林昌宏のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
2023年の10月7日に起きたパレスチナ・ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃。それに報復するかたちでイスラエルはパレスチナへの攻撃を現在まで続けている。
この攻撃は1948年の建国時に起きたナクバを超える最も大きな攻撃として、世界中で批判されている。
だが、これほどの人道的危機を巻き起こすイスラエルという国に対して国内の良識あるユダヤ人からの批判や、イスラエル外のユダヤ人はどう見ているのだろうか。
本書は建国されてから現在までにイスラエルがどのように変わっていったのかが記されている。
そして2026年3月現在起きているアメリカとイスラエルによるイランへの国際法違反と言える攻撃がなぜ起きたのかにまでリンクする部分もあり、この数年、周辺諸国に緊張を投げかけるイスラエルという国の背景が語られていく。
イスラエルという国は1948年からパレスチナに向けて度重なる攻撃を行ってきた。
過激な主張がある一方で、良識あるユダヤ人も当然いた。外部から見ているとシオニストたちが全て悪いように見えるのだが、実はそうでもなくてシオニストの中にも当然パレスチナ人への攻撃に対して批判する声はあったようだ。
それはイスラエルという国が建国されたときにパレスチナ人を追いやったということに対してユダヤ人のなかにも罪悪感を抱いていた人々が多かったこともあるようだ。
だが、そういった良識的なシオニストやユダヤ人たちはこの十数年で声を上げることが出来なくなっていったという。
特に2010年代に入ってからはパレスチナ人を含むアラブ人を人とは見ないように考える人が増えていったと記される。
それもあって現在ではイスラエル内ではパレスチナを激しく攻撃し、パレスチナ人を追い出すことに賛同するユダヤ人が80%近くもいるらしい。
その背景の一つにはイスラエルによる歴史教育に、イスラエルという国が元々ユダヤ人の国である。それをアラブ人が奪ったという教育があるからのようだ。
ユダヤ人は選ばれた民であるという選民思想も若い世代に植え付けられてきた。それが現在のイスラエルを反映しているようである。
だがそういった世論はなぜこの十数年で変わっていったのか。
複数の理由があるが、その一つにはこの十数年でポピュリスト政治家による過激な発言が影響してるとのこと。
世界中で極右政党が票を集める傾向が強まっているが、イスラエルではベンヤミン・ネタニヤフを党首とするリクード党の長期政権からは特にその影響が強いらしい。
だが市民からは反対の声などは挙がらないのだろうか、と疑問に思うかもしれない。
それが挙がらないとのこと。市民はイスラエル内の政治や社会変革への興味を失っており、市民を縛るような政策にも反対しない。
例えば、イスラエルは世界トップクラスの兵器開発やサイバーセキュリティ企業を抱えている。兵器やセキュリティ技術への技術開発の実験に使われるのはパレスチナ人だけではなく、イスラエル国内の市民たちにも使われている。
NSOグループが開発した世界最凶のスパイウェアと呼ばれる"ペガサス"がある。このスパイウェアは侵入するとデバイスのあらゆる情報にアクセスが可能になる。このスパイウェアを権力側が勝手に市民に用いてたりする。
諸外国では人権侵害として問題になるようなことや、法整備が必要なこともイスラエルでは勝手に行われる。
市民たちは厳しい公安国家社会化に大きな反発などを抱きにくくなってる。それで平和になれるならOKくらいに感じているんだとか。
この辺りは日本にも近い部分があるようにも感じた。
更にイスラエル内でのパレスチナへの擁護論などを徹底的に潰すような法律を通してきたことも大きい。
スパイウェアでの監視や、そもそも声を挙げにくいシステムを作り上げる。
それもあってイスラエルに住むユダヤ人が、パレスチナ人を助けたり、パレスチナのために声を上げたりすると「反ユダヤ」「ナチス」というレッテルが貼られる。
この「反ユダヤ」や「ナチス」という言葉もイスラエルは巧みに使っている。
イスラエル国内ではホロコーストの歴史も忘れ去られているらしい。それもあってか「反ユダヤ」「ナチス」という言葉をイスラエルに協力的ではない人々に投げかける言葉として使われている。
イスラエルは、自国に反対する意見は何でも「反ユダヤ」「ナチス」とレッテル貼りする傾向があるようだ。
イスラエル外の国や人々は、イスラエルが投げかける「反ユダヤ」や「ナチス」という言葉の持つ意味は重く受け止める。だが、イスラエルはこの認知のズレを狡賢く使ってる。
