逢坂冬馬のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
★5 教科書の先にある〈生きた近代史〉を知りたいあなたへ。明治から令和の変遷を犬という鏡を通して鮮やかに描き出す、読み応え抜群の連作短編集
■きっと読みたくなるレビュー
明治から令和へと至る、近代日本と戦争のあゆみ。その傍らで犬たちは社会とどのように関わり、人々の暮らしや文化はどのように移り変わってきたのか。犬と人間が紡いできた歴史の裏側、近代日本の変遷を様々な角度で描く連作短編集です。
いやー、こういった本は学生時代に出会いたかった。日本史って大嫌いだったんだけど、こんなにも素敵な物語と共に学ばせてくれたら、もっと興味がもてたと思うのよ(勉強しなかった言いわけ
江戸幕府の終焉から明治の黎明期、国家が戦争へと突き進んでいく時代、激動の大戦中、そして復興を遂げた戦後から現代。移り変わる日本社会のなかで、人々の暮らしや営みはいかなるものだったのか。
単に歴史の結果を暗記するのではなく、過酷な時代を生き抜いた市井の人々の記録として捉えることで、本当の意味で歴史を学ぶことができると思うんすよね。うんうん。
そしてタイトルにもある通り、本作の主役は『犬』です。時代ごとに犬を取り巻く価値観や置かれた環境、暮らしぶりがこれほどまでに変化をとげていたとは、思いも寄りませんでしたね。まさに「犬は人間社会を映す鏡」であり、犬たちの存在を通してそれぞれの時代の日本の姿が見事に描き出されていました。
■各短編の簡単レビュー
●未開の咆哮
明治初期の近代日本を描いた一編。開成学校の教師であるイギリス人・ジョージは、学生たちに犬を活用した農学を教えていく。
当時の外国人の目線で日本がどう見えているかと書いてるんだけど、とってもわかりやすい。日本の良いところ、悪い所だったり、その後歩む歴史に片鱗が感じられる。明治初期の武士を見てると、いつの時代も価値観のアップデートができないと社会から取り残されることが痛感する。
●忠犬誕生
犬を愛する日本犬保存会会長が、渋谷駅前の忠犬ハチ公の銅像づくりに奔走する。
新聞記者とともにブームを創り出していく様子から、当時のメディアの熱気が伝わってくる。しかしそれも現代と同じで、裏には必ず仕掛けた誰かや明確な意図が存在しているのに気づかされる。
そしてこの時期から日本は少しずつ戦争への道を突き進んでいくんだけど、日本人らしさ=忠義という背景が見え隠れしていやーな怖さを感じました。
●犬たちの戦争
戦時中、熱烈な軍国少年の明は笑顔を奪われた兄を心配していた。愛犬ドーラクを差し出す犬の供出運動の影が迫ってくる。
犬の供出をめぐり、終盤で繰り広げられる議論には、ほとほと胸が締め付けられる。人間の都合ばかりで物事を押し通そうとする姿に、人間がいかに勝手な生き物であるかということを痛感させされるよ。
●スランプ
不登校ぎみになっていた女子高生の楓。自宅で飼っている元警察犬のリッキーを動物病院へ連れていくと、獣医から思いもよらない事実を告げられてしまう。その後、楓の家を訪ねてきた友人と、互いの悩みを語り合うことになるのだが…
令和、現代の物語。なんとなく見て見ぬふりをしていた社会問題を突きつけられた感じがする。個人的に一番ショックだった。これからの日本で必ず課題になってくることだと思いました。
■ぜっさん推しポイント
私が子どもの頃は、ちょうど米ソ冷戦の真っただ中。テレビや新聞でニュースを見るたび、なんだか世の中がピリピリしている感じがありました。ある日突然ミサイルが飛んでくるんじゃないかと、子どもながらに怖かったのを覚えています。
その後冷戦は終わったけれど、結局いつの時代もどこかで戦争は続いています。たとえ遠い国の話であっても、戦争という言葉を聞くだけで漠然とした不安に包まれて、胸がぎゅっと押しつぶされそうになるんよ… だからこそ自分は何を大切にして生きていくのかという気持ちを持つことが、大事なんだなと思いましたね。 -
Posted by ブクログ
日本が近代から現代へと移り変わる時代
私たちと犬たちの関係を通して
当時の世相や時代の空気が透けて見え
人々の意識や価値観が炙り出されていました
何かを手に入れた代わりに
無くしてしまったもの
今、無くしつつあるもの
物語を通してその大切なものを
掬い取れそうな気がしました
読み終えた後
頭の中に流れていくエンドロールは
登場した犬たちの名前
「未開の咆哮」
ブルドック チェスターとローラ
「忠犬誕生」
秋田犬 ハチ
「犬たちの戦争」
ミックス犬 ドーラク
「スランプ」
ビーグル犬 リッキー
表紙のイラストは
リッキーだ!
