カルロ・ロヴェッリのレビュー一覧

  • 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論

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    ネタバレ

    すごく読みやすくて面白かったー!といいつつ、量子論の本は何冊読んでも強固としてある「自我」や「主観」といったものを相対化しきれていないところもあり、科学者たちが持っている「ほんとうに、信じられない。こんなことを、信じろというのか?これじゃあまるで…現実が…存在しないみたいじゃないか」という恐怖感には直面していない。

    序章の「深淵をのぞき込む」
    …だが、これぞまさに科学なのだ。科学とは、世界を概念化する新たな方法を探ること。時には、過激なまでに新しいやり方で。それは、自分の考えに絶えず疑問を投げかける力であり、反抗的で批判的な世親による独創的な力ー自分自身の概念の基盤を変えることができ、この世界をまったくのゼロから設計し直せる力ーなのだ。たとえわたしたちが量子論のまありの奇妙さに戸惑ったとしても、この理論は現実を理解する新たな視点を開いてくれる。そこから見える現実は、空間に粒子があるという素朴な唯物論の描像より精妙だ。現実は、対象物ではなく関係からなっているのだ。…(p11)
    序文で既にワクワクしてしまった。SF小説を開くようなワクワク。

    第1部「奇妙に美しい内側を垣間見る」
    第2部「極端な思いつきを集めた奇妙な動物画集」
    ・「重ね合わせ」ー有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」(p62)。猫は、「起きている猫」と「寝ている猫」の「量子的重ね合わせ」の状態にあること…→「観察者」がいるということはどういうことなのか?人間がいるということではなく、世界の物理系全てが観察者たりえるのか
    ・観察者自身も観察される可能性があるということが重要である(p78)→人間も自然の一部であるという思考。多かれ少なかれ自然の中の生命には意識があるものもあり、その中でたまたまある「私」という存在のちっぽけさ、それは「無」であると考えること、まだ私には少しジャンプが必要だが、なんとなく分かるような気がする。

    「みなさんにとっては現実、でもわたしにとっては現実でない事柄とは?」
    …わたしたちが観察しているこの世界は、絶えず相互に作用しあっている。それは、濃密な相互作用の網なのだ。…わたしたちが「現実」と呼んでいるものは、互いに作用し合う存在の広大な網なのである。そこにはわたしたちも含まれていて、それらの存在は、互いに作用し合うことによって立ち現れる。わたしたちは、この網について論じているのだ。(p84-5)
    ・「事実は相対的である」…ある対象物にとって現実であるような事実が、常にほかの対象物にとっても現実であるとは限らない(p89)→これは「人によって真実は異なるよね」という話ではなく、事実自体が異なるというラディカルな結論なので、ぞわぞわしてしまった。そうしたら一体私が見ているものは、誰とも共有できず、私は孤独な存在なのだろうか?と
    ・こうして世界は粉々になり、さまざまな視点の戯れとなって、大局的な唯一の視点の存在は、許され無くなる。それはさまざまな視点の世界、さまざまな発現の世界であって、確たる属性を持った実態や、一意的な事実の世界ではない。属性は対象物のうちにあるのではなく、対象物の間にかかる橋なのだ。対象物は、ほかの対象物との関係においてのみその属性を有し、橋とは橋が出合う節(ノード)になっている。この世界はさまざまな視点のゲーム、互いが互いの反射としてしか存在しない鏡の戯れなのだ。この幻のような量子の世界が、わたしたちの世界なのである。(p96-7)

    「現実を織りなす関係の網」
    ・二つの対象物の全体としての属性は、三つ目の対象物との関係においてのみ存在する。二つの対象物が相関しているという言いまわしは、三つ目の対象物に関する事柄を表しているのだ。相関は、相関する二つの対象物が、いずれも第三の対象物と相互作用するときに発現するのであって、第三の対象物はそれを確認することができる。…二つの対象物の相関はそれらの対象物の属性であって、およそ属性なるものの例に漏れず、さらなる第三の対象物との関係においてのみ存在する。
    エンタングルメントは、二人で踊るダンスではなく、三人で踊るダンスなのである。(p105)

