【感想・ネタバレ】工場(新潮文庫)のレビュー

ユーザーレビュー

Posted by ブクログ 2019年01月12日

小説家・小山田浩子氏の最初の単行本です。芥川賞受賞作『穴』がなかなかおもしろかったのでこちらもと思いつつ忘れていたところ文庫化されて駅前の書店に積まれていたので読んでみました。

『穴』はもうストーリーは忘れてしまったのですが、断片的な映像だけは思い出せる不思議な作品でした。今回も丁寧に、またある種...続きを読む執拗に情景を描きつつ、唐突にやってくるカットアップ的視座転換や、冷たい隙間風を入れる緊迫したフレーズなど、「工場」という地味な舞台設定ながら非常に鮮烈で、何かぐぐっと強く押されるような感覚が残ります。

収録されている3作品とも、すっきりしたストーリーにはなっておらず種明かし的なものはありません。短編『ディスカス忌』からは独特の切れ味が感じられます。切れ味爽快と表現したい何かがあります。『いこぼれのむし』は少しゴツゴツしてて人物描写は比較的わかりやすいものの、著者の本領はこっちじゃない、という気がしました。

金井美恵子氏のあとがきにもある通り、そこはかとないカフカを感じないではいられません。特に表題作は、わたしの大好きな『城』へのオマージュを勝手に写し重ねつつ読んでおりました。

著者が描く舞台は一見どこにでもありそうな日本の会社。とても現代的。だけどそんな現代日本のカイシャにも(あるいはだからこそ)、延々とあの不気味な音は響き続けています。そしてそれはかならずしも否定されるものではなくて、こうして言葉ですくい上げられて、ある種の美しさを帯びた様を眺めることもできるものです。引き続き注目の作家です。

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Posted by ブクログ 2019年07月05日

ミステリ的な起承転結のはっきりしたものではないので、好みが別れそう。
いきなり終わる。
全体的に暗く曖昧で、各登場人物の気分や思いを細かく・時にバッサリと言い切る描写を読んでいくうちに、自分はいつしかハマり込んでいった。
なんだか分かんないけど、(あぁなるほどねぇ)とか(えぇ、そんなことで?!)など...続きを読むツッコミをいれつつ。

なんだろう…曖昧率のかなり大きいものなんだけれど、このジワジワ感に結構浸れる。
基本暗いですけど。

気になる作家さんです。
他の作品も是非読みたい。

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Posted by ブクログ 2019年02月25日

<工場>
牛山佳子:契約社員。一日中ひたすらシュレッダーをかける仕事(バイトにでもやらせりゃいいのに、と思うんだけど何だろうな)。正社員との扱いの違いに憤りを感じてる。
古笛:正社員。コケの研究をしているだけで会社には何も貢献していない感がすごい。
牛山(兄):派遣社員。前職をクビになり、彼女の働く...続きを読む派遣会社で雇ってもらい工場で校閲の仕事をしてる。
 以上の3人による一人称視点の描写が、語り手をくるくると替えながら続いてゆく。語り手の変化が非常に分かりにくく、時間も入り乱れており、リョサ『緑の家』を読んでいるかのような(あそこまでタイヘンじゃなかったけど)不安さがあった。
 
<ディスカス忌>
 語り手の知人の知人が金持ちの息子でろくに働きもせず結婚していない若い女性を孕ませちゃって、かたや語り手の奥さんは不妊で泣いてる話。
 タイトルは熱帯魚という、生殺与奪を金持ち息子に握られている存在。熱帯魚の命を「観賞用」としているように、誰かの命を「観賞用」程度にしか見ていない者もいる。

<いこぼれのむし>
 語り手がくるくる変わっていくなかで、職場の歪んだ人間関係が浮かび上がってくる話。基本的に全ての登場人物について、そいつを良く思っていない人間の評が付く(しかも悪い評が多い)ので、どいつもこいつも悪い奴に見えてくる。そんなことはないのだろうが。
 『工場』でもそうであったように、狭い空間の中で相容れないような人間達がギスりまくる。職場なんだしある程度キャラを演じて、あとは色んなコミュニティに所属することで自分を曝け出せる場所を見付けていったほうが健康的だよなあ、と自分では思ってしまうのだが、それも難しい環境ってのもあるのだろうな。いじめに遭っている小中学生が、他のコミュニティに逃げ道を見いだせないまま死んでしまったりとか。大人ならそうはいかない、なんて言えないし。
 どうでもいいけど、『工場』に小道具で出てきた「メンタルヘルス・ケアハンドブック~あなたもわたしもなやみにサヨナラ~」という冊子が出てくる。「大便のようなタイトル」(p.39)というがウンコは健康のバロメータであって、こういうの一応読んどいて自分の悩みを類型化してプリッと排泄してあげるのって結構大事だよなと思った。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年01月13日

乱暴に断定してしまうと、エンタメ文学とそれ以外を分けるのに「伏線を回収するか否か」という要素がひとつ上げられると思う。エンタメ小説の場合、伏線(らしきものも含む)がきちんと回収されてないともやもやが残るし、そこを批評の材料にされることも多い。
で、芥川賞作家、小山田浩子のデビュー作「工場」は、刺すが...続きを読む純文学系の人だけあって伏線らしきものは提示されるのだが、それを回収して納得できる作業をするのは読者側である。つまりは、謎が謎のままで解決は書かれない。
ネタの発想法は三崎亜記に似ているけど、もっとずっとダーク。日常の一本裏通りを走る非日常みたいなw
新潮新人賞の選評には「ライトなカフカ」というのもあったらしいが、なるほどそちらもしっくりくるなあ。
少し毛色が違うものが読みたいけど、あまりヘビーなものはちょっとという人にはおすすめかも?

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Posted by ブクログ 2019年08月27日

タイトルの「工場」を含む短編集。
綴られるのは工場だったり、非正規や役職者が入り交じるオフィスだったり、普遍的な場所ばかり。
でも、どことなく変で、気持ち悪い。
それは文中に登場する「ウ」や「芋虫」に現れている。
何かの隠喩だと思ったけど、1度読んだだけでは掴みきれなかった。
よくある日常を描いてい...続きを読むるのに、SFのような非現実のような不思議なにおいのする作品。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年03月02日

何度目かに契約社員としての職を得たこの町のシンボルともいえる工場はー『工場』
つい先日結婚祝いに尋ねた男が亡くなったー『ディスカス忌』
夫と食事をしていたらガリリと変なものを噛んでしまった。なにをやっても精彩を欠く「わたし」はー『いこぼれのむし』

えー・・・どう受け取ったらよいのだろうか。
こう・...続きを読む・・なんというか・・・展開されるお話のそこここに「正社員」と「非正規社員」を区別する言葉がたくさん出ていて、まぁ、それは世代的にも大きいことで非正規雇用の自分は社会的に劣っているのだという考え方が奥底にあるのだろうけれど。全体的に卑屈なお話たち。そして生理的な嫌悪が否めない。
お話の進み方は、語り手が同じ章でクルクルかわるので、場面がクルっとかわったら「えっと、さっきまでおつかいに出てたのは誰だっけ」と整理してないとごちゃごちゃになるかもしれません。それは新鮮で楽しかったです。
読後感は不思議というよりも「気持ち悪い」が先に立つ。
小難しいことは何もなく、文章もスルリと読んでしまうのだけれど・・・じわりとくる「うぉぇぇっ」(謎)という感覚が否定できない本でした。
こんなに否定的な言葉ばかり並ぶのに星が三つあるのは、文章そのものが淡々としていて的確で好みだったからです。
なんだかんだで読まされてしまった・・・という印象。

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