終わらない戦争と
AIの進化
今の私たちが絶対に無くしちゃいけないもの
あるよね?
そんな風にリッキーに
問いかけられているような気がします
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Posted by ブクログ
直木賞候補作とのことで読んでみた。
これで第173回の直木賞候補作6作品をすべて読んだのだが、今作は一番か二番目くらいに面白かった。該当作なしだったなんて信じられないくらいに面白かった。
序盤はバラバラな章展開にどんな繋がりをもつストーリーになるのか疑問に思いながら読み進めていくが、あるところから段々と繋がってくるのがわかるともう読む手が止まらなくなった。
性自認に関する話題が近年の作品で多く扱われている気がして、その蛇足な設定に「またか…」とウンザリすることも多いのだが、今作では蛇足どころかいい仕掛けの一つになっていたのがよかった。
さまざまな仕掛けや結末を知った上で、もう一度読み直したい作品だった。 -
Posted by ブクログ
同志少女を読んでからの本作。プロローグはやや退屈に感じたが、本編に入った途端どんどん読み進めることができた。戦争モノで悲惨な現実が描かれているが、同志少女よりも若者たちの青春物語、冒険モノの要素が強くどこか明るい雰囲気もあって好きだった。人は他人のある側面をみて都合の良いように解釈しカテゴライズしてしまうというのは自分の考えや行動を振り返るきっかけにもなったし、「歌わなかった住人」=悪、と捉えるのは簡単だけど、ある種その人たちも戦争への疲労感から生まれた無関心や自己防衛の本能が働いてしまっているのかなとも思ったりして、戦争という現代の日本とは違う極限状態の話でありながら、現代にも通じる人間の本質について考えるきっかけや気づきも与えてくれたと思う。
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再読。
単なる復讐劇でないその深さに再度感動した。
セラフィマをはじめ、少女たちが銃を取る理由は「大切なもの、女性を守るため」「復讐のため」だったが、撃つ側に回るということは、同時に自らも誰かの平穏を奪う加害者になることを意味する。正義や防衛の陰で、人間性が削られていく戦争の恐怖がとてもリアルに描かれていたと感じた。
また、その中で少女たちが育む友情や連帯の美しさと、それが戦争という人を殺すための場所で生まれているという対比が読んでいて不思議な感覚にさせられた。「敵を撃て」という言葉は、命令であり、呪いであり、彼女たちの生きる証でもあったのだと思う。
単にドイツ兵と戦うだけでなく、内部の性差別や性暴力、女性を道具として扱う男性社会の理不尽とも戦わねばならなかった点も苦しかった。イリーナの教えも、イリーナ自身戦争の本質を知りながら、彼女らの尊厳を守るための防衛策だったのではないか。
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Posted by ブクログ
『ブレイクショットの軌跡』は、エンタメとしてとても面白い作品でした。さまざまな登場人物の物語が描かれ、一つ一つの章がどう繋がっていくのか、読み進めている間はほとんど予想できませんでした。それぞれ独立した物語のように見えていたものが、少しずつ重なっていく構成がとても面白かったです。
そして何よりすごかったのが、最後のエピローグです。単なる物語の締めくくりだと思っていたら、ここでこれまでの伏線が一気に繋がっていきます。エピローグを読むことで、それまで読んできた物語の見え方まで変わり、このエピローグがあって初めて作品全体が完成するように感じました。読み終えた瞬間の、いや、すごい……という驚きと余韻が忘れられません。577ページという長さを感じさせないほど夢中で読み進められ、最後まで読んだからこその面白さを味わえる作品でした。 -
