呉明益のレビュー一覧

  • 自転車泥棒

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    商場、蝶、象、戦争、家族

    父とともに消えた自転車を巡る数奇な物語

    読むのに時間がかかったけど、長文とか読みづらいとかではなく、一文一文噛み締めるように読みたい、そんな本

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    2025年02月13日
  • 眠りの航路

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    人が眠るってことは、限りなく死に近いってことをさ。夢の状態に近づくことは、死の状態にも近づくことでもあるんだ。

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    2025年01月08日
  • 歩道橋の魔術師

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    今はなくなった台北「中華商場」という場所を舞台にした短編小説。子供時代体験したであろう色々な出来事の不思議さ、昂揚感、心がしめつけられる悲しみみたいなものを小説で見事に表しているなあと感じた。そんな色んな子どもたちの共通の記憶として「歩道橋の魔術師」がいて、各物語に影響を与えている。
    面白かったので「自転車泥棒」「複眼人」なども読んでみたいなと思った。

    村上春樹っぽい言い回しもところどころ見られる。ちょっと気になり調べてみると、とあるインタビュー記事に「ねじまき鳥クロニクル」を読んだことがあると話しておられた(作中にも村上春樹の名前が一度出てきた)。
    p.246 彼女の完璧な耳たぶに注意を引

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    2024年06月12日
  • 雨の島

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    明晰で硬質な言葉によって書き留められた自然描写のなんと素晴らしいことだろう。
    自然は、うちに秘めた合理性と、完璧な精緻さによって僕等をいつだって驚嘆させる。

    顕微鏡が捉えたかのような完璧さを、柔らかく滲ませて、水彩絵の具を何層も重ねていったかのように透かして見える奥行きを与えるのは、ひっそりと降る雨だけではない。
    細密画には書き込めない、網膜に映らないものが自然の中には確かにあるのだ。

    季節や天候の移ろいに、動植物の営みに、人は意味や徴しを見いだし、記憶や自己を重ねてゆく。つまりそれは、世界に物語りを付与するということ。
    そうやって人は、目に映るあるがままの自然から、己のためだけに差し出さ

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    2024年05月18日
  • 雨の島

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    草や木、海や山、鳥や獣や昆虫に混じって、人が物語を奏でる。
    背景ではなく物語のkeyとして……
    六つの中短編と挿し絵が一冊の物語としてまとまる。
    これは、「ネイチャーライディング(自然書写)とフィクションの融合」だそうです。

    でてくる自然は台湾由来のものを示すが、登場人物の名前は一様に漢字表記ではない。これも台湾という土地の歴史が物語ること。

    少し現実に引き戻される事柄として「クラウドの裂け目」「鍵」がどの物語にも登場する。
    主人公をもう一つ不思議な事へ誘うkeyとなる。
    ……正直、なんだか安易で、よくわからないかな〜

    お気に入りの作者だけに、やや不満。

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    2024年02月07日
  • 自転車泥棒

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    失踪した父と共に消えた自転車はどこへいったのか?そんな棘のように消えない記憶を抱え、古い自転車コレクターとなった作者。そこから始まる台湾自転車史から家族と台湾の歴史の壮大な物語。
    父の自転車が作者の手に戻るまでに経てきた持ち主たち、その過程で知り合う台湾先住民族の青年カメラマンのもう一台の自転車、さらにそのカメラマンの父の自転車と第二次世界大戦における銀輪部隊…と自転車を軸として展開される物語りが素晴らしい。
    「古いものを愛するのは時間を愛すること」、たった一台の自転車からでも人は過去を見出すことができる。

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    2024年01月24日
  • 歩道橋の魔術師

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    ネタバレ

    巨大迷路のような中華市場、屋上には鮮やかなネオン塔が光り、幾つもの棟を結ぶ歩道橋には魔術師が立っている…。昭和レトロならぬ台湾レトロを感じさせてくれる短編集。短編とは言え同時期に中華市場に住む子ども達の話という共通点があり、同じ登場人物が出てきたりでまるで一冊の中編小説を読んでいるよう。魔術師が気まぐれに見せる魔法は子ども達の心に残り続け、成長した後も時に生きる希望となり、時に死の原因となる。
    台湾本国でドラマ化してるんですね、これ。セットで中華市場を完全再現したらしく、すごく観たいんですがローカライズもないし日本で観るのは無理そうで残念。予告編だけでも本書とあわせて観ると雰囲気が味わえていい

