安生正の作品は「ゼロの迎撃」から読み始めたが、スケールが大きく、読み応
えがある。待望の新作が出たのでさっそく購入したが、期待どおりで満足。
近未来の日本。物語がいきなり2025年からスタートしているが、読み進む
うち、近い将来、この物語と同じようなことが日本でも起こるのではないか、
と
...続きを読む不安になった。
今回のコロナ禍でも、人々がマスクを奪い合い「自粛警察」のような自警団まが
いの人たちが出現したが、和を尊ぶ日本人の精神は、もはや過去のものになった
と感じる。老いも若きも他人には厳しく、自分には甘い「自分さえよければ」と
いう輩が増え、SNSやツイッターでは情け容赦ない人格攻撃が横行している。
心のせまい人間が増え、ぎすぎすしたイヤな世の中になってきた。
現時点でも難民受け入れの国際的な圧力は強まっており、労働力不足を補うため、
すでに多くの外国人労働者が国内で働いているが、十分な対策もないままこのま
まいけば、いずれ大量の難民が日本にも押し寄せ、さらなる格差の拡大で街には
ホームレスがあふれ、犯罪、テロが激増することになりそうだ。
いつの時代になっても、官僚や政治家は既得権益を守ることしか頭になく、国難
に立ち向かうのは結局、物語に登場する東郷や香椎のような、名もなき戦士たち。
元自衛官の香椎は「野生の証明」の高倉健を彷彿させる。キャリアながら常に現
場の第一線で体を張って頑張っている公安の東郷が、会議室で外務省のキャリア
官僚に啖呵を切るシーンがかっこよかった。まさに覚悟を決めた人間しかあんな
ことはできないだろう。ドイツ首相を狙うヒットマンは、謎の組織によって洗脳
され、一流の暗殺者になったという想定だが、本当にそんなことができるのか?
迎賓館での戦闘シーンは迫力があり、「ホワイトハウスダウン」のような映画を
見ているようだったが、終章が少し尻切れトンボぎみだったのは少し残念。「善
とは何か、悪とは何か」など、一冊で終わらせるにはテーマが少々大きすぎたの
かも。続編が出るならぜひ読みたい。