逢坂冬馬のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
人と犬との関係を時代を通して描いている。
明治から令和までを戦争を挟んでどのように犬と関わってきたのか、4つの物語となっている。
「未開の咆哮」
明治初期、英国人農学者のジョージは教師として日本に来て、牧羊犬としてしつけたボーダーコリーに対して、野良で群を連ねて吠える犬に閉口していたのだが…。
「忠犬誕生」
昭和7年、渋谷駅で乗降客に混じって人待ち顔の老犬がいる。新聞記事から始まったハチ公ブームは、その流れにより噺が大きくなっていき…
犬としてのハチは…。
「犬たちの戦争」
アメリカとの戦争が始まり、「ぜいたくは敵だ」とスローガンがあった時期、シェパード、ドーベルマンなどを飼っている人たちは自分の犬を軍犬に登録し、軍隊が買い上げると犬たちは出征した。
だが、犬猫などの供出運動により愛犬を差し出すように命ぜられた坂間家は…。
「スランプ」
令和、高校生の楓は、突然学校へ行けなくなる。
「戦争」という言葉に恐怖心を覚えて身動きが取れなくなる。家では、少し前まで空港で警察犬として働いたのちに引退して引き取ったリッキーも元気がなくて…。
犬たちの戦争からスランプに繋がりがあり、とても興味深く読めた。
あのときの彼らが今に繋がっているということの大きさに切り離せないものを感じた。
犬とは、なんとこんなにも気持ちを動かされるものだろうかと。
何も喋らないが故に言いたいことはわからないが、その目はわかっていると感じる。
-
Posted by ブクログ
すっかりファンになってしまった逢坂冬馬の新作を、本屋で見つけて迷わず購入。
犬を物語の中心に据えて明治から令和までの日本の変化を描くのが新しくて面白い。今でも途上国に行くと野良犬が町中を歩いているのを見るが、かつての日本もそうだったんだな、現代の日本における犬はこういった歴史を辿ってきたんだな、と言うのが知れて面白かった。
日本の犬が汚い野良犬から人間にとって都合のいい動物に変わっていく明治初期から、昭和初期にハチ公の美談が作られていく過程、日本で第二次世界大戦中に犬がどういった扱いを受けていたのか、現代の犯罪者の犬の使い方は興味深いだけでなく勉強になった。この作者が描く人間のエゴは本当に面白い。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ戦時下のドイツで、ヴェルナーたち4人がナチスに抵抗する物語。強制収容所を目撃し、迫害されている人たちを助けようと行動していく。
印象に残ったのは、むしろ大人たちの姿。特にホルンガッハー先生だ。反ユダヤ的な教育をしているけれど、本心ではそんなことをしたかったわけではないのではないかと思わせる描写がある。
ナチスの思想によって、ユダヤ人や同性愛者、身体障害者などに「こういう人間だから、こう扱っていい」というレッテルが貼られ、それを教育によって子どもたちに植え付けていく。人を人として見なくなっていく過程には怖さを感じるし、そんな教育に加担するホルンガッハー先生のことを考えると、なんとも苦しいものがある。
それでも、大人になれば自分や家族の生活、命を守らなければならない。子どもたちのように「これはおかしい」と思ったからといって、簡単に行動できるわけではない。大人になったからこそ、守るものが増え、動けなくなってしまうこともあるのだろう。
もちろん、それで何をしても許されるわけではない。でも、自分が同じ状況に置かれたらどうするだろうと考えると、簡単に誰かを責めることもできない。子どもたちの勇気だけではなく、そうなれなかった大人たちの事情まで描かれているところが印象に残った。
綺麗事だけではないからこそ、読後には悲しさや重さが残る。そんな物語だった。 -
Posted by ブクログ
2022年の本屋大賞受賞作。
なのだが、600頁もあるので通勤の友にするには重たそうで文庫が発売されてからも買うのを逡巡。
ようやく買ってからも厚さに怯んで9ヶ月積読していたのだが、読む本切らして、遂に読み始めた。
