坂上泉のレビュー一覧
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ネタバレ「ババヤガの夜」を抑えて、第74回日本推理作家協会賞をとった作品だったので。
面白かった。
戦中から戦後の人間性がむき出しになる時代を舞台に、
大阪市警視庁という8年しか存在しなかった自治体警察を取り上げ、
東京帝大卒の国家地方警察の警部補と
新制中学から警察学校卒の大阪市警視庁の巡査が組むという、
硬派な作品で面白かった。
いかにも、という感じの大阪の雰囲気や物言いも。
国会議員秘書と政治的な活動をしていない「政治団体」の長が、
同じように顔を麻袋に包まれていた状態で殺された。
国会議員のガードは固く二人の関係が判らないまま、
さらに麻袋を頭に被せられた死体が川で見つかる。
自治体警察を吸収しようとする政情の中、
大阪市警察庁内の派閥争いや地元政財界との癒着、国警との軋轢が、
捜査に不穏な影を落とす。
満州でだまされて農場も家族も失い、
シベリアで収容中に病いの友をで自分の手で殺さなければならなかった復讐のためとはいえ、
犯人がルンペンを使ってアヘンを売りさばいていたのはちょっと納得がいかない。
しかもそれをえびす様のお導きだ、としていたことも。
推理協会の先生方が「ババヤガの夜」よりこちらに票を入れたのもわかる気がする。
とりあえずミステリーっぽい。
できれば、あと1.5倍ぐらいの長さにしてほしかった。
大阪府警察庁最後の事件として。 -
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「インビジブル」
見えない真実が炙り出す、戦争と人間の闇
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●第一章:引き込まれた「読みたい本」との出会い
数年前、ふと目に留まった一冊のタイトルがあった。「インビジブル」。その当時、まだ手に取る機会はなかったが、「いつか読みたい本」リストの奥深くに、その名は確かに刻まれていた。そして今、ようやくそのページを捲る時が来た。
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●第二章:戦後大阪に交錯する、二人の刑事と「満州の影」
物語の幕開けは、敗戦の傷痕が生々しい大阪。そこに登場するのは、対照的な二人の刑事だ。一人は理論的でスマートなキャリア組、もう一人は叩き上げで泥臭いノンキャリア。彼らが追う事件の背後には、想像を絶する闇が広がっていた。
そして、物語に重くのしかかるのが、満州で捕虜となり、奇跡的に帰還した一人の男の存在である。彼の過去こそが、この物語の核心をなす。
当時の日本が、戦況を有利に進めるため、満州で大麻の栽培・販売に手を染めていたという衝撃の事実。軍の士気を高めるためと称し、兵士に薬物を供給し、その利益の半分を国に上納させていたという、まさに「常識が見えなくなる世界」がそこにはあった。大麻事業で働かされていたのは、日本から移民した日本人。彼らは酷使され、敗戦とともに捕虜としての過酷な運命を辿ったのだ。
この事実は、戦争というものが、いかに人間を非人間的に変え、倫理観を麻痺させるものなのかを痛感させる。
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●第三章:「インビジブル」が照らし出す、戦時と戦後の人間の姿
「インビジブル」というタイトルは、この物語の多層的なテーマを見事に言い当てている。戦争という狂気は、まさに常識を「見えなくする」世界だった。勝利のためならば、人に薬を与え、機械のように酷使する。そんな非人道的な行為が、国家の目的としてまかり通る。
そして、戦時を生きた父と、戦後に育った息子。息子から見た父親は、酒や薬に逃げ、かつての生き様が「見えない」。しかし、それは父親だけの問題ではない。
戦時中に「見えない」形で進行していた大麻事業は、戦後も形を変えて、社会の「見えない」場所で暗躍している。
表向きは社会貢献を謳う政治家が、裏では麻薬製造会社の
実質的なオーナーとして、誰にも見向きもされない浮浪者たちに薬を売りつけ、利益を得ている構図は、戦後の社会に潜む「見えない」闇を象徴している。国の目が行き届かない、社会から「インビジブル」な存在である人々を食い物にする。
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●第四章:今こそ問い直す、「見えない」ものの存在
「インビジブル」は、単なる犯罪小説ではない。
戦争の持つ狂気、その中で失われた人間の尊厳、そして戦後の社会に横たわる倫理観の崩壊を、生々しく描き出す社会派作品だ。
