【感想・ネタバレ】庭(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

私は夫と離婚をする。そのことを両親に報告せねばならない。実家へ向かう路線バスのなかで、老人たちがさかんに言い交わす「うらぎゅう」。聞き覚えのない単語だったが、父も母も祖父もそれをよく知っているようだ――。彼岸花。どじょう。クモ。娘。蟹。ささやかな日常が不条理をまといながら変形するとき、私の輪郭もまた揺らぎ始める。自然と人間の不可思議が混然一体となって現れる15編。(解説・吉田知子)

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Posted by ブクログ

何気ない日常のような文章
ひとつひとつ細かく細かく
描写される
どこか懐かしかったり
どこか自分のことのような
でも
なんだか不気味さが漂っている
何かが起こるわけでもない
ちょっとだけ
なにかが背筋をゾワッとさせる

文章の段落がなく
たたみ込むようにセリフが
連なる
それがまるで本当に自分が
物園の中で
騒がしい雑踏の中で
途方に暮れている気分に
させてくれている
あるいはオタマジャクシや
カエル、蜘蛛、蟻、草や木の実
すべてが生きている
今、ここで生きている

その中で人々の心の中が
見え隠れして
また日常が過ぎていく

怖い、ホラーだ!


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2025年11月28日

Posted by ブクログ

じわじわと張り付くような不気味さ、これもっと読みたい!と思いながらページを捲ると終わってしまう手軽さ、たまらないです。

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2025年03月05日

Posted by ブクログ

小山田浩子さんの短編集「庭」を再読した。はじめて読んだ小山田さんの作品はこの短編集に収録されている「名犬」という短編だった。そのときは話に聞いていた彼女の“文体”が気になっていて手に取ったから、作風やあらすじも全く知らない状態で読みはじめた。

語り手がその場で見たものや聞いたもの、嗅いだ香り、触れた手触り。状況、会話、行動。そこにあった思いや感情。それらが的確でソリッドな短い文章で表され途切れることなく連なっていく。改行が殆ど入らないその文章は頁いっぱいに拡がり、そこに書き出される世界が、文字が詰まっていることで少し黒っぽく感じる頁と一緒に迫ってくるような気がした。世界を出来るだけ削ぎ落とさずに小説に収めるとこういった文体になるのかもしれない。違うかもしれない。しかし、たしかに特別な“文体”だ、そう思った。状況が質感があるように浮かんでくる、感情が重く伝わってくる。“リアリティ”を作り出す“文体”。同時にこの少し異様にも感じてきた文字が溢れそうな頁自体の迫力、魅力にも圧倒される。フィジカルな本というフォーマットで小説というアートに触れるとき、そこに印刷された文字、文章の意味は勿論中心で重要だけれど、それらが印刷されることで出現する、してしまう文字、文章、文体が作り出すデザイン、ビジュアルも同じように重要なのだ、とそんなことも考えはじめる。考えはじめると、彼女の文体とそれが作り出す頁は、それ自体でも素晴らしいアートなのだ、と思いたくなる。それも同じように楽しむのが読書だ。

さて、「名犬」の話。
先走ってずっこけてしまう手前勝手なパートナーの不機嫌さ、気を遣われつつも、言葉にはしないけれどたしかにある子供を期待されているプレッシャーを感じる義実家、義父母。彼、彼女らとその場で過ごす居心地の悪さや気まずさ。ところどころで現れる妊娠出産のイメージ、そこに注目してしまう自意識、不甲斐なさのような不安。あの文体に覆い被される様に読み進めていくと、小説を読んでいるというよりそれらを体験しているように“リアリティ”が染み込んできた。わたしはそれらのシュチュエーションを体験したことは無いけれど、それでもそこでの自分の立ち振る舞いや気まずさを“思い出して“しまうような気がしてきて少し震える。ああ、こういう小説でしたか、たしかにこの文体で書かれる、この文体だからより書ける小説ですね、と震えながら腑に落ちてくるものがあった。
中盤、夫婦が田舎、義実家から一時間の“秘境”の温泉施設に訪れたあたりから、その居心地の悪さや気まずさのなかに違和感が湧き上がりはじめる。露天風呂で盗み聞いた聞き/読み慣れない方言や感嘆符で交わされるおばあさん2人の会話、ここでも妊娠出産の話か、とうんざりしはじめたところで聞こえるはずのない義母の声で聞こえてくる、読むことになるある言葉。あれ、そういう話……と思いながらも、これはプレッシャーやストレスが聴かせた幻聴か、聞き間違い勘違いか、とわたしも、多分語り手もやり過ごしながら物語と読書は進んでいく。
しかし、おばあさんたちの会話から予期せず仔犬を貰い受けることになる終盤、子供の代わりの犬、みたいなのは良くない勘ぐりですよね、と思いながらもこれはある程度良いところに落ち着くのでは、と予想しながら読んだ最後のセンテンス、そこでもう一度避妊手術を控えた犬から聞こえてくる、読むことになる、あの言葉に震えた。その一言で、文字、文章で厚く覆われた”リアリティ“のベールの端が捲られた。不意に見せられたベールの向こう側に驚いた。少し怖かった。わたしの世界の端も少しだけ捲れた気がした。世界にはわたしが想定、想像していなかったような物事があるのかもしれない。小説フィクションがもつ”リアリティ”にそう思わされていた。さっき話した職場のあの人や、今電車で隣に座っているこの人にも、わたしが知らないだけでこんな体験があるのかもしれない、そんな想像もはじまる。”同じ世界“を見ていたと思っていた人たちが見ている世界は、実は少し違う世界なのかもしれない、そんなことまで思いはじめる。世界が少しズレはじめた気がした。小説、数十頁の短編ひとつで世界が少しだけズレるような、見方が変わるようなことがある。わたしはそんな小説が読みたい、そんな読書という体験がしたいのかもしれない、と気がつく。この短編は不意打ちのような驚きも(後に深沢七郎の「みちのくの人形たち」でも同じような体験をすることになる)あったけれど、たしかに読みたかった、世界の見方を変えてくれる素晴らしい短編小説だと思った。犬の描写もかわいかった。そこも素晴らしい。
ああ、そうだ、文庫版の最後の一頁の一行と二文字、その後は空白という“デザイン”もとてもカッコ良いと思ったのだった。