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    2024年01月06日
  • 自転車泥棒

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    無くなった自転車を探す旅が、時空を超えて様々な語り口で紡がれていく。
    幻想とノスタルジーが心地よく、見たことの無い台湾の風景が浮かんできた。
    たまに何を意味しているのかわからない部分もあったが、それも含めて美しい小説だった。

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    2023年10月20日
  • 雨の島

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    雨が降らなくなってしまったために、餌となる虫を食べられなくなってしまった知り合いの鳥「胖胖」のために語った、とされる六つの物語が入った長編小説。
    人とうまくコミュニケーションを取れないミミズ研究者と鳥類行動学者。恋人を失ったツリークライマーと、無差別殺人で妻を失った弁護士。絶滅したクロマグロを探す男と、囚われた虎を解放しようとした青年。それぞれの物語では、対になる似た傷を負った人たちの傷が癒されるまでが語られる。

    プロローグでは、雨が多かった島に、雨が降らなくなってしまったことで、畑が死にかけていることが語られる。そのため、この物語において雨は、命を救う恵みの雨として描かれる。
    「雲は高度二

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    2023年09月25日
  • 歩道橋の魔術師

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    遠い台湾の話なのに、なぜか懐かしいノスタルジックな感情、異国情緒、人生の残酷さを同時に味わえる、稀有な作品。
    この本1冊持って、1人で台湾にぶらりと行きたくなる。
    「99階」が特に印象的だった。

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    2023年03月11日
  • 自転車泥棒

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    小説家をしている「ぼく」は、父と一緒に失踪した「幸福」印の自転車を探す。自転車コレクターである「ナツさん」のところで、ついに見つけたその自転車は、父の手を離れたのち、多くの人の手を渡って、「ぼく」のところへと戻ってきた。
    物語は、父の「幸福」印の自転車が巡ってきた人たちの物語をまとめたものである。彼らは、自転車の来歴を知ろうとする「ぼく」に、従軍時代に出会った老人やチョウ捕りの思い出、第二次対戦中の銀輪部隊やビルマの森での戦争の記憶を語る。

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    2023年02月13日
  • 歩道橋の魔術師

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    名作『自転車泥棒』の呉明益。翻訳も同じく、夭折された天野健太郎さん。こちらは短編連作集。失われた商場で過ごした少年時代が描かれる。

    とにかくいつもながら、センチメンタルすぎて読んでいて死にそうになる。この短編集でも、複数の動物たちが描かれる。これまた、切なくて、倒れそうである。

    しかし、魅力があって読むのがやめられない。

    表題作はやはりとても印象に残るが、僕が好きなのは『ギター弾きの恋』と『唐さんの仕立て屋』。

    台湾に久しぶりに行ってみたくなるなあ。

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    2022年11月07日
  • 自転車泥棒

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    ネタバレ

    ぼくの父は、兄の高校の合格発表の時、ぼくを小児科に連れて行った時と自転車を無くし、最後は幸福印の自転車と共に失踪した。古い自転車を集め、部品を集めて修理するぼくは、失踪した父の自転車と再会する。その持ち主にたどり着くまでの人々の歴史、その人々と自転車との歴史は、チョウを工芸品にして生きる人々と、ビルマやマレーシアでの太平洋戦争でジャングルの中を彷徨う人々と、戦争に巻き込まれるゾウや動物たちと動物を愛する人々と、話がつながっていく。
    話が広がりすぎて、誰が誰と繋がっているのか追うのが大変だったので、人物関係を整理しながら読み直したい。ものすごく広がった物語が関連しあって収束していく、物語の回収の

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    2022年08月27日
  • 歩道橋の魔術師

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    台湾作家による幻想文学。
    作者はガルシア=マルケスが好きなようで本の最初に言葉が引用されている。

    この短編集は、実際に台湾にあった「中華商場」という商業施設にに住む人々の人生の喜怒哀楽が書き記されている。商場には八つの棟があり、歩道橋で繋がっていた。歩道橋にはマジックを見せていた「歩道橋の魔術師」がいた。
    ここに出てくる登場人物たちの現実はなかなか厳しい。死んだり事故にあったりする人も多い。そんな現実にふと摩訶不思議が顕れる。あまりにもさりげないので不思議とも感じないような不思議。もうなくなった商場に、もう会わなくなった人々。
    色々なものが人生を通り過ぎたが、今は自分は歩いている、厳しいよう

