台湾人作家の小説には、ある種ノスタルジーを感じる。
自分自身が体験していないのに、懐かしさを感じてしまう。
甘耀明「鬼殺し」にも感じた、日本統治時代の台湾に、かつての日本を感じる。
それは日本人作家が描く明治期の日本よりも日本らしく感じる。
一台のアンティーク自転車をめぐって、本省人、
...続きを読む外省人、日本人、台湾原住民にそれぞれの物語があり、そして太平洋戦争時の銀輪部隊、インパール作戦中のゾウの数奇な運命、が語られていく。
熱を出すと父親は自転車に僕を乗せて小児科医まで走った。
当時は高級品だった自転車はよく盗まれ、我が家の自転車も何台か盗まれた。
幼い頃に最後に見た父の記憶は、自転車に乗って出かけていく姿だった。
そして父親は突然失踪した。
年月が経ち青年期の僕は、入った喫茶店にアンティークとして飾られていた自転車は、間違いなくあの日に父親が乗っていた自転車だった。
どうしてこの自転車がここにあるのか。
その来歴を調べるうちに、一台の自転車がかかわった人たちの話が語られる。
台湾という小さな島に、立場も別々のグループがあり、そういった多様性の成り立ちが日本とはまるで異なっている。
台北の古い街並みに、かつての日本をそこに見る。