    第3部「立ち現れる相手なくして、明瞭な記述はない」
    ・いかなる視点も別の視点と依存しあうときにのみ存在するのであって、究極の実在は金輪際存在しない、と。これはナーガールジュナの視点自体にいえることで、空でさえも本質を持たない。(p155)…わたしたちは、イメージのイメージでしかない。自分たちを含む現実は薄くもろいベールでしかなく、その向こうには…何もないのである(p158-9)
    ・何かを理解しようとするときに確かさを求めるのは、人間が犯す最大の過ちの一つだ、とわたしは思う。知の探究を育むのは確かさではなく、根源的な確かさの不在なのだ。…哲学的にも方法論的にも、知の冒険の碇をおろすことができるもっとも基本的な、あるいは最終的な定点は存在しない。

    「自然にとっては、すでに解決済みの問いだ」
    ロヴェッリお得意の直感に寄り添ってくれる有難い章笑。それでも心が存在しているということはどう説明できるのか?
    ・…けれどもこの言葉(意味)の守備範囲がここまで広がったのは、わたしたちの種の生物的文化的な歴史を経たからで、そもそもの始まりは、何か物理学に根ざしたものなのだ。その何かに、わたしたちのきわめて複雑な神経系や社会や言語野文化の明瞭な表現やつながりが付け加わってきたわけで、その何かは、妥当な相対情報なのだ。…意味や志向性は、至るところに存在する相関の特別な例でしかない。わたしたちの心的生活における意味の世界と物理世界はつながっている。ともに、関係なのだ。(p174-5)
    ・精神(心)の本質に関する見解は、一般に、三つしかないとされている。第一に、精神の現実と無生物の現実はまるで違うとする二元論。第二に、物質的な現実は精神のなかにしか存在しないとする観念論。そして最後に、精神的な現象はすべて物質の動きに還元できるとする素朴唯物論。…だがじつは、ほかにも選択肢はある。対象物の属性が別の対象物との相互作用によって生じるとすると、心的な現象と物理的な現象の隔たりはかなり小さくなる。物理的な変数も、心の哲学者たちのいう「クオリア」ー「赤が見える」といった基礎的な心的現象ーも、概ね複雑な自然現象と見なすことができるのだ。(p182)
    ・何かを感じる「わたし」が、心的過程の統合された総体でないとしたら、いったい何なのか。自分のことを考えるとき、わたしたちは確かに統一されていると感じる。だがその統一感は、自分の身体が統合されているということと、心的過程の意識と呼ばれている部分が一度に一つのことしか行わないというありようによって正当化されているにすぎない。この問題に登場する「わたし」は形而上学的過ちの残滓であって、過程と存在物とを取り違えるというよくある間違いの結果なのだ。…わたしたちは確かに、これが「わたし」だ、という独立した実体を直感している。だがそれをいえば、かつてわたしたちは嵐の後ろにはユピテルがいると直感していたわけで…。…精神の本質に興味を持つ人間にとって内観は最悪の研究手段であり、自分自身の思い込みを探しまわって、その思い込みに溺れることになる。(p184)
    ・わたしたちは関係を基盤とする視点に立つことで、主観/客観、物質/精神の二元論からも、実在/思考や脳/意識の二項対立を克服することはできないという主張からも、遠ざかる。自分たちの体内で展開する過程、さらにはその過程と外の世界との関係を解明することができたとしたら、その後に理解すべき何が残るのか。わたしたちの意識の現象学とは、まさに、ニューロンが運ぶ信号のなかに含まれる妥当な情報の鏡のゲームで、それらの過程に割り振られた名前以外の何ものでもないのだが…。(p187)