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    2022年07月23日
  • 歩道橋の魔術師

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     歩道橋といっても日本で普通に見る、あのただの立体横断歩道とは異なる。
    台湾の台北市・中華路には1961年から92年代まで「中華商場」という大型商業施設があった。それは鉄筋コンクリート三階建の建物が南北に台北駅の手前から愛国西路まで1キロにわたって立ち並び、それぞれの棟に〈忠〉〈孝〉〈仁〉〈愛〉〈信〉〈義〉〈和〉〈平〉という名前がついていた。商場は中華路の車道の真ん中に建てられていたため、中華商場の建物を南北に結び、同時に車道と鉄道を東西に跨ぐ歩道橋が中華商場各棟の二階で直結し、幅も広く、沢山の露店商で賑わったらしい。
     これは短編集であるが、それぞれの話の主人公たちは皆、子供のころ商場で育ち

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    2022年07月03日
  • 歩道橋の魔術師

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    20世紀末に取り壊された台北の巨大商業施設・中華商場。その棟と棟をつなぐ歩道橋には、不思議な黒い小人を見せる魔術師がいた。かつて商場で育った子どもたちは、そこで過ごした日々のなかに確かにあった魔法の瞬間を語り始める。記憶と物語の距離をめぐる連作短篇集。


    すっきりした語り口で完成度の高い作品。『自転車泥棒』の煩雑な文体とも、『雨の島』の静謐さとも異なる。芥川賞ノミニーのような空気感があるので、現代日本の文芸作品に親しんでいる人はこの小説から呉作品に入るのが読みやすそう。
    中華商場という空間が象徴する子ども時代とその喪失。主題を整理すると左のようになるが、ジュブナイルのノスタルジーを甘く描いて

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    2022年02月19日
  • 自転車泥棒

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    まず、翻訳が大変こなれていて、つっかえることなくすらすら読める。
    過去と現在、様々な場所と時代を行き来する。
    戦争の記述は、村上春樹のノモンハンの文章を思い出した。

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    2022年02月10日
  • 自転車泥棒

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    ネタバレ

    重厚で濃密。
    戦争と自転車、ゾウと戦争、チョウの話…知らないことが多すぎて、いろんな目が開かされた。

    そして、アジア史は日本が敵なのか味方なのかがコロコロ変わるので、頭の切り替えが難しい。

    でも、読み進めざるを得ない圧倒的な力を感じた。いつか再読して、きちんと理解したい。

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    2022年01月20日
  • 眠りの航路

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    ネタバレ

    台湾の作家、超名作『自転車泥棒』の著者である、呉明益の長編第一作。

    呉の小説の特徴は、父親の不在・確執、戦争の記憶、動物への愛情、無機物に対する執着的描き方にあると感じる。『自転車泥棒』におけるオランウータンと人の繋がり、戦時における象の扱いなど、読むのがしんどくなるほど切ない。この小説でも亀についての記述が秀逸である。

    主人公であるフリーライターの「ぼく」が睡眠の異常に陥り、それが解決するまでの物語だが、章毎に主格がころころ変わる。父とおぼしき少年、観音菩薩(読んでいて?となる)、石ころという名の亀・・・。

    主人公は、父が台湾人少年工として従軍して渡った日本へ行き、睡眠の専門医の診察も

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    2022年01月16日
  • 雨の島

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    近未来の台湾。ミミズ研究に没頭する女、鳥の生態を手話で表そうとする男、恋人がフィールドワーク中の事故で植物状態になった女、亡き妻が書き残した小説を読んでウンピョウに取り憑かれた男など、マジョリティの世界から逸れざるをえなかった人たちが、オブセッションに駆られて山や海にのめりこんでいく。未来のフィールドワークのありようを描いた連作短篇集。


    今年は英米以外の海外文学を積極的に読もうと意気込んで手に取った本作が早速の当たり!著者はもともと蝶に関するネイチャーライティングで名を知られ、その後フィクションを発表するようになったという経歴の持ち主。そこから期待される〈自然と文明〉というテーマと、随想と

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    2022年01月14日