コーマックマッカーシーのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
19世紀半ばの米国。家出放浪の末、先住民討伐隊に加わった少年は判事と呼ばれる異形の大男に出逢う。著者の重厚で詩的な表現力を持ってすれば凄まじいまでの虐殺描写も神々しさすら感じさせる。まさに西部開拓版「闇の奥」
本作中の記述で二点気になる箇所有り。まず少年を討伐隊に引き入れるトードヴァイン。冒頭部で彼には「両耳」がないとされていたが、その後の文章ではそれが「片耳」になっていたこと。それから少年の年齢。物語の早い段階で19歳と記されていたはずなのに終盤では16歳と書かれていたこと。それとも不法入国戦士団の面接で少年が自分の歳を19と答えたのは鯖を読んでなのか? -
-
Posted by ブクログ
凄い言葉を生むための物語。
胸に押し当てたいほど美しいものは全て苦悩に起源を持つ。それは悲しみと灰から生まれる。
- 63ページ
かたちを喚び起こせ。ほかになにもないところでは無から儀式を創り出しそれに息を吹きかけよ。
- 86ページ
善意が見つけてくれるんだ。いつだってそうだった。これからもそうだよ。
- 326ページ
全て凄い言葉。言葉に、“凄さ”を付与するための話。
「火を運ぶ」という言葉が多義的に解釈されている。解釈に一側面を付け加えるならば、これは“律”だ。そして律は、人間の主観なしには作り得ない。人間が作るものには全てが信仰が含まれる。それは律であっても例外ではない。
世 -
-
Posted by ブクログ
荒野に放置された弾痕の残る車輛と複数の死体、多額の現金と麻薬を見つけたら、そのまま放置して警察に連絡するに限る。現金を持ち帰り、再度現場を訪れるようなことをすると、地の果てまで追われることになる。
冒頭から物語に引き込まれ、ストーリーや登場人物の行動、セリフに引っ張られ、終盤まで連れていかれる。章立て冒頭の保安官のモノローグの印象が残っているうちに、主人公と追手が繰り広げる逃走劇が脳内に入り込んでくる。ストーリーが脳内に入ってくるのは、著者の作品『ロード』でも同じだ。その文体がそうさせるのだと思う。
主要な登場人物はすべて戦争経験者だ。オールド・メンの条件が戦争経験のように思うが、ア -
-
Posted by ブクログ
舞台は1940年代のアメリカ・メキシコ国境地帯。主人公の少年は、三度び国境を越え、馬に乗ってメキシコの地を延々と放浪する。
一度目は捉えた雌狼を生まれた地に送り届けに、二度目は盗まれた馬を取り戻すために、三度目は生き別れた弟を探しに。
主人公は孤独な旅を逞しく続けるが、その過程であらゆるものを抗いがたい暴力によって喪失していく。
壮大で厳格な喪失の物語である。
文庫本で600ページを超える大作だが、最初の1、2ページを読んだところで、あまりの読みにくさに挫折しそうになった。
独特な言葉遣いと長いセンテンス、詩的な情景描写、短い言葉を交わすだけのダイアログ、場面の切り替わりのわかりづらさ。
心 -
-
Posted by ブクログ
ネタバレ物語の大半の舞台となっている、生きものを寄せつけず死体をすぐにからからに干からびさせてしまうアメリカ西部の岩だらけの原野のようにゴツゴツとした文体は、最初は読者を拒絶するようでもあるが、読み進めるうちになぜかペースに乗せられてしまう。何しろ長いので、読んでいるうちに慣れてしまう。むしろハマってしまう。
当たり前のように虐殺シーンが続くが、それが当然の時代だったというわけでもなく、この時代にあっても特に荒くれ者の(実在した)頭皮剥ぎ集団に身を置くことになった少年の物語。物語の終わりには少年ではなくなるので、ある意味ではビルドゥングスロマンに相当するのかなと思った。
感想を書くのは難しいが、何とな