第二次世界大戦下のソ連を舞台に、ドイツ軍に母を殺された少女セラフィマが狙撃兵として戦っていく姿を追った物語。
独ソ戦の転換点となったスターリングラードの戦いを中心に描かれる話は、存外に読み易く厚さもものかわ読み進めることができた。
そこでは、戦争の残酷さや理不尽さに加えて、戦時下に女性が被る痛苦にも触れられ、言わんとするところは一定伝わってくる。
一方、登場人物の設定やその心の内の描かれ方は軽く、単行本が出された時と前後して始まったウクライナへのロシアの侵攻にこちらが勝手に重ねてしまうのが悪いのだが、戦争を描いた物語として読むといささかの軽さを感じてしまったところは否めず。
そこを置いて、狙撃兵となったひとりの少女の成長と復讐の物語として読めば、長い物語の積み重ねがすべての伏線となって第6章のケーニヒスベルクを舞台にした活劇に集約される筋書きには惹かれるところ。
ただ、イリーナをはじめとした周囲に生かされるばかりのセラフィマには、彼女の狙撃兵としての強靭さや復讐心に驚くべきところはあっても、その心の機微がその場その場のものであったように思え、あまり惹かれるところがなかった。
とは言え、誰も待っていない故郷に帰り、イリーナとともに村を再建しながら、村人とは距離を置いて生きるセラフィマの姿が描かれるエピローグには余韻あり。
敵味方の区別なく治療をするという意志を貫いた看護師のターニャや貴族の子に生まれながら一介の労働者として働き続けたシャルロッタの姿にも感じるところがあった。
今もなおウクライナやイランで戦火が消えない中、平穏な場所で駄文を連ねていることに多少の居心地の悪さを感じつつ……。 -
Posted by ブクログ
戦争小説を手に取ったのは久しぶりだが、若い人が読みすいよう工夫が凝らされているので、つかえることなく物語世界に入り込めた。
魔女小隊のキャラが全員立っていて、特にシャルロッタはビジュアルや声まで浮かんでくるぐらいキャラが濃い。
序盤は和気藹々とした場面もあったが、中盤以降は容赦のない戦火の渦が広がる。
誰もが分厚い本が書けるほどの物語を抱えている。
しかし戦場で死ねば、名もなき死者の一人として数えられるのみ。
当たり前のことだが、その残酷さに胸が痛くなる。
また戦火の中では否が応でも人格が変わってしまう。
一番顕著に感じたのは、序盤から内面を追いかけてきたセラフィマだ。
一本芯が通っているように見えて身勝手な行動もあり、狙撃の魔術に囚われてしまったのだと哀しくなった。
ラストは少し驚いたが、いい意味で想像と違った。
現実で戦争がこれ以上起こらないことと、既に広がった戦火が一日も早く収まることを祈るばかりである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ逢坂冬馬の作品を読むのは『同志少女よ、敵を撃て』に続く2作目。逢坂冬馬の戦争の捉え方が個人的に好き。戦争は正義が勝つんじゃなくて、勝ったものが正義になるパワーゲーム。
4つ目の令和のストーリーもよかった。ショート動画や生成AIのフレーズがでてきて、これぞthe 令和だなと思った。ショート動画が「何も得るものはないけれど不安は紛れる」「思考が霞みがかった世界への逃避」と述べられていて、小説家はやはりうまい言葉を当てるなと思った。
お気に入りの短編は『忠犬誕生』
ハチ公の話が、ある程度日本国によって話が盛られていることにショックを受けた。忠犬ハチ公の美話により、国民が天皇と日本国に忠義を示すことを美徳としたらしい、、
『犬たちの戦争』は犬が戦争のために何の意味もないのに殺されるのが酷くてしんどかった。 -
Posted by ブクログ
表紙を見ると、「少女」と「狙撃手」という、かなりあざとい組み合わせ。正直、若い読者層を狙った戦争エンタメ的なストーリーかと思って読み始めた。ところが、内容は案外シリアス。殺戮や裏切りなど凄惨な描写も多く、表紙から受ける印象とのギャップが大きかった。
主人公セラフィマをはじめ、ミハイル、イリーナ、シャルロッタ、アヤ、ユーリャらのキャラクターはいずれも印象的。セラフィマが復讐心から戦場に入り、一人の戦士として徐々に殺戮マシーンかの如く成長していく物語としてもなかなか面白い。