思いの外長くなってしまったけれど、もうひとつ文体の話。
「動物園の迷子」という別の一編にある、その場の喧騒や会話に過去の記憶の言葉、内外で起こっていることが、ここでは句読点すら使わずに途切れることなく書き連ねられている部分に驚いた。驚いたけれど、世界というのはそうやって過去と現在が混じり合った状態で捉えているものなのだ、とも思った。それは小説、文章にしてしまうと読み難いし分かり難くもあるのだけど、その”難い“部分も含めて人も世界もそういうものだとも思うし、小説の文章の魅力というのは、そういう“難い”部分にあるのだ、とわたしは思っているのだった。しかし、これが書けてしまうのは凄いことだな、とも思う。凄まじい小説力である。
物語自体はいくつかのエピソードや時間が入れ替わり溶け合い、よく“わからない”まま“心が温まる”気もしてくるラストに着地する。もしかしたら妥当な解釈や読み解きが出来るのかもしれないし、そうすることで読み心地も変わるのかもしれないけれど、その“わからなさ”もまた小説の魅力だと思っているわたしは、わからなさをあたたかさと一緒に暫くの間は抱きしめておきたいと思ったのだった。こちらもまた凄い一編である。

その他の短編たちもとても良かった。それらは心構えをして読んだし、既にベールが捲れていると感じたりするものもあって、ちょっとある種の実話怪談を読むのにも近い感じで読んでいた。
少し怖いけれど、特別な体験が出来た確実に素晴らしい短編集。

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2024年12月13日

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ネタバレ

たとえばマタハラと言ってしまえば簡単に済むが、
(「工場」においては非正規労働の過酷さと済ましてしまう読みもあり得たように)
生理的な居心地悪さを提出する、その手つきゆえに、ホラーであり幻想小説である読後感が生まれる。
人が人としてあるだけで、人が人と関わるそれだけで、必然的に歪みが生じる。
あとは気づくか気づかないかだけで、多くの人は意図的にか無意識には見過ごしている。
それを作者は見る。
カメラでぐいーーっとズームしていくように。(デヴィッド・リンチ「ブルー・ベルベット」の冒頭)
目地も肌理もすべて書き尽くす。
気持ち悪いくらい接写する。

■うらぎゅう★
■彼岸花★
■延長
■動物園の迷子★
■うかつ
■叔母を訪ねる
■どじょう★
■庭声―谷崎潤一郎「鶴唳」によせて
■名犬★
■広い庭★
■予報
■世話
■蟹★
■緑菓子
■家グモ

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2022年08月12日

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短編集なのに、重厚感。
最初の「うらぎゅう」から、とにかく気になり、ぞわぞわした。匂いや質感、いろいろ感じられる文章。とくに会話文が好き。

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2021年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めて手に取った『工場』ではまり、『穴』そして本作と読み進めてきた小山田浩子。
ストーリー自体は幻想的で、ざわっとするようなできごとも含まれていて、ほぼ主人公の視界の範囲から外れていないのだけれど、圧倒的な描写力(文庫版の帯で津村記久子が「とても小さなことを書いているのに、ものすごく奥行きのある小説」と述べている)で、短編集なのに、それぞれの話ごとに読みごたえを感じる。
小説好きの全ての人にお勧めしたいけど、虫が絶対ダメって人は、少し覚悟してどうぞ。

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2021年06月14日

Posted by ブクログ

情景など綿密に描写されるありふれてそうな日常を追いかけているうちに、気が付くとありふれているようでそうではない、心がざわざわする世界に誘い込まれてしまっていて。
「彼岸花」と「名犬」が特に好きだった。「名犬」の婆さん2人の会話が最高。
あと、普通そこをきっかけに物語が始まっていくもんだろうというタイミングでスパッと話が終わる「延長」になんだか痺れてしまった。