    「でも、それはほんとうに可能なのか」ーシェイクスピアの『テンペスト』から始まる…
    ・…わたしたちがあたりを見渡すとき、じつは「観察」はしていない。では何をしているかというと、(誤解や偏見を含めて)自分たちが知っていることにもとづくこの世界の像を夢見ているのだ。そして無意識に、この世界とその像の間に不一致がないかどうかを精査し、必要ならその像を修正する。言い換えればわたしたちは、外界を再構成した像を見ているわけではなく、自分が予期し、把握した情報にもとづいて修正を施した像を見ているのだ。(p191-2)
    ・十九世紀フランスの哲学者イポリット・テーヌの言葉を借りれば、「知覚された外部とは、外部の事物と調和することが裏付けされた内側の夢なのだ。また「幻覚」を誤った知覚と呼ぶのではなく、知覚された外部を「確認された幻覚」と呼ぶべき」なのだ(p192)

    原題及び英語タイトルが『ヘルゴラント島』というのがオシャレ…だけど日本語版はこれで良いと思います笑。
    また、原注にない参考図書として挙げられているのは、朝永振一郎『量子力学I,II』、吉田伸夫『明快量子重力理論入門』、木田元『マッハとニーチェ』、中村元『龍樹』など…

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    2024年07月15日
  • すごい物理学講義

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    ニュートン力学から相対性理論、量子力学へ。そして、それらを統合するループ量子重力理論へ。そこには物理のことを何も知らない門外漢でも驚嘆するような世界を覗くことができる。一般相対性理論では、空間は単なる空っぽのスペースではなく実態として存在し、歪んだりよじれたりする。量子力学では、微視的な世界を説明してくれるそうだが、そこで起こっていることは確率論的かつ離散的であり、起こった結果は言わば偶然の産物に過ぎないらしい。
    そして20世紀を代表するこの2つの物理学の理論の関係性について考えると、明白な矛盾が認められるそうだ。この矛盾を解決する理論の一つとして、ループ量子重力理論の紹介がなされる。
    そこには、我々が日常感得している世界とは似てもにつかぬ驚異の世界がある。物理学の素養がなくても十分に楽しめる。世界の見方を変えてくれる一冊。

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    2023年11月18日
  • すごい物理学入門

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    相対性理論や量子力学などが描く世界は、私達が日常ありありと感じている世界とは途方もなくかけ離れている!それが高校時代に理科・数学に挫折した文系人間の私が得た本書の感想。
    一般相対性理論の視点では、空間は不動の入れ物ではなく、動いている巨大な軟体動物の中に私たちは蹲っているようなもので、それが縮んだり曲がったりしているそうである。一方、量子力学的な視点では、あらゆる場は、細かな粒子状の構造になっており、物理的空間も量子でできているという。そして近年ではこの一般相対性理論と量子力学を統合しようとする試みとしてループ量子重力理論が提唱されているという。この理論によると、もはや空間の量子というものは存在せず、「時間」という概念まで消えてしまうと考えられるという。
    そのような奇妙な世界に生きている我々も、この物理的世界の構成物であるという。物理の世界は敷居が高いと感じる人にも、その世界へやさしく誘ってくれる素晴らしい本と感じる。

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    2023年04月15日
  • すごい物理学講義

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    読んでいて内容が完全に理解はできないものの、物理学の世界から大御所の実績を交えながらSF映画の世界に突入していく感覚が味わえる読み物でした。

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    2023年03月21日
  • 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論

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    量子力学の知見から、世界のすべてが「関係」としてだけ現れる/存在するという洞察、さらにそこから世界の一部である我々の意識/実存、または意識の中での意味の在りようが描き出される。

    非常にスリリングに感じた。内容が自分の考えにとてもあっている、納得できるということからかもしれない。
    書籍にもあるが、哲学で多く論じられている実在論とはややレイヤが違い一概に比較できないとも思うが、あらゆる実在が相対的(関係)であるという著者の考えは、実在の理解として、とても納得できる。

