小山田浩子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレたとえばマタハラと言ってしまえば簡単に済むが、
(「工場」においては非正規労働の過酷さと済ましてしまう読みもあり得たように)
生理的な居心地悪さを提出する、その手つきゆえに、ホラーであり幻想小説である読後感が生まれる。
人が人としてあるだけで、人が人と関わるそれだけで、必然的に歪みが生じる。
あとは気づくか気づかないかだけで、多くの人は意図的にか無意識には見過ごしている。
それを作者は見る。
カメラでぐいーーっとズームしていくように。(デヴィッド・リンチ「ブルー・ベルベット」の冒頭)
目地も肌理もすべて書き尽くす。
気持ち悪いくらい接写する。
■うらぎゅう★
■彼岸花★
■延長
■動物園の迷 -
Posted by ブクログ
ネタバレ表題作の『穴』が面白すぎる。
世間から張り巡らされた抑圧の描写に胃が痛くなり、散歩道に生えた草木の生々しいにおいを感じ、リアルに次ぐリアルに舗装された物語の道に、突如小さく変な穴が空く。変な奴らが登場する。黒い獣、存在を隠匿された義兄。変だけど、それぞれに生態や道理があって、地に足をつけて生きている。変だし不気味だけど、ユーモラスで憎めない。
誰しも「普通」や「まとも」に息苦しさを感じて、「ここではない世界」を夢見たことはあると思う。『穴』で表現されるのは、あまりにショボくて滑稽で、それなのに泣きたくなるような「ここではない世界」なのである。私も穴に潜り、黒い獣の湿った鼻先を感じたい。 -
Posted by ブクログ
よく分からない、一体なんの話なの?って感想が多いみたいで漏れなくあたしもそうなんだけど、それがつまらないってことではないんだよな。このなんだかよく分からない、不思議、モヤっとするのが芥川賞っぽいというか笑 読みやすく、直ぐにこのなんとも言えない世界へ引き込まれた。結局、主人公以外の全員が不気味で少し怖い。田舎特有のご近所のことは何でも知ってて、いつでも見られてる感じ。ひー!何か変だなぁと思うことがあっても、葬式とかその地の風習を経験して、そこで仕事をしてそこの人達と触れ合って、受け入れて、慣れていくんだよねぇ…。隣組みたいなものが悪いってわけではないんだけどもさ。
他の作品も読んでみたい。 -
Posted by ブクログ
もし目の前に「穴」があいていたら何が居るのか覗いてみたくなりませんか?
本書はまさに「最近退屈だー、刺激がほしい」という人には劇薬のような作品かもしれない。
物語は夫の転勤で田舎に引っ越した主人公が散歩中に見慣れない黒い獣を追い掛けタイトルにある通り「穴」に落ちるというちょっと間の抜けた話。…のはずが読み進めていくと不穏な空気が漂い始め「あれ、何かこれちょっとヤバイ系?」と背筋がうすら寒く感じ、得体の知れぬ怖さがひしひしと伝わってくる。
正体不明の黒い獣、毎日延々と庭に水を撒く義祖父、存在しているのかどうか分からない義兄、なぜか線香の臭いを放つ世良さんと謎のともちゃん、この世かあの世か分か -
Posted by ブクログ
一歩外から見ると仕事とかその中での人間関係ってこんなに気色悪いものなんだけど、自分が働いている時にはあんまり気付けない。
常々仕事なんかクソだと思いながら働いている私からするとかなり共感できる部分が多いけど、分からない人には全く刺さらないだろう。
『工場』は労働と人間の関係が抽象的というか、引いた目線で表現されているのに対して、『いこぼれのむし』は労働によって無作為に集められた人間のどうしようもない相容れなさを近い視点で描く。正直かなりキツイ、同僚は家族だなんて言うやつは個人的にはぶん殴りたいと思う。どちらかと言うと私も職場から排斥される方だろう。
三編ともに人間以外の生き物に存在感がある