、
実体験のない小学生たちの日常の言動(悪ふざけ等のの罪とも呼べない小さな罪)が差し込まれる。
そして、ロシア、ウクライナ、パレスチナ、
あちこちで戦争や軍事衝突が起こっている。
自分の中の遠近感が狂うというか。
戦争を知らない世代として生まれたのに、
今この瞬間に地球上で戦争が行われている。
どこかで何かが違っていたら、
ということを考えさせられました。
本当に100分ぐらいで読めるので、
本がなかなか読み終わらない!という焦り(を感じたりします、私。苦笑)もなく、ちょっとした達成感もあるのでおすすめです。 -
Posted by ブクログ
一歩外から見ると仕事とかその中での人間関係ってこんなに気色悪いものなんだけど、自分が働いている時にはあんまり気付けない。
常々仕事なんかクソだと思いながら働いている私からするとかなり共感できる部分が多いけど、分からない人には全く刺さらないだろう。
『工場』は労働と人間の関係が抽象的というか、引いた目線で表現されているのに対して、『いこぼれのむし』は労働によって無作為に集められた人間のどうしようもない相容れなさを近い視点で描く。正直かなりキツイ、同僚は家族だなんて言うやつは個人的にはぶん殴りたいと思う。どちらかと言うと私も職場から排斥される方だろう。
三編ともに人間以外の生き物に存在感がある。物語に生々しさが出ていて、大体それは気色悪さにつながる。『ディスカス忌』は特にそれが強い。