    さらに著者は、相対的といったときの我々の存在については、意識は世界の一部であり、ただただ自然であるという。分かっていると言いたいが、「自分の存在」の特別さを探してしまう気持ちを、まだ捨てきれないでいると感じる。

    また、著者は言う、量子力学から考えた自分の考えは、仏教の「空(縁)」につながると。
    ここで、我執を断つことは仏教のめざすものの一つであったなと思い、自分の気持ちに納得する。

    改めて考えると、おそらく自分は、我執を含む執着から離れたいと思いから本を選び読んでいるのだとおもう、だから、本書をスリリングに感じたのかもしれない。


    ・量子力学から考えるに、すべての物の属性は関係を持った時にだけ立ち現れる(2者間の関係のみ。3者の場合は、2者間の関係を位置?変換することで共有できる)。
    ・意味もダーウィズム的な進化論から物理的な相互関係から基礎づけられる(超越的なものはない)。
    ・意識は自然の一部であり複雑な相互関係といえる(超越的なものはない)

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    2022年11月12日
  • すごい物理学講義

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    物理学を題材にしながら文学的な風情も十分に堪能できる、かつウィットにとんだ筆致で内容は力不足で理解ができなくても読ませる。特に著者の専門分野であるループ量子重力理論を後半は解説しており、深遠なる科学の世界に引き込まれていく。

    空間も時間も存在せず、量子のループによる相関的なものにでしかない。プランク長という最小の単位が存在しており、空間や時間は離散的なものである。こう書いていても、何だか雲をつかむような内容で現実の感覚からはかけ離れておりどうもしっくりこない。それだけ難解で未だ発展途上の学問であるのでしょう、文系の私はエッセンスのみ感じることができて現状満足気味です。

    科学とは真理を明らかにしているものではなく、常に不確定で巨人の肩に乗りながら真理を追い求める、自分たちの無知を徹底的に突きつけられながらも諦めきれない人類の性を表している、といったこと。ロマンを感じずにはいられないです。

    ここで、学問の険しさとそれでも学ぶ意義を音楽に関連ずけた名文をリマインド。
    リーマンの数学を理解し、アインシュタインの方程式を完璧に読み解く技術を会得するには、長く険しい道のりをのり越えていかなければならない。それは、熱意と努力を要する旅路である。とはいえ、ベートーヴェンの後期四重奏からどれが好きな曲を選び出し、そのたぐいまれな美しさを十全に把握しようと願うなら、それ以上の労苦を覚悟する必要があるだろう。いずれの場合も、一旦努力をなされたあとは、十分な見返りが待っている。科学と芸術はわたしたちに、世界にまつわるなにか新しいことを教え、世界を見るための新しい目を与えてくれる。わたしたちはそうやって、世界の厚みを、深さを、美しさを理解する。偉大な物理とは、偉大な音楽のようなものである。それは心に直接に語りかけ、事物の本質に備わる美しさや、深さや、単純さに目を向けるよう、わたしたちを誘ってくる。(P140)

    訳者あとがきにもあるが、日本では超ひも理論が「量子重力理論」として頻繁に取り上げられており、ちょくちょく目にする。しかし、内容ちんぷんかんぷんなのでどこか一般書で概要掴んどきたいな、そしてまた、カルロ・ロヴェリの書籍に戻ってこよう、この人の文章は胸を高鳴らせる、好きだ。

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    2022年10月30日
  • すごい物理学入門

