網野善彦のレビュー一覧

  • 増補 無縁・公界・楽

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    今年(2004年)2月27日に亡くなった網野善彦の代表作。縁切寺や子どもたちの「エーンガチョ!」に見られるような「無縁」の原理は、原始のかなたから生きつづけているものだという、人類学的な拡がりを見せる日本中世史の本。普通は「縁」こそが日本独自の共同体の論理だと思われているが、「無縁」もまた「公界」という公共の領域を作り、「楽」と言われるように一種の自由を享受していた。しかし、その自由は近世になるにつれて「縁」の論理のうちに取り込まれていき、差別として固定化されていく(つまりエタ・ヒニン)。網野善彦がこの「無縁」の論理に一種の「希望」を見出し「自由」と形容したことに、抵抗と共感の両方を感じる。つ

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    2009年10月04日
  • 日本の歴史をよみなおす(全)

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    歴史本=睡眠導入薬の私であるが、この本は私たちが社会の授業で習ってきた日本史的常識に一石を投じるものでした。日本人の自然との関係性の変化、また、水上交通とそれを前提とした交易や商業等の発達、と言ったことが本書の視点だったように思います。へえ、そういう見方もありうるよなあ、と歴史学の面白さみたいなものを垣間見、興味を持ちながら読むことができました。

    …それでも途中で何度も眠たくなりましたが。(笑)

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    2025年01月31日
  • 中世の非人と遊女

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    もとは、川端康成などの小説に出てくる社会からはみ出た女性たちの存在に興味をもち、こういった女性はどこから出てきたどうゆう身分の人たちなのか不思議に思ったのがきっかけ。だから本書を読むにあたって一番期待したのは非人ではなく遊女だったが、読み終わってみて、主題は非人、遊女はどちらかというとオマケだと気づいた。
    近現代で差別の対象となった/なっている人たちの根源をさぐろうとするのが狙いなのか何なのか、とにかく種々の被差別民が登場する。今の被差別民は古代、すくなくとも中世までは職能民であり、その身分は天皇大王によって保障されていた、つまり元は被差別民どころか神聖な身分ですらあったが、室町戦国を境に天皇

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    2024年07月04日
  • 異形の王権

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    読みやすさ ★★★
    面白さ ★★★
    ためになった度 ★★

    扇の骨の間から見るしぐさのところと、後醍醐天皇のところが面白かった。

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    2023年09月30日
  • 歴史の話 日本史を問いなおす

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    -国史なんていっていると、いかに精密にやったって、国家と国旗が日常生活と連動しちゃうんです。そこが困るんですね。日常生活には国家の支配しきれない領域がある(鶴見)。

    国家の支配しきれない領域の存在を、海民や職能民の歴史を通じて解き明かそうとした網野善彦。本書は、哲学者・鶴見俊輔との対談。

    網野史学(と呼ばれるのを本書では拒否しているが)の仕事を、思想家の立場から解析すると何が見えてくるのか、というところが読みどころ。

    少々、年寄りの繰り言のようなページも目立つのだが、現代は「戦前、戦中にはなかった特別の鎖国状態にある」という指摘は頷ける。

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    2021年12月26日
  • 米・百姓・天皇 ──日本史の虚像のゆくえ

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    倭国=日本、律令制、農業=稲作、士農工商など、日本史上の「虚像」と目されるものを巡る批評。

    わたしの生半可な知識では十分ハードコアな内容なのだが、対談という形式に助けられ、割と苦も無く理解は進んだ。これが対談ではなく、論述式であったならば眉間にしわを寄せて読む時間は、倍はあったろうと思う。ビバ対談!

