2023年度、個人的に最も部屋に飾りたい表紙NO.1にランクインしていた本作、貴志祐介さんの帯の文言も相まって飛び付きました。
表紙の木は鳳凰木、日本人には南洋桜と呼ばれる燃えるような木ですが読み終えた後で見返すと一際感慨深くなります。
スパイもの×ミステリー×戦史が絶妙に絡み合った最高の胸熱作品
...続きを読むでした。(こう書くと一気にチープ感増しますが本当に感動しました)
英語教師であった主人公の麻田が、喘息の為に職を失い家族を養う為に海軍少佐の堂本の元でスパイ、犬となって開戦前のサイパンを奔走します。
この麻田は中島敦さんをモデルにされているとの事で、参考文献にも中島さん関連の書物が並んでおりました。
しかし今回も参考文献の数が凄い…。戦史ものを書くに当たっては必然なのかも知れないですが、本当に尊敬します。
日本がサイパンを占領下に置いていた頃の話なので「教育を施してやっている」との名目で島民の名前を取り上げて日本の名前を与えたり、蔑んで差別をしたり、同じ日本人として目を覆いたくなる場面も多く出てきますが、麻田が公平で実直な人物なので我々読者は救われます。
勿論、日本に感謝している島民も存在します。その極端な例であるシズオという人物が登場するのですが、日本人になりたくて仕方が無い彼に対して日本人は認めないどころか蔑みの目しか向けない。
あまりの悲しさに「ごめんな…」と思わず謝罪してしまう私。
スパイと言えば私は真っ先に007が思い浮かぶのですが、実際のスパイは非常に過酷で泥臭く、命を懸けて這いずり周るようにして諜報活動をするんですね(ボンドも派手に命懸けですけれど)
海軍と陸軍の腹の探り合いも熾烈を極めます。
ふと実際にあった件を思い出しました。日本の将校が酒盛りをしていたのに対し、米国の将校は部下の下に訪れて一人一人に激励の言葉をかけていたという話。
軍事力の圧倒的差もあるけれど、そりゃあ負けるよなあ…と悲しくなってしまいましたが、勿論それは一例であって素晴らしい日本の軍人さんも数多くいらっしゃった訳で、その中の1人が堂本少佐です。
彼は彼なりに祖国日本を守る為に命を懸けている姿…かっこいいよ!!
そして始まる真珠湾攻撃、堂本少佐と麻田の命運はいかに…?!
と、テレビの次回予告のような文言を書いてしまう程に最後の方は結末がどうなるのか全く分からず、ページを捲る手が止まりませんでした。
お得意の余談なのですが、カフェの隅っこにてボッチで読書に勤しんでいた私の隣に、可愛らしいカップルが座っておりました。
「どうする?帰っても暇やしなー」「でもこの辺も何もないんよなあ」とお困りのお2人に「本を読めば一瞬でサイパンに行けますぜ」と言い残して(心の中で)カフェを後にしたのでした。
本はどこでもドアですよね、読書は至福の時間だと再確認しました。