呉明益のレビュー一覧

  • 眠りの航路

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    『なぜなら、記者の同情が嘘っぱちだなんてことは誰でも知っていたからだ。それに比べて、作家という存在はいわゆる作品の「深さ」を表現するために、物語を盗んだ後に憐みからかあるいは対象への理解からか、二粒ほど涙を流すふりをしなければならなかった。たとえその物語の主人公が、自分の両親であったとしてもだ』―『第二章 夜は最もいい時間だ。眠りに落ちるのが困難なとき、それはお前の耳にちょうど死者たちの叫び声が届いてしまったからだ。J・M・クッツェー「夷狄を待ちながら」』

    ああここに「複眼人」に、ここには「自転車泥棒」に、そしてもちろん物語全般を通して「歩道橋の魔術師」に展開していく筈の物語の種が既にある。

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    2022年03月22日
  • 自転車泥棒

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    もう少し単純なオムニバスを想像して読み始めたので、戦争が作品に暗い影を落としているのは予想外だった。

    いつの時代も争いを始めるのは人間で、動物はそれに翻弄される。第二次大戦でゾウが戦闘に関わっていたことは知らなかった。動物が何を考えているかはわからないけど、リンワンのように戦争の記憶がトラウマになって残ることだってありうるだろう。
    人間にだって戦争のトラウマが残ることは当然の前提として、でも人間は語ること/語り合うことができるし、あの戦争はなんだったのか、なぜ戦う必要があったのか検証して思慮を巡らせることができるけど、少なくともゾウはあの戦争の背景を知る由もないので、ゾウの心に人間が一方的に

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    2022年03月17日
  • 歩道橋の魔術師

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    ネタバレ

    なんか難しいなと思ったような気がして、読後、パラパラ捲ってみたが、読み終えた今となっては、そんなことはなかったなと思う。

    魔術師のマジックはマジックかもしれないけれど、やはり、全て本物、それは記憶についてもそうだよ…と語りかけられた。

    商場に住んでいた訳でもないし、実際見たこともないけれど、自分がそこに思い出があるように感じさせられ、何か納得させられてしまった。

    ノスタルジーを感じるというより、自分の中の記憶、それはもしかしたら、勝手に脚色されているものだけれど、きっと宝物だと感じさせられた。

    読後になんとなく、夢見心地になることに気分が良くなる良い体験をした。

    『光は流れる水のよう

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    2022年02月25日
  • 眠りの航路

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    中華文学、好き。。。厳密にはこれは台湾の作家だけども。WWII、カメと仏像、睡眠障害と夢、三島と平岡くん。ゆるやかに三島をディスってるところも楽しい。うんわたしもかねがね三島の晩年のあの振る舞いは過剰に解釈されていると思ってるよ。日本と似ているようで全然違う国、中国(これは台湾だけど)カメがありえないくらいかわいそうで(このあたりも日本の発想には絶対ない)この作中で死ぬ場面が出てきませんように、と願って読んだ。

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    2022年02月12日
  • 自転車泥棒

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    21世紀、台湾。小説家の「ぼく」はヴィンテージ自転車の愛好家でもある。古道具屋のアブーを経由して自転車コレクターのナツさんから「貴方が探しているのに似ている自転車を見つけた」と連絡を受けて駆けつけると、そこにあったのは20年前失踪した父と共に消えた〈幸福印〉の自転車だった。自転車をディスプレイしていた喫茶店の元オーナーで写真家のアッバスと親しくなった「ぼく」は、彼もまた自転車にまつわる物語を持っていると知る。自伝を装ったフィクションと戦地を舞台にしたマジックリアリズム、台湾自転車史の雑学などが渾然一体となった、とある自転車の一代記。


    とにかく盛りだくさんの小説である。第1章の中華商場でのに

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    2022年02月06日
  • 雨の島

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    短編に出てくる人々はそれぞれに欠けているものを抱えているが、それは身体的なものだったり、家族だったり。物語を経て、その欠損は埋まっていく訳でもないのだが、筆者の描くそれぞれの答えは、自然や人間がその欠損に向き合い辿るひとつの姿だと思えた。

    しかし、挿絵も作者、裏表紙の写真も作者撮影。どんだけ才能あるんだ…

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    2022年02月02日
  • 雨の島

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    ネタバレ

    『伊与原新 + 恒川光太郎 = 呉明益:えっ、マジ!!』

    ミミズ、野鳥、森、雲豹、クロマグロ、鷹などを題材としたネイチャーライティング小説。自然科学に根ざした細かな描写と独特な世界観は、まるで、台湾版 伊与原新+恒川光太郎 かと思いました!

