逢坂冬馬のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『ブレイクショットの軌跡』は、エンタメとしてとても面白い作品でした。さまざまな登場人物の物語が描かれ、一つ一つの章がどう繋がっていくのか、読み進めている間はほとんど予想できませんでした。それぞれ独立した物語のように見えていたものが、少しずつ重なっていく構成がとても面白かったです。
そして何よりすごかったのが、最後のエピローグです。単なる物語の締めくくりだと思っていたら、ここでこれまでの伏線が一気に繋がっていきます。エピローグを読むことで、それまで読んできた物語の見え方まで変わり、このエピローグがあって初めて作品全体が完成するように感じました。読み終えた瞬間の、いや、すごい……という驚きと余韻が忘れられません。577ページという長さを感じさせないほど夢中で読み進められ、最後まで読んだからこその面白さを味わえる作品でした。 -
Posted by ブクログ
一周読んで、解説に目を通して、もう一度始めの現代パートを読み返す。すると冒頭数ページが全く違う印象になる。こういう小説に出会うために紙の本を読んでいるのかもしれない。。
最初と最後が現代パート、全体の9割以上が小説イン小説の内容で、ナチス体制崩壊間近のドイツのある村が舞台。
エーデルヴァイス海賊団、ヒトラーユーゲント、強制労働施設など、実在した設定をもとに巧妙なフィクションを織り混ぜ、スタンドバイミー的冒険譚を加えたストーリー。
負の歴史を扱った暗いテーマではあるのだが、青春群像劇でもあり、過酷な環境で精一杯生きる少年少女の姿に励まされる。
同時に歴史とは何かを考えさせ、見て見ぬ振りすることの罪深さを意識させられる。
「ホロコーストはガス室から始まったのではなく、少数者に対するヘイトスピーチから始まった」という解説中のフレーズが記憶に残る。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ舞台はナチス下のドイツだけど、現代的なテーマだなと思った。今も昔も多様な人がいて、勝手に他人のことをわかった気になるなというメッセージを感じた。
スタンド・バイ・ミーのような青春冒険譚で、線路の先に何があるのかを探しに行く徒歩の旅はワクワクした。後半の冒険の目的が四者四様で、特にヴェルナーの「生きたいように生きるには、強制収容所の存在が不快である」という、正義感や綺麗事じゃない素直な行動の動機がとても良かった。ドクトルの言う爆弾の例えも良かった。彼だけは例えではなく爆弾そのものだったけど…。
読み終えた後に冒頭の現代パートを読み返すと、最初に読んだ時と思ったことが全然違うことに驚いた。人はだれも悪者になりたくないし、都合の悪い歴史は伝わりづらいものなんだな、とレオやドクトルを想って悲しくなった。
戦前も戦後もいい人であり続けるホルンガッハー先生は、安全圏から見ると嫌な人にも見えてしまうけど、同じような状況だったらどうするのかを想像すると安易に責めるのは違うとも思う。
自分がどう生きるべきか、どう生きたいのか、自分できちんと指針を持てるようになりたいと思った。 -
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「犬は人間の友なのだろうか。それはわからないけれど、人間は犬の友であらねばならない。そして、私はリッキーの友であり続ける!」
読みやすく、人間と犬の関わりを通して、人間の思い込みや第一印象の浅はかさを浮き彫りにした短編連作だった。
ペットを飼ったことのない私でも犬が欲しくなったし、ペットを家族と呼ぶ気持ちが少し分かったような気がする。
特によかったのは最初の短編。主人公が自分は犬のことを分かっていると思っていたところから、少しずつ自分の認識の間違いに気づいていく。そのたびに読者側の見方も修正されていく。こういう「最初に持っていた人物や物事への印象が、情報が増えるにつれて崩れていく」手法自体は決して新しいものではない。それでも非常によく効いていた。
二話目以降も、犬と人間の別の矛盾を見せながら、「分かったつもりになる人間」の危うさを描いていく。犬種、飼い方、自然保護など、自分の正しさを疑わない人間の姿が次々に出てくる。一部の自然環境活動家のような、理念を優先して現実の動物を見なくなる態度を殴り返すようなところには痛快さもあった。
そして、読み進めていくと、この連作の中心にはやはり「戦争」があることも見えてくる。
犬の歴史を描いているようで、人間が犬をどのように飼い、利用し、分類し、ときには切り捨ててきたのか。その変化の背景には、その時代の社会や国家、そして戦争がある。犬を通して近代から戦争へ向かっていく人間社会を見る構成になっていて、結局この人は犬を書きながら戦争を書いているのだと思う。
そこはやはり逢坂冬馬だと思った。犬との温かい交流だけに逃げず、その背後にある歴史や戦争まで持ってくる。