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    こんなにコンパクトにまとまった一冊に物理学の概要が学べる。しかも、読んでいて理解した気分になれるほどにわかりやすい。訳者後書き含めても150ページに、広大な宇宙全体の法則を謎とく旅に連れて行ってくれる素晴らしい本。
    一般相対性理論、量子論、宇宙の構造、素粒子、量子重力理論、ブラックホールをめぐる確率と熱について、これら6つの講義と最終講義で自然界における人間とは何者か?について学べる。
    繰り返し読んで、暗記したい。そして、何かの折に、この本の一節を交えた会話をしてみたい(気が早いか・・・)。
    イタリアの経済紙『イル・ソーレ・24オーレ』の日曜特別紙面「ドメニカ」で連載した記事に手を加えたものとある。新聞の日曜版での連載と言われれば納得のボリューム。
    本書を読んでから、量子論や量子重力理論に関する書籍を手に取りたい。帯に書いてある通り、「誰もが感動する究極の入門書」であるからだ。

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    2022年03月28日
  • 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論

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    世界は対象によってできているのではなく,関係によって対象が存在しているというコペルニクス的転換によって量子論を解釈する関係論的解釈に基づいている。本書は物理学の範疇を華麗に抜け出し、哲学、心理学、生物学の範囲を駆け抜けてゆく。関係論的解釈によって二元論など先入観に囚われた世界を新たな記述によって再解釈し、観測することが可能になる。

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    2022年03月10日
  • 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論

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    またもや素晴らしい本に出会った。量子論という理系的な内容を、学問的な専門知識と卓越した詩的な文章能力を両立させて面白くかつ美しく教えてくれる本だ。完全に自分の好みのツボ。生物学の福岡伸一さんや数学のサイモンシンさんのファンならば絶対に読んだほうが良い。
    数か月前に、同じ著者の「時間は存在しない」を手に取ったが、それは全くとしていいほど自分に響かなかったが、おそらくそれは自分の不勉強のためだろう。再度チャレンジしてみたいと思う。

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    2022年02月20日
  • 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論

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     つい最近「実在とは何か(アダム・ベッカー著)」という、主に哲学の立場からコペンハーゲン解釈の論理実証主義的な実在否定論を批判する本を読んだが、この本はそれとは全く正反対の立場に立つ。つまり自然主義の見地から「世界はそこに内在する自然の一部と他の一部の相互作用の網の目によって成り立っている」とし、事実の総体としての「実在」を否定するのである。どちらの見方にも説得力と疑問点がありどちらが正しいと断ずることはもちろんできないが、短期間に全く正反対の立場に接することは知識の整理になるし、独断への落ち込みを避ける最も有効な手段だと思う。

     本書の導入部分はシュレーディンガーの波動関数〈ψ(プサイ)〉に対する物理学界の解釈論だ。ψを「確率」として扱うマックス・ボルンらの主流派に抗してこれを事実の総体としての世界にどうにかして位置付けようとする非主流派の理論(ボームの〈パイロット波理論〉、エヴェレットの〈多世界的解釈〉等)を、著者はバッサリ切り捨てる。そして、世界を〈関係=相互作用=属性〉の観点から再構成し、①事物の属性が生じるのは世界の一部と他の一部との間に相互作用が存在するからであり、また②すべての事実は相対的である、とのコペルニクス的転回を提示する。
     この論に従えば、「測定状況依存性」の問題はある世界の一部と他の一部の相互作用の問題に回収することができ、何ら不思議な現象ではなくなる。そもそも相関関係にない観測者に対しては、すべての現象はエンタングルメントとしてしか提示されない。測定という形で相互関係に立った瞬間、その現象から具体的な属性が提示されるのだ。ただしその属性は観測者との間でしか妥当せず、異なる系に立つ観測者がその属性に同意するには、観測者同士が相関して共通認識を持つ必要がある(〈間主観性〉)。
     そして、量子物理学の2つの公準から「ある対象の情報を最大限集めても情報の総体は確定不能」と言う命題が導出されることから、「究極の〈本質〉は存在しない」という、伝統的実在論の否定に至るのだ。ここで興味深いのは、論理実証主義の旗頭であったエルンスト・マッハに影響された、ロシア革命期の思想家アレクサンドル・ボグターノフなる人物が舞台廻しとして登場することだ。彼は、マルクスやエンゲルスと通底する相対的経験主義に立ち、「現在の物質概念も知識の歩みの途中段階であり、経験と概念の組織化により継続的に知識を得ることが必要である」と主張してレーニンの史的唯物論批判を繰り広げたのだが、これが上記の量子物理学の公準から導かれる確定不能性と相似形をなすのである。「歴史も情報も、先行して獲得された経験の総体からは決してその未来が確定できない。だからこそ世界の表象から既知の事実と異なる情報を検出し、知識の更新を図る必要がある。これが歴史と量子論に共通する本質だ」というわけだ。量子論と共産主義世界における論争とのシンクロに驚かされると同時に、物理学者でありながらロシア思想史にも造詣の深い著者の博識ぶりに深い感銘を受けた。
     