Posted by ブクログ
一周読んで、解説に目を通して、もう一度始めの現代パートを読み返す。すると冒頭数ページが全く違う印象になる。こういう小説に出会うために紙の本を読んでいるのかもしれない。。
最初と最後が現代パート、全体の9割以上が小説イン小説の内容で、ナチス体制崩壊間近のドイツのある村が舞台。
エーデルヴァイス海賊団、ヒトラーユーゲント、強制労働施設など、実在した設定をもとに巧妙なフィクションを織り混ぜ、スタンドバイミー的冒険譚を加えたストーリー。
負の歴史を扱った暗いテーマではあるのだが、青春群像劇でもあり、過酷な環境で精一杯生きる少年少女の姿に励まされる。
同時に歴史とは何かを考えさせ、見て見ぬ振りすることの罪深さを意識させられる。
「ホロコーストはガス室から始まったのではなく、少数者に対するヘイトスピーチから始まった」という解説中のフレーズが記憶に残る。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ舞台はナチス下のドイツだけど、現代的なテーマだなと思った。今も昔も多様な人がいて、勝手に他人のことをわかった気になるなというメッセージを感じた。
スタンド・バイ・ミーのような青春冒険譚で、線路の先に何があるのかを探しに行く徒歩の旅はワクワクした。後半の冒険の目的が四者四様で、特にヴェルナーの「生きたいように生きるには、強制収容所の存在が不快である」という、正義感や綺麗事じゃない素直な行動の動機がとても良かった。ドクトルの言う爆弾の例えも良かった。彼だけは例えではなく爆弾そのものだったけど…。
読み終えた後に冒頭の現代パートを読み返すと、最初に読んだ時と思ったことが全然違うことに驚いた。人はだれも悪者になりたくないし、都合の悪い歴史は伝わりづらいものなんだな、とレオやドクトルを想って悲しくなった。
戦前も戦後もいい人であり続けるホルンガッハー先生は、安全圏から見ると嫌な人にも見えてしまうけど、同じような状況だったらどうするのかを想像すると安易に責めるのは違うとも思う。
自分がどう生きるべきか、どう生きたいのか、自分できちんと指針を持てるようになりたいと思った。 -
Posted by ブクログ
「犬は人間の友なのだろうか。それはわからないけれど、人間は犬の友であらねばならない。そして、私はリッキーの友であり続ける!」
読みやすく、人間と犬の関わりを通して、人間の思い込みや第一印象の浅はかさを浮き彫りにした短編連作だった。
ペットを飼ったことのない私でも犬が欲しくなったし、ペットを家族と呼ぶ気持ちが少し分かったような気がする。
特によかったのは最初の短編。主人公が自分は犬のことを分かっていると思っていたところから、少しずつ自分の認識の間違いに気づいていく。そのたびに読者側の見方も修正されていく。こういう「最初に持っていた人物や物事への印象が、情報が増えるにつれて崩れていく」手法自体は決して新しいものではない。それでも非常によく効いていた。
二話目以降も、犬と人間の別の矛盾を見せながら、「分かったつもりになる人間」の危うさを描いていく。犬種、飼い方、自然保護など、自分の正しさを疑わない人間の姿が次々に出てくる。一部の自然環境活動家のような、理念を優先して現実の動物を見なくなる態度を殴り返すようなところには痛快さもあった。
そして、読み進めていくと、この連作の中心にはやはり「戦争」があることも見えてくる。
犬の歴史を描いているようで、人間が犬をどのように飼い、利用し、分類し、ときには切り捨ててきたのか。その変化の背景には、その時代の社会や国家、そして戦争がある。犬を通して近代から戦争へ向かっていく人間社会を見る構成になっていて、結局この人は犬を書きながら戦争を書いているのだと思う。
