文庫書下ろしの「アンデッドガール・マーダーファルス」の第3弾。1作目は、本格ミステリテイストが強く、2作目は多数のキャラクターがうごめく群像劇で、アクション物のテイストだった。3作目は、1作目に回帰し、本格ミステリ要素が発揮された作品となっている。
人狼を恐れる人間の村ホイレンドルフと、人狼達の村、ヴォルフィンヘーレ。二つの村で併行して起こる、連続殺人事件の真相を、怪物専門の探偵、輪堂鴉夜が捜査する。
メインプロットは1人二役。人間の村での4人目の被害者であるルイーゼ。このルイーゼが、人狼の村での4人目の被害者であるノラと同一人物であり、ヴォルフィンヘーレの13歳に満たない少女を、「繁殖」から逃がすために、人間の少女を犠牲にして逃がしていたというもの。正直、2人1役は、伏線があからさま過ぎて、意外性はなかったが、単なる復讐ではない隠された動機には意外性があった。
とはいえ、本格ミステリとしてのデキは平凡。2人1役のメインプロットは、この分量の長編を支えるプロットとしては弱い。
多数のキャラクターが登場する群像劇としても、今作は2より弱め。シャーロックホームズ、ルパン、エリックといった勢力が参戦せず、夜宴もモリアーティや切り裂きジャックが参戦しない。
ロイズから第3エージェントのアリス・ラピッドショット、第4エージェントのカイル・チェーンテイルの二人が参戦するが、この二人は完全にかませ犬
カーミラ対静句の対戦、夜宴のアレイスターとカイルの対戦等があり、それぞれはそれなりに見ごたえはあるが、2ほどのわくわく感はなかった。
静句は存在感を見せるが、反面、津軽の活躍は弱め。最後に、キンズフューラー(最終個体)に近い存在であるノラとの対戦という見せ場があるが、今回は、ほぼここだけが見せ場だった。
総合的に見て感じたのは、笑劇=ファルスとしての弱さ。本格ミステリとしても弱く、ファルスとしても弱い。
本格ミステリとしては、そもそもさほど期待していないので、この程度の味付けでよいが、ファルス、群像劇としては、あと一歩頑張ってほしかった。
とはいえ、起承転結でいえば、まだ「承」だろう。暗躍するフー・マンチューの存在、ロイズの第1エージェント、第2エージェントの存在に加え、ルパン・エリックとノアの接触と、「転」につながる伏線が張られている。
シャーロックホームズもこれで役割が終わりとも考え難いので、この後どうなるかという期待はある。「承」が盛り上がりすぎると尻すぼみになってしまう。そういう意味では、3としてはこのデキでもよいのかもしれない。
アンデッドガール・マーダーファルス3としてのデキは★4としておきたい。
● 挿話1
ユッテとその母が村人に殺されようとしている場面
1 旅行先でのよくある出来事
鳥籠使い一行が、列車強盗を退治する話
2 連れ去られた少女
人狼に村の娘が襲われる。グスタフの娘、ルイーゼも連れ去られる。
3 業務提携
ベイカー街221Bにロイズの第4エージェントのカイルと、第3エージェントのアリスが現れる。業務提携の依頼をホームズは蹴り、人狼についての情報を渡す。
4 ホイレンドルフ
人狼が出るというホイレンドルフの村に鳥籠使い一行が現れる。
5 理性的犯行現場
ルイーゼが人狼に連れ去られたという部屋を捜査。輪堂鴉夜は、現場の不思議な点に気付く。
6 人狼講義
ホイレンドルフの長、ホルガー村長による、ルイーゼや8年前にいたという人狼の母子の話
● 挿話2
人狼の娘とルイーゼの昔話
7 ローザとユッテの物語
鳥籠使い一行によるよそ者、技師のクヌートと画家のアルマからの聴取。8年前に、ルイーゼが人狼を見つけ出し、2人の人狼を退治したという話
8 霧の窪地
吸血鬼カーミラ、人造人間ヴィクター、魔術師アレイスターの3人は、ホイレンドルフに到着する。3人は、鳥籠使い一行を追うことにする。
9 衝突
ロイズのアリスとカイルが鳥籠使い一行と会う。取引き。ロイズの2人は、怪物の駆除を猶予する。代わりに、鳥籠使い一行は、事件を解決し、ロイズの2人を、人狼の住処へ案内することを約束する。
10 豹変の夜
鳥籠使い一行による捜査の振り返り。事件の手掛かりは窓だという。その夜、アルマが人狼と化す。人狼との対戦により静句が流される。
11 始まり
幕間。輪堂鴉夜は、犯人=アルマを指摘したとして、約束どおり牙の森の情報を得る。鴉夜は、アルマの家の様子を見て「終わるどころか、これから始まるのかもしれない。」とつぶやく。
12 牙の森
窪地に影が怪物の影を作る。「最後から2番目の夜」というダイヤを通してみると牙の一本に重なる。これが人狼の住む森への入口。鴉夜達とロイズは牙の森に向かう。夜宴の一行は、ロイズと鴉夜の分断を図る。遠くイタリアでは、サン・モレク島をある中国人が購入する。
13 ヴォルフィンヘーレ
静句の視点。静句は人狼の村、ヴォルフィンヘーレに流れ着き、ノラ達に助けられる。
14 狼の茶会
ノラ達は、静句に村を出るように言う。静句は助けてもらったお礼にお茶を入れ、話を聴く。ヴォルフィンヘーレでは、人狼の少女の連続殺人事件が起こっているという。
15 赤い刺青の男たち
静句は脱出しようとうるが、見つかってしまう。静句は話を聴くということになる。
16 羊の櫓
静句の尋問。6、7メートルの高さの羊の櫓。レギ婆が嘘と判断すると足場が1つ取り除かれる。尋問が続くなか、音がし、ノラの死体が発見される。
17 余分な銃声
ノラの死の調査。なぜ、銃声が聞こえたのか?
