あらすじ
テクノ封建制下の「君主論」
〈捕食者プレデターの時代の到来だ。今後、世界各地では、解決すべきことはすべて火と剣によって解決される。〉(本書「はじめに」より)
国連総会から、砂漠のダボス会議、AI帝国の布教セミナーまで……権力闘争の最前線は、「捕食者の時代」に突入した!
国家元首たちは残忍な言動を厭わず、テック企業の億万長者たちはルール無用の加速主義で抵抗勢力を征服する。AIは、もはや制御不能な存在だ。彼らによって自由は貪られ、私たちの自由は奪われてゆく。
私たちの「新しい君主」とはどのような人物で、どのように付き合ってゆくべきだろうか。はたして、あなたの階級を上下させるのは誰だ?
本書は、リベラル民主主義を食い破るものたちの権謀術数が恐いほどわかる、テクノ封建制下の『君主論』。マキャヴェリの名著の現代版として、カオスが常態化する世界の(オールド・メディアが伝えない)舞台裏を、臨場感とともに明らかにする。
〈狂気の世界政治、その「戦場」を直視せよ。〉──吉田徹さん(同志社大学政策学部教授)推薦。
[目次]
はじめに
第一章 2024年9月、ニューヨーク
第二章 2012年3月、フィレンツェ
第三章 2024年11月、リヤド
第四章 2024年9月、ニューヨーク
第五章 2024年11月、ワシントン
第六章 2017年11月、シカゴ
第七章 2024年9月、モントリオール
第八章 1931年9月、パリ
第九章 2024年12月、ベルリン
第十章 1998年10月、ローマ
第十一章 2023年5月、リスボン
第十二章 2024年12月、リュザン
訳者あとがき/参考資料/注記
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Posted by ブクログ
一般的に言葉は経験の表現装置で経験のない未来の事象を従来の言葉で考え表すのは難しく、感性で直感するのがせいぜいだ。
思想体系を創造する天才は別として。
1529年から34年、スペインのエルナン・コルテスの一団がメキシコのアステカ帝国に上陸した時、帝国のモクテマス2世の「そのことの意味のわからなさ、蒙昧振り」を今のIN、SNSやAIの急激な浸透に対する先進各国の首脳陣の「何が起こっているかわからない狼狽振り」に見立てる。
ITプラットフォーマーを征服者(コンキスタドール)になぞらえて、各国の指導者を技術と時代から取り残された亡国の帝王とする、喩えである。
パリ政治学院で政治学を教える元フィレンツェ副市長・元イタリア首相アドバイザーのジュリアーノ・ダ・エンポリが今起こっている世界の変化をエッセイ風の軽い表現で淡々と綴る。
彼は実際の体験から、各国首脳の考えていることや行動を具体的に熟知しているので彼らの政策や対応の内側がよくわかる。洞察はシャープで読むほどに背筋が寒くなる。
戦後体制が求めた世界の平和も民主主義もリベラリズムも征服者に「捕食」されて風前の灯火という。
ウクライナとロシアもトランプやヴァンス、イーロン・マスクやザッカバークについても、その無茶苦茶振り、サウジアラビアの皇太子ムハンマド・ビル・サルマーン(MBS)の専制強圧振りも、彼らの発想や行動は捕食の時代には現実的で従来の常識(漠然とした思い込み)からはかけ離れている。
IT・AIデジタル側の侵略はとてつもないスピードと規模で進行し、その結果がどうなるかは明白だ。
経験や想像を遥かに超えていて言葉では表現しきれず、恐怖感のみが増す。
世界は従来の国連や米・ソ、米・中による秩序志向の安定ではなく、暴力と戦争、力による侵略の混乱状況になる。
こうした時代にあって、今のところ考えられる抵抗策であり打開策はヨーロッパ諸国のプラットフォーム規制である。
天才の閃きとは思わないが、著者の主張に触れて、ヨーロッパ政治の歴史的経験の蓄積はこういう発想や思考を生むのだと痛感する。警醒の書である。
彼の他の文章も読んでみたくなる。