河邉徹のレビュー一覧
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【読んだきっかけ】
河邉徹さんの小説5作目
【心に残った要素】
タイトル『蛍と月の真ん中で』と、カメラマンを目指す主人公·匠海の撮る写真。
自然の刹那と一瞬の人の心を捉える。
瞬間という儚さに温度を与えてゆく。じんわりする。温かい後味がたまらない。
実在する地名を用いたり、辰野の人たちの細やかな描写があったりする今作は、これまでの作品と同じく人生の苦楽に揺らぐ人の心を描きながら、これまでになかった要素・視覚的な色彩がはっきりと描かれていてフィクション小説なのにドキュメンタリー映画を見ているかのようなリアリティがある。
やりたいことよりも、やっておかしくないもの、たしかに。そうやって取捨選択している自分がいる気がした。
大学生が東京から突然地方に移住?そんな作り話みたいな、と思うかもしれないけれど移りゆく季節の中に描かれる暮らしのグラデーションには違和感がない。
特に印象的だった言葉は「灯」。
【ここが好き!】
夏の色、夏の光。冬の温度、冬の光。
写真家としても活動する小説家だからこそ、ファインダーから見える世界、カメラで切り取った世界を文字に起こしたときの言葉に美しさがあると思う。
明里ちゃんの宿いってみたいな~
今作は音の描写が多くはなかったけれど〇〇のような声ってところが私好みでよかった!
──著者紹介──
河邊徹(かわべ・とおる)
1988年兵庫県生まれ。3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして、2009年メジャーデビュー。バンドでは作詞を担当し、2018年に小説家デビュー。『流星コーリング』で第十回広島本大賞を受賞。その他の著書は『夢工場ラムレス』『アルヒのシンギュラリティ』『僕らは風に吹かれて』。 -
Posted by ブクログ
ミュージシャンが書くミュージシャンの話。
著者のバンドの実話ではなく、(実体験も踏まえているだろうが)フィクションとして描いている。
SNSの時代にあって、急速に人気となっていくバンド。しかし、コロナの流行によりメジャーデビュー目前に翻弄されていく…
同時に二つの世界線が進んでいき、構成が工夫されていて、おもしろかった。
表の世界、裏の世界、効率と非効率、安定と不安定…
様々な対比に共感した。
コロナはもちろん、いろんな当たり前が変わっていく中でも、自分は何を大切にしたいか考えたいなと思った。
エラーコインのように、表も裏も同じひとつの世界だ。
音楽業界の裏側も興味深かった。 -
Posted by ブクログ
WEAVERが好きなので、メンバーの河邉さんが書いた小説と聞いて、ミーハー気分で買ってみました。
結果、そんなの抜きにして面白かった。
というか、ぐさっときました。
コロナの混乱で、今まで以上に、Twitterなどの声が大きく強くなってる気がしてること、
自分が何かを感じたときに、それであってるかなと、いちいち検索してしまうこと、
小説とは違うけどそういった、自分で考えることとか感じることをサボってると思うことがずーーーっと続いてて、なんとなくやりすごしてたけど、それらをちゃんと考えてね、と言われた気分。
元の世界なんてないんですよね。
これが収束したときは、この数年で変わってしまった前とは違う自分が次の世界を見るわけだから。
何もしてないのに、何かしてる気になる罠、ほんと気をつけなくては。 -
Posted by ブクログ
河邉徹さんの小説1作目
【心に残った要素】
眠った時に見る「夢」と人生における「夢」。
どちらも強く願えば叶うものであり、どちらも今が影響するし他人からの影響もある。
現実になるのは難しいかもしれないけど、人の手を借りたり時には人を助けたりしてみんなの「夢」を叶え合えたら素敵です。
【ここが好き!】
喜びだけの人生なんて、それは喜びを知らないのと同義。