18 葬儀
ノラの葬儀。静句はカーヤの話を聴く。ローザはヴォルフィンヘーレから逃げ出そうとし、羊の櫓に乗せられたらしい。そして逃亡。姿を消した。
● 挿話3
ローザが羊の櫓に乗せられたときの回想
19 濃霧ときどき人造人間
ロイズと鴉夜の前に人造人間ヴィクターが現れる。鴉夜と津軽を連れ去る。これは全て津軽の想定どおり。ヴィクターはカーミラが動けるようになる夜までの時間を鴉夜に与える。ロイズはホイレンドルフに戻る。
20 流れの交わる場所
鴉夜と津軽は、ヴェラの手ほどきを受け、静句と合流する。ノラの死体が見つかった場所で捜査を行い、鴉夜は地下洞窟を見つける。
21 斑蛾の道
地下通路には盗まれた散弾銃、斑蛾の大群、「執行猶予」という文字がある誰かがいたと思われる場所、アルマの死体があり、道はホイレンドルフにつながっていた。
22 帰ってきた少女
ホイレンドルフでは、ルイーゼの死体が見つかる。ロイズのアリスは鴉夜が通ってきた抜け道の存在を知り、ホイレンドルフの人々を引き連れヴォルフィンヘーレに向かう。
● 挿話4
捨てられたルイーゼをユッテが見つけ、助けるシーン
23 黄昏どきの怪物たち
夜宴が動き出す。カミーラはカーヤを襲う。ヴェラの助けを借り、静句を救い出す。
24 人狼対鬼殺し
津軽が人狼を倒す。ロイズとホイレンドルフの連中がヴォルフィンヘーレに到着
25 進軍
人造人間ヴィクター対ロイズのカイルの対戦。カーミラと静句の再戦。アリスとアレイスターの対戦
26 怪物のとりえ
ロイズのカイルは腕力を封じる専門家。鎖の尻尾を使うサブミッションのエキスパート。ヴィクターが破れる。真打津軽対カイル。ヴィクターの助けもあって津軽の勝利
27 静句とカーミラ
静句とカーミラの再選は引き分け。鴉夜はヴェラの手を借り、事件の真相を知る。
28 犯人の名前
謎ぼ狼にカイルは殺害される。アレイスターがアリスに勝利。人狼村と人間村が対峙する中で、鴉夜による謎解き。「ご紹介しましょう。ホイレンドルフのルイーゼさん、またの名をヴォルフィンヘーレのノラさん、またの名をユッテさんです」
29 月下の推理
ホイレンドルフのルイーゼ連れ去り事件。人狼はどうやって窓から出たのか。人狼の姿では出れない。狼の姿ではルイーゼを連れ出せない。そもそも誰も侵入していない。したがって、逃走した狼=ルイーゼ。アルマも殺されていた。
ヴォルフィンヘーレの連続殺人事件。ノラの死体は蛾に触れていない。秘密の通路はルイーゼが暮らしていた。ノラの死体こそがルイーゼの死体だった。
ホイレンドルフ事件の犯人は偽ルイーゼ。ヴォルフィンヘーレ事件の犯人はノラ。二人は同一人物で、その正体は生きていたユッテ
ユッテが考えたのは、二つの村をぶつけて対消滅させるという復讐。ルイーゼの協力も得て、1年半前からユッテは二重生活をしていた。
探偵、輪堂鴉夜が現れたので、ユッテは、アルマを生贄にする。静句をおとりにし、ルイーゼを殺害。ノラの死体に見せかける。二つ目の銃声は静句を救うためのものだった。
ノラはいう「謎解きは、おしまい?」、「だとすると、あなたは最後までは辿り着けなかったのね。」ノラは去る。
● 挿話5
1年半前。ユッテはルイーゼをさらい、計画を伝える。ルイーゼは微笑む。「何から始める?」
30 鳥籠の外
ユッテの逃走を真打津軽が防ごうとする。ユッテは終着個体(キンズフュラー)に最も近い個体
津軽が仕掛けた罠を全て上回る。ノラは、信じられないスピードで洞窟を暗闇にする。最も強く、最も固く、最も速く、最も賢い人狼。津軽は何とかノラを地底湖に落とす。そして、津軽のねらいどおり、ノラは体から水滴を落とすために、ぶるるっと身を震わせる。その隙に、津軽はノラを捕まえた。
鴉夜が現れて、ノラを逃がすように言う。鴉夜はいう、「推理を間違えた。犯人は君だ。でも動機は復讐じゃなかった。君は、ヴォルフィンヘーレの少女達を逃がしたんだ。」
ヴォルフィンヘーレの娘は配合の道具とされていた。そのような境遇から娘を救うためにノラは行動していた。人間の娘の死体を利用して、人狼の娘を逃がす。
ノラも外の世界へ逃げ出した。
31 夜明け前の怪物たち
鳥籠使い一行、夜宴の一行が村を去る。夜宴は、2人の人狼を連れて帰る。アリスはカーミラの餌食に。
場所は変わってイングランドの港町。五冷血という吸血鬼の一人、狂血、ヴァーニーがロイズの第1エージェント、オックス・セブンリーグに倒される。
オックスは、方向音痴。ウィンダミアの森で消息を絶つ。
場所は変わって地中海。中国人、フー・マンチューは国を建てるために島を買おうとする。
32 犬も歩けば
ノラは流れ着いた地で男から財布をするが、空っぽ。すった男、ルパンにつかまる。ノラがツガルとつぶやいたことから、ルパンとエリックはノラに声を掛ける。