また騙されたという感じです(笑)
面白すぎました。方舟に続いてとんでもないお話。。
全てを知ってから読み返すと全く違う観点で読めて没頭して読んでしまいます。
前作方舟では予想もしなかった人物が犯人だったので、もう騙されるまい!と意気込んでいたこともあり、当初はひょっとして綾川さん犯人なのでは?と実は思っていました。
ただ、読み進めていく中でいやさすがに綾川さんがそんなことすると考えにくいなあ...なんて感じ、父を犯人だと予想しましたが、まんまとやられました(笑)
今思えば綾川さんのおかしな部分がたくさんあります。
例えば、11月で肌寒い時期なのに、朝起きた時に綾川さんが汗をかいたジャージを着替えているっておかしいなと今思えば感じます。。
また、十戒の八に、「他者の部屋を訪ねる際はノックを欠かしてはならない」とあるのにも関わらず後半、綾川さんが父の部屋に入るときに何の躊躇も無く、ノックもせずにドアを開けているのを見ると、犯人にしか出来ない行動だなと思い返されます。。
あとは、第3の殺人の後で犯人が里英ちゃんの部屋を優しく2回ノックしているところも綾川さんらしさを感じます。
他にも、ぞくりとするような囁き声とか、里英がここまで怯えているのが綾川さんが犯人だとしたらうなづける描写だと感じます。。
綾川さんが白々しく答えるとか、犯人がそんなことをするとは思いもよらなかったという調子を作ったとか、随所に綾川さんが犯人だということを示唆する部分があったのに最後まで気づけなかったことが悔しいです(笑)
綾川さんの最初の印象は入社間もない右も左もわからない控えめでおとなしそうな女性といった感じでした。。
全てを知った上で読み返すと、彼女の堂々たる立ち居振る舞いには本当に驚かされます。
どういう理由でも殺人は良くないことなのに魅力的に感じてしまう人物。
綾川さんは、殺人をする前から、よく人のことを見てるなと感じました。観察力と記憶力が高すぎて、日ごろからそうだからこそ、いざ殺人をしないといけないことになった時(そんな時無いw) とっさにロジックを組んでみんなをだませるだけの本当っぽい演説が出来るんだろうと思いました。。
短時間でここまでロジックを組んで、大胆な行動に出れる彼女の頭の良さと、肝の据り具合に驚くばかりです。
そして何より、最終的に明るみに出ることなく逃げ切り、最後の最後まで完璧にやりおおしたのも凄すぎて、怖すぎて、言葉が出ない。。
最終章も終わりそうなところで、里英が最初から犯人を分かっていたことも衝撃的過ぎて頭の整理が追い付かなかったです。
知った上で読み返してみると、綾川さんは常に里英の表情を窺ったり、里英もまた綾川さんの様子を窺ったり、お互いがお互いの様子を常に窺っているシーンが山ほどあり二人のヒリヒリした心理戦が想像できます。。。
犯人が綾川さんだと知りながらずっと知らないふりをしていた里英の心情を考えると本当に怖かっただろうなと感じます。。
読み返すと、「私もちろん自分も無事で帰りたいし、里英ちゃんにも無事でいてほしいんだ。だから、絶対に、無茶なことはしないでねって、それだけ言っておこうと思って」というセリフで、最初は優しいお姉さんの言葉に感じていましたが、バラしたら〇すよ?という何とも恐ろしいメッセージ性とばらすような真似したらどうなっても知らないよとよ~く釘を刺しているのが見て取れます。。。
里英に対してかなりの圧をかけ、相手が犯人だと知っていて犯人から目の前でこれを言われていると考えたら怖すぎて泣きそうです。
また、「(クロスボウが)ちゃんと当たって良かったな」とか、「みんなちゃんとやってくれて良かったな」とか彼女から出るセリフも、殺人をした人の話口調とはとても思えなくて怖い。普通のどこにでもいるような20代の女性がなんてことない内容の会話をのほほんとする感じのしゃべり口調で終始殺人の時のことについて里英に話していてとても怖い。。
「崖の近くまで来た時に、ここなら殺すのにちょうどいいと思ったんだ」というセリフに、もうその時点で殺そうと思ってたんだということと、殺すことに躊躇が無いというのがダブルで怖かった。。なんなら、夜中に爆弾犯の行動に気づいて念のためクロスボウを持って追いかけたところからもう殺そうと思ってたのかなとか思うとかなり恐怖を感じます。。
ノコギリで死体の足を切断することをしたり、あんな優しいお姉さんだった綾川さんにそんなおぞましいことが出来ることと、その躊躇の無さに身震いしました。。
何より彼女は殺人をしたことへの罪悪感が清々しいほど無く、そこが最も縮み上がる。
殺人の前夜はたわいもない会話だったり、SNSで見つけた猫の動画を綾川さんに見せたりと、殺人とは遠く離れたほのぼのとした時間が流れていたのにこんな優しいお姉さんが実は殺人犯でしたという二面性も怖い。。
綾川さんの描写で、居心地悪そうに縮こまるように座っていたとか、保冷バックを重たそうに抱えているとか、要所要所に綾川さんがそんなことするわけないよなと思わせるような表現が詰め込まれていてやっぱり騙されてしまう。。
最後の、「じゃあ、さよなら」は方舟と同じセリフで締めくくられており、彼女の人への執着の無さみたいなのもすごく感じられました。
とにかく良い読書体験をさせてもらいました。至極のミステリーです。