     無論、どうしても得心の行かない部分はある。例えば、本書で触れられる〈ハードプロブレム(デヴィッド・チャーマーズ)〉がこれで解決できた、と著者は言うが、本当にそうだろうか。「すべての物理現象は三人称的でなく一人称的であるから、一人称的な心的現象も物理現象の範疇に含めてよい」と言うのが著者の主張だが、それはやはり安易なショートカット(主観的意識経験の物理科学的記述を経ることなくいきなり主観を物理現象としてカテゴライズしてしまう)と言わざるを得ないように思う。本書で槍玉に挙げられているトマス・ネーゲルは、まさにこの主観的経験の物理的記述の困難性を指摘したのであって、これに正面から挑まないままいきなり「主観的経験はすぐれて物理的現象」とするのは意図的な論点ずらしのように思えてしまうのだ。
     そしてもう一つは、実在性の否定にどうしてもポストモダン的なニヒリズムの匂いがしてしまうこと。「哲学が科学に従うべきであって、その逆ではない」とは自然主義の文脈でよく見られる言説だが、少なくともこれまでは実在の探求こそが科学パラダイム獲得の歴史の下支えだったのではないのか。それともやはり僕のこのような見方自体が、すでに古典物理学のドグマに絡め取られたものなのだろうか。

     とはいえ、著者の考察は簡潔で論旨が分かりやすく、説得力に富むのは間違いない。有名な「シュレーディンガーの猫」や「エンタングルメント」を用いた間主観性の説明も懇切丁寧で、少なくとも上述した「実在とは何か」との比較では、著者の主張の方に同意する向きが多いのではないかと思う。また、本書第3部以降の自然主義・科学哲学的考察は日本の研究者も同様の著書を多く出しており(e.g. 戸山田和久「哲学入門」「恐怖の哲学」etc.)、僕同様馴染みが多く共感できる読者も多そうだ。

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    2022年02月20日
  • 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論

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    タイトルからポピュラーサイエンス的な量子力学解説と言った趣向の本かと思ったが途中から、これはちょっと違うなと思い始め、最後にかけては哲学というか文学というか様々な分野を統合して世界への認識を改めていくような割と革命的な世界の見方を提示してくれる。世界の見方が変わる本。
    作者カルロ・ロヴェッリのヨーロッパの哲人的なさまざまな分野での深い教養とそれを魅力的に語る言葉の翻訳を通しても伝わる素晴らしい文章が非常に魅力的。
    シェイクスピアの引用から始まる最終章が白眉。

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    2022年02月11日
  • すごい物理学講義

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     この本は最高だった。やはり本物の物理学者の本を読むことが重要だとしみじみ思った。

    2022/02/17再読した。
    まだ完全に理解できないが、やっと一般相対性理論や量子力学が少し理解できた。
    器としての空っぽの空間は存在しないこと、
    時間と空間は切り離すことはできず、時空間は量子的であること

    小さなものの限界があるし、無限も限界があること
    これらのことを理解せずに私たちは日常生活を送り、何かを信じて思考停止するのだ。
    だからいつも感覚で扇動されるのだ。