それもあって国内では過激なユダヤ人がリベラル、良識なユダヤ人に対して「反ユダヤだ!」なんていう笑い話みたいな出来事も多々あるんだとか笑
さらに絶句したのが、イスラエルはこの数年でその「反ユダヤ主義」を掲げているようなネオナチや極右思想の指導者、政党たちとの協力を率先して行ってきたということだ。
本来、協力関係など築くことなど無理そうに見える。だが、そういった政党や指導者たちは反ユダヤと同時に反アラブも掲げており、そこでの利害が一致しているからOKなんだそうだ。
更にイスラエル内では「ヒトラーは正しかった」なんていうトンデモ論も飛び交っている。ヒトラーのやり方は99%正しかったが、唯一1%の間違いはユダヤ人を標的にしたことだ、という考えが広まっている。
ネタニヤフはこのトンデモ論をイスラモフォビアに置き換えて使った。
何でもネタニヤフ曰く、ヒトラーにホロコーストを行うように唆したのは第二次世界大戦当時のエルサレムの最高宗教指導者(グランド・ムフティ)であったハッジ・アミーン・アル・フサイニーなんだとか。
ヒトラーは本当はユダヤ人を国外追放で済まそうとしてたのを、フサイニーに唆されてユダヤ人絶滅にシフトした、と。
このトンデモな陰謀論を使って、パレスチナ人=ホロコーストの裏の首謀者であるというロジックでパレスチナへのジェノサイドを正当化しようとした。
イスラエルのここまでの状況にウンザリする。だが、現在まで続くパレスチナへの激しい攻撃や、過激な政策はいずれ止めざるを得ないことも記される。
SNSでイスラエルのジェノサイドは世界中に発信された。
多くの人々や国からイスラエルに対して批判的な声が上がり、デモやBDS運動などが以前よりも活発に行われるようになっている。イスラエルはそれらの声を無視したり、反ユダヤと批判しているが、そういったカウンターが効果を与えるフェーズは過ぎたようだ。
しかし、ここにきてイスラエルは念願叶ってアメリカを巻き込んでのイランへの攻撃という最悪なカードを切ってしまった。
世界中に影響を与えるこの戦争がどのような影響を与えるのだろうか。
イスラエルの動向は今後もしっかりと注視したい。 -
Posted by ブクログ
歴史が、過去が未来を教えてくれるのは「今」が長い時代のことである。変化が早く変数パラメーターが爆発している現代において、過去のパターンに当てはめて、少ないパラメーターを嵌め込んでも、未来は予測不能に目まぐるしく変化する。
このような先の見えないカオスな時代に権勢を振るうのはチェーザレ・ボルジアのような狐の狡猾さとライオンの腕力を持つ者たちだ。
サウジアラビアのサルマン、アルゼンチンのミレイ、エルサルバドルのブケレ、アメリカのトランプを例に挙げる。
また、民主主義の機能不全についてテック企業の関与を指摘しているが、そのスタートはアメリカ民主党であるという重要な指摘がある。ドナルド・トランプを生み出したのはバラク・オバマなのだ。 -
Posted by ブクログ
昔、祭りは目に見えるものだった。映像を通じて世界のどこかで行われている祭りが、目を楽しませてくれたものだ。今、祭りはSNS上で起こり、時には炎上する。SNS上の祭りがリアルな社会に影響を与えることが、さほど珍しくなくなった。
外国人ヘイトデモが、えらく頻繁に行われるようになった。一人や二人ではシュプレヒコールもか細い。しかし、どうみてもそんな人数ではない。後でわかったことだが、SNS上でデモの予定を公表し、それを見て集まってきたらしい。どうりで見かけない輩が多かった。
ドナルド・トランプ大統領の政治が、「ネットフリックスのような」政治と断じられているが、そもそもネトフリを契約していないので、イメージが湧いてこない。しかし確実に、これまでとは異なるメディアによって醸成された世論が、世の中を動かしつつある事は感じている。そして世の中が、更に複雑に絡み合っていることも。今でも全体を把握しているとは言い難い。
現実社会に有人受付やボットチャットの問い合わせの割合が増えたことだけで、かなり不便を感じているのに、世の中にはSNSを駆使した選挙で勝利を確実にする「混沌の技師」たちがいるらしい。ジャンロベルト・カサレッジオ、ドミニク・カミングス、スティーブ・バノン、マイロ・ヤノプルス、アーサー・フィンケルスタイン。彼らこそが「ポピュリズムの仕掛人」と言われている。
ポピュリズムとは、大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想や活動だが、そもそもの大衆を操って自分が思う政治思想に共鳴させようとする操り手が今はいる。そしてその存在は、一般大衆には見えていない。その事が恐ろしい。 -
Posted by ブクログ
