岩井圭也のレビュー一覧
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プロローグ
灼熱のアスファルトから立ち昇る蜃気楼は、
自身の影をゆらゆらと揺らしている
太陽からは容赦無く熱波が放射され、
己からは汗が吹き出している
纏わりつく湿気も実に不快だ
我が国はいつから亜熱帯気候になってしまったのか
80余年前の彼の地、サイパンも
昨今の日本のように灼熱だったに違いない
本章
『楽園の犬』★5 mariさんの本棚から
主に第二次世界大戦前夜のスパイ小説で
まことに稀有なサイパンが舞台だ!
スパイにならざるおえなかった主人公、麻田
その雇い主である海軍の堂本
2人の人生が、大戦前後の動乱によって
大きく変化していく様を克明に描いた
感動のスパイ小説である
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Posted by ブクログ
物語の中身ではなく、外側について。
岩井さんの小説は、セリフと物語が、いかにもなセリフや物語としての書き言葉ではなく、本当に口から紡がれたかのような切り方、それも長い時も短い時もある。それが臨場感や焦燥感など、空気を作り出しているように思う。
また、キャラクターが「立っていない」。だから、本当にいそうで、本当にそう考えそうで、「ふつうに考えた範囲では、ふつうそうなるよな」と思えて、「いやそうはならんやろ」とあまり思わない(一部作品にはあるが)。
そうしたことが没入感をつくり出していると考えた。では人物に共感するか?というと、そういうことではない。ましてや今回の物語は共感してはいけない。そもそも -
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1940年、太平洋戦争勃発直前のサイパンの地に降り立った元女学校英語教師の麻田健吾。表向きは南洋庁サイパン支庁庶務係としての赴任だが、その実態は日本海軍のスパイという任務を帯びていた。
島内を跋扈するあらゆる種類のスパイたち。海軍vs陸軍、アメリカ人vs島民、内地vs沖縄、あらゆる対立構造が生み出す緊張感。
ごく普通の教師だった麻田が飲み込まれていく闇が深すぎる。それでも真っ当な感覚を最後まで持ち続けた彼の姿がどこまでも爽やかで印象的。
日米開戦を回避するべく奔走した堂本海軍少佐と、思いを同じくする麻田の間にある信頼関係。戦争中、非国民の誹りを受けながら、なんとしても生き抜く努力をするこ -
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岩井圭也さん「楽園の犬」
著者の作品は「汽水域」以来5作品目。
80年前の終戦に合わせて結構前からこの「楽園の犬」を本年の8月の一冊にしようと決めていた。
まず表紙。「鳳凰木」という樹木、全く知らなかったのだがサイパンでは「南洋桜」というらしい。
現在もだが、日本人にとって戦中は特に「桜」とはある意味で生と死を象徴する樹木であり、満開に咲いて散っていくその儚さを表象しているようと思慕し偲んできた。
この表紙の満開の真っ赤な桜に当時サイパンにいた日本人はきっと色んな想いを馳せたに違いない。
祖国を想い、家族を想い…
この桜には先人の御霊が宿っている様に感じられる。
自分は20年位前に一度サイ -
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ネタバレ舞台は太平洋戦争も秒読みとされた時代のサイパン。生きるために海軍の犬(スパイ)として動くことになる主人公の麻田。日本では英語教師として働いていた彼は、アメリカの情勢にもある程度詳しく、日米は開戦してはいけないと考えている。
喘息持ちで体が弱く、日本に残してきた妻と一人息子のために、なんとしても生きて祖国の地を踏むことだけを目的とし、そのために任務を全うしようとする麻田。
言ってみれば戦時中は『生きることへの執着』は醜いとされた時代です。作戦の責任をとって自決することが賞賛され、捕虜となることは恥とされ、捕まるぐらいなら民間人でも崖から飛び降りることを率先して選ぶ、そんな世の流れです。
人 -
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自分は世界の一部である。世界の全てを知れば自分を知ることができる。なぜ知識の深淵を目指したのかを明かす南方熊楠の一代記。
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知の巨人であり変人であり変態(褒め言葉)でもある南方熊楠は、一部の熱狂的な人々にとってはいろんな意味でヒーローであろう。伝え聞くその生き方や、南方曼荼羅に代表される著作は人を惹きつけてやまない。そんな熊楠を捉え直すのが本作。
非常に丹念に熊楠という人物を掘り下げたのだと思うし、そのイメージは僕が想像する熊楠像とぴったり重なるので、とても読みやすく、人物描写にも共感できたのがよかった。最後に目指した学問をものにできたのか、家族の問題はど