そして最終話では、黒人と日本人のハーフであるエディを登場させる。
ここで、犬に向けられていた「見た目や属性だけで相手を判断する愚かさ」が、人間同士の問題にまで広がっていく。過去の犬と人間の関係、戦争まで描いてきた前三篇を、現在の人間社会へつなげる狙いなのだろう。
この構成自体は分かるし、最終話も印象に残らなかったわけではない。
ただ、どうにも安っぽく感じた。
前三篇では、犬を見る人間の姿を通して、読者自身が「自分も思い込んでいたのでは」と気づかされる。その間接的なところがよかった。ところが最終話では、現代、差別、そしてエディという要素が前面に出てきて、「犬についてやってきた話を人間にも当てはめます」という作者の意図が急に見えすぎるように感じた。
テーマとしては間違っていない。だが、物語が弱く感じてしまった。
最初の短編があまりによかったせいもあると思う。最初の一篇だけで、「人間は勝手に分かったつもりになる」というテーマがかなり強く提示されている。その後も別の角度から同じ問題を描いていくのだが、最初の衝撃を更新するほどの一撃は最後まで来なかった。
もう一つ気になったのが、短編連作としてのつながり方。
前作『ブレイクショットの軌跡』でも感じたが、人物や出来事がつながっていること自体は分かる。ただ、「つながっていた」と分かることと、「この短編がここにあったから後の短編の意味まで変わった」と感じることは別だと思う。
今回は前作より自然になったと感じたが、それでもかなり恣意的にも見える。
犬の歴史、人間の思い込み、戦争、そして現代の差別へと一本につながっていく構成はよくできている。だが、あまりにもすべてが最終的なテーマへ向かうように配置されているため、「この人物がここにいたから自然につながった」というより、「ここにつなげるためにこの人物と出来事を置いた」という作者の手つきが見えてしまう瞬間があった。
戦争を中心に据えるために、それぞれの短編がそこへ集められていく。その設計の巧さには感心する一方で、設計図まで透けて見えてしまう感じがする。
もっと伏線回収でゾワッとするのか、構成そのものでもっと驚かせるのか。そこは分からないが、連作であること自体がもっと物語の力になってほしかった。
とはいえ、この本を単なる「犬っていいよね」というハートフルな小説で終わらせなかったのは、さすがだと思う。ほんとに唯一無二、スペシャルワンな作家だと思う。
犬と人間の温かい関係を描きながら、その裏にある支配、利用、善意の暴走、偏見、そして戦争までしっかり入れてくる。犬を好きになる話であると同時に、人間の愚かさまで見せてくる。その嫌な部分を切り落とさなかったからこそ、ただ優しいだけの犬小説にはならず、非常に重厚な小説になっていると思う。
私は逢坂冬馬の大ファンで、サイン会にも行くくらい好きだし、直木賞を取ってほしいと願っている。それだけに要求も高くなってしまう。
今回、伝えたいことが分からなかったわけではない。
犬を通して、人間の思い込み、善意、偏見、そして「分かったつもりになること」の危うさを描き、そのさらに奥には戦争という大きな問題を置いた小説だったと思う。
ただ、それを最後まで強烈な物語として残し切ったかと言われると、少し物足りなかった。構成が緻密だからこそ、逆に作者の意図が見えすぎてしまったところもある。
それでも、犬を飼ったことのない人間に「犬が欲しい」と思わせ、しかもそこで終わらず、人間の嫌な部分や戦争まで見せてきた。
その点は、同じ人間なのかと思うくらいずば抜けているというか何というか。超人すぎて、としか言い表せない。
いろいろモヤモヤしたところもあったが、読めてよかったと思った。 -
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ネタバレ戦争に女性が参加している国があるということは知らなかった
しかも軍人として狙撃手として
でも世の中は女性に対する差別も性暴力もある時代なのは変わらず、しかし彼女らは男性から受ける心ない言葉や扱いにも負けなかった
人類史上最悪の戦争を、自分の信念のために生き続けて生き残った
並大抵の覚悟ではない
もちろんその覚悟が凄惨な出来事から生まれている訳ではあるが
復讐のために生きる
だが、これは何かを成し遂げるために必要な膨大なエネルギーを生むものであり、彼女が真の敵を撃つためにきっかけとなったことである
何かを成し遂げるためには自分にとって大なり小なりきっかけが必要となる
それはある日突然やってくるかもしれないし、つかみに行くべきことかもしれないし、本来は望まれるものではないかもしれない
主人公の境遇は本来は望まれるべきものではないが、とりあえずそれは置いておいて、
いい意味では、自分が何かを成し遂げて変わっていくきっかけは、何かを体験してみる、新たな人との出会いをするなど、自分でつかみに行くことが大事なことなのように思えた
PS.
