コーマックマッカーシーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
この著者の作品を読んだのは『ザ・ロード』以来の2作目でしたが、これは読み手を選ぶ作品ですね。自分の場合、初読時はまったく乗れませんでした。インディアンの狩りが延々続くストーリーは単調だし、映像化不可能かつPTA有害図書指定確実な極悪非道で残虐なシーンのオンパレードに辟易。極めつけは時折出てくる句点で区切らない異常に長い文章で、読みにくいったらありゃしない・・・といった印象だったのですが、頑張って読み返してみるとこれはこれでなかなか味があるようにも思えてきました。
本作のキモはホールデン判事が語る言葉の数々であることは疑いようがありません。自分が一番シビれたのは「人間が登場する前から戦争は人間を待っていた。最高の職業が最高のやり手を待っていたんだ」でしたが、これを始めとした生と死、善と悪、神と人間といった哲学的な内容にリアリティを持たせるための舞台装置として、先述した残虐なシーンとか、シンプルなストーリー展開とか、読者に緊張感を与える長い文章とかを揃えているんだな、と解釈しました。そう考えると著者の伝えたいことは伝わってきたし、これも一つのオリジナリティだとすれば、好きなタイプの小説ではないけれどまあ悪くもないかな、と思えてきました。
正直誰にでもお勧めできる作品とは言い難いのですが、現代小説に物足りなさを感じている人、硬派で歯ごたえがあるスルメのような作品を欲する人であれば、かなり楽しめるのではないかと思います。 -
Posted by ブクログ
国境三部作以降しか読んでなかったので、かなり驚いた。そこで主人公たちは、ひたすら謙虚に慎ましく生きるものとして描かれていたからだ。レスター・バラードは怖れ、毒付き、卑小な欲望に流され、涙を流し、生にしがみつく。ある意味、それらの主人公たちよりも人間らしいと言えるかもしれない。これはコーマック・マッカーシーが絶対悪を描き始める前に、人間の卑小な悪、それこそが本質だとでも言うように描いたものだ。ただ、やはり精緻な日々の営みや、自然の描写は詩的、神秘的で美しい。氏の作としては短く、読みやすい。っても、子どもにオススメできるような内容じゃないけど笑
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Posted by ブクログ
1994年発表 、コーマック・ マッカーシー著。少年ビリーは家畜を襲っていた狼を捕らえた。狼を故郷の山に帰すためにメキシコへ一度目の越境するが次々に悲劇に見舞われる。そして弟のボイドとともに二度目の越境、更に三度目の越境と連なり、ビリーは全てを失ってしまう。読点を極力省いた息の長い文章、鉤括弧を使わない独特な文体。
マッカシーらしい荒野を馬で旅するロードノベルといった小説だったが、かなり哲学描写に振り切っているため全体的に神話を読んでいるような印象があった。純粋に話として面白く美しいのは前半の狼を帰す一度目の越境だろう。狼の存在が気高くて生々しく、読んでいると泣きそうになってくる。しかし中盤以降に登場する「崩れかけの教会に住み神に議論を挑む男」「目玉を吸われ盲目になった元革命軍兵士」「墜落した飛行機を運ぶジプシー」の挿話も捨て難い魅力がある。三つとも一見シュールな状況なのだが語られる哲学的考察はあまりにシリアスで、それだけで一つの小説として成り立ちそうな密度がある。二度目・三度目の越境自体はやや冗長な気もするが(特に馬を取り返そうとするシーンは「すべての美しい馬」とかぶっている)、これらの挿話を挟むためには必要だったのだろう。
それにしてもマッカーシーの小説を読んでいて感じるのは、獣・人間が荒野に均等に配列されているという印象だ(そして荒野の上空には「神」や「運命」がある)。おそらく心情描写を徹底的に排除しているせいなのだろう。本小説における狼の親近感はここに起因しているに違いない。つまり、人間特有の心情描写を切り取ってしまえば狼と人間の区別はつかなくなる、ということだ。 -
Posted by ブクログ
数年前から読みかけの『ブラッド・メリディアン』を一旦置いて手に取った。連続殺人犯の物語である。起伏も抑揚もない会話にまっすぐに胸を突かれる。絶対的な孤独のうちに世界のなかを彷徨うとき、世界はどのように立ち現れ、人間はどのような本性をあらわにするのか。
凄惨さをきっちりと描き出しつつ、文章の美しさと立ち上がってくる情景、におい、湿度にはただただ驚かされる。それがどこか痛快な読み応えというのも、とてもいいと思った。小説として、素敵なことだと。どこか人間の素晴らしさというか、人間を肯定している印象を受けることも また。
巻末のカポーティ『冷血』との比較がなされているけれど、個人的にはこちらのほうがより胸に迫るものがあった。
鋭利な“生”という芯が現れるまで削られて、ひりひりした世界に一時つかり、その世界から戻ってきたときのなんとも言えない透明感。 -
Posted by ブクログ
1992年発表 、コーマック・ マッカーシー著。1949年のアメリカ。愛する牧場が売られてしまうことを知った主人公が親友ロリンズとともに馬でメキシコに越境。二人は辿り着いた牧場で馬達と幸せな時間を過ごすが、越境中に出会った少年の起こした事件がきっかけで刑務所にぶち込まれるはめになる。そこからの脱出は主人公にとって恋人とのつらい別れを意味していた。そして訪れる物語のクライマックス、主人公の暴力。読点を極力省いた息の長い文章、鉤括弧を使わない独特な文体。
とにかく馬達の描写が美しい。彼らの息遣いが聞こえてくるかのようだ。この小説は主人公と彼の選ぶ運命の象徴としての馬(メキシコへの越境もその象徴と言える)、その二者間の物語という気がする。様々な暴力に見舞われ、時には誰かの死を横目に、どこまでも移動し続ける(移動せざるを得ない)少年達。「すべての美しい馬」とは、そういう少年達のことを指しているのではないだろうか。
個人的に少しうれしかったのは、著者の小説として私が先に読んでいた「血と暴力の国」の殺人者シュガーのコイントス(相手が当てたら殺さない、外したら殺す)についての詳細が書かれていたこと。職人がコインを鋳造した時点で決まる運命。この哲学的な考察を語るシーンは非常に興味深い。