1年ぶりに再読して改めて思うが、何も家グモを最後に持ってこなくてもいいじゃん…

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2024年11月02日

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リアルな日常の中に、謎の行事「うらぎゅう」や、裏庭の井戸のどじょうをすくいにくるご近所や、校庭を歩き回る蟹などの奇妙な出来事が忍び込んでくるのが、なんとも言えず気持ち悪くて癖になる。
何を伝えたいのかよくわからないのに惹きつけられるのは、現代版内田百閒といった風情がある。
他の作品も気になる。

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2024年09月21日

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著者の本は「穴」、「工場」を既読だが、独特の文体が楽しめた.15の短編集だが、匂いに注目している場面が多いと感じた.記憶していることに匂いが連動していることはよく気が付く現象だと思っているが、著者の感覚の鋭さにも関連しているようだ.蟹やクモに注目しているのも意外性があるが、著者の感性に触れるものがあるのだろう.現実とは少し乖離した世界を漂うような感触が得られる好著だ.

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2023年05月21日

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淡々としてて何気ない日常が書かれているように見えて、なんだかゾッとするような不気味さが残る短編たちでした。

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2021年08月22日

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一見普通の話のようで、最後数行で、えっ、てなる話の数々。後書きにもあるが、いろんな虫やどじょうや蛙や、苦手な自分からすると薄気味悪い生物がたくさん出てくるが、作者はそれが好きらしい。子供を産むことを期待される嫁(女性)の話がたくさん。避妊手術をした犬が最後に姑のように「ウマンテカ」という『名犬』とか、文学。

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2021年08月19日

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短編15作
どれもそんなに長い話ではないけど、たっぷり読んだ感
この少ない文字たちで、どこか別の場所に連れていかれる不思議
知ってるような、どこか経験したような、理解を超えた理解は妙にリアル
好物のダルスープよろしく、どう美味しいは説明できないけど最初から好きでずっと好きみたいな

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2021年02月03日

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15の物語からなる短編集
どれも不思議で不穏で意味不明なお話ばかり、だけどクセになる
私がすきだった物語は『動物園の迷子』
読んでいるうちに語り手がどんどん入れ替わり自分が今読んでるのは誰の事なんだろうと迷子になってしまう
ほんとに不思議な作家さんだなあ

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2025年03月16日

Posted by ブクログ

描写が細かい。私はそこまで思考しないから共感はできないが、常に思考する人はそういう気持ちで過ごしてるのだろうと感じれた。

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2024年08月20日

Posted by ブクログ

⚫︎受け取ったメッセージ
虫のような小さな生き物、匂い、共通して庭も登場する短編15篇。

何か引っ掛かる。何かゾワっとする。
日常に起こりそうな不穏。
生きるということは、いつも不確か。

不確かだからこそ、惹きつけられる。


⚫︎あらすじ(本概要より転載)
私は夫と離婚をする。そのことを両親に報告せねばならない――。
日常の不穏と不条理を浮き彫りにする15編。
芥川賞受賞後初となる作品集、ついに文庫化!

実家へ向かう路線バスのなかで、老人たちがさかんに言い交わす「うらぎゅう」。聞き覚えのない単語だったが、父も母も祖父もそれをよく知っているようだ――。 彼岸花。どじょう。クモ。娘。蟹。ささやかな日常が不条理をまといながら変貌するとき、私の輪郭もまた揺 らぎ始める。自然と人間の不可思議が混然一体となって現れる15編。

目次
うらぎゅう
彼岸花
延長
動物園の迷子
うかつ
叔母を訪ねる
どじょう
庭声
名犬
広い庭
予報
世話

緑菓子
家グモ


⚫︎感想
実家の部屋だったり、借りた家の庭だったり、何が潜んでいるかわからないものに対する畏怖。これらの短編たちから、生物としての人間を強く思わせられる。身近な人であっても不確かさを含んでいる。

ちょっと不穏で不確か、でも描写が克明なので、場面の印象をくっきりと強く感じた。

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2024年01月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2022年、34冊目です。

小山田浩子さんの短篇集です
主人公の目の前にある情景を、注意深く正確に描写していく文章は、
作者の文章の特徴です。どうでもいいような些細な日常を精緻に描いていく中に、
ふと感じる違和感が、ところどころに埋め込まれています。
そして、物語の最後に、その違和感の顛末が出てきます。
それは、少し奇妙な顛末になることが多いのですが、
それまでの文章が、淡々と事実を描写しているので、
一層、その顛末の奇妙さが印象付けられる感じを受けます。

これまで、「工場」、「穴」などの作品も読んでいますが、
「工場」に代表されるように、主人公の女性が、工場で働いている物語の最後に、
工場の中にたくさんいる黒い鳥になってしまうような”奇妙さ”が、
多くの物語に通底するものだと感じています。

おわり

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2022年08月20日

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