何かを極めその丘を登りきった先に見えるのは何なのか、地平線が見えるのか
リュドミラ・パヴリチェンコは残ったものは何もないと語った
戦争が終わったら愛する者か熱中する趣味を見つけよと言った
自分が納得する大きなものは愛する者がいることだったので、それを失った彼女は狙撃の腕を極めても何も残っていないと語ったことが印象的であった
何かを成し遂げた先にあるのは地平線か無か、それは成し遂げる前に見極める必要もありそうだ -
Posted by ブクログ
明治から令和までの人と犬の歴史をテーマとした短編集です。戦争を犬という切り口で描かれています。戦争の中で人々が大きな流れに呑み込まれ、自らの正しさを上書きしていく過程が痛々しい。自分の意見を失い、諦めとともに理性が壊れていく…その様子は強いリアリティをもって私に迫ってきます。
野犬、日本犬、洋犬、ハチ公、供出される愛犬たち、警察犬。人の傍にはいつも犬がいます。しかしその時代ごとに人に都合よく定義され利用されて…。そんな自然体の存在を人と共に描くことで、人間の思考や意識が変遷していく恐ろしさが、より一層際立っています。
犬にまつわる知らない歴史がたくさんあり、新たな気づきをくれるとても印象に残る作品。またぜひ読み直したいです。
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敵味方どちらから見ても同じことをしている。敵とみなせば略奪し殺す。50人殺した、80人殺した、故に自分は英雄なのだ、と。戦場においては殺害もただの数なのだ。そのひとつひとつは命であり無数の物語がある何者かだったはずなのに。しかし戦争はやがて終わる。誰も殺さず何の殺害計画も立てない日常に戻った時に思い知るのだ、自分は確かに80名もの命をただ奪ったのだと。そして個人の意思ではなく戦争という状況がそれをさせた、殺すか殺されるかどちらかを選択せねば生き延びられない現実こそが残酷なのだ。それぞれがその時正しいと信じたことをする。戦火を生き延びた彼女たちの晩年とその年月もまた胸に染み入るものがある。
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Posted by ブクログ
ネタバレ誰が敵で誰が味方なのか。最初は敵軍が憎いが1番最後にどんでん返しされる
結局セラフィマの敵は敵兵じゃなくて戦場においてあたかも物のように扱われる女性や生きるために仕方なく敵兵と恋人になる女性。そんな女性の扱いかたが蔓延ってる兵士たち。最後同郷(唯一の)男を殺して(女性に手荒くしないと言った直後に性的に敵の女性を扱う)それ見た教官がい私がやったことにするってそして規律を破った教官をセラフィマが同族殺しを止めたことにしろって言ったのが悲しい。結局1番近くにいて1番厳しくしてくれた教官がいちばんの味方すぎて...タイトル回収、最後の意味がわかると重みがます。もう凄いとしか言いようがない。最終的に幸せそうに暮らす描写があるので後味は良い。一緒に戦った仲間もすごくいい -
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今年読んだ本でナンバーワン!
池井戸潤、
塩田武士、
朝井リョウ、
が好きな人なら、ハマります。
現代社会を緻密に分析した上で展開されるストーリー展開。読む者を惹きつけて離さない登場人物達。
すごい作家さんに出会ってしまった!
不動産営業のこととか、
マネーセミナーのこととか、
よくぞここまで調べ上げたものだ。
裏の裏まで。
そして、人の心の機微を、とても丁寧に描いているし、本当に大切なこと、大切な気持ち、大切な態度ってなんだろう?真に善良であることって、どんなことなんだろう?というのを、登場人物達が必死で伝えてくれる。
理不尽なことも、思うようにならないことも
突然の事故も、悪い誘惑も、生きている限り誰にもあるわけで。
ラストシーンも好きだ。
オーバーザレインボウ。
好きな曲。レインボウに込められた意味。
あー!余韻に浸る!
表現しきれない
自分の語彙力のなさと
感情と経験と優しさの欠如が嘆かわしい。
身悶えするくらい、素晴らしい本だった!