昔ながらの政治をニュートン政治学、今の政治を量子政治学とし、SNSの存在が量子政治学を可能にしたという。
量子政治学とは要するに分子(個人)1つ1つの挙動の傾向をコントロールするということだ。生活が苦しい人には「あなたはがんばっているのに税金を無駄遣いする政治家や、働きもせずに生活保護を受けている怠け者のせいですよ」、言葉が通じない外国人が街中に増えて不安を覚えてる人には「奴らはスパイで日本を食い物にしている」といったデマを吹き込む。
昔はそのような個別のダイレクトメールのような活動はできなかったが、今はビッグデータやSNSの情報を握り、AIを活用することで可能になった。
もはや真実は人それぞれの中にあり、各々の怒りが増幅され選挙活動に利用されている。 -
Posted by ブクログ
ロシアのウクライナ侵攻の1年前に書かれたという本書は、皇帝(ツァーリ) プーチンが何をしようとしているのかを彼の側近であったクレムリンの魔術師スルコフ(作中ではヴァディム•バラノフ)に語らせる。エリツィン政権時代に築いた巨万の富をもとに政治的影響力を強めるオリガルヒや独立政治家が逮捕され、会社を奪われ悲惨な状態に堕とされる様や、全体主義の恐怖支配へ突き進む様が事実に重ねて描かれる。
オリガルヒの一人でイギリスに亡命し自殺?したボリス・ベレゾフスキーはプーチンについてこう語る。「彼は決してやめないだろう。彼のような人間はやめることができない。これが一つめの掟だ。執念深く続け、すでにうまくいっていることは修正しない。そしてとくに、過ちを認めることは絶対にしない。」バラノフは「あなたの言う通りかもしれないが、そうした対応は野蛮なのではなくゲームのルールだ。 権力に関する第一の鉄則は、過ちを犯しても執念深く続けることであり、権威という壁に入った亀裂は、たとえわずかなものであっても表沙汰にしないことだ。モブツは、酋長が落馬しただけで殺される土地の出身者であり、この鉄則を心得ていた。彼は病気になると圧殺された。酋長は部族を守るために強くなければならない。弱さを見せた瞬間、叩きのめされ、権力の座を追われる。 こうした事情は世界中どこでも同じだ。」と返す。失権者の末路を知るプーチンも保身が故に戦争を止められなくなっているのだろうか。ロシアの現代史とプーチンの思想を知ることが出来る一冊です。 -
Posted by ブクログ
ずっとGAFAは、自分たちはプラットフォームであってメディアではない、と言い続けてきました。一方、フェイスブックの社名変更に見られるようにメタバースを目指し、WEB3時代の情報生成に乗り遅れないようにしているように思います。じゃメディアってなんだ?ということで本著です。さすがの碩学、ジャック・アタリ、人類とメディアの関係史を三万年前から紐解きます。いきなり書名の「メディアの未来」を知りたい人はイライラするかも知れません。昨日を知ることで明日を知る、というアプローチですから。(そもそも原著は「メディアの歴史」みたいなので、イライラの責任は著者にはない?)
備忘として目次をメモります。
第1章 君主のニュース、大衆のニュース~三万年前から近代の夜明けまで
第2章 使者の時代~一世紀から一四世紀まで
第3章 印刷革命~一四〇〇年から一五九九年まで
第4章 近代における活字ニュースの始まり~一七世紀
第5章 表現の自由、ジャーナリズムと民主主義~一八世紀初頭から産業革命前まで
第6章 出版、「大衆の自由の大きな盾」~一七八八年から一ハ三〇年ま
第7章 他人よりも先にすべてを把握する~一八三〇年から一八七一年まで
第8章 進歩を活かす~一八七一年から一九一八年まで
第9章 読む、聞く、そして見る~一九一九年から一九四五年
第10章 三大メディアの黄金時代~一九四五年から二〇〇〇年まで
第11章 徹底的に、読む、見る、聴く、触る~二〇〇〇年から二〇二〇年まで
第12章 情報を得て自由に行動する~二〇二一年から二一〇〇年
第13章 何をなすべきか
ふー…自分にも明日が見えるか? -
Posted by ブクログ
細かいエピソードと引用文が多くて少し読みにくかったが、それを差し引いても相当面白かったし、恐ろしくて冷や汗が出るような一冊だった。
量子力学政治において民主主義を守るにはどうしたらいいか。日本でも、これまでとは違う形のムーブメント(いわゆるポピュリスト政党、反ワクチン、財務省/こども家庭庁解体など)が顕在化する中で、政治/政府の人たちとこういったトピックを議論することが増えた。
嘆きたいことは山程あるが、まずは相手のやり方をよく知り、自分たちもそれに合わせてアップデートをすること、あわせて市民との直接の対話をもっと頻度高く、そして粘り強く続けるしかないのではないかと思う。