そこはやはり逢坂冬馬だと思った。犬との温かい交流だけに逃げず、その背後にある歴史や戦争まで持ってくる。
そして最終話では、黒人と日本人のハーフであるエディを登場させる。
ここで、犬に向けられていた「見た目や属性だけで相手を判断する愚かさ」が、人間同士の問題にまで広がっていく。過去の犬と人間の関係、戦争まで描いてきた前三篇を、現在の人間社会へつなげる狙いなのだろう。
この構成自体は分かるし、最終話も印象に残らなかったわけではない。
ただ、どうにも安っぽく感じた。
前三篇では、犬を見る人間の姿を通して、読者自身が「自分も思い込んでいたのでは」と気づかされる。その間接的なところがよかった。ところが最終話では、現代、差別、そしてエディという要素が前面に出てきて、「犬についてやってきた話を人間にも当てはめます」という作者の意図が急に見えすぎるように感じた。
テーマとしては間違っていない。だが、物語が弱く感じてしまった。
最初の短編があまりによかったせいもあると思う。最初の一篇だけで、「人間は勝手に分かったつもりになる」というテーマがかなり強く提示されている。その後も別の角度から同じ問題を描いていくのだが、最初の衝撃を更新するほどの一撃は最後まで来なかった。
もう一つ気になったのが、短編連作としてのつながり方。
前作『ブレイクショットの軌跡』でも感じたが、人物や出来事がつながっていること自体は分かる。ただ、「つながっていた」と分かることと、「この短編がここにあったから後の短編の意味まで変わった」と感じることは別だと思う。
今回は前作より自然になったと感じたが、それでもかなり恣意的にも見える。
犬の歴史、人間の思い込み、戦争、そして現代の差別へと一本につながっていく構成はよくできている。だが、あまりにもすべてが最終的なテーマへ向かうように配置されているため、「この人物がここにいたから自然につながった」というより、「ここにつなげるためにこの人物と出来事を置いた」という作者の手つきが見えてしまう瞬間があった。
戦争を中心に据えるために、それぞれの短編がそこへ集められていく。その設計の巧さには感心する一方で、設計図まで透けて見えてしまう感じがする。
もっと伏線回収でゾワッとするのか、構成そのものでもっと驚かせるのか。そこは分からないが、連作であること自体がもっと物語の力になってほしかった。
とはいえ、この本を単なる「犬っていいよね」というハートフルな小説で終わらせなかったのは、さすがだと思う。ほんとに唯一無二、スペシャルワンな作家だと思う。
犬と人間の温かい関係を描きながら、その裏にある支配、利用、善意の暴走、偏見、そして戦争までしっかり入れてくる。犬を好きになる話であると同時に、人間の愚かさまで見せてくる。その嫌な部分を切り落とさなかったからこそ、ただ優しいだけの犬小説にはならず、非常に重厚な小説になっていると思う。
私は逢坂冬馬の大ファンで、サイン会にも行くくらい好きだし、直木賞を取ってほしいと願っている。それだけに要求も高くなってしまう。
今回、伝えたいことが分からなかったわけではない。
犬を通して、人間の思い込み、善意、偏見、そして「分かったつもりになること」の危うさを描き、そのさらに奥には戦争という大きな問題を置いた小説だったと思う。
ただ、それを最後まで強烈な物語として残し切ったかと言われると、少し物足りなかった。構成が緻密だからこそ、逆に作者の意図が見えすぎてしまったところもある。
それでも、犬を飼ったことのない人間に「犬が欲しい」と思わせ、しかもそこで終わらず、人間の嫌な部分や戦争まで見せてきた。
その点は、同じ人間なのかと思うくらいずば抜けているというか何というか。超人すぎて、としか言い表せない。
いろいろモヤモヤしたところもあったが、読めてよかったと思った。