同時に、ロシアとヒトラー率いるドイツとの間で繰り広げられた、歴史的にも悲惨な独ソ戦の一側面が描かれていることにも興味を惹かれた。そして、戦争の悲惨さだけでなく、たとえ戦争を生き延びたとしても、平和になれば元の生活に戻れるわけではないという無常さも感じる。
「少女と狙撃手」という入口からは想像できないほど重く、読み応えのある戦争小説だった。 -
Posted by ブクログ
ずっと読みたいと思っていた一冊。タイトルから戦争の話なのかなというくらいは分かっていたが、それ以外の情報は全くなく、読みたいと思ってから早3、4年が経っていたが思い切って購入してみた。
感想としては一言では言い表せないが、戦争のおぞましさが詰まった内容だったと思う。
対立するロシアとドイツ。一見、敵とは主人公から見たドイツ軍だけに思えるのだが、自分自身を欺いて敵を殺す兵器にしたイリーナ、そして同じロシアでも相手国の女性を蹂躙する男、幼なじみ。その中で「本当の敵とは何なのか」分からなくなるような場面もあり…。
女性のために戦うと信じていた信念を、最後まで貫き通したのが素晴らしかったと思う。
ただ、イリーナとの関係には若干拍子抜けというか、物足りなさを感じた。イリーナが一番主人公に思い入れを持っていたのは分かったし、奮い立たせるためにすべての罪を自分が背負うことで、家族や故郷を失った少女たちを救ってきた。そして主人公を奮い立たせるために家族の写真を捨て、イリーナが罪を被った。
ただ、その写真は実は手元に持っていたという結末は、物語自体は素晴らしいしよくできた話だと思ったが、伏線の回収としてはやや物足りなさを感じてしまった。
最後、戦争が終わった後にイリーナと二人で暮らしている風景や、肉を食べなくなった描写など、物語としては珍しく男女の恋愛にまつわる部分がほとんどなかったのが本書の特徴だったように思う。
ーーー
ちょうど TBS ラジオで戦争の体験に関する特集を聞いている中で、思ったことを追記する。
その中で特に印象的だったのは、戦争に行く前は優しかったお父さんが、戦争から帰ってきたら人が変わったようになってしまったという話だ。そのお便りをくれたのはおそらく50代、60代くらいの女性で、その人から見た祖父だったと思うのだが、戦争に行く前は穏やかだった祖父が、戦争から帰ってきたある日、ヤギの乳搾りをしていて、ヤギが少し嫌がる素振りを見せると激怒してヤギを殺してしまったという。
この話から感じ取ったのは、人間は多くの環境に適応できるものであるが、唯一戦争には適応できないのではないか、ということだ。本書を読んでも思ったが、適応するためには何らかの強烈な指導者だったり、考え方だったり、動機がなくてはならない。
例えば、「ドイツはユダヤ人を殺戮した愚かな者たちだから、我々が食い止めなければならない」といった大義名分や、「相手が降参した後であっても、自国の兵士を殺されたのだから、捕虜として優しく扱うわけにはいかない」など、そういった環境下でいわば洗脳されてしまった人間は、戦争という一時は適応できたように思えても、終戦後はやはり頭のネジが外れて普通の名残に戻れなくなってしまうのではないか。そんな恐怖を感じた。 -
Posted by ブクログ
いろんな時代の「その犬をください」が4回訪れる。自分が今の日本を、世界を見ながら漠然と抱きながらも言語化にいたることはなかった感情がほんとうにそのまま、ありありと言語化されていてびっくり。ほんとうに、第1作から一貫して逢坂冬馬の思想と深く共鳴し続けている。あの戦争を、否、「日本人」がこれまで経験してきたこと、考えてきたこと全てを"今"からは切り離せないのだなと一旦絶望した。打ちひしがれた。が、少なくとも逢坂冬馬の思想が一般社会に頒布される社会である限り、まだ希望はもてる世界なのではないかなと思わずにはいられない。現代パートの主人公が自分すぎてさすがに震えた。ずっと作品を生み出し続けてほしいと心から思う唯一の作家かも。「歌われなかった海賊へ」、祝文庫化!わたしのいっちばんすきな逢坂冬馬作品( ◠‿◠ )