    網野史学を教導者として日本史に親しむ人口は多かったのではないか?
    かくいう私はまさにそう。
    高校の日本史の教師から研究者になり、「教科書の日本史」を否定し倒すという個性的な網野氏ももはや亡く。この分野でまた新たな教導者を探したい気持ちが募る。

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    2021年12月15日
  • 日本中世の民衆像 平民と職人

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    1979年に岩波市民講座でおこなわれた講演をもとにした本です。日本の中世史に社会史的な視点をとりいれた著者の関心の中心であったテーマについて、わかりやすく解説がなされています。

    著者は、「百姓」ということばが、中世以前には農民だけでなく平民身分の者を広く意味していることに注意をうながし、「日本人」という民族は稲作を中心とする歴史をあゆんできたという理解をくつがえします。そのうえで、中世の平民たちの負っていたいた年貢・公事にかんする事実を明らかにして、彼らの生活の実態にせまっています。

    さらに職人の多彩なすがたについてもとりあげられており、東国と西国の職人のありかたのちがいや、差別とのつなが

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    2021年11月23日
  • 歴史としての戦後史学 ある歴史家の証言

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    日本中世史の大家、網野先生の目を通しての戦後の日本史研究史といった本である。あとがきで著者自ら「老人の思い出集、しかもくり事であり、いまさら書物として多くの人々の目にさらすのもはずかしく、躊躇する気持ちもあったが」とあるように、戦後の日本史学かいわいの事情とそれにまつわるテーマで著作された論述をまとめたものである。したがって少々まとまりに欠けるところがある。
    この本を読もうと思ったきっかけは、他の先生がかかれた中世史の本を読んでいるときに、まるでマルクス経済学者の書くような文章で、こんな文章を書く学者が出る背景とはどんなものかと疑問に思ったところにある。
    本書を読むと、そういった背景がうまれた

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    2021年10月27日
  • 異形の王権

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    異形の王権とは後醍醐天皇の治世のこと。

    後醍醐天皇は建武の新政で天皇自ら政治を行なったことは学校でも習うが、どういう改革をしたかを知っている(覚えている)人は少ないのではないか。

    後醍醐天皇が密教興盛を図ったことは有名だが、それがどういう意図を持って行われたか、当時の経済事情や政治状態を明らかにした上で説得力ある解説をしている。

    私は後醍醐天皇の改革を怪しく思っていたが、当時の政治経済状況を鑑みると、時代に即した偉大な改革だったのではないかと読後感を持った。

    私はこの本をとても興味深く読んだが、タイトルと内容に齟齬があるのが気になった。

    異形の王権=後醍醐天皇の治世を直接扱っているの

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    2021年10月05日
  • 中世の罪と罰

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     ちょっと前に「中世芸能講義」という本を読んで、久しぶりに網野善彦先生の著作に手を伸ばしたくなりました。
     本書は、網野氏をはじめ4名の中世史研究の大家の10編の論考を採録したものです。かなりマニアックなテーマを扱ったもので、正直、本書内で開陳されている4名の泰斗の方々の論考は、私の貧相な知識では、ついていくには専門的過ぎました。

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    2020年10月09日
  • 歴史の中で語られてこなかったこと おんな・子供・老人からの「日本史」

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    1997~98年にかけて行われた対談をまとめた第1部と、1982~95年にかけての5つの対談を収録した第2部とで構成。「百姓=農民ではない」や「女性=被抑圧者とは限らない」など、網野さんの著名な説が繰り返し論じられているが、清水三男や渋沢敬三といった先駆者の仕事を語る部分が面白かった。

    第1部では網野批判への反論がかなり強く述べられており、本人曰くアルコールが少し入っていたとのこと。もっとも、それを削らずに活字化する当り、確信犯というか、よほど苛立っていたのだろうか。

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    2020年08月10日
  • 日本の歴史をよみなおす(全)

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    日本史を過去から遡って学びなおそうと思って購入したが、史実について順を追って触れていくのではなく、我々の歴史に対する思い違いについて文化的背景への考察をふまえて語るような内容だった。
    中でも、百姓=農民、ゆえに農業社会が日本の根源という思い違いについては興味深かった。

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    2020年07月05日
  • 歴史の話 日本史を問いなおす

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    軍国主義の日本が太平洋戦争へ突き進む時代に生まれ育った2人の対談。網野氏は『日本の歴史をよみなおす』を読んで、その歴史観に感じ入った人。マルクスに関することや、天皇制に関する対談を読むと、左寄りの人なのかと思ったが、最後まで読めば、素直に日本の歴史、それも通史を考えている人であることが理解できる。ただ、自分には対談を読み理解するのが苦手なんだと痛感した。

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    2020年01月29日
  • 異形の王権

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    12~13世紀の習俗から、歴史の陰の部分を掘り起こそうという本。