なくして大切なことに気づくとか、今がどん底ならここから先は右肩上がりとか、辛い気持ちを知っているから私たちは明るい気分になれる。
河邉徹マジックかなって思う。どの小説も作詞した楽曲もこのことに気づかせてくれて前を向ける。
読んだらセットで聴いて欲しい、WEAVER『トキドキセカイ』(2009年) -
Posted by ブクログ
【読んだきっかけ】
河邉徹さんの小説4作目
【心に残った要素】
必要としてくれる存在を求め続けて、自分にはこれが必要ってものを探し続けてる。そうやって生きるために生きている。
バンドメンバーがそれぞれ担当楽器や歌を練習していってひとつに合わせるように、社会の一員としてただただ自分の得意なものを活かして好きに生きれたらいいな。周りと比べて気落ちすることだらけだけど所詮その人は別の楽器担当!と割り切れる思考でポジティブにいられたらいいなって。
【ここが好き!】
前作のSFと違いリアル過ぎるほどの展開で、気づくと物語に没頭していました。
YES/NOの選択を強いてくる着信のシーンに痛く共感しました(電話苦手) -
Posted by ブクログ
良かったです。
初読みの河邉徹さんに、他にどんな作品があるかと思わず探したほど。
デビュー当時は少しヒットしたもののその後は振るわず、10 年で歌手活動を辞めたシンガーソングライター・染谷達也と、彼の曲にまつわる連作短編です。染谷の歌に救われて芸能マネージャーになる男性、働きすぎて燃え尽きかけの女性、一目惚れした女性を追う青年、合唱コンクールに挑む女子高生、そして再び芸能マネージャーと染谷。
いわゆる「良い話」ですが、善人ばかりの甘ったるい話ではなく、苦みや酸味もあります。それでも最後は前を向いて歩き出す、私好みの作品です。
著者の河邉徹さんは、2023 年に解散したロックバンド・WEAVER(ピアノ、ベース、ドラムの3 人組)のドラマーで、ほぼ全楽曲の作詞を手がけていた方だそうです。ロックはもともと私の守備範囲外ですが、PV などを観ると良い曲ですね。この小説にも、そうした音楽経験が生かされているのでしょう。 -
Posted by ブクログ
『パパたちの肖像』は、父親を主人公にした短編集です。育児の喜びや苦労を描いた作品集ではありますが、読んでいて強く感じたのは、「家族の幸せの形は様々、一般論では語れない」ということでした。ノウハウでは語り尽くせない生々しさに心揺さぶられます。
特に印象に残ったのは「息子の進学」です。
父親は、豊かな暮らしや便利な都会での生活に価値を見出してきました。一方で息子は、収入や効率よりも、自分が本当にやりたい研究の道を選ぼうとします。どちらが正しいという話ではありません。むしろ、親子であっても見ている世界が違うこと、そして父親が息子の価値観を理解しようとする姿に心を動かされました。
「髪を結ぶ」も忘れられません。不器用な父親が子育てに悪戦苦闘し、自分は父親に向いていないのではないかと悩みます。しかし子どもは、完璧な父親ではなく、一生懸命向き合ってくれる父親をちゃんと見ている。長所だけでなく弱さも含めて受け入れていることに心打たれます。
そして「そういう家族がそこにある」。共働きから専業主婦という選択をした家族が描かれますが、本作が教えてくれるのは「一般論では人の幸せは測れない」ということです。外から見ればリスクに見える選択でも、その家族にはその家族なりの理由と幸せがあります。
読んでいて何度も感じたのは、家族であっても相手の気持ちは完全にはわからないということです。それでも理解しようとすることはできる。価値観の違いに戸惑いながらも、対話を重ねていく姿がとても温かく描かれています。
パパの育児小説の目線から、家族という小さな共同体の中で、人がどう成長し、どう相手を受け入れていくかを描いた物語集でした。
子育て中の人はもちろん、親との関係や夫婦関係について考えるすべての人におすすめしたい一冊です。