敗戦から長い年月が経ち、戦争の記憶が薄れつつある現代において、本書は私たちに改めて問いかける。
あの戦争の裏側で、そして戦後の復興の陰で、一体何が「見えなく」されてきたのか。
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●さいごに
この物語は、過去と現在を繋ぎ、我々が見て見ぬふりをしてきた「不都合な真実」を突きつける。
そして、私たちの日常の中にも、果たして「インビジブル」な存在がいないだろうか、と問い直すきっかけを与えてくれるだろう。真に恐ろしいのは、狂気が「見えない」形で社会に浸透していくこと。この小説を読み終えた時、私たちはきっと、今まで「見えなかった」ものに気づかされ、深く考えさせられることになるだろう。 -
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坂上泉『渚の蛍火』双葉文庫。
『インビジブル』は予想外に面白い警察小説であったので、本作にも大いに期待したいところだ。
帯に書いてあったが、本作は今年の秋、某有料衛星放送でドラマ化されるようだ。
舞台は本土復帰を目前に控えた沖縄で、当時は米国政府と琉球政府とに統治され、本土からはパスポート無しには渡航出来ず、通貨はドルという、日本人でも米国人でもないという非情な扱いを受けた沖縄の人びとの苦悩が覗える。さらには駐留する米軍による暴行や犯罪に苦しむ沖縄の人びと。
そんな沖縄で、日本への返還を台無しにするような大事件が発生し、警察官たちは秘密裏に事件を解決するよう命ぜられるのだ。
二転三転する展開と驚愕の結末。特異な時代背景を巧く利用した、何と面白いストーリーなのだろう。『インビジブル』も凄いと思ったが、本作も凄い。
1972年春。本土復帰を目前に控えた沖縄では、それまで使用されていた大量のドル札を円に交換する必要があるため、島中の現金を回収していた。そんな最中、琉球銀行の現金輸送車が襲われ、当時のレートで3億円以上に当たる100万ドルが強奪される。
本土復帰の直前であり、高度な外交問題に発展する恐れがあるため、琉球政府および琉球警察上層部は日米両政府に秘匿したまま、極秘裏に事件を解決するよう指示をする。
極秘任務を受けた本土への出向経験のあるエリート警察官の真栄田太一警部補は、様々な葛藤を抱えながら事件解決に挑む。
本体価格780円
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坂上泉『インビジブル』文春文庫。
初読み作家。日本推理作家協会賞、大藪春彦賞のダブル受賞の警察小説。
水と油の正反対のコンビが連続殺人事件の謎に迫るという有りがちな設定なのだが、戦後間もない大阪が舞台とあって、なかなか興味深いストーリーが展開される。
また、メインの物語とは別に描かれる満州に渡った男の過酷な物語からすると、間違い無くこの男が犯人なのだろうと思うのだが、犯行動機が見えて来ない。
戦後の昭和29年。大阪城近くの三十八度線と呼ばれる場所で政治家の秘書が頭に麻袋を被せられた刺殺体となって発見される。
大阪市警視庁の若手、新城洋巡査は初めての殺人事件捜査に臨むが、警視庁上層部の思惑により、国警から出向してきた帝大卒のエリートである守屋とコンビを組ませられる。
その後、政治家の秘書と同様に頭に麻袋を被せられた右翼団体の主宰者の轢死体が発見され、事件は同一犯による連続殺人事件の様相を呈する。
新城と守屋の全く正反対の2人は衝突を繰り返しながら、事件の謎に迫る。
そんな中、さらに安治川から頭に麻袋を被せられた刺殺体が発見される。
本体価格870円
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戦後間もない大阪。警察は地方自治体が運営する「自治警」と、より広範な領域を担当する「国警」の二つに分かれていた。そんな中、議員秘書が殺害される事件が発生し、次々と同じ手口の殺人が続く。大阪府警視庁(自治警)の叩き上げの若い巡査・新城と、国警から派遣されたエリートの守屋は、異なる価値観や立場を持つ者同士ながら、コンビを組むことになる。対立しながらも互いの過去や信念を知るにつれ、少しずつ信頼を築き、事件解決のために奔走していく――。
本作では、戦後の混乱期における大阪の街や人々の姿が生き生きと描かれ、時代の息遣いが伝わってくる。歴史に疎い読者でも、その世界観をしっかりと味わえるほど、細部まで丁寧に構築されているのが印象的だった。物語の序盤は、当時の警察制度や戦争後の国家のあり方についての説明が多く、やや硬めの印象を受けたが、登場人物の内面が徐々に明かされるにつれて、それぞれの信念の背景にある人生を理解し、共感するようになった。異なる立場の者同士がぶつかりながらも協力し合う様子は、緊張感がありつつも胸が熱くなる展開だった。