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    2021年12月26日
  • 歩道橋の魔術師

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    台北に1961年から1992年まで存在した長さ1kmのショッピングモール「中華商場」を舞台にし,そこで暮らす子供たちを主人公とした10の短篇(と1編のオマケ)からなる.多くの話に「歩道橋の魔術師」が狂言回しとして登場し,また,ある話の主人公は別の話にエキストラとして登場する.
    日本に売り込む際には「三丁目のマジックリアリズム」というコードネームだったと書かれているが,確かに南米の作家のような不思議な味わいがある.ただ我々と同じ東アジアが舞台であり,不思議な味わいである一方で,描かれる光景が身近に感じられる.
    自分より下の世代にはピンとこないかもしれないが,台湾では1987年まで戒厳令が敷かれ,

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    2021年11月23日
  • 雨の島

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    自然や生き物に触れたとき、心が沸き立つ感覚がある。
    “Sense of Wonder”

    今振り返れば、あの時の経験が自分をこの道に進ませた、自分をまた生きることに戻らせた、そう感じる瞬間と、様々な物語が出会い、入り組み、紡がれる短編6編。

    コーマックマッカーシーから言葉を一部引用した著者曰く、“すべてはいたましさから生まれ出るが冷え切った灰ではない”。

    この本の一編一編はまるで慈雨のよう、読み終えたとき心に何かが湧き上がる。そんな日はちょうど雨でした。

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    2021年11月09日
  • 自転車泥棒

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    自転車、家族、戦争、ゾウ、チョウ。
    古い自転車を探すことと、歴史を学び直すこと。
    自転車を探すことと、誰かの人生を追いかけること。
    アジア現代史を背景に様々なことを想起しつつ、幻想文学として読んだ。

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    2021年11月07日
  • 自転車泥棒

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    不思議な小説だ.
    主人公は古い台湾製の自転車の収集マニアである.彼が自転車に執着するのは,どうやら父親の失踪に関係するようだ.父とともに失われた自転車を追い求める物語なのだが,自転車は不思議な運命を辿り,それを追い求める過程で出会う多くの人々の自転車をめぐる物語が積み重ねられる大河小説である.
    「百年の孤独」のようだ,というのは言いすぎかもしれないが,大傑作である.

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    2021年10月22日
  • 歩道橋の魔術師

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    初めて読んだ台湾の小説!台北の広大なショッピングモール“中華商場”。そこにはマジシャンがいた。決して豊かではなく、その日その日を生きる人々に少し不思議な事が起きる、短編集。マジックリアリズムって言うのかな。人熱、生活臭、空気感が漂ってくるような文体。

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    2025年12月01日
  • 海風クラブ

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    まず、ルドンから着想を得た表紙の絵に惹きつけられました。
    台湾の土着の民族が漢民族や日本人達によって搾取され追いやられていく様子が、山に住むという伝説の巨人の終焉と絡めて壮大な物語になっている。
    最初の2人の子供の出会うシーンはとても良かった。だんだんありきたりの展開になって少し残念。
    過去や現在が入り乱れ沢山の登場人物がそれぞれの人生を語り名前が変わったりするので、ごちゃごちゃして紛らわしかった。訳者さんの後書きで工夫されたところだと思うけど、読みづらかった。

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    2025年10月29日
  • 歩道橋の魔術師

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    今はない、台湾の市場を舞台にした連作短編集。
    行ったことも見たことも、それこそ生まれた時くらいに無くなった場所なのに、強烈なノスタルジーがある。
    架空のノスタルジーを楽しめる本。

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    2025年09月21日
  • 海風クラブ

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    プリミティブな美しさが時の流れとともに侵されていく。それでもなお人は生きつづける。金儲けに踊らされる(その結果を唯々諾々と受け入れる)人間の営為は巨人の体を削り、その体内に異物を放り込むようなものだというメッセージはあまりに直截的で、読むべきはむしろ強く逞しく生きていく人たちのその姿なのだろう。物語は円環を描くように閉じていく。父(母)祖の闘いを引き継いだ次の世代に強い生き方を託しながら。

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    2025年09月10日
  • 歩道橋の魔術師

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    ノスタルジーは懐かしさとともに、常に少しの喪失感と痛みを伴ってやってくる。
    商場はそういったものの代名詞になっているのだと思った。そこで描かれるマジシャンは、曖昧な記憶を夢と不可分にする怪しさを象徴しているように思う。

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    2025年07月26日
  • 歩道橋の魔術師

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    台湾で育ったわけでもないのに不思議と懐かしい気分になる。子供の頃の不思議な記憶を独特な雰囲気で、そして様々な人物の目線で描かれている。世界が住んでいる場所近辺までだったり、不思議なことを信じて疑わず、それを体験していたり。初めての台湾文学作品だったが、台湾好きにとてもオススメ。

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    2025年05月11日
  • 歩道橋の魔術師

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    魔術師に出会った人々は現実と もう一つ別の世界をみる

    ゴシキドリ シマキンパラなど見たことのない鳥に出会えて 不思議な気持ちになった

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    2025年05月02日
  • 複眼人

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    今まで感じたことのない不思議な物語でした

    夢の中にいるような錯覚を感じる 呉明益さんの作品です

    死生観も独特です

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    2025年04月28日
  • 眠りの航路

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    太平洋戦争中に日本にいた父とジャーナリストの息子、父と平岡(三島のアレゴリー)の交流、戦後台湾の混乱と発展などなど。自転車泥棒や歩道橋の魔術師の前駆みたいな小説。翻訳者の天野健太郎が若くして亡くなってしまったのは惜しかった。
    「歩道橋の魔術師」が一番良かったかな。

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    2025年03月11日