    先日読んだ本(「山の人生」)が民間伝承からそれを読み取るなら、これは現代に伝わっている図版を解いて行こうという(一応)趣向です。

    「異形」というのは、卑賤の者たちの装いのこと。
    シモジモの服装なんてのは、確かに文書には書かれにくく、“なんとか図絵”の片隅に描かれているのを拾って行く作業なわけです。

    卑賤とは言ってもそれは金襴や覆面、柿色の山伏服で、それらがなぜ卑賤に貶められていったか?(被差別化の進行) や、名前くらいは知っている「後醍醐天皇」が、権力を我が手に奪還しようとしたときに、密教の法衣や法具を手にしていた…すなわ

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    2019年06月11日
  • 日本の歴史をよみなおす(全)

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    この人の言いたいことは
    「伝統的な日本社会=農村社会 というような単純で均質的な社会ではなく、日本とはもっと重層的である!」
    というかんじです。

    「百姓」は土をいじって作物育てる農民だけを指すのではないということは興味深かった。
    商人や職人、海の民や山の民もいっぱいいたんだね。

    そういう結論の部分は面白いけど、歴史学の論拠論証はあまり面白くない。そういうこまごました物証を並べられてもあまり関心は持てない。

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    2019年05月09日
  • 日本中世都市の世界

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    網野さんの歴史学書は文庫で出ているものをいろいろ読んできたが、本書はちょっと難しい。歴史学の専門誌に掲載された論文ばかり入っているからだ。一般読者には知り得ない他の論文への言及が多く、それは解説されずに呈示されるので、私たちにはその箇所は虫食いのように不可知の穴が空いたままになり、論理を追うのが難しくなってしまう。
    日本中世都市の庶民の生活について知りたかったのだが、本書はまだその研究の導入期におけるものであり、私たちには窺いきれない状態である。
    「公界」等については他の著作でおなじみのテーマだし、「地」なる語の概念の変遷に関する辺りも興味深いものではあった。
    日本中世の庶民の生活に関しては、

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    2016年12月25日
  • 中世再考 列島の地域と社会

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    網野先生による日本の中世の本。といっても武士の話題ではなく、中世の民衆の生活ぶりについて、少ない史料から構築することを試行している。当然ながらハッキリした分かりやすい結論が書かれているわけではなく、内容も正直いって素人には難しいところが多い。雰囲気だけでも楽しめればいいかな、という感じの本。

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    2016年11月23日
  • 中世の非人と遊女

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    タイトルのごとく、網野本の中では非人扱いされる前の犬神人や遊女に少し考察がなされている
    ただ、他の著作とかなり被る部分は多く、散漫になったのは残念
    なんとなく、中世の人々は自由闊達な人々であったという結論から最初にきて逆算してるように感じるのは邪推なのでしょうかね

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    2013年01月16日
  • 増補 無縁・公界・楽

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    世間一般からの逃避所であり駆込寺でもあった"無縁"、肉親と縁を切り芸能と職人の道を担う"公界"、そして自治都市開かれる市を指す"楽"。こうした場に西洋でいうところの「アジール=逃避所」としての役割を見い出しその歴史と形成を明らかにしていくことによって日本固有の「自由」とは何だったのかを問い直していく網野史学の原点ともいえる本。ここで描かれる自由とは決して楽なものではなく、浮世との断絶を前提とし餓死と隣り合わせの世界。そんな零れ落ちてしまった人たちへの著者の暖かいまなざしに、何よりも心動かされる。

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    2012年08月05日
  • 日本の歴史をよみなおす(全)

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    中学・高校の教科書で習った事を根底からくつがえすような話題がいっぱいで、かなり日本史観を変えさせられた本だった。もうほとんど全編が、これまで常識とされてきたことと違う視点からの語り口と言っていい。

    たとえば、
    ・江戸時代まで、女性の権利はかなり制限されて抑圧されていたものとされていたが、実際にはかなりの自由があった。
    ・百姓といえば農民のことという固定観念があるが、実際には漁や商業に従事していた人など、様々な職業をさしていた。
    ・鎌倉時代は、武士の時代として天皇不執政の時代といわれたが、実際にはその当時も、京では強い権力を持っていた
    などなど。

    この本は、「穢れ」の概念や、「天皇制」「女性

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    2020年07月15日