河邉徹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読み初めは少し私には合わないかなっと思いつつ、読んだのですが、読み進めるうちにどっぷりとその世界にはまってしまったそんな作品です。
染谷達也というシンガーソングライターの曲、特に彼が音楽の世界から引退した最後のシングル、「夢のうた」がキーワードとなって5人の男女の人生を変えていく、連作集です。
一つ一つの主人公が、愛おしくなるほど純粋で、生きることに懸命なのが嬉しくなる、そんなストーリーです。そしてそんな彼らの心に寄り添う音楽の力も素敵だなと感じます。
今や音楽はサブスクやSNSによって時代を軽々と飛び越えていきます。こんな時代だからこそ、生まれた文学作品なのでしょう。
良いものってな -
Posted by ブクログ
ネタバレ1人のピアノの弾き語りでメジャーデビューした人と、その楽曲に救われた人などを描く短編集。
・一作目は染谷とマネージャー補佐のテラを描く。テラは学生時代に染谷の音楽に救われて、染谷の引退する最後の年をマネージャーとして過ごし、最後の曲である「夢のあと」を染谷はテラのために書く。
・アクティブな友人と対照的な暗い中年女性。仕事などで心を病むが音楽に救われて、得意の書道で半紙に歌詞を書く
・カメラマンの青年は衣装アシスタントの女性に恋をする。一緒に町のPR動画を作成し、染谷の曲を使う。彼女には東京に彼氏がおり、両思いだが分かれる。
・高校生に合唱コンクール。染谷の曲を合唱曲にアレンジして歌う -
Posted by ブクログ
過去の記憶を辿ってみると、色々な場面と共にその時に聴いていた音楽が思い出される。
嬉しい時、悲しい時…私の場合は、曲に励まされたというよりは、そっと寄り添ってもらったような感覚が強い。
その曲は流行っていたものももちろんあるけど、そうでないものもある。そんな曲のことを久しぶりに思い出しながら読んだ。
私は創作者ではないので、バンドマンの河邊さんならではそちら側の視点が新鮮に感じた。
誰かの人生に影響を及ぼすものを生み出せるってすごい!
最近は音楽も商業主義を強く感じるけど、そこから外れた名曲を探してみたいなと思ってみたり。
(発掘するのが難しいけど)
作中に出てくる「夢のうた」は、この本を読ん -
Posted by ブクログ
とても印象に残る一冊だった。
大学を休学した匠海が長野県辰野町にやってきたのは蛍を撮るため。かつて父が撮影した場所で蛍を撮ることが彼の目的であり、そこで辰野に住む多くの人たちと出会っていく日々を描いていく。
何か大きな出来事が起こる訳ではない。美しい景色やそこに住む人々との生き方に触れる中で、自信を持って自分だけの居場所を見つけていく。
登場人物すべてのキャラが立っており、自分を支えてくれる他人の優しさ、温かさを感じる物語である。
「何者にもなれていない自分を、恥ずかしがらなくていい」という正にあまり冒険せずに平凡な人生を歩んできた自分にとっては、とても印象深い言葉だった。