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    2022年02月17日
  • すごい物理学入門

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    文系でも理解できるように書かれているので是非物理が苦手な人にもおすすめ。

    機械学習に必要な数学の勉強のためヨビノリのYouTubeの動画を見始め、なんとなく気になった相対性理論の授業も閲覧。

    「直感に反する事柄を、論理的に理解するのが物理」とヨビノリが話していて、なんだかおもしろくて物理に興味をもったので買って読んでみた。

    それまで全く物理に興味はなかったものの(というか苦手意識が強かった)、物理学者の発明まで至る考え方は、イノベーション的な考え方と繋がるもんだな、、、と感じ、改めて色んな分野の本を読むことの大切さに気付かされた本。

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    2021年10月03日
  • すごい物理学講義

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    物理の歴史を知るのは面白い。

    現代に至るまでに過去の人々がどのような思考で、自然を論理的に説明しようとしてきたのか。

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    2021年05月31日
  • すごい物理学入門

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    入門編なのでページ数も少なく、
    数時間で読み終えることが出来た。

    宇宙物理は興味あるテーマだが、
    素人の自分には難解な理論が飛び交い理解が困難だが、少しずつ学んでいきたい。

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    2021年05月30日
  • すごい物理学入門

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    この手の本はわかっていない事もわかっているように書くのが多いのに、この本はわかっていない事はわかっていないとそのまま書いていて、さらに例もわかりやすく書かれているので、とてもわかりやすくて理解でき面白かった。どうもイタリアでベストセラーになったらしいが、それも頷ける。

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    2020年11月11日
  • すごい物理学入門

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    物理と哲学はとても近いものと思っている自分としてはとても良い本でした。
    ホーキンス然り、こういう物理本は入門ぽい感じでも途中から結構難しくなると思っていて、この本も同様でした。

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    2020年10月18日
  • すごい物理学入門

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    相対性理論に量子力学、宇宙のかたち、はじまり、そしてブラックホールなど、物理学のほぼ最前線を、中学生くらいにもわかるように解説してくれている(たぶん小学校高学年くらいだったらok)。大人の教養として役立つと思う。夜空とかも違って見えるし、ものが存在すること、動いていることのメカニズムを考えるとこの世界が成り立っていることの不思議さを思う。これ読んで物理学目指してくれる若者が出てくれるといいなぁ。

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    2020年10月13日
  • すごい物理学入門

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    3時間ぐらいで読める。しかも、流し読みでなくてちゃんと体に染み込んでくる感じ。物理学というと何やら難しい表現や数式が出てきて、読んでもなんだかわからないことが正直多かった。
    しかし、本書は正真正銘、物理学を全く習わなかった読者も高資金を引き出す魅力を持っている。今でも学校の物理(高校ぐらいまで?)は古典物理学ぐらいまでで終わっていると思うが、ここでロヴェッリがいざなってくれる世界の見方は大きく異なり、刺激に満ちている。
    訳者あとがきに「高校、大学と物理を勉強してもわからなかったことが、3時間で理解できた」「高校の物理の先生がろヴェっ理だったら、僕には別の人生が開けていただろう」といった感想が紹介されているが、そのとおりだと思う。
    教育関係本(になるのかな)では、
    今年これまでで読んだ本の中でダントツNo.1。
    高校生、大学生だけでなく学校の先生も読むことを強く、強くすすめる。

    自分の中では、学びや好奇心に刺激を与える本というククリで、カーネマンの「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」と、 ヘンライの「アート・スピリット」と3強。

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    2020年09月20日
  • すごい物理学講義

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    科学解説書は好きでたまに買ってよみますが、この本で初めて量子論の触りが、ほんのほんの少しだけ感じる(分かったとは口が裂けても言えない(^^))ことができました。品位があって、正面きって物事を説明している凄く良い本です。

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    2020年03月24日