著者のお一人、ふかわりょうさんは、常に言葉の選択を迫られていると言い、それはあたかもクローゼットから服を引っ張り出してスタイリングするようで、「24時間の(言葉の)ファッションショー」であると言います。そして、新しいものやこだわりによって見つけてきた(言葉の)アイテムを一緒に楽しむ人が現れたと言います。
はい。その人こそは、言語学者の川添 愛(かわぞえ あい)さんで、この本は、昨今の日本語界隈についてのお二人の対談形式の本なのです。
まず、ふかわさんは、「言語」とは「伝える道具」なので、(身体の)「動きで伝える」ことが言語の最初だったのではないかと問います。そして、話は、言葉と物との対応や、「うれしい」や「悲しい」を表情で伝えることが人間の共通認識となるには相当の期間が必要だったのではないかといった話題に発展します。
その後、日本語の表記(カタカナ・ひらがな)や漢字、ジェスチャーのことになり、言語化が100パーセントに近い形でできたことが、日本人があまりジェスチャーを使わないことと関係があるのではないかと話が広がります。
そして、話題は「〇〇感」、「〇〇のほう」など、日本人が曖昧表現が好きなことに及びます。(「界隈」という表現については、俵万智さんの『生きる言葉』の「5 言い切りは優しくないのか」で取り上げられていますので、ご参照ください。)
こうして、目次にあるような日本語の変遷や特徴、現代の日本語などについて、興味深い話がなされています。個人的には「第三章 なぜ、口にしたくなる言葉があるのか」が特に面白かったです。(「の」の懐が深い、偉大なる「も」、一文字の導火線、イカす邦題、など)
対談形式ですので、なかなかご紹介が難しいのですが、ふかわりょうさんの言葉に対する目の付け所が多彩であり繊細であることに気付くことでしょう。指摘される内容は言語学研究の論点としてよく研究対象にされているところなので、川添さんの回答とともに読み進めていけば、ある意味、言語学・日本語学の入門書を読み込むのに匹敵する質があると思いました。ふかわりょうさんの別著『世の中と足並みがそろわない』(新潮社、2020年)を併せて読まれると、さらに共感が深まると思います。
堅苦しくなく言語学、日本語学を学びたいかた、自分の日本語について気付きを得たいかたにオススメします。お気軽にお楽しみください♡
【目次】
はじめに 24時間ファッションショー ふかわりょう
第一章 なぜ、日本人は曖昧を選ぶのか
起源についてのトラウマ
笑顔は言語?
チンパンジーは論理的?
カタカナ、ひらがなの誕生
日本人に、ジェスチャーはいらない?
海外のオノマトぺ
英語への嫉妬
日本人は目、欧米人は口
「わかってもらえる」という幻想
素敵な「曖昧」
「大丈夫」問題を考える
薄め上手な言葉たち
第二章 なぜ、秋だけが深まるのか
言葉が先か、ジェスチャーが先か
表現が生み出す「カテゴライズ」
民意が言葉を淘汰する
漫画表現からスタンダードへ
四季と日本語
虹は本当に七色か
忖度の悲哀
「こだわり」はもともとネガティブ
連帯意識が生み出す若者言葉
敬語は距離感
第三章 なぜ、口にしたくなる言葉があるのか
言葉は意思に反して出る
優秀なアタッチメント
日本人は四拍子がお好き
「〜しておきましょうか」はどっち?
ストップ・ズルい表現
ふかわのネタに潜む言語的ギミック
イカす邦題
英語の使役動詞にジェラシー
第四章 なぜ、感情むき出しの言葉は不快なのか
英語にもある曖昧表現
消えゆく方言
クチスタシーの威力
違和感だらけの気象用語
「かねます」問題
「たっきゅうびん」と「たくはいびん」
「レンチン」という発明
言葉は毎秒のクリエイティブ
思考を口から出すときは服を着せ
「笑える」と「おもしろい」は違う?
AIと人間のこれから
短編小説 「さえずりの沈黙」 ふかわりょう
おわりに 「言葉の巧みな使い手」と話したら 川添愛